77 / 110
第四章 三種の神器争奪編
第77話 強襲③
しおりを挟む
「もっと熱い戦いを期待したんだがな……終わりだ」
イグナスが炎を纏いながら、じりじりと榊原に向かってくる。
一方、ミィシャとヴォルクも、それぞれ本気の気配を放ち始めていた。
援護の光が、遮られた。
テミスの三人――イグナス、ミィシャ、ヴォルク。
それぞれが、完全に“殺しにかかる”気配を纏いながら、確実に距離を詰めてくる。
♦
俺はイグナスを睨みつけながら静かに話した。
「六識翔影(ろくしきしょうえい)は剣を操るスキルじゃない、触れたものを自在に操るスキルだ」
イグナスは歩みを止める。
「……それが?」
「先の戦いに加え、お前たちとの戦闘で随分と転げまわったよ」
「……!?」
「隼人!雨宮!」
俺の叫びと共に、足元から風のような衝撃が走った。
「――六識翔影《砂礫舞陣(されきぶじん)》」
次の瞬間、地面に散らばっていた無数の砂利が一斉に舞い上がり、烈風と共に宙を奔った。
「っ……ぐぅっ……!」
「目が……ッ!」
風が唸りを上げ、砂利が弾丸のように宙を駆けた。
肌を刺す粒子が目を焼き、喉に入り、視界を暴力的に奪っていく。
「走れ!!」
俺の怒声に、葛西と雨宮は本能のままに駆け出した。
足をもつれさせながらも、二人は岩陰から山肌へと飛び出す。
榊原もすぐに続いた。
一方その頃――
「クソッ、小賢しいッ……!」
イグナスが砂利を払いのけるように腕を振るい、激しく咳き込んだ。
ミィシャは目元を押さえながら、ヴォルクは耳を震わせ威嚇の唸りをあげている。
「逃がすかよ――!」
イグナスが叫び、砂礫の中から飛び出しかけた、そのときだった。
「ッ……!」
突如として彼の背中に、鋭い金属の斬撃が突き刺さる。
それは、地面に転がっていた榊原のブレードだった。
「……ぐっ……! まだ動いたのか……!」
イグナスが片膝をつき、血を流す。
あとの二人も、同様に後方からの攻撃を受け、小さく呻いた。
榊原が、この場の“全て”を掌握していたことに、三人はようやく気づく。
ミィシャとヴォルクは追撃に向かおうと3人が消えた方角を睨みつける。
「……追撃は不要だ。目的は達成した」
ミィシャとヴォルクもそれに従い、静かに身を引いた。
イグナスの視線の先に淡く輝く、月光のような光を宿した勾玉が落ちていた。
先の混戦の中、葛西の腰から滑り落ちていたのだ。
「……あら。面白いもの、残してくれたわね」
ミィシャがゆっくりとそれを拾い上げ、不敵に笑った。
「勝負は次に預けるぜ」
イグナスが忌々しげに唸った。
風が止み、砂礫が地に落ちるころには、三人の姿はすでに見えなくなっていた。
戦場には、静寂と――忌まわしき爪痕だけが残された。
♦
山肌を駆ける足音が、荒い息遣いに混じって響いていた。
草を掻き分け、岩を飛び越え、三人は懸命に走る。
背後に追撃の気配はない。だが、気は抜けなかった。
「……はぁ、はぁ……! くそ……! 完全に、やられたな……」
肩で息をしながら、苛立ち混じりに吐き捨てた。
「大丈夫か翼。無理すんな、傷は?」
「大丈夫、大丈夫……そこまで傷は深くないよ……ふぅ、逃げ足だけは鍛えてて良かった……」
そう笑う翼の声は、どこか震えていた。
「葛西君こそ大丈夫かい?」
その問いに、俺は息をつきながら答えた。
「……俺もなあ……骨、何本かいってると思う。ま、死にはせん大丈夫や」
その後ろで、榊原さんが冷静な口調で言う。
「……今回は完全に分が悪かった。全員、限界が近かった」
「……榊原さんすいません……ヘマしてまいました」
その言葉に、全員が黙り込んだ。
榊原さんが振り返ることなく呟いた。
「悔やんでも仕方がない。生きて帰れた、それが全てだ」
彼の言葉は、静かで、芯があった。
「回収されてしまったのは痛いが、あの場で粘れば三人とも命を落としていた。撤退は最善だったと判断している」
「……えぇ。分かってます、頭じゃ。でも……」
俺は悔しげに天を仰ぐ。
「このままじゃ終われへん。あいつら、絶対にどっかで倒す」
「……うん。僕も……。次こそは、ちゃんと勝つ」
翼の目にも、ゆっくりと闘志が戻っていく。
「なら、まずは体を治すことだ。戦うのは、それからでいい」
榊原さんが前を向き直り、森の奥へと足を進める。
「次に同じことは通じない。向こうも“警戒”を始める。だからこそ、俺たちも進化しなきゃならない」
「――それに、あいつらまだ本気出してへん」
あいつらは狩りを楽しんでいた。だからこそ逃げられたんやと思う。
葛西と雨宮も、その背中を追うように駆け出した。
まだ、終わってなんかいない。
俺たちは生き延びた――次は、必ず勝つ。
♦
ノウシス日本支部
ライブラから警報音が鳴り響く。
内心こんな時に来るのかと辟易した気分だ。
暫くすると駆けてくる足音が聞こえる。
「先生!」
飛び込んでくる影が二人。
「俺たちが行ってきます、先生はこちらで待機しててください!」
それだけ言うと二人は飛び出していった。
みんな出払ってしまい、私とルチアだけになった。
いつもは大勢でにぎわっているだけに心細く感じる。
誰かと同行すれば良かったのではないかと考えがよぎる。
「先生……みんな帰って来ますよね?」
不安そうな表情で私を見つめている。
「ええ……帰ってくるわ強い子たちだもの……
それに何があっても私が死なせはしないわ」
「そうだ……美味しい紅茶を見つけたの、一緒に飲んで皆の帰りを待ちましょう。
お土産に買ったお菓子も開けちゃおうか?」
暗く沈んでいたルチアの表情が明るくなる。
「じつは目を付けてたお菓子があったんです!」
(みんな無事で帰るのよ)
心の中で願うのみだった。
イグナスが炎を纏いながら、じりじりと榊原に向かってくる。
一方、ミィシャとヴォルクも、それぞれ本気の気配を放ち始めていた。
援護の光が、遮られた。
テミスの三人――イグナス、ミィシャ、ヴォルク。
それぞれが、完全に“殺しにかかる”気配を纏いながら、確実に距離を詰めてくる。
♦
俺はイグナスを睨みつけながら静かに話した。
「六識翔影(ろくしきしょうえい)は剣を操るスキルじゃない、触れたものを自在に操るスキルだ」
イグナスは歩みを止める。
「……それが?」
「先の戦いに加え、お前たちとの戦闘で随分と転げまわったよ」
「……!?」
「隼人!雨宮!」
俺の叫びと共に、足元から風のような衝撃が走った。
「――六識翔影《砂礫舞陣(されきぶじん)》」
次の瞬間、地面に散らばっていた無数の砂利が一斉に舞い上がり、烈風と共に宙を奔った。
「っ……ぐぅっ……!」
「目が……ッ!」
風が唸りを上げ、砂利が弾丸のように宙を駆けた。
肌を刺す粒子が目を焼き、喉に入り、視界を暴力的に奪っていく。
「走れ!!」
俺の怒声に、葛西と雨宮は本能のままに駆け出した。
足をもつれさせながらも、二人は岩陰から山肌へと飛び出す。
榊原もすぐに続いた。
一方その頃――
「クソッ、小賢しいッ……!」
イグナスが砂利を払いのけるように腕を振るい、激しく咳き込んだ。
ミィシャは目元を押さえながら、ヴォルクは耳を震わせ威嚇の唸りをあげている。
「逃がすかよ――!」
イグナスが叫び、砂礫の中から飛び出しかけた、そのときだった。
「ッ……!」
突如として彼の背中に、鋭い金属の斬撃が突き刺さる。
それは、地面に転がっていた榊原のブレードだった。
「……ぐっ……! まだ動いたのか……!」
イグナスが片膝をつき、血を流す。
あとの二人も、同様に後方からの攻撃を受け、小さく呻いた。
榊原が、この場の“全て”を掌握していたことに、三人はようやく気づく。
ミィシャとヴォルクは追撃に向かおうと3人が消えた方角を睨みつける。
「……追撃は不要だ。目的は達成した」
ミィシャとヴォルクもそれに従い、静かに身を引いた。
イグナスの視線の先に淡く輝く、月光のような光を宿した勾玉が落ちていた。
先の混戦の中、葛西の腰から滑り落ちていたのだ。
「……あら。面白いもの、残してくれたわね」
ミィシャがゆっくりとそれを拾い上げ、不敵に笑った。
「勝負は次に預けるぜ」
イグナスが忌々しげに唸った。
風が止み、砂礫が地に落ちるころには、三人の姿はすでに見えなくなっていた。
戦場には、静寂と――忌まわしき爪痕だけが残された。
♦
山肌を駆ける足音が、荒い息遣いに混じって響いていた。
草を掻き分け、岩を飛び越え、三人は懸命に走る。
背後に追撃の気配はない。だが、気は抜けなかった。
「……はぁ、はぁ……! くそ……! 完全に、やられたな……」
肩で息をしながら、苛立ち混じりに吐き捨てた。
「大丈夫か翼。無理すんな、傷は?」
「大丈夫、大丈夫……そこまで傷は深くないよ……ふぅ、逃げ足だけは鍛えてて良かった……」
そう笑う翼の声は、どこか震えていた。
「葛西君こそ大丈夫かい?」
その問いに、俺は息をつきながら答えた。
「……俺もなあ……骨、何本かいってると思う。ま、死にはせん大丈夫や」
その後ろで、榊原さんが冷静な口調で言う。
「……今回は完全に分が悪かった。全員、限界が近かった」
「……榊原さんすいません……ヘマしてまいました」
その言葉に、全員が黙り込んだ。
榊原さんが振り返ることなく呟いた。
「悔やんでも仕方がない。生きて帰れた、それが全てだ」
彼の言葉は、静かで、芯があった。
「回収されてしまったのは痛いが、あの場で粘れば三人とも命を落としていた。撤退は最善だったと判断している」
「……えぇ。分かってます、頭じゃ。でも……」
俺は悔しげに天を仰ぐ。
「このままじゃ終われへん。あいつら、絶対にどっかで倒す」
「……うん。僕も……。次こそは、ちゃんと勝つ」
翼の目にも、ゆっくりと闘志が戻っていく。
「なら、まずは体を治すことだ。戦うのは、それからでいい」
榊原さんが前を向き直り、森の奥へと足を進める。
「次に同じことは通じない。向こうも“警戒”を始める。だからこそ、俺たちも進化しなきゃならない」
「――それに、あいつらまだ本気出してへん」
あいつらは狩りを楽しんでいた。だからこそ逃げられたんやと思う。
葛西と雨宮も、その背中を追うように駆け出した。
まだ、終わってなんかいない。
俺たちは生き延びた――次は、必ず勝つ。
♦
ノウシス日本支部
ライブラから警報音が鳴り響く。
内心こんな時に来るのかと辟易した気分だ。
暫くすると駆けてくる足音が聞こえる。
「先生!」
飛び込んでくる影が二人。
「俺たちが行ってきます、先生はこちらで待機しててください!」
それだけ言うと二人は飛び出していった。
みんな出払ってしまい、私とルチアだけになった。
いつもは大勢でにぎわっているだけに心細く感じる。
誰かと同行すれば良かったのではないかと考えがよぎる。
「先生……みんな帰って来ますよね?」
不安そうな表情で私を見つめている。
「ええ……帰ってくるわ強い子たちだもの……
それに何があっても私が死なせはしないわ」
「そうだ……美味しい紅茶を見つけたの、一緒に飲んで皆の帰りを待ちましょう。
お土産に買ったお菓子も開けちゃおうか?」
暗く沈んでいたルチアの表情が明るくなる。
「じつは目を付けてたお菓子があったんです!」
(みんな無事で帰るのよ)
心の中で願うのみだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
