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3章 騒動

次の日の朝

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「んんっ…ふあぁー…よく寝た…」

 目を覚ましたランは、大きなあくびを一つして起き上がろうとした。
 すると、身体がいうことをきかない。なにかに拘束されているような…
 首を後ろに回すと、イレークの綺麗な寝顔があった。直視できないランはぱっと顔を逸らし、自分の体を見る。
 イレークの腕が回されており、その腕には力が込められていた。

「寝てるのに…器用だな…」

 感心していると、あることを思い出し、途端に慌てた。

「あっ!朝ごはん…エルさん!」

 こんな悠長にしている場合ではない。
 なんとしてもこの腕の拘束から逃れなければ…!

「イレーク王子…ごめんなさい!」

 必殺!脇腹攻撃!

 イレークの脇腹をくすぐる。
 すると、くすぐったそうに体を捩らせる。と、同時に腕の力も緩んだ。
 ランは緩んだ腕の拘束をそっと外し、ベッドから下りた。
 服は着ており、昨日イレークが着せてくれたのだと分かる。

「ありがとうございます、イレーク王子」

 そう呟き、そっと足音を立てないように歩き、ドアへと向かう。
 ドアを開け、廊下を見ると、同じく廊下に顔を出すレンとロンの姿があった。

「レン!ロン!」

「あ、ラン!無事だったか?」

「ラン、元気そうで良かったー!」

 3人で無事を確認し合い、目的を思い出す。

「エルさん、待たせちゃってるかも!」

「早く戻ろ!」

「僕もお腹すいたしねー」

 部屋に戻るために廊下に出ようとすると、

「あ、みんな無事だったんだね。良かった…」

 エルオリントが廊下の角から姿を現した。

『エルさん!』

「体調は?大丈夫?」

「はい、もう動けます!」

「あの、ごめんなさい!」

「朝ごはん…」

 申し訳なさそうにする3人に、エルオリントは優しく微笑んだ。

「大丈夫だよ。昨日あんなに辛そうにしていた人達に、朝食をねだったりなんてしないよ。朝食はもう取ったから、心配しないで」

「そう、ですか…」

「あ、それから今日、明日と3人はお休みだよ。王に昨日の事情を説明したら、休息を取るようにというご支持があったから、ゆっくりと休んでね」

「や、休み…ですか…」

「身体はもう大丈夫ですけど…」

「お仕事したいですー…」

 3人の不服そうな顔に苦笑し、しかしすぐに真剣な顔をしてエルオリントはさらに続けた。

「これは決定事項です。変更はできません」

『はい…』

「じゃあ、今日は僕がランを独り占めできるってことだね」

 ショボンとしているランの頭上から声がかかった。
 驚いて顔を上げると、いつの間にか起きていたイレークが、背後からランを抱きしめていた。
 同様に、レンの後ろにはクリークが、ロンの後ろにはタナークがいた。

「え…?そう…なんですか…?」

 混乱しているランは、確認するようにエルオリントに尋ねた。

「はぁ…そんな訳ないから。なんで休めって言ってるのに疲れさせるようなことさせないといけないの?それに、王子様がたはお仕事があります。恋人が休みだからって自分たちも…なんて甘い考えは通りませんよ」

「えー…じゃあ、僕たちのお世話は誰がしてくれるの?」

「私を始め、複数人でお世話させていただきます」

 王子たちのブーイングを流し、「それでは」と言って立ち去ろうとしたエルオリントは、大切なことを思い出すと、再びランたちに向き直った。

「それから…ごめんね。あの大臣たち、法的には裁けなくて……裁判にしても、証拠不十分で相手にもされないと思うんだ。本当にごめん」

 エルオリントの突然の謝罪に、3人は慌てて口々に言った。

「そんな!それはエルさんが悪いわけではないので!」

「そうそう!元はと言えば捕まった俺たちが悪いのであって…」

「決してエルさんのせいではないんですよー!」

 3人の言葉に、エルオリントは「ありがとう」とお礼を言った。

「さ、まずはあなた達は部屋に戻らないと。私が送っていくよ」

「なっ!エルばっかずるい!僕がランを連れてく!」

「王子様がたは着替えてください。王が朝食を食べられなくて困っていますよ」

 そう言われては、何も言い返せない。
 渋々といった様子で、王子たちは部屋の中に戻っていった。





 部屋に戻り、朝食を食べ、お風呂に入り、髪を結った3人は…

「あー、暇だー」

「やる事なんもねーなー」

「どーしよー…暇すぎてどーにかなっちゃいそー」

床に揃って座って、ぼーっとしていた。
 やがて何かを思いついたのか、ロンがバッと立ち上がった。

「ねぇ、お手紙書こう!」

 その言葉に、2人は「あぁ、そうだな」と、賛成の声を上げた。
 相手は言わなくてもわかる。家族だ。
 別れ際に「手紙を書く」と言った。今日はそれを実行するには丁度いい。
 3人は事務室で便箋をもらい、手紙を書き始めた。
 妹への手紙を書いている時に、先輩3人が部屋に来た。
 手紙の相手を聞かれたので、妹だと答えると、マリアンが自分の部屋から押し花を持ってきて、「お庭に咲いてる花よ。妹ちゃんにあげてちょうだい」と言って、置いていった。

 手紙を書き終え、再び事務室に行き、手紙を預ける。
 今からだったら、きっと午後には家族の元へ届くはずだ。
 3人は、家族みんなの反応を思い浮かべながら、部屋へと戻っていった。
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