白陽の残骸

iroha

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14*

「……あ……っ、………ん! ……こう、ぎょく」

 熱く滾った楔を内奥へと進めていくごとに、最愛の少年が息を早めていく。それを口づけて落ち着かせては、また突き進める。何度となくその身体を開いているのに、決して同性を受け入れるためにはできていないそこは、紅玉を阻もうとする。
 それでも必死に受け入れようと、遠慮がちに触れてくるその様が、愛しくて仕方がない。普段、どこまでも真面目で、少し生意気だが利発な少年が、幼い頃に戻ったように、彼が己につけてくれた名前で呼ぶ。時折こちらを必死に見上げてくる、翡翠色の瞳を涙で滲ませながら。

 世界のすべてが敵になり、名を奪われ、自由を失った。
 どうすればいいのか考えるのにも飽きた頃、小さな子どもに出会った。『帰りたい』と泣きじゃくっていた子どもは、やがてこちらへと真っ直ぐな視線をぶつけてきた。
 泣いていた子どもが、泣き止んで。それから緊張した様子で、声をかけてきて。言葉を投げ返すと、子どもはまた表情を変えていった。畏怖の対象でしかなかった彼が初めて味わったものを、当初の彼はどう名づければよいのかすら分からなかったが、その子どもの中にある本質は、『自分のもの』だとすぐに気づいた。

 世界の色は黒か白、心にあるのは快か不快のどちらかでしかなかった彼の世界が、その少年から与えられる感情によって色づけられていき、空虚だった彼の内にもやがて感情が生まれていった。


「ああっ……だ、め……や……ぁ……!」
 正常位で組み敷いたまま深く己の雄で穿つと、耐え切れずに発された翡翠の高い声が心地よく紅玉の耳を打つ。縋りついて来る腕に応えて強く抱き締め返しながら、更に少年の嬌声を引き出すために抜き挿しの角度を、時には速さを変えて翻弄していく。
 やがて、既に紅玉が放ったものでしとどに濡れている翡翠の最奥へと、再び熱いものが迸るのと同時に、愛しい少年も果てるのを見つめる。かつて"混沌"と畏怖されるだけだった存在は、彼がかつて浮かべたことのないほどに優しい笑みを、無意識に浮かべるのだった。

***

「……どんな顔で帰ればいいんだろう」

 紅玉どころか要や王まで駆け付けて来たということの重大さに、ようやく落ち着いてきた翡翠は、頭を抱えた。それに対して、翡翠の身体を散々翻弄した男は、まだ起き上がることもできない翡翠の髪をいじっているという暢気さだ。翡翠は職務を放棄して逃げ出そうとした自分を責め始めてもいた。

「ふつうの顔して城に戻ればいい。石英からお遣いとやらも頼まれていたんだ、仕事だよ仕事。人を殺したわけでもなし、今までずっと働き詰めだったんだ。もっと休んでもいいくらいだな。第一、儀式とか言っても、あいつらがただヤリたいから場所変えてるだけみたいなもんだったぞ。いい加減、俺も城に戻る」
 馬鹿馬鹿しい、と大きなあくびをした紅玉を見返しながら、翡翠は慌てて身体を起こした。
「今の言い方はどうかと思うけど。そうだ、紅玉って本当は陛下と同じ神獣だったのか?! どうしよう。これからは紅玉様って呼んだ方がいい?」
「……は? どうして俺があの獅子野郎と同じになるんだ。それに、俺は『紅玉』だ。今のままでいい」
 冷静さを取り戻してきた翡翠は、目の前に現れたうつくしい獣のことを思い出した。双翼を持つ大きな白虎の姿をした獣は、翡翠の前で獣から翡翠の良く知る男のかたちへと姿を変えたのだ。しかし。紅玉はといえば、慌てる翡翠の隣で大きな欠伸をすると、少し嫌そうな表情をしながら今まで通りで良いと言った。そうなのか、と紅玉の言うまま素直に受け止めた翡翠は、寝台の上でぺたりと座り込んだまま、ようやく安堵の笑みを浮かべた。

「それもそうか。あちこちに神獣がいるわけないもんな。でも、さっきの紅玉も、俺は好きだなあ。誰もいないところだったら、またあの姿になったりできる?」
「あの姿が好き? ……本当に翡翠は、変わり者だな」
 紅玉が、驚いたのか目を瞬かせた。変なことを言ったつもりはない翡翠が首を傾げると、男は小さく笑った。それから穏やかな風を起こして先ほどの白い獣が現れる。起き上がっていたのに、獣の力が強くて、翡翠はまた寝台の上に押し倒されてしまった。人の姿をしている時なら、この体勢から散々口づけをしてきたりするのに、獣は『どうだ』とばかりに頭をすり寄せてくる。縞模様の入った白い毛並みを撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。こうやって戯れていると、大きな白い猫のようだ。

 要や王が戻ってきたら話をして、謝って――色々としなければならないのに。彼らに申し訳ないほど、翡翠は満ち足りた気持ちでまどろみ始める。もうずっと忘れていた温かな想いを抱き込んだまま、ゆっくりと眠りの海へと沈んだ。
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