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第一部(侯爵家編)
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朝食後、予定通り書屋へと向かった。今日はジェーンがべったり付いてくるようだ。お母様の指示かしら。結局私が離れでお父様とカーラお母様に会ったことには気付いているのか、いないのか。気付いていたら言ってきそうなものだけど。
それはさておき、将来役に立つ書物は……どんなものだろう? ウロウロと背表紙を見ながら歩く。
私の将来といえば、平民の子供たちに文字や算術を教える先生の妻。それから四人の子(予定)の母。子沢山でも稼げる女。そういう感じを目指しているわね。
もしも未来を変えられたなら、アレクは兵士のままでいられるかもしれないから、兵士の妻という可能性もあるか。
そうなるとやっぱり、手に職を付けた方がいいわよね。手に職……手に職……そして儲かる仕事がいいわ。あと毎日夕方には帰りたいわね。貴族家の使用人なんか絶対却下よ。肉体労働は妊娠時に何があるか分からないから、あと精神的にもしんどいのも嫌。
書棚に並ぶ文字を眺めながら何かいい職はないかと考える。
医師、も常に患者のことで頭がいっぱいとかなっていそうだし、平民相手の医師なら尚更ね。
調香師。素敵ね。でも別に嗅覚は良くない。
聖職者……は儲からなさそうね、却下。
占い師……胡散臭い。無理。
調理師はいいかもしれないわ。料理上手なのはとても良い要素ね。厨房に入らせてもらえれば学んでいくこともできるかも。
というわけで、今日は初歩の料理本を手に、自室へ戻ることにした。
「お料理をなさりたいのですか?」
というジェーンの質問には、
「そうね。知っていて損はない知識だと思うわ」
とだけ答えておいた。
実際に厨房に入りたいだなんて、本邸では聞いてもらえるわけがないし、離れの方が少しは可能性はありそうだから一度頼んでみるのもいいかもしれない。
実は平民となった前の人生でも、結局料理はできないままだった。平民になるとなった時に、お父様が少々の現金を持たせてくれた。貴族からすると少々でも、平民ならば一年程は暮らせるくらいだったのだが、突然平民になった私には、それを上手く使うことは当然だけれどできなかった。
しばらくは宿屋に泊まることができたけれど、労働なんてしたこともないし、お金は減る一方。しかし粗末な食事もできない。粗末なものも着れない。そもそも着替えすらまともにできない。
ないない尽くし私を助けてくれたのは、宿屋のおかみさんだった。
一人で着替えもできない私を助けてくれていたし、もうお金が尽きるという頃には、住み込みで働くようにと言ってくれた。
宿屋の食堂で、注文を聞いて、料理を運ぶ仕事をやらせてもらった。色々やってみたけれど、私にできるのがそれくらいだった。幸い、若くて見た目だけは良かったから、ありがたがってもらえた。
そうして生きて行くうちにアレクと出会い、アレクと添い遂げることになり、アレクの家に住むことにしたというわけだ。アレクと過ごすようになってからは、アレクが食事を作ってくれた。洗濯と掃除はなんとか私にもできたから手分けしてやっていた。
そんなわけで、料理ができるようになっておくことは、なかなかに重要なことだと感じている。
アレクに手料理を食べてもらって、美味しいと言ってもらえたなら、それはそれは嬉しいだろう。
それはさておき、将来役に立つ書物は……どんなものだろう? ウロウロと背表紙を見ながら歩く。
私の将来といえば、平民の子供たちに文字や算術を教える先生の妻。それから四人の子(予定)の母。子沢山でも稼げる女。そういう感じを目指しているわね。
もしも未来を変えられたなら、アレクは兵士のままでいられるかもしれないから、兵士の妻という可能性もあるか。
そうなるとやっぱり、手に職を付けた方がいいわよね。手に職……手に職……そして儲かる仕事がいいわ。あと毎日夕方には帰りたいわね。貴族家の使用人なんか絶対却下よ。肉体労働は妊娠時に何があるか分からないから、あと精神的にもしんどいのも嫌。
書棚に並ぶ文字を眺めながら何かいい職はないかと考える。
医師、も常に患者のことで頭がいっぱいとかなっていそうだし、平民相手の医師なら尚更ね。
調香師。素敵ね。でも別に嗅覚は良くない。
聖職者……は儲からなさそうね、却下。
占い師……胡散臭い。無理。
調理師はいいかもしれないわ。料理上手なのはとても良い要素ね。厨房に入らせてもらえれば学んでいくこともできるかも。
というわけで、今日は初歩の料理本を手に、自室へ戻ることにした。
「お料理をなさりたいのですか?」
というジェーンの質問には、
「そうね。知っていて損はない知識だと思うわ」
とだけ答えておいた。
実際に厨房に入りたいだなんて、本邸では聞いてもらえるわけがないし、離れの方が少しは可能性はありそうだから一度頼んでみるのもいいかもしれない。
実は平民となった前の人生でも、結局料理はできないままだった。平民になるとなった時に、お父様が少々の現金を持たせてくれた。貴族からすると少々でも、平民ならば一年程は暮らせるくらいだったのだが、突然平民になった私には、それを上手く使うことは当然だけれどできなかった。
しばらくは宿屋に泊まることができたけれど、労働なんてしたこともないし、お金は減る一方。しかし粗末な食事もできない。粗末なものも着れない。そもそも着替えすらまともにできない。
ないない尽くし私を助けてくれたのは、宿屋のおかみさんだった。
一人で着替えもできない私を助けてくれていたし、もうお金が尽きるという頃には、住み込みで働くようにと言ってくれた。
宿屋の食堂で、注文を聞いて、料理を運ぶ仕事をやらせてもらった。色々やってみたけれど、私にできるのがそれくらいだった。幸い、若くて見た目だけは良かったから、ありがたがってもらえた。
そうして生きて行くうちにアレクと出会い、アレクと添い遂げることになり、アレクの家に住むことにしたというわけだ。アレクと過ごすようになってからは、アレクが食事を作ってくれた。洗濯と掃除はなんとか私にもできたから手分けしてやっていた。
そんなわけで、料理ができるようになっておくことは、なかなかに重要なことだと感じている。
アレクに手料理を食べてもらって、美味しいと言ってもらえたなら、それはそれは嬉しいだろう。
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