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005 お誕生日(4歳)
しおりを挟むパパパーン、パーン
パパーン、パーン
パーン
「おおッ、麗しの愛しき我が子供たちよ! 4歳のお誕生日おめでとう! 花蓮(かれん)、日毬(ひまり)、朝陽(あさひ)、真白(ましろ)。みんな心から愛してるぞ。それでだ、ジャン、ジャン、ジャジャーン! お父さんからの良い子のお前たちにケーキのプレゼントだ。いますぐそこへもっていくから楽しみにしていろ~」
ガラガラガラ
音をけたたましく立てこちらへやって来るキッチンワゴンには、その上の面積では全てを支えることができなかった赤いリボンのついたバースデーケーキの白いケースが、四辺をユラユラとたわみながらパパに運ばれて登場してきた。
あれがもしも中身がびっちりと入ったものだとしたなら、ガワからして恐らくは7~8号サイズは余裕であるのに間違いはない。
恐らくこれはケーキ屋の店員さんに予約を入れた際に「何人用にしますか?」と聞かれでもして、パパが人数を素直に「6人用です」とでも答えてしまったのだろう。
「パーティー用のサイズですね。もし足りないと困りますから一つ上のサイズにでもしておきましょうか?」と聞かれでもして、「そうしてください」とでも言ってこのサイズに決定してしまったのだと思う。
このようにして大人2名子供4名のケーキは相当に巨大な物となってしまったようだ。普段はめったにケーキの予約などしたことのないがゆえのパパさんの失敗である。ママは目を丸くしているけど。
それでもパパは浮かれていたようで、鼻歌をフンフンと歌いながら陽気な調子で箱についていた包装紙を取り除いていると、箱に張り付けてあったであろうレシートがチラリとその姿を見せた。
パパはそれを見つけると、慌てて自分のポケットにしまおうとしたけれど、あっという間もなくママが奪い取ってそのレシートを見た瞬間に、引き攣った笑顔をパパに向けてアイコンタクトをしはじめた。
これは無言の圧で、“今夜これが終わったらこの特大サイズのケーキの件でアナタとお話があるの。あなたはナニヲオハナシするかわかっているわよね”、とでも言っているかように僕には見えた。
パパはそれで気持ちがすっかりと萎縮してしまったのか、ドウモスミマセン、ゴメンナサイ、ドウモスミマセンと、何度も何度も繰り返し頭を下げながらママに謝っていた。
子供たちはそうとは知らずにお預けをくらって不満そうに両親の顔を見ていたが、この据え膳がついに待ちきれなくなったようで、ケーキは、ケーキはまだなの、と口々にブーイングを開始した。
ママはこれで気を取り直して陳謝をまだし続けるパパを置いて、その大きくて白い箱をよいこらせとテーブル側に移した。その箱を開封すると、そこから巨大なデコレーションケーキが現れた。
これを見て子どもたちは、ヤンヤヤンヤともう大騒ぎの状態だ。
「さあみんな、こんなに大きなケーキをご用意してくださったパパに、みんなでお礼を言いましょうねー」
さきほどまでママにひたすら平謝りを繰り返していたパパだったが、ママからのこの言葉にゴホンと咳払いをして居住まいを正した。
「パパァ! ありがとー!」
「パパ、だいちゅきー!」
「パパが、いちばんです!」
「、、、ありがとう」
「あれぇ? ましろちゃんはパパにお礼を言うのがとっても恥ずかしいのかな? ウンウン、それならきちんと言ってくれるまでパパは気長に待つからね。パパに、パパにね」
自分のことをパパと呼び、僕(ましろ)にパパ呼びでお礼を言われることを待ち望んでいる、この男の名前は平城陽太だ。
僕の体には間違いなく陽太からの遺伝子が受け継がれているので、陽太と僕との間柄は事実上血縁のキヅナ関係にある。
しかし僕としては陽太のことをまだ素直にパパとは呼べずにいる深い事情があった。
「陽太。ありがとう」
「またこれだー! うおおおーん! 真白はなぜ素直にパパって呼んでくれないの! 今日こそは、今日こそはパパと呼んでくれるってそう思ってたのに、パパはとてもかなしいよ~」
ウォンウォンと号泣したパパはその頭をいつの間にかママの膝元の上にちゃっかりと置いていた。
様子がどうもおかしいと思っていたら、陽太の前にはすでに空となったビールの空き缶がいくつも転がっていた。
「これ以上待っていたら片付かないわ。それじゃこのケーキをいただきましょう」
「はい、ママ」
僕がそういって返事を返すと、陽太は耳聡く聞いていたのか、パパは? ママと言えるのにパパはどうしてと、ますます拗ねるようになってしまった。
すまない兄さん。
あなたをパパって呼ぶことにはまだ少し抵抗があるんだ。
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