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15章
ゴブリンコロニー
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「マリア、後方から50匹程のモンスターが近づいて来ている。まだ距離はあるが、恐らくゴブリンだろうな……」
「了解しました。ゴブリン程度なら何匹居ても大丈夫です」
今となっては見た目も性格も大人しくなったマリアにしては、珍しく強気な発言だった。
「分かった、だが無理はするなよ」
マリアは無言で微笑む
「もう少し進んだところに少しだけ開けた場所があるからそこで待ち受けよう」
ハヤトは、セラに半径500mをスキャニングするように指示を出し、歩いていた。
「承知致しました」
そう言って二人はその場所を目指し進んでいく。そして、二人を追うようにモンスターの集団も付いて来ている、恐らく匂いで追ってきているのだろう。
ハヤトの言っていた場所に着くと二人は、モンスターの集団を待ち構えた。
「ハヤト様、来ました」
「ああ」
茂みから醜悪なゴブリン共が次々と姿を現す。推定通りその数は凡そ50匹。
「見たことのないゴブリンもいるな」
「あれはゴブリンレッドキャップです……そして、その後ろにいるのがゴブリンマジシャン……普通のゴブリンとホブゴブリンが前衛、防衛でゴブリンレッドキャップ、後衛にマジシャン……一応、隊形は組んでいるみたいですが……フフ、ハヤト様、私にお任せください」
そう言ってマリアが前に出る。
確かに『黒衣の執行者』として、ハヤト達と戦った時のマリアなら何ら問題はないだろう。だが、今のマリアは『黒衣の執行者』であった時ほどの力は無いはず……本人もそう言っていた。
そのことにハヤトは一抹の不安を感じてはいたが、マリアが危なくなれば自分がフォローすれば良いと思い、マリアに任せてみることにした。
「マリア、任せた」
「はい!」
マリアがそう言って一歩前に出たとたん、前衛のゴブリン達が一斉に襲い掛かってくる。
隊形は組めているが、戦術まで理解は出来ないのであろう、我先にとマリアに襲い掛かってくる。
繁殖力の強いゴブリンは総じて精力が強く、他種族のメスでも性の対象にする。もちろん人間も例外ではない。女は犯し子供は食い、男はいたぶって殺す。それがゴブリンなのである。
マリアは杖をかざし横に振るう。
「ウィンドブレイド」
そういった瞬間、襲い掛かってきた半分以上のゴブリンが動きを止め、体が真っ二つに切れその場に崩れ落ちる。そして、残ったゴブリン達は何が起きたのか理解できずに、その場に立ち尽くす。
すると、後ろにいた2匹のゴブリンレッドキャップが叫び声を上げ、マリアに襲い掛かってきた。
ゴブリンレッドキャップは上位のゴブリンで、その強さは人間で言えばゴールドランクの冒険者に匹敵する程度の強さはある。
だが、マリアは動じない。
「たかがレッドキャップ……」
そう言って、杖を振ろうとした瞬間、後方から少し小さめだが十分な威力のファイヤーボールが次々とマリアに向け放たれる。
後衛のゴブリンマジシャン5匹である。
ゴブリンマジシャンは魔法が使える為、総じて知能が高く、相手を観察し、ある程度の戦略を練ることができる。このゴブリンも人間の冒険者で言えばシルバーランク程度だ。
ただ、圧倒的に人間と違う所は仲間を巻き添えにする事になんの躊躇いもないことと、数が多いところだ。
レッドキャップがマリアに攻撃を仕掛けた事で、他のゴブリンやホブゴブリン達も攻撃を再開した為、その乱戦に紛れて遠距離攻撃を仕掛けようとしたのである。だが、その攻撃もマリアには全く届かなかった。
マリアは、レッドキャップを含め攻撃を再開して来た多数のゴブリン達に今度は、数を重視した低位の魔法ウィンドカッターを乱射し次々と倒して行き、飛んできたファイヤーボールには空いている左手でマジックシールド張り完璧に防いだ。
両手で魔法を操るマリアを見たゴブリンマジシャンは、その力に驚き、それと同時に前衛の仲間達が次々と倒されて行く事態に困惑し恐怖している。
そう、マリアの魔法の前にレッドキャップを含めマジシャン以外のゴブリンは難なく討伐されてしまったのである。
そして今、マリアの杖が自分達に向けられている事に気付いたゴブリンマジシャン達は、慌てて我先へと森へ逃げ出す。だが、マリアの杖から放たれたウィンドブレイドに呆気なく切り捨てられたのである。
実に戦いが始まってから約50匹のゴブリン達が全滅するまでの時間はたったの3分程度であった。
(おいおい、何処かの赤い彗星かよ……)ハヤトは、地球で見た昔のアニメを思い出していた。
マリアはハヤトの方へ振り向くと、頭を下げた。
「お待たせ致しました。炎系の魔法が使えなかったたため、少々時間が掛かってしまいました……申し訳ございません」
「いやいや、全然大丈夫だ。それよりも先を急ごう」
そう言ってハヤトは歩き出す。
「はい」
マリアは恭しく頭を下げるとハヤトの後に続く。
ーーーー
「な!……なんだこれは……」
「…………」
ゼスとシーナは、ハヤト達がゴブリンを迎え撃った場所に到着し、その惨状に息を呑む。
その開けた場所には、すでに二人はおらず、無惨に切り裂かれた木々とゴブリンの死体が大量に転がっているのみ。
「まさか、あの短時間でこの数のゴブリンを全て倒したのか……」
「ゼス様、あの二人……」
「ああ、かなりの実力者だ……上位ゴブリンの居る集団をこの短時間で……」
「『かなりの使い手』だとは聞いていたが、実力はオリハルコン……ランクsecond若しくは、どちらかがランクfirstにも届いているやも知れぬ……」
「フレアライト級ですか……まさか……」
フレアライト級、そのランクに到達出来る冒険者は、数多いる冒険者の中でも、まさに選ばれた者達で、英雄と呼ばれるに等しく、その力は個人にもよるが、レッサードラゴンとでも単体で闘える程である。
「とにかく、急いで追いかけるぞ」
「はい」
ゼスとシーナは、ハヤト達の後を追い、森へ消えた。
----
「ハヤト様」
「ああ、あそこが巣の様だな」
目の前には大き目の洞窟が広がっており、ゴブリン共の巣になっている様だ。
そして、入り口にはゴブリンが2匹いて見張りをしているようだが、巣の中から他のゴブリン達が慌ただしそうに出てきた。
「ハヤト様、行きますか?」
「ゴブリンが相手でも油断はするなよ」
「承知しました」
そう言うと、ハヤトとマリアは正面から洞窟へと歩き出した。
「ギャギャ!」
ハヤトとマリアの姿を見つけた1匹のゴブリンが騒ぎ出すと、すぐに洞窟の中から醜悪なゴブリン達が姿を表す。
「おいおい……何匹居るんだよ……」
「流石に気持ち悪いですね……」
つい先程50匹程倒したのに、目の前には更に100匹程のゴブリンが集まっている。
そして、その中には他のゴブリンの倍以上の背丈があるゴブリンが1匹混ざっており、他のゴブリンに命令を出しているようだ。
「ハヤト様、あの大きなゴブリンはゴブリンキングです。そして、その前にいるのが、さっきと同じレッドキャップとマジシャン……先程とは違ってどうやらこちらは精鋭揃いの様ですね。特にキング……人間の冒険者で例えるなら、ミスリルランクに相当します……前衛のゴブリン達もほとんどがホブゴブリン……少し面倒ではありますが、掃討しますので、ハヤト様は見ていて下さい」
マリアが先程と同じ様に一歩前へ進んだ瞬間、炎の魔法が飛んでくる。
それと同時に、色々な武器を持ったホブゴブリン達が、攻撃して来る。
先程と違うのは、キングがいるせいか、ゴブリン達の攻撃方法が戦略的に変わっている事である。
前衛のホブゴブリンが無闇に突っ込んでは来ず、後衛の弓や、魔法の着弾後のスキを狙って来たり、ハヤトへも時々攻撃する事によって、牽制したりしている。
ゴブリン達から見れば、マリアが主戦力でハヤトは後衛若しくは、マリアの護るべき対象の様に見えているのだろう。それはそうだ……先程から戦っているのはマリアばかりなのだから……
そして、3匹のレッドキャップがうまく連携を取り、マリアに魔法を打たせないよう、絶え間なく攻撃を仕掛けている。もちろんマリアはそれでも、隙を見て発動の早い低位魔法で応戦しているが……
「マリアが苦戦している……?レッドキャップが攻撃に参加しているせいで、思うように魔法を撃てないでいるな
……それでも上手く立ち回ってはいるが、このままだと……キングが動き出せば一気に追い込まれるかも知れない。それにマリアのスタミナと魔力も心配だ」
そう思って、マリアの方に目を向けると、やはり魔力が低下しているのか少し身体が揺初めてれている。
「くっ…おかしいわ……いくらキングが居るからって……戦い方が戦略的すぎるし、マジシャン達の魔法の威力も想定よりも遥かに強い……」
「警告……マリア様の魔力量が30%を切りました」
戦闘が始まって以降、セラがマリアの状態を独自の判断でモニターしていたようで、ハヤトに警告を発してきた
その時、マリアの悲鳴が聞こえた。
「キャッ…」
疲れの見え始めたマリアが、レッドキャップの攻撃を躱す際に、地面の窪みに足を取られ転倒したのだ。そして、その隙を逃すまいと、別のレッドキャップが剣を構え転倒しているマリアの首をめがけて飛び掛かる……
「しまった……」
マリアは、諦めて目を閉じ心の中でハヤトに謝罪する……
「ハヤト様申し訳ございません…」
ハヤトは、マリアに見ていて欲しいと言われた手前、様子を見ていたが……
「マリアには悪いが助けに行くぞ! セラ!」
「了解マスター、サポートを開始します」
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