18 / 22
第一章
一件落着
しおりを挟む
イアの肩を借りながら、海斗は崖の下へとやってきた。
体のあちこちが痛む。無理もない。走り回って転んでまた走ってと、何時間もひたすらに走っていたのだから。
先ほどいた崖の真下へとやってくると、そこにはあの大きな怪物が横たわっていた。
「見事に気絶していますね...」
横たわる巨体を見ながら、イアが呟いた。
「え“。いや、死んでないの?」
苦笑いしながら、上を見上げる。空のはるか向こうまでそびえる岩肌から、崖の高さを再確認した。この高さから落ちても死んでいないのかと、驚きを隠せない。
「はい。エギルテはそう簡単に死ぬ魔獣ではありません。首を落としてしまうか、よほどのことをしなければ...」
ますますこの魔獣の株が上がっていく。
「そのお強い魔獣を簡単に殺すイヴァンはマジで何者なの?」
少しの沈黙が続く。
「ところでですが...」
「いや今誤魔化したよね!?イヴァンの強さに触れるのはタブーなのな」
しれーっとした顔で、イアは無言のままでいる。徹底的に無視をされている。
「わかったわかった。まぁいいよ...。ところで、なんだ?」
「はい、この後エギルテをどうするのかお聞きしようと思いまして」
先ほどの沈黙が嘘かのように、イアがまた喋り始めた。
「いやぁ流石にあそこから落ちれば死ぬと思ってたから、何も考えてないんだよな...」
俺からすれば当たり前だ。これだけ高い崖の上から、真っ逆さまに地面に激突して、死なない生き物など知らないし、仮にいたとしても知りたくない。
「殺した方がいい...よな?」
確かめるように、イアの顔を覗き込む。
「そうですね。目を覚ましたときに、また襲ってくるかもしれません。それに夜も近いです。夜の森の中では流石に勝ち目がありません。そうなってしまったら、私たちは死んでしまうでしょう」
「縁起でもないこと言うなよ!?」
海斗が大声でイアに突っ込む。
耳許で大声を上げられたイアは、不機嫌そうな顔をしながら、海斗をささえている方の肩から、顔を遠のけた。
「でもさ、殺しにしても...俺何もできないぞ?イアに頼むしかない」
「私は攻撃系の魔法が得意ではありません。今はエギルテを絶命させる威力の魔法を使うほどの魔力は残っていません」
「...俺ら詰んでね?」
必死に考えを巡らせたが、何も思い付かない。ここまでやっておいて、絶体絶命だった。
海斗とイアが頭を抱えていると、エギルテの体の隙間から小さな蛇が出てきた。
それは、先ほど海斗が追いかけていた、エギルテの子供だった。
「あっ、おいイア」
エギルテの子供を見て、俯いて考えているイアに海斗が声をかけた。
「エギルテの...子供ですね」
「シャーー!」
エギルテの子供が、こちらに威嚇をしてきた。
「うぉっ!?怒ってる...。そりゃ、自分の親こんなにされたらそうだよな」
海斗がイアの肩を離し、エギルテの方へと歩み寄った。
「ちょっ!海斗さん!?」
よろける体を踏んだって動かし、口を大きく開け威嚇するエギルテの子供の前へ行った。
威嚇するエギルテの子供の前で膝をつき、目線を合わせた。
海斗はそのエギルテの子供へ向け、一言告げた。
「ごめんな」
海斗がそう一言言い放つと、威嚇していたエギルテの子供は泣き声を止め、大きく開けていた口を閉じた。
海斗のその様子を見ているイアは、呆気に取られていた。
全員が静まった瞬間、大きな地響きとともに、エギルテが目を覚まし起き上がった。
「おいおい嘘だろ...」
怪物の目の前でしゃがんでいる海斗は、その大きな怪物を見上げ、その場で腰を抜かした。
エギルテが腰を抜かしている海斗の方へと、ゆっくりと顔を動かした。
「海斗さん!!」
イアが、絶体絶命の海斗を呼んだ。
海斗は、後ろを向いてイアに返すほどの余裕が、もうなかった。
手が震え、体が強張る。汗が流れて、声にならない声を出しながら、瞬きを忘れて目を見開く。怪物から目が離せなくなり、恐怖が体の底から湧き出てくる。
逃げろ、逃げろと自分に言い聞かせるが、酷使した体はも動かなかった。
今度こそ終わりだ。そう思い、諦めたそのときだった。
エギルテの子供が、海斗の前へ出て、エギルテへと小さな鳴き声で何かを訴え始めた。
エギルテの子供の必死な姿を見て、エギルテは海斗に向けていた目から、敵意と殺意を消し去った。
刹那、有り得ないことが起きた。
エギルテが、海斗へ向けて頭を下げた。
「どういう...ことだ...?」
何が起きたのか、さっぱりわからなかった。
「エギルテが頭を下げるのは、屈服の意を表しているんです」
イアが後ろから歩み寄り、そう告げられた。だが、そう言われてもわからなかった。
「つまり、どういうことだ?」
「海斗さんに、エギルテが忠義を誓っているんですよ」
驚きや、それ以外のことで頭が埋められていった。だがそのどの感情にもない、安堵が打ち勝ち。大きなため息を漏らした。
「一件落着...なんだよな?」
体から恐怖が抜け、力なくその場に倒れ込んだ。
まったく、何が起こるかわかったものじゃない。
体のあちこちが痛む。無理もない。走り回って転んでまた走ってと、何時間もひたすらに走っていたのだから。
先ほどいた崖の真下へとやってくると、そこにはあの大きな怪物が横たわっていた。
「見事に気絶していますね...」
横たわる巨体を見ながら、イアが呟いた。
「え“。いや、死んでないの?」
苦笑いしながら、上を見上げる。空のはるか向こうまでそびえる岩肌から、崖の高さを再確認した。この高さから落ちても死んでいないのかと、驚きを隠せない。
「はい。エギルテはそう簡単に死ぬ魔獣ではありません。首を落としてしまうか、よほどのことをしなければ...」
ますますこの魔獣の株が上がっていく。
「そのお強い魔獣を簡単に殺すイヴァンはマジで何者なの?」
少しの沈黙が続く。
「ところでですが...」
「いや今誤魔化したよね!?イヴァンの強さに触れるのはタブーなのな」
しれーっとした顔で、イアは無言のままでいる。徹底的に無視をされている。
「わかったわかった。まぁいいよ...。ところで、なんだ?」
「はい、この後エギルテをどうするのかお聞きしようと思いまして」
先ほどの沈黙が嘘かのように、イアがまた喋り始めた。
「いやぁ流石にあそこから落ちれば死ぬと思ってたから、何も考えてないんだよな...」
俺からすれば当たり前だ。これだけ高い崖の上から、真っ逆さまに地面に激突して、死なない生き物など知らないし、仮にいたとしても知りたくない。
「殺した方がいい...よな?」
確かめるように、イアの顔を覗き込む。
「そうですね。目を覚ましたときに、また襲ってくるかもしれません。それに夜も近いです。夜の森の中では流石に勝ち目がありません。そうなってしまったら、私たちは死んでしまうでしょう」
「縁起でもないこと言うなよ!?」
海斗が大声でイアに突っ込む。
耳許で大声を上げられたイアは、不機嫌そうな顔をしながら、海斗をささえている方の肩から、顔を遠のけた。
「でもさ、殺しにしても...俺何もできないぞ?イアに頼むしかない」
「私は攻撃系の魔法が得意ではありません。今はエギルテを絶命させる威力の魔法を使うほどの魔力は残っていません」
「...俺ら詰んでね?」
必死に考えを巡らせたが、何も思い付かない。ここまでやっておいて、絶体絶命だった。
海斗とイアが頭を抱えていると、エギルテの体の隙間から小さな蛇が出てきた。
それは、先ほど海斗が追いかけていた、エギルテの子供だった。
「あっ、おいイア」
エギルテの子供を見て、俯いて考えているイアに海斗が声をかけた。
「エギルテの...子供ですね」
「シャーー!」
エギルテの子供が、こちらに威嚇をしてきた。
「うぉっ!?怒ってる...。そりゃ、自分の親こんなにされたらそうだよな」
海斗がイアの肩を離し、エギルテの方へと歩み寄った。
「ちょっ!海斗さん!?」
よろける体を踏んだって動かし、口を大きく開け威嚇するエギルテの子供の前へ行った。
威嚇するエギルテの子供の前で膝をつき、目線を合わせた。
海斗はそのエギルテの子供へ向け、一言告げた。
「ごめんな」
海斗がそう一言言い放つと、威嚇していたエギルテの子供は泣き声を止め、大きく開けていた口を閉じた。
海斗のその様子を見ているイアは、呆気に取られていた。
全員が静まった瞬間、大きな地響きとともに、エギルテが目を覚まし起き上がった。
「おいおい嘘だろ...」
怪物の目の前でしゃがんでいる海斗は、その大きな怪物を見上げ、その場で腰を抜かした。
エギルテが腰を抜かしている海斗の方へと、ゆっくりと顔を動かした。
「海斗さん!!」
イアが、絶体絶命の海斗を呼んだ。
海斗は、後ろを向いてイアに返すほどの余裕が、もうなかった。
手が震え、体が強張る。汗が流れて、声にならない声を出しながら、瞬きを忘れて目を見開く。怪物から目が離せなくなり、恐怖が体の底から湧き出てくる。
逃げろ、逃げろと自分に言い聞かせるが、酷使した体はも動かなかった。
今度こそ終わりだ。そう思い、諦めたそのときだった。
エギルテの子供が、海斗の前へ出て、エギルテへと小さな鳴き声で何かを訴え始めた。
エギルテの子供の必死な姿を見て、エギルテは海斗に向けていた目から、敵意と殺意を消し去った。
刹那、有り得ないことが起きた。
エギルテが、海斗へ向けて頭を下げた。
「どういう...ことだ...?」
何が起きたのか、さっぱりわからなかった。
「エギルテが頭を下げるのは、屈服の意を表しているんです」
イアが後ろから歩み寄り、そう告げられた。だが、そう言われてもわからなかった。
「つまり、どういうことだ?」
「海斗さんに、エギルテが忠義を誓っているんですよ」
驚きや、それ以外のことで頭が埋められていった。だがそのどの感情にもない、安堵が打ち勝ち。大きなため息を漏らした。
「一件落着...なんだよな?」
体から恐怖が抜け、力なくその場に倒れ込んだ。
まったく、何が起こるかわかったものじゃない。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる