実話怪談集

視世陽木

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22話 飲みの誘い

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 大学生時代の話だ。
急にバイトが休みになったその日、部屋でゴロゴロして過ごしていた。
テレビを観る気分でもなく、読書が大好きだがそんな気分でもなく、ただただ呆けていたのを覚えている。

 しばらく怠惰に過していると、テーブルの上に放置していた携帯電話がブブブッと震えた。
画面には『坂本』の名前が表示されている。

「おー、どうした?」

『あっ、出た。この時間はいつもバイトだからダメ元でかけてみたんだけどな』

「急に休みになってな。で? どうした?」

『たまたま何人か部室に集まったから〇〇(店名)に飲みに行こうって話になったんだけど、そっちはそっちで忙しいのな。じゃあな』

 こちらが口を挟む間すらくれず、勝手に電話が切られた。
すぐにかけなおすが、盛り上がってて気づいていないのか、全然電話に出ない。

「バイト休みになったって言ってんだから暇に決まってんだろ……」

 ブチブチと小声で愚痴を言いながら、私はいそいそと出掛ける準備を始めた。


「らっしゃい!」

 馴染みの居酒屋、いつも元気なマスターが迎えてくれた。

「来てます?」

 坂本と一緒に飲むことも多かったので、すぐのマスターには伝わった。
料理する手は止めず、「上だよ!」と顎で2階の方をしゃくる。

 狭い階段を上がったすぐ手前の席で坂本とサークル仲間数名が飲んでおり、私に気づいた1人が「あっ!」と声を上げる。坂本はなぜだか大袈裟に驚いていた。

「お疲れ。……お前なんでそんなに驚いてんの?」

 席に着きながら坂本に尋ねた。
すると彼からの返事はとても奇妙な内容だった。

「お前、どっかで遊んだり飲んだりしてたんじゃねーの?」

「は?」

「だってさっき電話した時、お前の後ろからそこそこの人数の人の声がしたから、呼ぶの遠慮したんだよ。なに? もう解散したの?」

 彼の言葉に私は戦慄した。

「……俺、さっきまで家にいたよ。部屋に1人で、テレビもつけずに」

 震えた声でそう話すと、その場の全員が黙り込んだ。
おそらく坂本から「視世は別のとこで飲んでる」とでも聞いていたのだろう。
我々の会話から事情を察したに違いない。

「……なんかごめん」

「いや、こっちこそ……」

 誰が悪い話でもない。
従業員の女の子が、急に盛り下がったテーブルを不思議そうに見ながら注文を取りにやってきたので、とりあえずビールを頼み、無理矢理テンションを上げた。

 それからは全員が全員気を遣いながらの、何とも微妙な飲み会になってしまった。

 そして帰り際、坂本が珍しく気を遣ってくれた。

「今は憑いてないみたいだし、今日は俺の家に泊まってくか? それで、明日お前の部屋を視にいってやるよ」

 ちなみに後日部屋を視てもらったのだが、特に何もなく、たまたま憑いてきた霊か通りかかった霊ではないかという、極ありふれた話に落ち着いた。
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