背中越しの温度、溺愛。

夏緒

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12話 指輪。3

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side I

「涼平め……」
 酷い目に遭った。
 シャワーから出てもう一度顔をタオルで強く拭う。
 涼平の家で寝てしまって、朝起きたら裕太くんが来ていた。
 二人があまりにも笑うから何かと思ったら、顔がペンで落書きされて酷いことになっていた。
 水性の蛍光ペンで助かった。涼平は油性ペンのしかも黒で落書きしようとしていたらしい。止めてくれた裕太くんに感謝しなければ。涼平の家の洗面台で何度も顔を洗って、さっきもまた洗ったけど、鏡を見るとまだ付いているような気がしてくる。
 諦めて何気なくテレビの方を見れば、その隣に並ぶものも自然と目に入る。
 インテリアとして買った、百円の透明なデザイングラス。中には、右手の薬指に調度良いサイズの銀の指輪と、この家のものではないカードキーが入っている。喧嘩して追い出して、返すのを忘れてしまった。また埃が溜まっていってしまう。
 この指輪。捨ててしまおうかと何度も思った。目に入らないところに隠しておこうかとも。
 でも、いつもしなかった。期待の顕れだ。いつかまた、つける日が来るに違いない、と。
 確信にも近い期待。
 けど、それってどうなんだろう。
 ヒカルのことは、正直嫌いになったわけではない。だからこそ思う。
 「次」は、あったらいけないのではないか。
 だってヒカルは、これからもきっと同じことを繰り返す。自分はそれをまた、許してはやれない。好きだから、悲しくて、悔しくて、虚しくて、寂しくなる。胸が裂けるように痛くなる。
 そんな思いをしてまで、分かっていて、それでも傍に居ようとするのって、どうなんだろうか。
 「好き」だけで釣り合うものだろうか。
 分からない。迷う。
 もしも離れているほうが、お互いのためだったら? 例えば別の選択をして、そちらの方が幸せだったとしたら?
 「好き」を諦めて手放したら、違う「好き」が見つかったり、するのだろうか。
 辛い思いをするのは、本当はもう嫌なんだ。
 この指輪、今度こそ捨てるべきか。
 迷う。
 二年経っても褪せることなく存在を主張するそれに、今は触れない。

「取り敢えず、就活始めなくちゃな……」
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