ゼロキルゼロデス〜あなたの力では人を殺せません〜

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第一章

一件落着

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イアの肩を借りながら、海斗は崖の下へとやってきた。
体のあちこちが痛む。無理もない。走り回って転んでまた走ってと、何時間もひたすらに走っていたのだから。
先ほどいた崖の真下へとやってくると、そこにはあの大きな怪物が横たわっていた。
「見事に気絶していますね...」
横たわる巨体を見ながら、イアが呟いた。
「え“。いや、死んでないの?」
苦笑いしながら、上を見上げる。空のはるか向こうまでそびえる岩肌から、崖の高さを再確認した。この高さから落ちても死んでいないのかと、驚きを隠せない。
「はい。エギルテはそう簡単に死ぬ魔獣ではありません。首を落としてしまうか、よほどのことをしなければ...」
ますますこの魔獣の株が上がっていく。
「そのお強い魔獣を簡単に殺すイヴァンはマジで何者なの?」
少しの沈黙が続く。
「ところでですが...」
「いや今誤魔化したよね!?イヴァンの強さに触れるのはタブーなのな」
しれーっとした顔で、イアは無言のままでいる。徹底的に無視をされている。
「わかったわかった。まぁいいよ...。ところで、なんだ?」
「はい、この後エギルテをどうするのかお聞きしようと思いまして」
先ほどの沈黙が嘘かのように、イアがまた喋り始めた。
「いやぁ流石にあそこから落ちれば死ぬと思ってたから、何も考えてないんだよな...」
俺からすれば当たり前だ。これだけ高い崖の上から、真っ逆さまに地面に激突して、死なない生き物など知らないし、仮にいたとしても知りたくない。
「殺した方がいい...よな?」
確かめるように、イアの顔を覗き込む。
「そうですね。目を覚ましたときに、また襲ってくるかもしれません。それに夜も近いです。夜の森の中では流石に勝ち目がありません。そうなってしまったら、私たちは死んでしまうでしょう」
「縁起でもないこと言うなよ!?」
海斗が大声でイアに突っ込む。
耳許で大声を上げられたイアは、不機嫌そうな顔をしながら、海斗をささえている方の肩から、顔を遠のけた。
「でもさ、殺しにしても...俺何もできないぞ?イアに頼むしかない」
「私は攻撃系の魔法が得意ではありません。今はエギルテを絶命させる威力の魔法を使うほどの魔力は残っていません」
「...俺ら詰んでね?」
必死に考えを巡らせたが、何も思い付かない。ここまでやっておいて、絶体絶命だった。
海斗とイアが頭を抱えていると、エギルテの体の隙間から小さな蛇が出てきた。
それは、先ほど海斗が追いかけていた、エギルテの子供だった。
「あっ、おいイア」
エギルテの子供を見て、俯いて考えているイアに海斗が声をかけた。
「エギルテの...子供ですね」
「シャーー!」
エギルテの子供が、こちらに威嚇をしてきた。
「うぉっ!?怒ってる...。そりゃ、自分の親こんなにされたらそうだよな」
海斗がイアの肩を離し、エギルテの方へと歩み寄った。
「ちょっ!海斗さん!?」
よろける体を踏んだって動かし、口を大きく開け威嚇するエギルテの子供の前へ行った。
威嚇するエギルテの子供の前で膝をつき、目線を合わせた。
海斗はそのエギルテの子供へ向け、一言告げた。
「ごめんな」
海斗がそう一言言い放つと、威嚇していたエギルテの子供は泣き声を止め、大きく開けていた口を閉じた。
海斗のその様子を見ているイアは、呆気に取られていた。
全員が静まった瞬間、大きな地響きとともに、エギルテが目を覚まし起き上がった。
「おいおい嘘だろ...」
怪物の目の前でしゃがんでいる海斗は、その大きな怪物を見上げ、その場で腰を抜かした。
エギルテが腰を抜かしている海斗の方へと、ゆっくりと顔を動かした。
「海斗さん!!」
イアが、絶体絶命の海斗を呼んだ。
海斗は、後ろを向いてイアに返すほどの余裕が、もうなかった。
手が震え、体が強張る。汗が流れて、声にならない声を出しながら、瞬きを忘れて目を見開く。怪物から目が離せなくなり、恐怖が体の底から湧き出てくる。
逃げろ、逃げろと自分に言い聞かせるが、酷使した体はも動かなかった。
今度こそ終わりだ。そう思い、諦めたそのときだった。
エギルテの子供が、海斗の前へ出て、エギルテへと小さな鳴き声で何かを訴え始めた。
エギルテの子供の必死な姿を見て、エギルテは海斗に向けていた目から、敵意と殺意を消し去った。
刹那、有り得ないことが起きた。
エギルテが、海斗へ向けて頭を下げた。
「どういう...ことだ...?」
何が起きたのか、さっぱりわからなかった。
「エギルテが頭を下げるのは、屈服の意を表しているんです」
イアが後ろから歩み寄り、そう告げられた。だが、そう言われてもわからなかった。
「つまり、どういうことだ?」
「海斗さんに、エギルテが忠義を誓っているんですよ」
驚きや、それ以外のことで頭が埋められていった。だがそのどの感情にもない、安堵が打ち勝ち。大きなため息を漏らした。
「一件落着...なんだよな?」
体から恐怖が抜け、力なくその場に倒れ込んだ。
まったく、何が起こるかわかったものじゃない。




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