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番外編:虹色の魚が見た夢
「待って」
主からの声かけに、先を行く翡翠は足を止めた。
「翡翠、そんな薄着で大丈夫? もっと着た方が……」
寒そうに震えている主ーー要に慌てて駆け寄ると、近くにいた護衛にもっと上衣を、と依頼する。
王の巡幸に要も付いて行くことになり、翡翠もくっついてきた。要は遠慮をしがちなので、我慢して辛いことがあってはいけない。
「要こそ、何か不安なことはありませんか?」
「大丈夫。……でも、神子らしく振る舞えるかは心配かな」
ようやく心情を吐露してくれた主に、翡翠は笑いかけた。
「普段の要のままで十二分に立派ですよ。それに、謁見なども顔を出す必要はないので」
「翡翠は僕のこと、買い被りすぎだよね……でも、ちょっと気が楽になった」
ホッとした様子を見せた要に翡翠が頷いていると「明海の街は、きっと要も気に入るだろう」と王も微笑を浮かべながら続けた。
明海の街は王都から少し北に行ってすぐのところにある。道は整えられていて海にも喩えられる大きな湖があり、翡翠も明海に来るのは初めてだ。
北に位置するだけあって、王都よりも肌寒いが湖の手前に広がる小さな街は活気に満ちていた。
「ここの湖には虹色の鱗を持つ魚もいるそうですよ」
侍従長の石英に教えてもらった知識を要に話しているうちに、今日の宿へと到着する。湖を一望できる場所にあり、魚を中心とした美味しい食事に要が寛いでいるのを見守り、翡翠も安堵した。
王と一緒にいる主に気遣い、護衛たちに二人を託し翡翠は自分に割り当てられている部屋へと戻ることにした。その途中。ぬっと現れたものに腕を引っ張られ、声を上げかけたのを手で抑えられる。
「静かに。抜け出すぞ」
そう声をかけてきたのは、王の護衛として付いてきた紅玉だった。
「紅玉は仕事だろう?!」
「あれらに何かしようとする方が無理だな。問題ない」
いいや、と言い返そうとした翡翠だったが、風を受けて怯んだうちに、現れた白い獣の背にひょいと乗せられてしまった。半月に照らされる夜に飛び込む白い獣の背に、後はしがみつくしかない。
羽ばたきも静かに湖畔へと降り立った獣ーー紅玉は人の姿に戻ると、翡翠と手を繋ぎ、無言で歩き始めた。
「紅玉っ、見て! いま、すごい綺麗な……」
「虹魚だ。あれらは夜にしか見られない」
澄んだ湖の水面に、時おりキラキラと美しい鱗を持つ魚が跳ねるのが見えた。思わず身を乗り出した翡翠だったが、つんと来た寒い空気にふるりと身を震わせた。
「あ。あったかい……」
無言で再び獣姿になった紅玉に埋もれるように抱きつくと、紅玉自身の温かさに寒さが和らぐ。すり、と頭を寄せられ、それがくすぐったくて翡翠は笑ってしまった。
獣は何も言わない。しかし、自分に向けられる優しさに、普段はつい文句を言いがちな翡翠も素直になれた。
「ありがとう……紅玉と一緒に見られて、嬉しかった」
当然だな、と言いたそうな、得意げな眼差しで獣が長い虎尾を振るうのでーー翡翠はまた笑って、白い獣の額にそっと口付けていた。
Fin.
主からの声かけに、先を行く翡翠は足を止めた。
「翡翠、そんな薄着で大丈夫? もっと着た方が……」
寒そうに震えている主ーー要に慌てて駆け寄ると、近くにいた護衛にもっと上衣を、と依頼する。
王の巡幸に要も付いて行くことになり、翡翠もくっついてきた。要は遠慮をしがちなので、我慢して辛いことがあってはいけない。
「要こそ、何か不安なことはありませんか?」
「大丈夫。……でも、神子らしく振る舞えるかは心配かな」
ようやく心情を吐露してくれた主に、翡翠は笑いかけた。
「普段の要のままで十二分に立派ですよ。それに、謁見なども顔を出す必要はないので」
「翡翠は僕のこと、買い被りすぎだよね……でも、ちょっと気が楽になった」
ホッとした様子を見せた要に翡翠が頷いていると「明海の街は、きっと要も気に入るだろう」と王も微笑を浮かべながら続けた。
明海の街は王都から少し北に行ってすぐのところにある。道は整えられていて海にも喩えられる大きな湖があり、翡翠も明海に来るのは初めてだ。
北に位置するだけあって、王都よりも肌寒いが湖の手前に広がる小さな街は活気に満ちていた。
「ここの湖には虹色の鱗を持つ魚もいるそうですよ」
侍従長の石英に教えてもらった知識を要に話しているうちに、今日の宿へと到着する。湖を一望できる場所にあり、魚を中心とした美味しい食事に要が寛いでいるのを見守り、翡翠も安堵した。
王と一緒にいる主に気遣い、護衛たちに二人を託し翡翠は自分に割り当てられている部屋へと戻ることにした。その途中。ぬっと現れたものに腕を引っ張られ、声を上げかけたのを手で抑えられる。
「静かに。抜け出すぞ」
そう声をかけてきたのは、王の護衛として付いてきた紅玉だった。
「紅玉は仕事だろう?!」
「あれらに何かしようとする方が無理だな。問題ない」
いいや、と言い返そうとした翡翠だったが、風を受けて怯んだうちに、現れた白い獣の背にひょいと乗せられてしまった。半月に照らされる夜に飛び込む白い獣の背に、後はしがみつくしかない。
羽ばたきも静かに湖畔へと降り立った獣ーー紅玉は人の姿に戻ると、翡翠と手を繋ぎ、無言で歩き始めた。
「紅玉っ、見て! いま、すごい綺麗な……」
「虹魚だ。あれらは夜にしか見られない」
澄んだ湖の水面に、時おりキラキラと美しい鱗を持つ魚が跳ねるのが見えた。思わず身を乗り出した翡翠だったが、つんと来た寒い空気にふるりと身を震わせた。
「あ。あったかい……」
無言で再び獣姿になった紅玉に埋もれるように抱きつくと、紅玉自身の温かさに寒さが和らぐ。すり、と頭を寄せられ、それがくすぐったくて翡翠は笑ってしまった。
獣は何も言わない。しかし、自分に向けられる優しさに、普段はつい文句を言いがちな翡翠も素直になれた。
「ありがとう……紅玉と一緒に見られて、嬉しかった」
当然だな、と言いたそうな、得意げな眼差しで獣が長い虎尾を振るうのでーー翡翠はまた笑って、白い獣の額にそっと口付けていた。
Fin.
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