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25話 賭け。2
だから、これはきっと、何かに縋りたいだけだ。縋って、あんな奴なんて居なくても平気だ。そう言いたいんだ。
一人でぐるぐる同じところを回っている状態から何とか、おれはずっとどこかに一歩を踏み出したかった。
もしかしたらそれは、豪くんじゃなくても良いのかもしれない。他に縋るものなんかいくらでもあるのかもしれない。
でも今は、豪くんが良い。
別に一緒に居たってドキドキしたりはしない。緊張したりもしない。きっとまだお互いのことも何も知らない。
でも、今は豪くんが良い。
この人はきっと、おれに寂しい思いをさせたりはしない。苦しい気持ちにさせたりはしない。
別の人に逃げ場を求めるような事なんて、しなくて済む。
一緒に居ると落ち着くんだ。安心して傍に居られる。おれのことを必要としてくれる。
ドキドキなんて、しなくても構わない。この人の傍に居る時のこの穏やかな気持ちを、「好き」と、呼んでみたい。
「それって、どういう」
「だから、さ、」
もし良かったら、どうこうならないか。
「……っ、」
豪くんが息を詰めるようにして、一瞬呼吸を止めた。
上手く笑えていなかっただろうかと不安になって、こちらも慌てて顔の前で手を振ってみる。
「あっごめん、気持ち悪いよな、急にそんなこと言い出したら……」
「あんまり」
「え?」
慌てて言い訳をしようとしたところを、少しだけ震える声で止められた。目を見返すと逸らされる。
「あんまり、期待させるような事、言わないで下さいよ」
豪くんは目を逸らしたまま、でも、なんだか目尻がうっすらと赤い。
見て、気付いてしまった。これはきっと今、照れているんだ。
きっとおれは今、彼の予想していなかった答えを出した。戸惑っているんだ。表情にあまり出ない彼の心の内を少しだけ覗くことが出来てしまったような気がして、何だか嬉しくなった。
「期待して、貰えないかな」
ずるい聞き返し方だったかもしれない。でも豪くんは、何かを吹っ切るかのようにがりがりと頭を掻いて、それはそれは盛大に深呼吸をした。
「すいません俺、男の人と付き合ったりしたことなくて……取り敢えず」
「うん?」
「抱きしめても良いですか」
「え? あ、はい、どうぞ」
返事をすると突然豪くんは立ち上がった。彼には少しだけ小さい気のする椅子ががたんと音を立てた。
机を避けるようにしてこちらに来たので釣られるようにしてその場で立ち上がると、腕を引かれて少し強引に、その腕の中に抱きしめられた。
ぴったりと触れ合った胸に、自分のではない心臓の鼓動が伝わる。
「ずっと」
身体に似合わない小さな声で、豪くんは独り言のように呟いた。
「こうしたかった」
初めて電話を貰うまでまるで気付かなかった事を申し訳なく思える程、その声は小さくて、心臓の音は大きくて、抱きしめる腕は力強かった。
この人が居れば、自分はきっと前を向くことが出来る。
「うん。有難う」
思うよりも先に、言葉が口から零れた。
気付けば残暑も過ぎて、秋が来ていた。
硬い背中を触ってみたおれの手の平には、慣れない体温と違和感が残った。
一人でぐるぐる同じところを回っている状態から何とか、おれはずっとどこかに一歩を踏み出したかった。
もしかしたらそれは、豪くんじゃなくても良いのかもしれない。他に縋るものなんかいくらでもあるのかもしれない。
でも今は、豪くんが良い。
別に一緒に居たってドキドキしたりはしない。緊張したりもしない。きっとまだお互いのことも何も知らない。
でも、今は豪くんが良い。
この人はきっと、おれに寂しい思いをさせたりはしない。苦しい気持ちにさせたりはしない。
別の人に逃げ場を求めるような事なんて、しなくて済む。
一緒に居ると落ち着くんだ。安心して傍に居られる。おれのことを必要としてくれる。
ドキドキなんて、しなくても構わない。この人の傍に居る時のこの穏やかな気持ちを、「好き」と、呼んでみたい。
「それって、どういう」
「だから、さ、」
もし良かったら、どうこうならないか。
「……っ、」
豪くんが息を詰めるようにして、一瞬呼吸を止めた。
上手く笑えていなかっただろうかと不安になって、こちらも慌てて顔の前で手を振ってみる。
「あっごめん、気持ち悪いよな、急にそんなこと言い出したら……」
「あんまり」
「え?」
慌てて言い訳をしようとしたところを、少しだけ震える声で止められた。目を見返すと逸らされる。
「あんまり、期待させるような事、言わないで下さいよ」
豪くんは目を逸らしたまま、でも、なんだか目尻がうっすらと赤い。
見て、気付いてしまった。これはきっと今、照れているんだ。
きっとおれは今、彼の予想していなかった答えを出した。戸惑っているんだ。表情にあまり出ない彼の心の内を少しだけ覗くことが出来てしまったような気がして、何だか嬉しくなった。
「期待して、貰えないかな」
ずるい聞き返し方だったかもしれない。でも豪くんは、何かを吹っ切るかのようにがりがりと頭を掻いて、それはそれは盛大に深呼吸をした。
「すいません俺、男の人と付き合ったりしたことなくて……取り敢えず」
「うん?」
「抱きしめても良いですか」
「え? あ、はい、どうぞ」
返事をすると突然豪くんは立ち上がった。彼には少しだけ小さい気のする椅子ががたんと音を立てた。
机を避けるようにしてこちらに来たので釣られるようにしてその場で立ち上がると、腕を引かれて少し強引に、その腕の中に抱きしめられた。
ぴったりと触れ合った胸に、自分のではない心臓の鼓動が伝わる。
「ずっと」
身体に似合わない小さな声で、豪くんは独り言のように呟いた。
「こうしたかった」
初めて電話を貰うまでまるで気付かなかった事を申し訳なく思える程、その声は小さくて、心臓の音は大きくて、抱きしめる腕は力強かった。
この人が居れば、自分はきっと前を向くことが出来る。
「うん。有難う」
思うよりも先に、言葉が口から零れた。
気付けば残暑も過ぎて、秋が来ていた。
硬い背中を触ってみたおれの手の平には、慣れない体温と違和感が残った。
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