祀君の嫁入り

iroha

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 センから問いかけても少しの間、瑞鸞は考えていた。それから、彼の異母兄に似た自嘲の笑みを浮かべて見せ、口を開いた。

「私は兄上の玉座を守るために、王になっただけだ。王には向いていないんだよ。学院に引きこもって、研究だけをしていたかった。兄上のような軍事の才もないし、堂々と玉座に居座ってやろうという気概もない。優秀な臣たちのおかげで、何とかまわっているだけ」
「……本当に王に向いていないのなら、もっと早く禮の国は荒れていくと思います。玉座に在る、ということだけで、すごいことだと思います。重圧に耐え、毎日問題もあるでしょう。優秀な臣であればあるほど、自分の主の力量を正確に測ります。仕えるに足りないと見做せば去ってしまうのではないでしょうか……偉そうですみません」
 堂々と意見を述べたセンだったが、最後の最後に緊張していた翼が勝手に動いた。驚いた表情でセンを見ていた瑞鸞だったが、センが何とか言い終えると、ふっと苦笑を浮かべた。

「まずいな。センは兄上の許嫁なのに、そういう言葉を私にも与えてくれるのか。だめだよ、もっと頑張ってみようかなという気持ちになってしまう。兄上がやる気になった時に、私が王位を譲りたくなくなったら大変だよ」
「驪竜さまのお考えは分かりませんが、その時にお二人で話し合うのではだめでしょうか?」
 そうしようかな、と呟いてから立ち上がった瑞鸞は、センに近づこうとしたが、翼に包まったままだったセンは、無意識に更に壁へとくっついた。それを見て苦笑した瑞鸞は女官を呼ぶ。
 駆け付けた女官たちは、翼に包まっているセンに驚いた様子だったが、何も言わず手早くセンの衣装を直してくれた。翼飛用の衣装は双翼がある関係で一人で着るには難しい造りになっている。乱れた服装のまま紫麟殿に戻ることにならずに済んだのは良かったが、平然を頑張って装っても、瑞鸞の近くに行くのは怖く感じた。
 女官たちに勧められて、最初に座っていた長椅子へとまた座り込む。女官たちはおとなしくしているセンの乱れた髪を整え始め、一人だけ瑞鸞に何かを頼まれた者だけが退出していった。

「春に、翼飛に確認を出すとは言ったけれど――あれはね、しないつもりだ。そんなことをしたら、翼飛たちが『応』である君をもう地上に出したりはしないだろうからね」
 そんなセンの感情を読み取ってか、瑞鸞はなるべく穏やかな口調でそう言い重ねる。

「……もし、おれが翼飛に戻れと言われたら、一緒に付いてきて説明してくださると、驪竜さまが言ってくださいました。元々、『応』という性が重宝されているだけで、おれの人格だとか、そういうものが必要とされているわけではないので。おれがしてきたことも、実は意味がないことだったのかもしれません」
 少し俯き加減に話すセンを、瑞鸞はじっと見ていた。話し終えると、自身がいつも座っている椅子へと腰かけた。

「人にはやる気の出る言葉をくれるのに、自分自身を傷つけることを言うのは、どうなのかな。翼飛で必要とされていないというのなら、この禮にこそセンの居場所があるということじゃないか。翼飛にセンを戻せと言われたら、私も兄上と一緒に翼飛に行こう。翼飛の喜ぶものをたくさん持って行って、正式にセンを禮に迎え入れたいと平身低頭、希おう」
 決めた、と瑞鸞が言い放ったところで、従者が扉を鳴らし、驪竜が来たことを告げる。「灰羅を呼んだはずなのだけど……」とぼそっと呟いてから瑞鸞が返事をすると、部屋の外にいた従者が止める間もなく部屋の扉が開かれた。


「陛下! 今さら、センに何の用事があるのだ?!」
 勢いよく部屋に入ってきた驪竜を見て、センは長椅子に座ったままビクリと全身を震わせた。
「何の用事も何も、センはそもそも私に輿入れしてきたという体だ。ちゃんと話し合ったこともなかったなと。なるほど、翼飛の中で選ばれた理由が分かった。顔は可愛らしいのに、聡明だ。しかも、私の欲しい言葉までくれる……手放すのが、惜しくなりそうだ」
 王としての顔を出してきた瑞鸞に、驪竜は無言のままだ。センが困って驪竜と瑞鸞を交互に見ていると、やがて驪竜が嘆息をついて長椅子に近づいた。長椅子の下に落ちていたセンの羽根に気づき、それを拾い上げてからセン自身も抱え上げる。

「この者は陛下の寵に入ること、能(あた)わず。既に、私と情を交わしましたので」
「えっ」
 瑞鸞が口を開くよりも先に、驪竜に抱え上げられていたセンが驚きの声を上げた。先日、驪竜と口づけを交わしたことも情を交わしたことになるのだろうか、と一気にセンの顔が赤くなった。瑞鸞は目を丸くして、センの顔が赤くなるのを見やっていたが、「あー、はいはい」と呆れた風に呟いた。

「陛下と言えど、私を通じずセンを呼び出すのは止めて頂きたい……センが羽根を落とすほど嫌がることも、二度と」
「言っておくけど、センに手は出していないよ。怖がらせてしまったけれど。だが、私はいつでもセンを後宮に迎え入れる気はあるよ。それを、今の驪竜に止める権限はない。せめて、私と同格である王族であるなら話は変わるが……センも、よろしくね」
 感情的に言い返した驪竜に、瑞鸞も言い返す。センは今すぐ翼に包まりたい気分だったが、かろうじて出来たのは驪竜の肩あたりに顔を埋めることだけだった。
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