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第二部(アレク編)
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※sideアレク
アニーは、宿屋の食堂で働いている女性だった。
愛想が特別良い訳では無かったが、その美しさにアニー目当てで行く男はそれなりにいただろう。俺もその一人だった。
初めてアニーを見たのは、38歳くらいの頃だったか。美しい女性だとは思ったが、他の男性客のように声を掛けようなどとは思えなかった。
その時、俺は貴族でも、王国騎士でもなくなって、家から出奔していて身寄りも無いし、利き腕も無い。稼げる職に就いている訳でも無く、唯一持っているのは出奔した時に持ち出した現金で買った粗末な家のみ。さらには彼女に比べて歳が離れている。何一つとして取り柄のない男だったからだ。
それでも眺めているくらいは許されるだろうと食事に通う内、彼女の方から話しかけてきた。
「あなたは辛い物を好んで食べているでしょう? 今日から出た新しいメニュー、きっと気に入ってもらえると思うわ」
話しかけてもらえたこと以上に、彼女が俺を認識していたことに驚いて、すぐに返事ができなかった。
「今日は気分じゃないかしら?」
「い、いや! それをいただこう」
「そう、よかったわ! あとはいつものパンと日替わりのスープでいいわよね?」
「あ、あぁ。それで」
「じゃあ、待ってて」
嬉しくて、震えた。あぁこんなにも好きになってしまっていたのかと自覚した。
気に入るだろうと勧めてもらった食事もなんだか味が分からず、とにかく口に入れて飲み込んでを繰り返して何とか終えた。
精算する時にまた彼女から話しかけてくれて『どうだった?』と聞かれ、『美味かった』と取り繕った言葉しか言えなかった自分にがっかりした。
それから、少しずつ話すようになって、たくさん話してみたいからと、デートに誘われた。
貴族であった頃から、顔が怖いからと令嬢から少し遠巻きにされていたし、訓練ばかりに夢中になって、まともに女性と接したことがなく、女性と二人きりで出掛ける機会などそう何度もなかった。
そのせいで、彼女を楽しませられていたかは自信がない。
だけど、彼女の話を聞くのが好きだった。宿屋での仕事の失敗談をよく話してくれていたが、何度か会う内に、元は貴族令嬢だったことも教えてくれた。
庶子だったために家族とは不仲であったこと。元々良い関係ではなかったが、婚約者には他に好きな令嬢ができて完全に気持ちが離れてしまったこと。嫉妬心から令嬢を虐げて、その罪で平民になったこと。
どの家門だとか、婚約者が誰だったとか、具体的に聞かなかったことを今になって後悔している。
そして、俺も元は貴族だったとは言わないまま、王国騎士だったことも隠していた。
もう、アニーには会えないのだろうか。
アニーは、宿屋の食堂で働いている女性だった。
愛想が特別良い訳では無かったが、その美しさにアニー目当てで行く男はそれなりにいただろう。俺もその一人だった。
初めてアニーを見たのは、38歳くらいの頃だったか。美しい女性だとは思ったが、他の男性客のように声を掛けようなどとは思えなかった。
その時、俺は貴族でも、王国騎士でもなくなって、家から出奔していて身寄りも無いし、利き腕も無い。稼げる職に就いている訳でも無く、唯一持っているのは出奔した時に持ち出した現金で買った粗末な家のみ。さらには彼女に比べて歳が離れている。何一つとして取り柄のない男だったからだ。
それでも眺めているくらいは許されるだろうと食事に通う内、彼女の方から話しかけてきた。
「あなたは辛い物を好んで食べているでしょう? 今日から出た新しいメニュー、きっと気に入ってもらえると思うわ」
話しかけてもらえたこと以上に、彼女が俺を認識していたことに驚いて、すぐに返事ができなかった。
「今日は気分じゃないかしら?」
「い、いや! それをいただこう」
「そう、よかったわ! あとはいつものパンと日替わりのスープでいいわよね?」
「あ、あぁ。それで」
「じゃあ、待ってて」
嬉しくて、震えた。あぁこんなにも好きになってしまっていたのかと自覚した。
気に入るだろうと勧めてもらった食事もなんだか味が分からず、とにかく口に入れて飲み込んでを繰り返して何とか終えた。
精算する時にまた彼女から話しかけてくれて『どうだった?』と聞かれ、『美味かった』と取り繕った言葉しか言えなかった自分にがっかりした。
それから、少しずつ話すようになって、たくさん話してみたいからと、デートに誘われた。
貴族であった頃から、顔が怖いからと令嬢から少し遠巻きにされていたし、訓練ばかりに夢中になって、まともに女性と接したことがなく、女性と二人きりで出掛ける機会などそう何度もなかった。
そのせいで、彼女を楽しませられていたかは自信がない。
だけど、彼女の話を聞くのが好きだった。宿屋での仕事の失敗談をよく話してくれていたが、何度か会う内に、元は貴族令嬢だったことも教えてくれた。
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どの家門だとか、婚約者が誰だったとか、具体的に聞かなかったことを今になって後悔している。
そして、俺も元は貴族だったとは言わないまま、王国騎士だったことも隠していた。
もう、アニーには会えないのだろうか。
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