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第一部(侯爵家編)
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午後からはお姉様のお部屋へ行ってみることにした。行ってみてお忙しいのであればそれまで。聞いてみるのは悪いことじゃないはず。それが迷惑だったとしても謝ればいいでしょう。細かいことは気にするなの精神よ。
邸内を歩いていると後ろをついてきていたジェーンが『どちらへ?』としきりに聞いてくる。鬱陶しいので『内緒』とだけ言って無視しておいた。
そしてお姉様のお部屋のドアをノックする。ジェーンは少し慌てているが無視だ。
「……はい」
ドアを少し開けて中から顔を見せたのは、お姉様の侍女だが名前は知らない。背の低い私を見つけるより先にジェーンを見て怪訝な表情をしていた。
「お姉様にお会いできるかしら?」
意図的に少し大きい声で尋ねた。お姉様まで聞こえていればいいけれど。
「モンティアナ様はただいまお忙しくされておりますのでおか……」
「アドリアーナなの? 入っていいわよ」
侍女が『お帰りください』と言おうとしたのを遮ってお姉様が入室の許可をくれた。よかった。聞こえていたようね。お姉様の侍女に悪い印象を与えないような笑顔を見せると、悔しそうな顔をしてドアを開けてくれた。
不愉快だけれど、細かいことは気にしないのよ。私は今イメージアップを狙って行動中なのだから。本当は何なのその顔はと言ってやりたいけれど。
「お姉様! 遊びに来ちゃいました!」
「来てくれて嬉しいわ。今ドレスのデザイナーと相談をしていたところだったの。アドリアーナも一緒に考えてくれない?」
お姉様がそう言うと、そばに控えているジェーンとお姉様の侍女の顔に『この子にそんなことできるわけないでしょ』と書いてあるようだった。
見た目こそはチグハグな格好をしている(ていうかジェーンのせいだし)私だけれど、中身は34歳で娘を持つ母よ。ティーンエイジャーのドレスくらい選べます!
「どんな時に着るドレスを仕立てるのですか?」
「再来月に王家主催で開かれるお茶会に着て行くものよ」
ああ、分かった。お茶会という名目だけど実は第一王子殿下と第二王子殿下の婚約者探しっていうあれね。私も前の人生では第三王子殿下のそれに招待されて出席したわね。そしてもぎ取った。
でも前の人生ではお姉様は殿下方の婚約者ではなかった。茶会で気に入られなかったのかしら? 宰相の実孫で侯爵令嬢なんてなかなか良い条件だと思うのだけど。
「5月ですから淡い桃色なんて素敵だと思います。お姉様の綺麗な翠の瞳と柔らかな亜麻色の髪にも良く合うかと」
「桃色……私に似合うかしら?」
「あちらの布が素敵な色だと思います! 少し当てて見せてください!」
デザイナーがさっと布を持ってお姉様の肩に掛けて見せてくれる。絶対に似合っていると思うのだけど、そういえばお姉様は寒色の物をよく身に付けていらしたわね。今も水色だし。
「お似合いだと思いますよ」
デザイナーも満足そうに褒めたけれど、お姉様は渋い顔をしている。
「あまりこういう色は着たことがなくて、違和感があるわ」
「お姉様は穏やかで優しい方ですから、温かい色がぴったりだと思います。とっても愛らしいです」
お姉様はジュディスお母様に似て、翠の瞳と亜麻色の髪をしている。お父様に似て、紺の瞳に黒髪の私とは全く印象が違う。
私は赤赤としたド派手なドレスを好んで着ていたが今回の人生ではやめておこうと思う。
「お母様には青にしておきなさいと言われているの」
「どうしてです?」
「第一王子殿下の瞳の色だから、だと思うわ」
「第一王子殿下狙いで行かれるのですね」
「…………」
お姉様の表情が途端に曇る。
え。なんかダメなこと言った? 『狙い』がダメだった? つい平民だった頃の軽い口調が出てしまったわ。どうしましょう。オホホ……なんて言ってる場合じゃないわよね。
邸内を歩いていると後ろをついてきていたジェーンが『どちらへ?』としきりに聞いてくる。鬱陶しいので『内緒』とだけ言って無視しておいた。
そしてお姉様のお部屋のドアをノックする。ジェーンは少し慌てているが無視だ。
「……はい」
ドアを少し開けて中から顔を見せたのは、お姉様の侍女だが名前は知らない。背の低い私を見つけるより先にジェーンを見て怪訝な表情をしていた。
「お姉様にお会いできるかしら?」
意図的に少し大きい声で尋ねた。お姉様まで聞こえていればいいけれど。
「モンティアナ様はただいまお忙しくされておりますのでおか……」
「アドリアーナなの? 入っていいわよ」
侍女が『お帰りください』と言おうとしたのを遮ってお姉様が入室の許可をくれた。よかった。聞こえていたようね。お姉様の侍女に悪い印象を与えないような笑顔を見せると、悔しそうな顔をしてドアを開けてくれた。
不愉快だけれど、細かいことは気にしないのよ。私は今イメージアップを狙って行動中なのだから。本当は何なのその顔はと言ってやりたいけれど。
「お姉様! 遊びに来ちゃいました!」
「来てくれて嬉しいわ。今ドレスのデザイナーと相談をしていたところだったの。アドリアーナも一緒に考えてくれない?」
お姉様がそう言うと、そばに控えているジェーンとお姉様の侍女の顔に『この子にそんなことできるわけないでしょ』と書いてあるようだった。
見た目こそはチグハグな格好をしている(ていうかジェーンのせいだし)私だけれど、中身は34歳で娘を持つ母よ。ティーンエイジャーのドレスくらい選べます!
「どんな時に着るドレスを仕立てるのですか?」
「再来月に王家主催で開かれるお茶会に着て行くものよ」
ああ、分かった。お茶会という名目だけど実は第一王子殿下と第二王子殿下の婚約者探しっていうあれね。私も前の人生では第三王子殿下のそれに招待されて出席したわね。そしてもぎ取った。
でも前の人生ではお姉様は殿下方の婚約者ではなかった。茶会で気に入られなかったのかしら? 宰相の実孫で侯爵令嬢なんてなかなか良い条件だと思うのだけど。
「5月ですから淡い桃色なんて素敵だと思います。お姉様の綺麗な翠の瞳と柔らかな亜麻色の髪にも良く合うかと」
「桃色……私に似合うかしら?」
「あちらの布が素敵な色だと思います! 少し当てて見せてください!」
デザイナーがさっと布を持ってお姉様の肩に掛けて見せてくれる。絶対に似合っていると思うのだけど、そういえばお姉様は寒色の物をよく身に付けていらしたわね。今も水色だし。
「お似合いだと思いますよ」
デザイナーも満足そうに褒めたけれど、お姉様は渋い顔をしている。
「あまりこういう色は着たことがなくて、違和感があるわ」
「お姉様は穏やかで優しい方ですから、温かい色がぴったりだと思います。とっても愛らしいです」
お姉様はジュディスお母様に似て、翠の瞳と亜麻色の髪をしている。お父様に似て、紺の瞳に黒髪の私とは全く印象が違う。
私は赤赤としたド派手なドレスを好んで着ていたが今回の人生ではやめておこうと思う。
「お母様には青にしておきなさいと言われているの」
「どうしてです?」
「第一王子殿下の瞳の色だから、だと思うわ」
「第一王子殿下狙いで行かれるのですね」
「…………」
お姉様の表情が途端に曇る。
え。なんかダメなこと言った? 『狙い』がダメだった? つい平民だった頃の軽い口調が出てしまったわ。どうしましょう。オホホ……なんて言ってる場合じゃないわよね。
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