勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

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幕間

とある伯爵令息の懊悩

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 ジェイデン・シュナイプは、自他共に認める女好き。来るもの拒まず、去るもの追わず。伯爵令息はご令嬢にとっても遊び相手にちょうど良い。男爵や子爵家では惹かれないし、侯爵や公爵家なんて畏れ多い。見目良く、人当たりも良く、家柄もちょうど良い。それが、俺。ジェイデン・シュナイプという男である。

 誤解をしないでいただきたいのは、誰一人として俺から誘ってはいないということ。令嬢達を俺が弄んでいるだなんてことは全く無い。正確には、令嬢達が俺で遊んでいるのだ。異性と会話を楽しんでみたり、デートしてみたり、たったそれだけのこと。手と腕以外の接触は一切ない。
 ほんのちょっとしたお遊び。それ以上も以下もない。ご令嬢にとって俺は安全牌そのものなのだ。

 さて、誰も彼もの遊び相手となるが誰にもさして興味のない、そんな安全牌の俺なのだが……一人だけ、特別に思っているご令嬢がいる。
 アドリアーナ・スタングロム嬢である。

 母が彼女のガヴァネスを務めていることで縁があり、何度か会ったことがあるのだが……アドリアーナ嬢に引き合わせることで、俺とアドリアーナ嬢がどうにかならないかなという母の期待が透けて見えて気まずいことこの上ないと言う点を除けば、とても良い時間だ。

 俺の母はとても厳しい人で、貴族令息として完璧な振る舞いを常に求められてきた。息を抜けるのは自室で一人きりの時だけ。使用人の目ですら気にしなければならなかった。
 そんな風に生きてきた俺にとって、アドリアーナ嬢といることは一人じゃないのに気が抜けるというか……ありのままの俺を受け入れてくれると思えるというか……つまりアドリアーナ嬢は、理想の母親みたいな存在なのである。

 年下のご令嬢に『優しいお母さん』のような癒しを求めてしまっていると自覚した時は、恥ずかしいと率直に思った。だけど、開き直ってしまえば最高に楽だった。
 アドリアーナ嬢が俺の妻になってくれたら、とても幸せだろうと思う。アドリアーナ嬢が自分の子供の母親になってくれたならどんな子が育つだろう。そんな妄想を何度したことか。

「ジェイデン様ったら、楽しそうな顔をして何を考えているんですの?」

「君といるだけで最高に楽しいんだよ」

「まぁ! ジェイデン様こそ、本当に楽しい方ですわ」

 君が笑ってくれると嬉しくて、可愛い笑い声を聞けると幸せで、ついつい軽口を叩いてしまう。だけど君はまた笑ってそんな俺を受け入れてくれるから。

「君が俺を好きになってくれたらいいのに」

 なんて、何度も何度も口にしてしまうのだ。

「私の心は一つきりですわ」

 いつだってそう答えて笑う君がとても綺麗で、君に想われる誰かが羨ましくて仕方がないのに、誰かのことが好きな君が好きなのかもしれないと思ったりして。
 君を奪ってしまいたいとは決して思わないんだ。君が幸せであるのなら、相手は俺じゃなくてもいいと本気で思う。やはり恋愛というよりは親愛に近いのだろうか。

 俺に幸せを教えてくれた君が、ずっと幸せであるように。俺のそばじゃなくたって、どこかで笑っていてくれたらって思うんだよ。
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