14 / 21
14話
しおりを挟む「んぅ、は、ぁ……」
ぐちゅ、と、畳の上で腰を動かす度に卑猥な音がする。気持ちいい。溶けそう。
扇風機が首を振る度に汗で湿ったハルさんの髪が少しだけ揺れる。
なんか昨日までと違う。今までずっと言わずにいたものを、口に出したら途端に自分の中で何かが変わった。
気持ちいいだけじゃ足りない。繋がってるだけじゃ足りない。キスをしても、抱き締めても、まだ足りない気がする。
優しくしたい。全部が欲しい。見えないものをもっと与えたい。受け取りたい。
伝われ。
伝われ。
「たかのぶ……なんか……」
「どうした?」
「なんか、胸が苦しい」
「……なんで泣いてんの」
抱き締めてた腕を緩めて顔を見ると、ハルさんはいつの間にか泣いていた。しゃくり上げるわけでも、くしゃくしゃになるわけでもなく、ただ目尻から流れ落ちるその涙を、俺はとても綺麗だと思った。
それから、ハルさんから俺の背中に腕を回してくれる。
「心臓が痛い、孝信……お前何してくれてんの」
「ごめん」
溶けてひとつになろうとしてる。スライムみたいにどろどろになって、身体の境目が分からないくらいに混じり合ってしまいたいと思ってる。
優しく抱き締めるとハルさんの心臓の音が聞こえる。どくどくと脈打って、そらぁこんだけ打ち付けたら痛いかも。
可愛い。
可愛い。
誰にも渡したくない。
「孝信、もう、」
「ごめん、まだ、」
イきたくない。
「明日、帰ろうか」
「明日?」
「うん、明日。俺も帰ってすぐ店行ってもしんどいしさ」
ちょっと早いけど、明日、帰ろうか。
ハルさんは、ゆるゆると服を着込みながらそう言った。庭でひぐらしが叫んでいる。
四日。
一週間の予定だったのに、俺がハルさんを独り占めできる時間は、四日で終わる。
「俺な、お前が俺のこと好きなの、本当は分かってたんだよ。分かってたんだけど、分かった上で、知らない振りをしてた。また前みたいに嫌な思いするの、怖くてさ。お前の気持ちを利用していた。最低なんだ、俺は。自分のことばっかりだから。でもお前はいい子だからさ、こんな、俺みたいなの選んだら駄目だよ」
俺がなに選ぼうと俺の勝手だろ。
「ハルさん、」
「なに」
やめてくれよ。別れ話みたいじゃん。付き合ってるわけでもないのに。
こんな寂しそうな顔をさせたいわけじゃなかった。
「俺はあいつとは違うよ。いなくなったりしない」
「最初はみんなそう言うんだよ」
「嘘じゃないよ。そんな簡単にやめられるんなら、俺は今あんたとここに居ない」
「……、祥太郎さんも、待ってるしさ」
今その名前を出すんかい。
「俺なら、絶対、手放したりしないのに」
ハルさんが昼に買ってきてくれていた塩焼きそばは置きっぱなしですっかり忘れ去られていて、夜に思い出して二人で食べた。
最後の晩餐は、油っこくて生温かった。
五日目の朝は、二人で家中のごみをかき集めて纏めて、軽く掃除して、ハルさんが最終的にぞんざいに扱っていた浴衣をなんとなく畳んで元に戻して、自分たちの荷物纏めて、家の鍵閉めて、俺は二人分の荷物ガラガラ引いて、ハルさんは緑色の骸骨が入った紙袋だけぶらぶら提げて、一番初めに降り立ったあのバス停まで汗だくで歩いた。
長く揺られた人の少ないバスの中ではあんまり喋らなくて、代わりにどちらからともなくずっと手を繋いで、指を絡めていた。
二時間もすると窓から見える景色が段々見慣れたものに近づいてきて、最後は人が溢れ返った喧騒の中の最寄りのターミナルに着く。
荷物持って降りて、片方ハルさんに渡して、じゃあな、って優しく言われて、ハルさんは、それから連絡が取れなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
有能課長のあり得ない秘密
みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。
しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる