勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

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第一部(侯爵家編)

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「……私は、第一王子殿下の婚約者になんて、絶対になりません」

 震える声でそう言ったお姉様。気の優しいお姉様にとっては、こんな場面で発言をするだけでもとても頑張ったのだと思う。
 だが、その言葉を聞いた途端にイーサンの拘束を振り払って、こちらへ駆けてくるジュディスお母様。お姉様がヒッと息を飲んだのが聞こえる。
 そんなジュディスお母様を止めたのはお兄様だった。両肩を強く掴み、押し留めている。

「モンティアナ! あなた、何を言っているのか分かってるの!? オスカー! 離しなさい!!」

「離しません!」

 私を抱き締めるお姉様の力が一層強くなる。怖いのだろう。私もお姉様の背に腕を回した。

「わ、私は! お母様に権力を持たせるための結婚など望みません! 私は、私の愛する人と、結婚したいのです!」

「貴族の娘に生まれておいて! ふざけたことを言わないで!」

「家のための結婚をした結果が今のお母様なら……私はそんな風に、なりたくありません!!」

 お姉様の言葉に、ジュディスお母様の全身の力が抜けた。ズルズルとへたり込んだジュディスお母様を、イーサンが再び拘束し立たせる。

「お母様……」

 お姉様が伸ばした手を、ジュディスお母様は一瞥もせずに力無く歩いていく。
 これからどこへ行かれるのかは知らないが、もう侯爵夫人として表舞台に出てくることはないだろう。



 ジュディスお母様が邸から連れ出されたのち、本邸の使用人達の面談が一人ずつ行われた。
 主に私に対して、使用人として相応しくない行いをしていた者は、本邸の使用人からは解雇されたが、侯爵家の醜聞を他所で話されるのも困るため、今後ジュディスお母様が過ごす屋敷へと異動になるらしい。
 スタングロム領の端っこに用意された屋敷に飛ばされる使用人達は、嫌でもそこで働くしかないだろう。推薦状もなく解雇された使用人など今後どこにも勤めることはできないからだ。
 給料は変わりなく払われるのだから、とんでもない話というわけでもない。侍女のジェーンももれなく、そこへ行くこととなった。
 庭師やシェフ、給仕など、直接の関わりがなかった者は残っていたりもする。

 マーティンに替わって執事を務めるのは、イーサンの息子であるジェームズだ。そもそもは領地にある城の家令だったのを今回本邸に異動させたとのこと。
 本邸に新しく入った者達はみんな元々スタングロムの使用人らしく、忠誠心は厚いのだとか。

 ジュディスお母様がいなくなったことで、カーラお母様が本邸に入るのか、というとそんなことはなく。今後もカーラお母様は愛妾として離れで過ごすようだ。
 ただ、お父様は執務室を本邸に戻して、お兄様に少しずつ執務を落とし込んでいくつもりらしい。イーサンもジェームズとゆくゆくは世代交代し、カーラお母様のいる離れでのんびり過ごしたいらしい。
 私も、頻繁に離れに通い、カーラお母様との関係を育んでいくつもりだ。

 そんなわけで私は無事に、このスタングロム侯爵家での平穏を手に入れた。
 ジュディスお母様にギャフンと言わせたいという私の願望は、主に周りのみんなによって叶えられた。少し悔しい気もするけれど、まぁいいかな。
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