こいびとごっこ

夏緒

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14話

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「んぅ、は、ぁ……」
 ぐちゅ、と、畳の上で腰を動かす度に卑猥な音がする。気持ちいい。溶けそう。
 扇風機が首を振る度に汗で湿ったハルさんの髪が少しだけ揺れる。
 なんか昨日までと違う。今までずっと言わずにいたものを、口に出したら途端に自分の中で何かが変わった。
 気持ちいいだけじゃ足りない。繋がってるだけじゃ足りない。キスをしても、抱き締めても、まだ足りない気がする。
 優しくしたい。全部が欲しい。見えないものをもっと与えたい。受け取りたい。
 伝われ。
 伝われ。
「たかのぶ……なんか……」
「どうした?」
「なんか、胸が苦しい」
「……なんで泣いてんの」
 抱き締めてた腕を緩めて顔を見ると、ハルさんはいつの間にか泣いていた。しゃくり上げるわけでも、くしゃくしゃになるわけでもなく、ただ目尻から流れ落ちるその涙を、俺はとても綺麗だと思った。
 それから、ハルさんから俺の背中に腕を回してくれる。
「心臓が痛い、孝信……お前何してくれてんの」
「ごめん」
 溶けてひとつになろうとしてる。スライムみたいにどろどろになって、身体の境目が分からないくらいに混じり合ってしまいたいと思ってる。
 優しく抱き締めるとハルさんの心臓の音が聞こえる。どくどくと脈打って、そらぁこんだけ打ち付けたら痛いかも。
 可愛い。
 可愛い。
 誰にも渡したくない。
「孝信、もう、」
「ごめん、まだ、」
 イきたくない。



「明日、帰ろうか」
「明日?」
「うん、明日。俺も帰ってすぐ店行ってもしんどいしさ」
 ちょっと早いけど、明日、帰ろうか。
 ハルさんは、ゆるゆると服を着込みながらそう言った。庭でひぐらしが叫んでいる。
 四日。
 一週間の予定だったのに、俺がハルさんを独り占めできる時間は、四日で終わる。

「俺な、お前が俺のこと好きなの、本当は分かってたんだよ。分かってたんだけど、分かった上で、知らない振りをしてた。また前みたいに嫌な思いするの、怖くてさ。お前の気持ちを利用していた。最低なんだ、俺は。自分のことばっかりだから。でもお前はいい子だからさ、こんな、俺みたいなの選んだら駄目だよ」
 俺がなに選ぼうと俺の勝手だろ。
「ハルさん、」
「なに」
 やめてくれよ。別れ話みたいじゃん。付き合ってるわけでもないのに。
 こんな寂しそうな顔をさせたいわけじゃなかった。
「俺はあいつとは違うよ。いなくなったりしない」
「最初はみんなそう言うんだよ」
「嘘じゃないよ。そんな簡単にやめられるんなら、俺は今あんたとここに居ない」
「……、祥太郎さんも、待ってるしさ」
 今その名前を出すんかい。
「俺なら、絶対、手放したりしないのに」

 ハルさんが昼に買ってきてくれていた塩焼きそばは置きっぱなしですっかり忘れ去られていて、夜に思い出して二人で食べた。
 最後の晩餐は、油っこくて生温かった。



 五日目の朝は、二人で家中のごみをかき集めて纏めて、軽く掃除して、ハルさんが最終的にぞんざいに扱っていた浴衣をなんとなく畳んで元に戻して、自分たちの荷物纏めて、家の鍵閉めて、俺は二人分の荷物ガラガラ引いて、ハルさんは緑色の骸骨が入った紙袋だけぶらぶら提げて、一番初めに降り立ったあのバス停まで汗だくで歩いた。
 長く揺られた人の少ないバスの中ではあんまり喋らなくて、代わりにどちらからともなくずっと手を繋いで、指を絡めていた。

 二時間もすると窓から見える景色が段々見慣れたものに近づいてきて、最後は人が溢れ返った喧騒の中の最寄りのターミナルに着く。
 荷物持って降りて、片方ハルさんに渡して、じゃあな、って優しく言われて、ハルさんは、それから連絡が取れなくなった。
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