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第二章 キリン探し
うわばみ乱舞 ③
しおりを挟む地球B 15日目
PM 19時10分
……『うわばみの由来』ってなんぞい? 大蛇に変身でもするのかよ……
お、んな事考えてたらテッサ動き出したじゃん……
テッサはぶちのめした男から奪い取った槍を肩に担ぎ、再びスタスタと夜盗の群れへ向かって歩みはじめた。
夜盗たちは委縮した様子で、テッサの歩む速度に合わせてゾロゾロと後退している。
「すっげぇなぁ、狼と羊の群れみたいになってますよ。」
「がはははは! うめぇこと言うじゃあねぇかぁ。テッサを敵に回した相手は大抵ああなっちまうのよぉ。」
「はぁ~、まぁ目の前であんな怪力見せられたらそうもなりますよね。」
「ちげぇねぇ、オレもアイツをいくさ場で見た時にゃあよ、初めてどうやっても勝ち方がわからねぇ相手に出会っちまったと思ったもんよぉ。」
「あ、二人は元々敵同士だったんですか?」
「傭兵同士だからなぁ、たまたまお互い違う陣営の味方についちまったんだよぉ。オレぁ暴れるアイツの姿を見てすぐにいくさ場からとんずらこいたさぁ、ガッハッハッハッハッハ……」
「なるほどぉ。」
「その後でな、もうアイツと敵対する戦はこりごりだからよぉ、手っ取り早くアイツと顔見知りになっちまおうって話しかけた訳よぉ……お、見てみなテッサが動くぜぇ。」
「え? 別にさっきと変わった様子はないですけど……」
戦う者にだけわかる呼吸のようなものでも見えているのだろうか?
オレの目には、歩くテッサとそれに合わせて後退する夜盗たちに何か変化があるようには見えない。
「ガドルさん、やっぱり……うぉお!!」
オレがガドルさんに話しかけようとした瞬間だった。
テッサはグッと加速し、一足飛びで夜盗たちの中に飛び込むと、槍の柄を振り回して瞬時に三人の男を昏倒させた。
さっきは適当な比喩のつもりで狼と羊なんて言ったが、夜盗の隙をついて攻撃に転じたテッサの動きは、テレビの動物番組で見たことのある、草食動物に飛び掛かる野生のハンターそのものだった。
そんな俊足の狩りっぷりを見せつけられた夜盗たちは逃げ切れないことを悟ったのか、野太い雄叫びを上げてテッサを囲むように武器を構える。
テッサは怯みもせずに突進を続け、穂先が折れてただの木の棒と化した得物で次々と男たちを蹴散らしていく。
敵を数人打ち倒し、木の棒が使い物にならなくなると倒した相手の剣を奪い、剣の腹で数人ぶっ叩くと今度は剣が折れ、また相手の武器を奪っては暴れ回ってを繰り返す。
無手になり、手頃な武器が見つからない時には、相手そのものを振り回してでもひたすらに相手を倒し続けるその様は、顔面の美麗さからは想像できない程に荒々しく、『武力』なんて言葉すら優しく感じさせる程の『圧倒的な暴力』を体現していた。
ゲームさながらに無双状態なテッサの動きに、興奮しながら『□□△』『□□□△』と脳内コマンドをタイミングよく入力しながら観戦していると、横にいたガドルさんがおもむろに口を開いた。
「かぁあぁ! まったく何度見てもたまんねぇなぁ……どうでいにいちゃん? あれがうわばみってぇもんよぉ。」
「あぁ、そうだった! 確かにとんでもなく凄いですけど、うわばみって名前と何が関係してるんですか?」
「アイツはなぁ、敵の全部を呑み込んじまうんだよぉ。」
「全部を呑み込む?」
「ああ。……まずな、アイツに出会っちまった時点でなぁ『この戦勝てるぜぇ』って自信が消えちまうんだぁ。」
「……自信が呑まれるって事ですか?」
「そういうこったなぁ。それにアイツの戦いっぷりを見てみろぉ、メチャクチャだろう?」
「ハッチャメチャのしっちゃかめっちゃかですね……」
「でぃははははは……そうなんだよぉ。いいかいにいちゃん、オレ達みてぇに戦うしか能のねぇ人間ってのはよぉ、自分の得物を扱う技術にゃあそれなりの誇りってもんを持ってんだぁ。」
そう言って、ガドルさんは腰から下げたレイピアを愛おしげにポンポンと叩く。
「まぁ、きっとそういうものなんでしょうね。」
「だがなぁ、テッサは技術もクソもなくただバカ力で持ってるもん振り回してるだけでな、どんな達人が武器を扱うよりも全然強えぇんだよぉ……こいつぁたまらんぜぇ。」
「はぁ……」
「戦への自信とよぉ、自分の武器への誇りやらなんやらを呑まれちまってなぁ、最後には自分そのものがアイツに喰われちまう訳だぁ……そうやって何人もの『いくさ人』が呑まれちまってるのを色んなヤツが見てきたんだろうなぁ、いつの間にやら『うわばみ』なんて物騒なあだ名がついちまったのよぉ。」
……なるほど、アイツの暴れっぷりに対する『いくさ人からの畏怖の積み重ね』が二つ名になった訳ね。
はぁー、禍々しくてメチャクチャカッコイイじゃないのさ……
「説明されると確かにアイツにピッタリな二つ名ですね。……そしてその名でアイツを呼んだ人間がまた呑み込まれる、と……」
「だっははははははは……アイツをよく知る傭兵たちの間じゃあなぁ、無事に戦から生きて帰りたかったら、戦場で『うわばみ』と口走っちゃいけねぇってぇ、飲み屋で大盛り上がりなんだぜぇ。」
「……実在する都市伝説みたいなもんだな。」
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