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第二部(アレク編)
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※sideアレク
「アニー? どうした固まってしまって」
侯爵がそう言うまで俺も固まってしまっていた。慌てて取り繕おうとするアニーが何かを言う前にフォローする。
「侯爵、気にしないでください。婦女子に怖がられる容貌であることは自覚していますし、慣れていますから」
「怖いだなんてとんでもない! 素敵過ぎて見惚れていただけですわ! ご無礼をお許しください」
アニーが俺の言葉を否定する。
素敵? 見惚れていた? 俺に? こんなに小さな少女がこの顔を怖くないだって?
世辞だろうかと結論づけて、とにかくまたフォローをと声を掛けた。
「まだこんなに小さいのに、子供らしくない言葉遣いをするものだ。頭が良いのだな」
アニーの子供姿は、チェルシーの数年後を見るようで、とても愛おしい。アニーの頭を軽くポンポンと撫でるくらいは許してもらえるだろうか。
すると、アニーの頬が少し赤らんで、照れたようにモジモジとしている。なんということだ。可愛すぎる。
「その、アレキサンダー卿は本日どうしてこちらに?」
俺が内心悶えていると、オスカー殿がそう尋ねた。そうだ。アニーの可愛さを堪能している場合ではなかった。
オスカー殿に剣を指南するのは、貴族の騎士が増えることは本当に望ましいので、もし才能があるならば喜んで。というスタンスだった。
しかし、スタングロム侯爵家にアニーがいるのなら話は別だ。オスカー殿に才があろうがなかろうが、こちらに通わせてもらい、アニーとの接点を持ちたい。
今は16歳と6歳という犯罪的な年の差ではあるが、10年もすれば……いや、どうだろう。どうなのだろう。
とにかく、オスカー殿の指南役になりたいのだとアピールし、週に1日の休息日に通うことに決まった。オスカー殿が望んでくれるから、表向きオスカー殿のためという体になったことは本当に有り難い。
なんだか汚いことをしている気持ちになる。遡ってから後ろめたいことばかりだ……。
そして貴族学校の新学期が始まり、寮に戻ってから初めての休息日。スタングロム侯爵邸に行ける日だ。
侯爵邸に赴いたとて、目的はオスカー殿の指南である。アニーに会えるとは限らない。そう自分に言い聞かせて、期待しないように律しながら馬車に揺られる。
そして、侯爵邸に着いた時、馬車の窓の向こうに見えたのは、オスカー殿と従者のニコラスに並んで立っている可愛いアニーの姿だった。
「アレキサンダー卿、本日はどうぞよろしくお願いいたします」
オスカー殿が形式張った挨拶をするので真面目な性格に感心しつつも、面倒なのでやめてくれと伝えた。
アニーからも可愛く美しいカーテシーで挨拶をされたので話しかける。
「アドリアーナ嬢、今日も見学か?」
「はい。一時間ほど拝見したいと思っております。……あの、ぜひアニーと」
一時間も見ていてくれるのかと嬉しくなった直後に爆弾を投下された。思わずグッと喉が鳴りそうになったが、押し留める。
アニーと呼ばせて貰えるならば、俺のことも是非とも以前にようにアレクと呼んでもらいたい。
「あぁ、アニー。それでは俺のことはアレクと呼んでくれ。長ったらしい名だろう?」
「あっ、ありがとうございます、アレク様。本日、と言いますか、今後……こちらへ来てくださった折には夕食を共にいかがでしょう」
そしてまた爆弾投下。アレク『様』か。何だろうかこの胸に広がる幸せは。結婚するような仲になる前から一方的に片思いしていた期間があったせいか、アニーは俺にとってずっと高嶺の花のような存在である。その花からアレク『様』と呼ばれるなど……。
しかも、夕食に誘ってくれるなどと、どうしてこんな幸せな事態になっているんだ!? と叫び出したい気持ちでいっぱいだった。……が、努めて平静に振る舞う。もう必死だ。
「いいのか?」
「はい! あの、まだまだ勉強中の身ではありますが、一生懸命お作りいたします!」
……ん? 今『一生懸命お作りいたします』と言ったか?
「君が? 料理を?」
「はい!」
本当に言ったらしい。
アニーは料理がからっきしで、一緒に住むようになってからも俺が作っていた。なのに、このアニーは料理をすると言う。
「なるほど。ちなみに今日は何を?」
「ハンバーグです!」
「そうか、それは楽しみだ。ありがとう、アニー。ぜひ頂くよ」
「はいっ!!」
……この6歳のアニーは、俺の妻だったアニーが、俺と同じように過去に戻ってきているのではないか。と、そう感じた。
「アニー? どうした固まってしまって」
侯爵がそう言うまで俺も固まってしまっていた。慌てて取り繕おうとするアニーが何かを言う前にフォローする。
「侯爵、気にしないでください。婦女子に怖がられる容貌であることは自覚していますし、慣れていますから」
「怖いだなんてとんでもない! 素敵過ぎて見惚れていただけですわ! ご無礼をお許しください」
アニーが俺の言葉を否定する。
素敵? 見惚れていた? 俺に? こんなに小さな少女がこの顔を怖くないだって?
世辞だろうかと結論づけて、とにかくまたフォローをと声を掛けた。
「まだこんなに小さいのに、子供らしくない言葉遣いをするものだ。頭が良いのだな」
アニーの子供姿は、チェルシーの数年後を見るようで、とても愛おしい。アニーの頭を軽くポンポンと撫でるくらいは許してもらえるだろうか。
すると、アニーの頬が少し赤らんで、照れたようにモジモジとしている。なんということだ。可愛すぎる。
「その、アレキサンダー卿は本日どうしてこちらに?」
俺が内心悶えていると、オスカー殿がそう尋ねた。そうだ。アニーの可愛さを堪能している場合ではなかった。
オスカー殿に剣を指南するのは、貴族の騎士が増えることは本当に望ましいので、もし才能があるならば喜んで。というスタンスだった。
しかし、スタングロム侯爵家にアニーがいるのなら話は別だ。オスカー殿に才があろうがなかろうが、こちらに通わせてもらい、アニーとの接点を持ちたい。
今は16歳と6歳という犯罪的な年の差ではあるが、10年もすれば……いや、どうだろう。どうなのだろう。
とにかく、オスカー殿の指南役になりたいのだとアピールし、週に1日の休息日に通うことに決まった。オスカー殿が望んでくれるから、表向きオスカー殿のためという体になったことは本当に有り難い。
なんだか汚いことをしている気持ちになる。遡ってから後ろめたいことばかりだ……。
そして貴族学校の新学期が始まり、寮に戻ってから初めての休息日。スタングロム侯爵邸に行ける日だ。
侯爵邸に赴いたとて、目的はオスカー殿の指南である。アニーに会えるとは限らない。そう自分に言い聞かせて、期待しないように律しながら馬車に揺られる。
そして、侯爵邸に着いた時、馬車の窓の向こうに見えたのは、オスカー殿と従者のニコラスに並んで立っている可愛いアニーの姿だった。
「アレキサンダー卿、本日はどうぞよろしくお願いいたします」
オスカー殿が形式張った挨拶をするので真面目な性格に感心しつつも、面倒なのでやめてくれと伝えた。
アニーからも可愛く美しいカーテシーで挨拶をされたので話しかける。
「アドリアーナ嬢、今日も見学か?」
「はい。一時間ほど拝見したいと思っております。……あの、ぜひアニーと」
一時間も見ていてくれるのかと嬉しくなった直後に爆弾を投下された。思わずグッと喉が鳴りそうになったが、押し留める。
アニーと呼ばせて貰えるならば、俺のことも是非とも以前にようにアレクと呼んでもらいたい。
「あぁ、アニー。それでは俺のことはアレクと呼んでくれ。長ったらしい名だろう?」
「あっ、ありがとうございます、アレク様。本日、と言いますか、今後……こちらへ来てくださった折には夕食を共にいかがでしょう」
そしてまた爆弾投下。アレク『様』か。何だろうかこの胸に広がる幸せは。結婚するような仲になる前から一方的に片思いしていた期間があったせいか、アニーは俺にとってずっと高嶺の花のような存在である。その花からアレク『様』と呼ばれるなど……。
しかも、夕食に誘ってくれるなどと、どうしてこんな幸せな事態になっているんだ!? と叫び出したい気持ちでいっぱいだった。……が、努めて平静に振る舞う。もう必死だ。
「いいのか?」
「はい! あの、まだまだ勉強中の身ではありますが、一生懸命お作りいたします!」
……ん? 今『一生懸命お作りいたします』と言ったか?
「君が? 料理を?」
「はい!」
本当に言ったらしい。
アニーは料理がからっきしで、一緒に住むようになってからも俺が作っていた。なのに、このアニーは料理をすると言う。
「なるほど。ちなみに今日は何を?」
「ハンバーグです!」
「そうか、それは楽しみだ。ありがとう、アニー。ぜひ頂くよ」
「はいっ!!」
……この6歳のアニーは、俺の妻だったアニーが、俺と同じように過去に戻ってきているのではないか。と、そう感じた。
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