空白に舟を浮かべろ!

SB亭孟谷

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第3話 モノクロの山登

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 ……あれ、生きている……?
 酸素はとっくに底を突いたと思うけど……苦しい感じがしない。
 それどころか……呼吸をしている感じがしない。

 僕は死んだんだろうか……?
 気がつけば宇宙服は脱げており、強い光に包まれている。
 辺りは相変わらず真っ白だ。

 目を覚ました瞬間から感じている違和感に、今気がついた。
 僕自身を見ることができない。
 首を下に傾けても、うつるのは真っ白な光だけだ。
 ……そもそも宇宙空間と同じで上下の概念も無いのかもしれないが。
 
 もう一つ、目を開けていたら、僕の鼻の先や、上唇が見えるはずなのにそれもない。
 決定的なのが、瞬きをする必要もないのだ。というより、できない。
 こんなに眩しい光の中にいるのに、体が目を守ろうとしない。
 
 僕は、死んで光になったのかもしれない……。

 哀れ人類を救うために宇宙まで赴いた男の末路がこれか。



 * * * * *
 
 こんにちは。

 こんにちはー。

 こーんにーちわーー。

 いつまで経っても成仏しないし、さすがに時間を持て余している。

 だから試していることが、この白い空間に黒い文字を浮かべることだ。

 ここでは、僕が心で何かを思ったら、それがそのまま黒い文字になって空間に現れるらしい。

 ここは一つ、暇つぶしに文字で違う世界でも想像してみよう。

 ……お怪我はありませんか、お嬢さん。
 ああ! あなたはライトさん! あなたは命の恩人よ!
 優しくて、強くて、ユーモアがあって、ずっと一緒にいたいわ!
 愛して……グヘヘヘヘヘ! かかったなライトー。こんな変装も見破れないとはな!
 食ってやるぞー!!

 あははは。これは面白い。
 さらに続けてみよう。

 ぶっ通しで数時間続けてみよう。
 たのしいことならなんでもやろう。 



 いつまでここに居ないといけないんだろう?
 とにかく今は考えるのをやめよう。



 ルールが必要かな?
 ノールールだと飽きてくるだろうか。



 ご覧の通り僕は暇をしている。
 まだ、こんな言葉を空間に浮かべている。
 つまり、暇してるわけだ。

 よし、もっともっと、空間を文字で埋めよう。
 めざせ、真っ黒な宇宙空間! 文字で埋め尽くしてやる! 

 ……三十分経ってしまった。なんてことだ。もう飽きてしまった。

 だけど気がついた事がある。つまり、この世界は、
『空白』か『文字』しかない。
 白い空白の中に、文字があるか、ないかの世界。つまり『0』と『1』だけの世界だ。
 つまりここでも、二進法は存在するのかもしれない。

 文字はその組み合わせで、あるべき姿、理想的な姿、すなわち……

『TO BE』になる。
 
 それともう一つ気がついたのは、確かに手足はもうないけれど、『移動』できるということだ。
 例えば……


 あ、



 この『あ』、を基点として、あに近づくこともできれば『あ』から離れることもできる。

 真っ白な空間が果てしなく広がっているだけの世界だが、実は広大な世界なのかもしれ……

  壁
 →壁   ドン…… 
  壁

 
 ん? ……『壁』に当たってしまったのか『あ』がこれ以上小さくならない。
 ここが終着地点なのかもしれない。
 慌てて、『あ』の反対方向に進んでみる。……反対側はもっと狭かった!
 ここはそんなに広くないのか!?

 

 ……
 ……

 全方向に進んでみた。
 なんてことだ。六畳もない空間だ。
 
 そう考えると、一気に閉塞感を感じてきた。
 これではまるで、水槽の中の魚じゃないか……。

 そして、僕が思ったこんな言葉たちが、どんどん空間を埋めていく。
 このままここに居たら、僕は僕の言葉で窒息してしまうのだろうか?  
 それとも、文字で埋め尽くされた真っ暗闇の世界に行くんだろうか?
 
 そんな……ここに、いつまで居ればいいんだ。

 


 舟


 ん? あれは……?
 小さい舟が見える! 僕は大声でハローと声をかけることにした。
 なのに、なかなか上手に声が出せない。体が無いのだから当然だ!

「舟 ハ ロ」

 これが精一杯だった。        
 舟は僕に気が付かず、上の黒文字の渦に飲み込まれていった。
 
 また僕は一人ぼっちになった。そして……


 
  ↓
 壁壁壁


 今度は足元の『壁』にぶつかった。これ以上、下にはいけない。黒い渦は、もう真上まで迫っている。もはや、これまでか……。


* * * * *

 すると突然、目の前に僕の心の中の言葉、ではない言葉が浮かんでくる!
 こう書いてある。


「2話の、『おしまい』の続きから『*』までの、頭だけ読んで!!」
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