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レオナルドの帰国 2
しおりを挟むレオナルドは食堂に向かって、足早に歩いていた。
途中で授業が終わって食堂へと向かう生徒たちの群れと合流する。
その中にナンシーの姿がないか探しつつ、流れに身を任せた。
この学園には学生服がない。
そのため大荷物を抱えている点を除けば、留学帰りで私服姿のレオナルドがいてもなんら不自然ではない。
(荷物、研究室に置かせてもらえばよかったな…)
1秒でも早くナンシーに会いたいため、さっさと職員室を後にしてきたが、大きい鞄が嵩張ることに気付いた。
(まあ、大した重さじゃないからいいか)
今から職員室に戻り、教師の許可を得てから研究室に行くのは時間の無駄である。
――ドンっ。
食堂の入り口近くまできたとき。
ナンシーがいないか探すためにゆっくりと歩いていると突然、左肩に衝撃が走った。
「うおっ」
「おい、邪魔だ。どけ!」
振り返ると、男子生徒がこちらを睨みつけている。
更に彼は、困惑しているレオナルドの左腕を掴み廊下の端の方へと押しやった。
何するんだと言おうとして、レオナルドは異様な様子に口を噤んだ。
「ミクシーちゃんが通るんだよ。邪魔だからすっこんでろ!」
「…」
レオナルドはそっと廊下の脇に避けた。
男子生徒はフンっと鼻を鳴らすと、後ろを振り返った。
「ミクシーちゃん、お待たせ! ゴミは片付けたからもう大丈夫だよ!」
「ありがとう。でも、暴力はいけないわ」
「ミクシーちゃんは優しいなぁ」
「どうでもいいから早く行こうぜ。ミクシーちゃんの食事時間が減っちまう」
「さっ、足元に注意して」
一人の女子生徒を、5人の男子生徒が囲っていた。
レオナルドが呆気に取られているうちに、6人は食堂へと入っていった。
「…なんだあれ…」
周囲の生徒たちは見て見ぬふりをしている。
何人かの男子生徒は、嫉妬の眼差しで6人を見ていた。
「――レオ?」
「っ! ナンシーっ!」
愛しの恋人の声が聞こえ、バッと音がしそうな勢いで振り向く。
そこには会いたくてやまなかった愛しの恋人の姿。
鞄をその場に落とし、しかし布の包みはしっかりと抱えたまま、レオナルドはナンシーに駆け寄り、片手で抱きしめた。
もちろん包がナンシーに当たらないように注意している。
「ああ、ナンシー!ようやく会えた!」
「ちょっとレオ! 苦しい!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるレオナルドに、ナンシーの顔が赤くなったのは羞恥だけが原因ではない。
「ちょっとお兄さん。感動の再会でテンションがあがっちゃったのはわかるけど、抱きしめる力が強すぎて大事なお嬢さんが苦しそうですけど」
「え…。あ、うわっ、ごめんナンシー!」
「ぷはっ…」
レオナルドの目には入っていなかったが、ナンシーの傍にはエリーとキャロルがいた。
苦しそうに背中をパシパシと叩くナンシーを見かねて、ジト目になったエリーがレオナルドに注意してやった。
「大丈夫かい、ナンシー」
「う、うん…。――それより、レオはどうしてここに? 到着するのは昼過ぎになるって言ってなかった?」
「予想よりも早く着いたんだ。ちょうど昼休みになったから、ナンシーと一緒に昼ご飯を食べたいと思って…」
「ねえ二人とも。ここで話すと邪魔になるから、食堂でご飯食べながら話したら?」
そのまま立ち話が続きそうな二人に、キャロルが声をかけた。
通りゆく生徒たちは、迷惑そうにこちらをチラ見して避けている。
「それもそうだな。行こう、ナンシー。――君たちも」
「ええ」
「せっかくだから、二人きりでご飯食べなさいよ――って言ってあげたいけど、混むからね。同じテーブルにいるけど、置物よろしく黙っててあげるわ」
「ちょ、ちょっとエリー…」
「ははっ! そんな気にしなくていいよ。放課後からは二人きりにさせてもらうけど」
「レオったら…」
「おっけ~」
「じゃあ放課後までは私たちのナンシーでいてもらいましょうか」
「キャロルまで…」
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