車輪の神 ジョン・ドゥ 〜愛とロマンは地球Bを救う?〜

Peppe

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第二章 キリン探し

かしまし娘

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地球B 15日目
AM 7時30分

 宿舎のベッドで目を覚ますと、コチコチベッドのおかげで全身が凝りに凝っていた。
ヨガの如く、色んな箇所を捻りながら関節をバキバキ鳴らしていると、髪を湿らせたテッサが部屋に入ってきた。
どうやら、早起きして朝風呂を嗜んできたようだ。

「おぉう……お、はよぉう。」
「……朝から気味の悪い。何をやっている?」
「誰かさんにベッドを奪われたからな、体が痛くてよぉ……腰を鳴らしたいんだけど、捻りが足りないみたいで……」


 上半身だけ真後ろを向く勢いで、思いっ切り腰を捻るが、あと少しのところで音が鳴らない。

「はっ、本当にだらしない男だ。……見せてみろ。」

 そう言って、腰を捻っているオレの肩をガッシリと掴んできた。
唐突に近づいた体の距離と、風呂上がりの極上のニオイに混乱して、年甲斐もなく胸が高鳴る。
刹那のときめきの後、これから自分の身に起きる事が、ラブロマンスの類ではないと想像がついて、胸の鼓動が更に加速した。

「テッサ! 待て待て、自力で鳴らせるから! 大丈夫だか……」
「ん、こっちか?」
「ダぁぁっめぇ……」

 ーー ポッキャン! ーー

 オレの上半身は真後ろを向き、ポップな大音量が部屋中に反響した。

「はぁお!?……うわぁあああ!!! 死ぬ死ぬ! ヤバい、超イタ……くないぞぉ?」

 明らかにキャパオーバーな腰の捻りに、長期の車椅子生活を覚悟したが、意外にも痛みは皆無だった。
むしろ、運転続きで悲鳴をあげていた腰の張りが消え、地球Bに来る前よりも腰の具合が爽快だ。

「おぉぉ、こんなに快調なの何年ぶりだぁ!?」
「……礼が聞こえんな。」
「あぁ、ありがとう! 腰の不快感が吹っ飛んだよー、疑ってごめん。今のすごいなー、戦闘民族直伝の治療法とかなの?」
「いや? 面白そうだから思い切り捻ってみただけだ。」
「はっ? バカなの? いや、バカ確定だわ、バカバカバーカ! 好奇心で怪力を振るうんじゃない! 一生歩けなくなってたかもしれんだろうが。礼と謝罪を返してくれ。」
「長くてうるさい。」
「こっのぉ、表に出……てもオレの負けだなぁ! ちくしょう!」
「無様だな。」
「むきぃいいいい! いいか、裁判制度さえあればな、お前なんかケチョンケチョンのボロ雑巾に……」
「すみませーーーん! あきらさんはいらっしゃいますかー?」

 ……誰だぁ?
人がプンプンしてる時に大声で呼びつけやがってぇ……ノックをしたまえよ!

「あれぇ? あきらさーん、まだ寝てますかー?」

 ……このひな鳥みたいなピーピーした声は……

「えっと、ミーシャさん……ですか?」
「あっ! その声はあきらさんですね。そうです、ミーシャです!」

 廊下から大声で呼ぶんじゃない! 無礼じゃないかキミぃ……
いや、野蛮なこの星じゃあノックなんて文化ある訳ないのか?
常識のギャップがいちいち面倒だ……

 ーー ガチャ ーー

「ミーシャさん、おはようございます。」
「おはようございます!」
「どうしたの?……あ、オレ達うるさかったかな?」
「いえいえ、あきらさんがこの集落の事をまだあまり知らないかと思いまして、朝食が食べれる食堂に案内しちゃおうかと。」

 ……そんな『私、気が効くんですよ顔』しちゃってるけどねぇ、そんな事で朝から大声で人の名前を叫びなさんなよ……

「食堂だと? 丁度いい、腹が減ったところだ。ミーシャ、そこは美味いのか?」
「ぴぃいぃ!! うわば……」
「ちぃぃぃいっ!」
「あ、はわぁあわわあばばばば……」

 ……ミーシャさん、バグって固まっちゃったじゃん……
なんだこいつら、コントみたいで愉快じゃないか……
ずっと見ててもいいんだけどなぁ、ミーシャさんがもう泣く寸前だ。

「テッサ! ステイだ、落ち着け。」
「私が何か悪い事をしたのか?」
「いや、今回はお前はそんなに悪くない。けどな、普通の人間の胆力じゃお前の威嚇には耐えられんのだよ。」
「……おい、殴ってもいいか?」
「こら! お前の力で女の子を殴っていい訳ないだろう。」
「違う、お前に決まってるだろう。」
「いつ決まったんだよ!? ダメだよ、お前のイカれた力で人間殴っていい訳ないだろう。」

 ーー ヒュッ ーー

 テッサの右手が、残像を残してどこかへ消えたかと思うと、オレの鳩尾の下で『ガポンっ』という奇妙な音が鳴った。
コンマ数秒で、痛みと吐き気の到来を確信した頃、オレの両ヒザは自然と床に着いていた。

「おほぉぉほぉほほぉぉ…………お、おい、……どうせ殴るならさー……ひゅー、ひゅひぃ……なーんで殴っていいか、とか聞いてきたのぉ……?」
「イカれただのと、無礼な口を聞いてくるからだろう。」
「そいつは……悪ぅござんしたねぇ……」
「はっ! あきらさぁぁん!」

 眼前で起きた暴行事件がよっぽどショッキングだったのか、フリーズしていたミーシャさんが再起動し、うずくまるオレのもとへ駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか!? うわぁ、痛そぉう……ぐす……ふぅっ…………きっと、私も……殴られるんだぁ……うぇえええええ……お母さぁーーーん!」
「ちぃっ!」
「ミ、ミーシャさん! 大丈夫だから落ち着こう! キミの行動はあいつへの刺激が強過ぎるみたいだ……オレも、もう大丈夫だからさ。」

 へたり込んで泣くミーシャさんの前で、オレは自分の顔の横に両手を広げて、精一杯おどけた顔をしてみせた。

「ほら、痛くないよー。ぜーんぜん痛くない。」
「ほう? 加減したとはいえ、私の一撃を効かんと言うか?……面白い、ならば次はもう少し力を……」
「スーパー効いてるよぉ! 負けイベのボスみたいなこと言ってねぇで、オレの発言の意図を察してくれぇ!」
「……やっぱり痛いんだぁ……ふぇえ……」
「……んなんなんだよお前らぁ……」

 なぜこんな目に遭わなければならないのかは一切理解出来ないが、事態を収集しない事にはオレの肉体と精神が崩壊してしまう。

 痛みに震える体に鞭を打ち、荒ぶる暴君とグズる幼児をなんとかなだめて、朝食を食べに食堂へ向かった。

 食堂に着いて、ミーシャさんからメニューの説明を受けると、かわいいパンやらカラフルなサラダやら甘~いスイーツやらがオススメのお店なんだそうだ。
いかにもミーシャミーシャしたラインナップを聞いた途端、テッサの眉間はビッキビキになり、ミーシャさんの涙袋が湿りはじめたので、急いで店員さんを呼んでお肉のサンドイッチをリクエストした。

 そんなこんなで、ミーシャさんは蜂蜜がビジャビジャにかかったパンケーキ風のスイーツを食べ、テッサはサンドイッチを3回おかわりし、どうにか二人のご機嫌は正常に戻ったようだ。

 寝起きから続いた荒波をようやく乗り越え、やっとホッとする事が出来たオレは、二人の機嫌にトドメを刺すべく、三人分の食事の代金をまとめて支払って、全力でニコニコしながらみんなで食堂を後にした。

「すみません、あきらさん。お誘いしたのに、私の分まで支払っていただいちゃって……」
「あぁ、気にしないでよ。美味しいお店を教えてくれたお礼って事で。」
「ミーシャ、本当に気にする必要はないぞ。どうせパンチョの金だ。」
「正当な取り引きで交換したオレのお金ですぅぅぅ! ……あんだけ食ってよくそんなこと言えるな。」
「ふふふ……それにしても、サラダだけでお腹いっぱいなんて、あきらさんは女の子みたいですね。」
「ふん、男の風上にもおけんな。」
「少食とかじゃないからね! 朝一でポンポンぶん殴られたら食欲なんか湧かないんだよぉ!」
「うふふふ……そういえば、お二人はこれから何をするんですか?」
「オレら? えーっと、今日はこの集落の周辺を探索するんだったよな?」
「ああ、そうだ。」
「探索ですか……もしかして、神の箱に乗るんですか!?」

 そう言ってオレを見上げる目はやたらに輝いていて、『ミーシャさんも乗りますか?』待ちなのが見え見えだ。
ろくな事にならないのが目に見えているので、どう話をスルーするか考えていると、おもむろにテッサが口を開いた。

「なんだ、ショルダーに興味があるのか?……まぁ、宿も世話になったしな、乗るか?」

 お前が言っちゃうんかい…… 
オレのかわいいショルダーだから、決めるのオレだから……
ってか、お前らそんな仲良かったか? 女の子マジックってヤツか?……

「いいんですかぁ!? ちょうど今日はお休みで、何をしようかと思ってたんです。是非ご一緒させてください。」
「あぁ、くれぐれも邪魔はするなよ。」
「はい!……うぅぅぅぅ、やっっったーーー!」

 ……そんな無邪気に両手上げジャンプしてるけどさぁ、一日中テッサと同じ空間にいて大丈夫?
キミが地雷踏み抜いたら、処理すんのはオレなんだよ……

「ミーシャさん、ひたすら走ってるだけだから、女の子にはあまり面白いもんじゃあないよ。いいの? 折角の休日なのに……」
「何を言ってるんだモドキ? 普段は散々ショルダーの魅力がどうだのとベラベラ長ったらしく喋ってるだろう。あの口調と口数は鬱陶しいが、ショルダーが良い物だということについてだけは同感できるというのに。」

 ……うちの子褒めてくれてありがとよ。
そうだよ、自慢のハニーなんだよ。
だがな、今じゃない……絶対に今じゃあないんだ。

「あきらさん、謙遜することはありませんよ。なんてったって会長を救った神の箱ですからね! テッサさんの言う通り、素晴らしい物なのでしょう。……探索のお手伝いもしますから、私も乗せてください!」

 ……くぅ、キラキラした目ぇしやがって。
今更断れんわなぁ……

「……わかったよ。一緒にショルダーで探索へ行こう。」
「本当ですか!? ありがとうございます! ふふふふ……商会のみんなに自慢しちゃおー!」
「おい、ミーシャ、助手席は私の物だからな。」

 ……すごいな、うちのショルダー大人気だな……おじさん誇らしいよ。
…….けどな、パンチョさん親子を助けたのも、ショルダーの持ち主も……オレなんだぜ……
キミら、もう少しだけでもさ、オレを敬ってくれてもいいんじゃないかい?……

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