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第二章 探索! 物語の世界!
第11話 こころ
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「『したごころ』です……」
拘束されている僕は、女の子達に囲まれながらそう、答えた。
「「え!?」」
「『恋』という文字を想像してください。下に心があります。それはつまり、下心なんです」
僕が言うと、女の子達は「ぽかん」としていた。僕は感じた。これが『総スカン』と言う状況だと。
「何ソレ、つまんな……」
女の子の一人がそう言うと、数秒前まで僕に向いていた気持ちが、一斉に離れていくのを感じた。
すると……
「やあ子猫ちゃんたち。何を集まっているんだい?」
体育倉庫に入ってきたのは、身長が190センチはあるのではないかという体躯の持ち主だ。
ラブコメの世界にやってきて、初めて見る男だ……。
長い金髪を頭の後ろで束ね、緑色の目をしており、耳にはピアス。十字架のネックレスが、大きく開いた胸元で揺れる。
イタリア系に見えるので、『ルカ』とは本名なのかもしれない。
彼が入ってきた瞬間に、部屋の空気が変わった……。
「キャー!! ルカ様ー!!」
「こらこら。押さないでくれよ子猫ちゃん達」
ルカと呼ばれた男は、女の子達に囲まれるとそのまま立ち去っていった。
一人取り残される僕は、収穫され忘れて萎びたニンジンのように、その場に置いて行かれてしまった。
* * * * *
拘束されて、一人じゃどうしようもない僕は結局、三十分間放置されている。
そのうちに誰かが倉庫にやってきた……。
リードが助けに来てくれたのかな? と思ったら、また別の女の子だった。
吊り目で鼻が尖っていて、見るからに気の強そうな子だ。
彼女は悲惨なことになっている僕を見つけて、一度ため息をつくと僕に近寄ってきた。
この数分ですっかり女の子が怖くなってしまった僕は、何をされるのか判らなくてビクっと体を仰け反らせてしまった。
彼女はそれが癪に触ったのか……
「倫理奉仕を何と間違えてるのよ」
とぼやきながら、僕の拘束を解いてくれた。
ともあれ数分ぶりの自由だ。
「ありがとう。……僕はライト。宇宙飛行士だ」
真面目な顔で僕が言うと、初めて彼女は笑った。笑った、と言うより吹き出した。
「そうは見えないわね」
「この格好は……! ちょっと事情があって!」
「ふうん」
彼女は僕の四肢が自由になったのを確認すると、そのまま冷たく、体育倉庫から立ち去ろうとした。
「あ、ちょっとまって!」
僕は思わず止めた。
「僕は仲間とはぐれてしまって探しに行かないといけない。だけど……この学校の生徒がちょっと怖いんだ。できればその……案内をしてくれたら嬉しいんだけど」
僕が言うと彼女は、怪訝そうな目でこちらを見る。
「本当にここの生徒じゃないの?」
僕は肩をすくめた。
「迷子の宇宙飛行士さ」
* * * * *
彼女、舎人(とねり)サラの後に続いて、僕は学校を散策した。
ここは、おそらくハイスクールだ。
生徒達は全員楽しそうに日々を生きているように感じる。
なんというか、目が生々としている。
全力で若さを楽しんでいるんだなあ。と思った。
……女子の比率が多いように感じるのは、ここがラブコメの世界だからだろうか……?
突然、黄色い悲鳴が上がって、僕はサラの陰に隠れた。
ここ数分の惨劇で女の子の悲鳴がすっかりトラウマになってしまったのだ。
悲鳴の元は、さっきのイタリア系の男子生徒か? と思って見てみたら、全く違う生徒だった。
女子がキャーキャーと群がっているのは、廊下を怠そうに歩く背の低い男子だ。
中性的な顔立ちで……女の子と言われても信じてしまいそうだった。
すると、僕たちの横を歩いている別の男子生徒が突然怒鳴った。
「フン! 今日もスカしてんな! 柊子の野郎!!」
「デウの兄貴、アレは『野郎』じゃなくて女ですよーー」
「キヨのバカ! 言い換えてバカキヨ! 女に囲まれてる時点で野郎なんだよ!」
「……なんで言い換えたんですか? 兄貴」
僕が不思議そうに、女子に囲まれている彼をみていると……
「あの子は『大林柊子(おおばやししゅうこ)』。『四天王』の一人よ」
とサラが教えてくれた。
なんだ。本当に女子生徒なのか! ……ところで今、聴きなれない言葉を聞いた気がする。
「……四天王?」
「そう呼ばれているの。この学校のカースト、トップフォーよ」
「ん? なんのカースト?」
「『モテ度』とでも言えばいいのかしら。女の子の悲鳴あるところに四天王あり。ここはそういう学校よ」
僕は、もう一度大林と呼ばれた生徒を凝視した。
「……でも彼女は女子だ」
するとサラは心底呆れた顔でこちらを見る。
「……石器時代の宇宙飛行士さんなのかしら?」
言われてしまった。確かに、サラのおっしゃる通りだ。
女子生徒にモテる女子生徒がいても、不思議なことはない。
僕は頭を掻いて誤魔化した。
「違うんだ。さっきの彼が強烈すぎて……。多分彼も四天王の一人なんだろうな。金髪でクリスチャンの……」
「先にルカに会っていたのね。『ルカ・フェレイロ』病弱の妹さんがいる、学年一の軟派者よ」
「……病弱の妹さんがいるなら、ナンパなんかしている場合じゃ無いんじゃないか?」
僕がいうと、またサラは僕の事を石器時代の宇宙飛行士を見るような目で見てきた。
だから口を慎んだ。
* * * * *
僕たちは、校庭の隅に備え付けてあるベンチに腰をかけた。
それにしても妙なデザインの学校だ。外観、レリーフ、内装まで、王族の城のような装飾が施されている。
わかるのは一つだけ。偉く金がかかっている。
校庭には大きな噴水。校庭と言うよりも公園に近い。
「だいぶ歩いたけれど、宇宙飛行士のお仲間さんは見つかったのかしら?」
「いや……ここには来てないみたいだ」
僕は頬杖をついた。確かに、リードとはぐれてしまっているのは由々しき事態だ。
どうやらラブコメの世界では、人類全員を収容なんてできない。ならば、ここに長居をしている場合ではない。
リュックの中にある機械のことを思い出した。そうだ。さっさとこれをどこかに設置して、この世界から離れなければ……
突然、鳥の鳴き声がした。
一匹や二匹ではない。とんでもない数の白い鳥が編隊を組んで近づいてくる。
「え!?」
僕が思わずリュックを守ろうとした時には遅かった。大勢の鳥は一つの巨大な影となって僕のリュックを奪い、空高く飛んでいった。
「な! なんだ!?」
すると次に聞こえてきたのは足音だ。僕が目をやると、鳥を肩に乗せた男が近づいてくる。
……白くて怪しい、オペラ座の怪人のような仮面をかぶっている。
仮面の男は僕の目の前を何も言わず通り過ぎる。
僕は思わず引き止めた。
「ま、待て! 君の仕業か! なんでこんなことをする!」
すると仮面の男はこちらも見ずに一言だけ……
「幽霊の仕業さ……」
とだけ言って、去っていった。
「なんなんだあいつは……」
「あいつも四天王よ」
「へ!? あの変な奴が!?」
「『ヴィンセント・赤間(あかま)』実家は有名な結婚式場よ。演出用の白い鳥を自在に操るわ」
「あいつも『カースト・トップフォー』なのか!?」
「そうよ。ミステリアス枠ってやつね」
「飛び道具すぎるだろう!!」
「そうかしら?」
僕は、奪われてしまったリュックの事が気になり出した。
あれがないと、世界から出られない。
「あのリュックに大事なものが入っているの?」
僕の気持ちを察したのか、サラが聞いてきたので僕は頷いた。
「取り返さないと……」
「じゃあついてきて。彼の家まで案内するわ」
* * * * *
サラに案内されるがまま、僕は校門から学校を出た。
学校の前の道には沢山の桜の木が植えてあった。
まだ、開花の季節ではないが、時期が来ればここは見事な桜並木になるのだろう。
道の脇には立派な銅製のベンチが並んでおり、大勢の生徒達が座って団欒をしている。
そのうちの一つに、雰囲気のある男子生徒が座っていた。
彼の周りにだけ誰もいなかった。
それが彼にとってはいいようで、ベンチに浅く座って長い足を組みながら、居眠りをしている。
どうやらこのベンチが、『彼の場所』で、彼以外そこに近寄らないことが暗黙のルールのようである。
「彼が気になるの?」
サラが聞いてきた。
「どうせ四天王だろ」
僕が返す。するとサラは……
「そうよ。『遠藤健吾(えんどうけんご)』ずっとここにいて、教室にいることは珍しいタイプだわ」
「なるほど。『不良枠』か……学校の側までは来るんだね」
通り過ぎる時に、遠藤何がしが一瞬目を開いたものだから、目が合ってしまった。
がっしりした体躯に、浅黒い肌。そして両耳で光る金色のピアスが、なんとも彼を「やんちゃ」に見せている。
こちらを睨む目には明らかな敵意がある。彼のテリトリーに近づいたからだろう。
「あんだよ……」
眠りを妨げられた遠藤が不機嫌な声を出すと、サラが僕たちの間に入ってくれた。
「お邪魔してごめんなさい。赤間君の結婚式場に行く途中なのよ」
「赤間ぁ?」
すると、「フン」と健吾は息をついて、また目を閉じた。
「だったら、悪魔に気ぃつけろよ」
そして僕たちを見送ると、昼寝の続きを始めた。
「……なんだい?悪魔ってのは」
「『出る』って噂なのよ。赤間の式場には。愛の悪魔と呼ばれてるわ」
「……結婚式場に悪魔が出ちゃまずいんじゃ無いのか!?」
僕が言うと、サラは僕を変わったものを見る目でこう言った。
「……どうして?」
* * * * *
もう、この世界の倫理観がわからない……。
僕が考え込んでいるうちに、教会の鐘の音と、人々が祝福の声をあげているのが聞こえてきた。
立派な結婚式場で、今行われている式は野外で行われていた。
そして、ちょうど今は、花婿と花嫁そして参列者全員で記念写真を撮っているところだろう。
昼間だが、全員の顔が写真にはっきり写るようにだろうか。
式場のスタッフが、照明を当てている。いわゆるライティングだ。
「幸せそうね」
参列者達を眺めるサラの顔は、羨望に満ちていた。
この世界では、誰もが誰かと、幸せになることを望んでいるのだろうか。
サラの顔を見て、僕は思った。
……そしてすぐに異変に気がついた。
式場の外に、白くて大きい『影』がいる。
影も、人々を羨望の眼差して眺めている。
影に気がついたサラが言った。
「……あれが『愛の悪魔』よ」
「え!?」
よく見ると、影は僕のリュックを持っていた。
それで気がついた。影の正体は鳥だ。鳥が大勢集まって、一匹の怪物になっているんだ。
僕は悪魔に向かって走った。
僕が近くまで来ると、鳥達は一斉に僕を威嚇する。
大きい嘴、鋭い爪、大きい体。鳥の正体はカラスだ!
白くてわからなかったが、白いカラスが集まっている!
赤間の飼育しているカラスが、愛の悪魔だったんだ。
僕は悪魔の側までやってきた。悪魔が僕を見下ろす。
「そのリュックを返してくれ! 大事な物が入ってるんだ!」
すると、不思議なことに鳥の悪魔は、僕に話しかけてきた。
「喋るな……式の最中だ」
「ご……ごめん。でも、そのリュックは関係ないだろう。僕のだ」
悪魔は、僕のリュックをじっと眺めた。
「食い物は……入ってないのか」
「残念ながら入ってない。返してくれ」
すると、悪魔はこう言ってきた。
「返して欲しければ、私の質問に答えてほしい」
「答える? 何を?」
「『恋が責任に変わる時』とはなんだ?」
「……それに答えないと、荷物を返してくれないのか……?」
「ああ。絶対に返さない」
悪魔からは、無駄に強い意志を感じる。
「答えてもらおう。『恋が責任に変わる瞬間』とは?」
大量の鳥に睨まれ、僕は言葉を失う。
恋が責任に変わる瞬間? 一体なんのことだろう? 答えないとリュックを返してもらえない!
* * * * *
苦悩する僕に、どこからかリードが心で話しかけてきた。
「ライトさん! 7話に戻って『問題文』を探してください!
ギルドが出しているミッションの中に、明らかに一つおかしなものが紛れています!『そのミッションの答え』が、質問の答えです!!」
*チュートリアル。答えがわからない場合、
インターネットを使って検索することを推奨いたします。頑張って!
拘束されている僕は、女の子達に囲まれながらそう、答えた。
「「え!?」」
「『恋』という文字を想像してください。下に心があります。それはつまり、下心なんです」
僕が言うと、女の子達は「ぽかん」としていた。僕は感じた。これが『総スカン』と言う状況だと。
「何ソレ、つまんな……」
女の子の一人がそう言うと、数秒前まで僕に向いていた気持ちが、一斉に離れていくのを感じた。
すると……
「やあ子猫ちゃんたち。何を集まっているんだい?」
体育倉庫に入ってきたのは、身長が190センチはあるのではないかという体躯の持ち主だ。
ラブコメの世界にやってきて、初めて見る男だ……。
長い金髪を頭の後ろで束ね、緑色の目をしており、耳にはピアス。十字架のネックレスが、大きく開いた胸元で揺れる。
イタリア系に見えるので、『ルカ』とは本名なのかもしれない。
彼が入ってきた瞬間に、部屋の空気が変わった……。
「キャー!! ルカ様ー!!」
「こらこら。押さないでくれよ子猫ちゃん達」
ルカと呼ばれた男は、女の子達に囲まれるとそのまま立ち去っていった。
一人取り残される僕は、収穫され忘れて萎びたニンジンのように、その場に置いて行かれてしまった。
* * * * *
拘束されて、一人じゃどうしようもない僕は結局、三十分間放置されている。
そのうちに誰かが倉庫にやってきた……。
リードが助けに来てくれたのかな? と思ったら、また別の女の子だった。
吊り目で鼻が尖っていて、見るからに気の強そうな子だ。
彼女は悲惨なことになっている僕を見つけて、一度ため息をつくと僕に近寄ってきた。
この数分ですっかり女の子が怖くなってしまった僕は、何をされるのか判らなくてビクっと体を仰け反らせてしまった。
彼女はそれが癪に触ったのか……
「倫理奉仕を何と間違えてるのよ」
とぼやきながら、僕の拘束を解いてくれた。
ともあれ数分ぶりの自由だ。
「ありがとう。……僕はライト。宇宙飛行士だ」
真面目な顔で僕が言うと、初めて彼女は笑った。笑った、と言うより吹き出した。
「そうは見えないわね」
「この格好は……! ちょっと事情があって!」
「ふうん」
彼女は僕の四肢が自由になったのを確認すると、そのまま冷たく、体育倉庫から立ち去ろうとした。
「あ、ちょっとまって!」
僕は思わず止めた。
「僕は仲間とはぐれてしまって探しに行かないといけない。だけど……この学校の生徒がちょっと怖いんだ。できればその……案内をしてくれたら嬉しいんだけど」
僕が言うと彼女は、怪訝そうな目でこちらを見る。
「本当にここの生徒じゃないの?」
僕は肩をすくめた。
「迷子の宇宙飛行士さ」
* * * * *
彼女、舎人(とねり)サラの後に続いて、僕は学校を散策した。
ここは、おそらくハイスクールだ。
生徒達は全員楽しそうに日々を生きているように感じる。
なんというか、目が生々としている。
全力で若さを楽しんでいるんだなあ。と思った。
……女子の比率が多いように感じるのは、ここがラブコメの世界だからだろうか……?
突然、黄色い悲鳴が上がって、僕はサラの陰に隠れた。
ここ数分の惨劇で女の子の悲鳴がすっかりトラウマになってしまったのだ。
悲鳴の元は、さっきのイタリア系の男子生徒か? と思って見てみたら、全く違う生徒だった。
女子がキャーキャーと群がっているのは、廊下を怠そうに歩く背の低い男子だ。
中性的な顔立ちで……女の子と言われても信じてしまいそうだった。
すると、僕たちの横を歩いている別の男子生徒が突然怒鳴った。
「フン! 今日もスカしてんな! 柊子の野郎!!」
「デウの兄貴、アレは『野郎』じゃなくて女ですよーー」
「キヨのバカ! 言い換えてバカキヨ! 女に囲まれてる時点で野郎なんだよ!」
「……なんで言い換えたんですか? 兄貴」
僕が不思議そうに、女子に囲まれている彼をみていると……
「あの子は『大林柊子(おおばやししゅうこ)』。『四天王』の一人よ」
とサラが教えてくれた。
なんだ。本当に女子生徒なのか! ……ところで今、聴きなれない言葉を聞いた気がする。
「……四天王?」
「そう呼ばれているの。この学校のカースト、トップフォーよ」
「ん? なんのカースト?」
「『モテ度』とでも言えばいいのかしら。女の子の悲鳴あるところに四天王あり。ここはそういう学校よ」
僕は、もう一度大林と呼ばれた生徒を凝視した。
「……でも彼女は女子だ」
するとサラは心底呆れた顔でこちらを見る。
「……石器時代の宇宙飛行士さんなのかしら?」
言われてしまった。確かに、サラのおっしゃる通りだ。
女子生徒にモテる女子生徒がいても、不思議なことはない。
僕は頭を掻いて誤魔化した。
「違うんだ。さっきの彼が強烈すぎて……。多分彼も四天王の一人なんだろうな。金髪でクリスチャンの……」
「先にルカに会っていたのね。『ルカ・フェレイロ』病弱の妹さんがいる、学年一の軟派者よ」
「……病弱の妹さんがいるなら、ナンパなんかしている場合じゃ無いんじゃないか?」
僕がいうと、またサラは僕の事を石器時代の宇宙飛行士を見るような目で見てきた。
だから口を慎んだ。
* * * * *
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それにしても妙なデザインの学校だ。外観、レリーフ、内装まで、王族の城のような装飾が施されている。
わかるのは一つだけ。偉く金がかかっている。
校庭には大きな噴水。校庭と言うよりも公園に近い。
「だいぶ歩いたけれど、宇宙飛行士のお仲間さんは見つかったのかしら?」
「いや……ここには来てないみたいだ」
僕は頬杖をついた。確かに、リードとはぐれてしまっているのは由々しき事態だ。
どうやらラブコメの世界では、人類全員を収容なんてできない。ならば、ここに長居をしている場合ではない。
リュックの中にある機械のことを思い出した。そうだ。さっさとこれをどこかに設置して、この世界から離れなければ……
突然、鳥の鳴き声がした。
一匹や二匹ではない。とんでもない数の白い鳥が編隊を組んで近づいてくる。
「え!?」
僕が思わずリュックを守ろうとした時には遅かった。大勢の鳥は一つの巨大な影となって僕のリュックを奪い、空高く飛んでいった。
「な! なんだ!?」
すると次に聞こえてきたのは足音だ。僕が目をやると、鳥を肩に乗せた男が近づいてくる。
……白くて怪しい、オペラ座の怪人のような仮面をかぶっている。
仮面の男は僕の目の前を何も言わず通り過ぎる。
僕は思わず引き止めた。
「ま、待て! 君の仕業か! なんでこんなことをする!」
すると仮面の男はこちらも見ずに一言だけ……
「幽霊の仕業さ……」
とだけ言って、去っていった。
「なんなんだあいつは……」
「あいつも四天王よ」
「へ!? あの変な奴が!?」
「『ヴィンセント・赤間(あかま)』実家は有名な結婚式場よ。演出用の白い鳥を自在に操るわ」
「あいつも『カースト・トップフォー』なのか!?」
「そうよ。ミステリアス枠ってやつね」
「飛び道具すぎるだろう!!」
「そうかしら?」
僕は、奪われてしまったリュックの事が気になり出した。
あれがないと、世界から出られない。
「あのリュックに大事なものが入っているの?」
僕の気持ちを察したのか、サラが聞いてきたので僕は頷いた。
「取り返さないと……」
「じゃあついてきて。彼の家まで案内するわ」
* * * * *
サラに案内されるがまま、僕は校門から学校を出た。
学校の前の道には沢山の桜の木が植えてあった。
まだ、開花の季節ではないが、時期が来ればここは見事な桜並木になるのだろう。
道の脇には立派な銅製のベンチが並んでおり、大勢の生徒達が座って団欒をしている。
そのうちの一つに、雰囲気のある男子生徒が座っていた。
彼の周りにだけ誰もいなかった。
それが彼にとってはいいようで、ベンチに浅く座って長い足を組みながら、居眠りをしている。
どうやらこのベンチが、『彼の場所』で、彼以外そこに近寄らないことが暗黙のルールのようである。
「彼が気になるの?」
サラが聞いてきた。
「どうせ四天王だろ」
僕が返す。するとサラは……
「そうよ。『遠藤健吾(えんどうけんご)』ずっとここにいて、教室にいることは珍しいタイプだわ」
「なるほど。『不良枠』か……学校の側までは来るんだね」
通り過ぎる時に、遠藤何がしが一瞬目を開いたものだから、目が合ってしまった。
がっしりした体躯に、浅黒い肌。そして両耳で光る金色のピアスが、なんとも彼を「やんちゃ」に見せている。
こちらを睨む目には明らかな敵意がある。彼のテリトリーに近づいたからだろう。
「あんだよ……」
眠りを妨げられた遠藤が不機嫌な声を出すと、サラが僕たちの間に入ってくれた。
「お邪魔してごめんなさい。赤間君の結婚式場に行く途中なのよ」
「赤間ぁ?」
すると、「フン」と健吾は息をついて、また目を閉じた。
「だったら、悪魔に気ぃつけろよ」
そして僕たちを見送ると、昼寝の続きを始めた。
「……なんだい?悪魔ってのは」
「『出る』って噂なのよ。赤間の式場には。愛の悪魔と呼ばれてるわ」
「……結婚式場に悪魔が出ちゃまずいんじゃ無いのか!?」
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「……どうして?」
* * * * *
もう、この世界の倫理観がわからない……。
僕が考え込んでいるうちに、教会の鐘の音と、人々が祝福の声をあげているのが聞こえてきた。
立派な結婚式場で、今行われている式は野外で行われていた。
そして、ちょうど今は、花婿と花嫁そして参列者全員で記念写真を撮っているところだろう。
昼間だが、全員の顔が写真にはっきり写るようにだろうか。
式場のスタッフが、照明を当てている。いわゆるライティングだ。
「幸せそうね」
参列者達を眺めるサラの顔は、羨望に満ちていた。
この世界では、誰もが誰かと、幸せになることを望んでいるのだろうか。
サラの顔を見て、僕は思った。
……そしてすぐに異変に気がついた。
式場の外に、白くて大きい『影』がいる。
影も、人々を羨望の眼差して眺めている。
影に気がついたサラが言った。
「……あれが『愛の悪魔』よ」
「え!?」
よく見ると、影は僕のリュックを持っていた。
それで気がついた。影の正体は鳥だ。鳥が大勢集まって、一匹の怪物になっているんだ。
僕は悪魔に向かって走った。
僕が近くまで来ると、鳥達は一斉に僕を威嚇する。
大きい嘴、鋭い爪、大きい体。鳥の正体はカラスだ!
白くてわからなかったが、白いカラスが集まっている!
赤間の飼育しているカラスが、愛の悪魔だったんだ。
僕は悪魔の側までやってきた。悪魔が僕を見下ろす。
「そのリュックを返してくれ! 大事な物が入ってるんだ!」
すると、不思議なことに鳥の悪魔は、僕に話しかけてきた。
「喋るな……式の最中だ」
「ご……ごめん。でも、そのリュックは関係ないだろう。僕のだ」
悪魔は、僕のリュックをじっと眺めた。
「食い物は……入ってないのか」
「残念ながら入ってない。返してくれ」
すると、悪魔はこう言ってきた。
「返して欲しければ、私の質問に答えてほしい」
「答える? 何を?」
「『恋が責任に変わる時』とはなんだ?」
「……それに答えないと、荷物を返してくれないのか……?」
「ああ。絶対に返さない」
悪魔からは、無駄に強い意志を感じる。
「答えてもらおう。『恋が責任に変わる瞬間』とは?」
大量の鳥に睨まれ、僕は言葉を失う。
恋が責任に変わる瞬間? 一体なんのことだろう? 答えないとリュックを返してもらえない!
* * * * *
苦悩する僕に、どこからかリードが心で話しかけてきた。
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*チュートリアル。答えがわからない場合、
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