空白に舟を浮かべろ!

SB亭孟谷

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第二章 探索! 物語の世界!

第19話 異星人の襲来を受けた国、アメリカ

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「『モック・ドキュメンタリー』だって?」

 あまり聞き馴染みのない言葉に、僕は首を傾げた。

「はい。通称『モキュメンタリー・ホラー』ここ数年でとても勢いを増しているこちらのジャンルですね。……祠の神様は流行に明るいんですね」

「なんだい? モキュメンタリーって。ドキュメンタリーとは違うのかい?」

「『モック』とは、『模擬』『模型』という意味があり、『嘲笑う』という意味も持ってます。つまり『モック・ドキュメンタリー』を和訳すると……『なんちゃってドキュメンタリー!』」

「なんちゃってドキュメンタリー!?」


 すると、あたりが突然完全暗転し、「パーン」という音とともに、リードがスポットライトで照らされる。

 ああ、いつものリード劇場が始まるんだなあ……と僕は理解した。


「ホラーの真髄は、『信憑性』
 ありえないんだけど、全くないとは言い切れない微妙な可能性。モキュメンタリーホラーとは、独特な方法でホラーの中に信憑性を生み出す技法なんです!」

「でも嘘なんだろ?」

 僕が素朴な疑問を口にすると、リードの腕が伸びてきて僕の口にお札が貼られた。
 上演中は喋るな。という意味だろうか?

「一九三八年アメリカにて、なんとも珍妙な事件が発生しました。
 その悲鳴は、CBSのラジオ放送の電波に乗って国民に届けられたのです……!!」

 いつの間にかリードの手には拡声器が握られていた。
 どこから用意したんだ……。

「『本日午後八時五十分! 隕石らしき大きな物体がニュージャージー州の農場に落下しました! 奴らが動き出したんだ!! こんなに恐ろしい光景は見たことがありません! ……こら!! 呑気に葬式なんて開いてる場合じゃないぞ! 式場のスタッフは何をしている!? 何かが起きようとしています! 黒く蛇のように光る目、両側に裂けた口からヨダレが垂れています! あれは! 炎です! 人々を襲っています!』」

 リードは拡声器を雑に放り投げた。

「当時、このCBSの生放送を、六百万人のアメリカ国民が聞いていました。彼らはパニックに陥りました。
 警察、ラジオ局には連絡が殺到! しかしこの騒動は……
 実は一人の俳優による小説の朗読だったのでした。
 その演技が迫真に迫るものだったために、国民は本当に『火星人が襲来した』と信じたのだそうです」

 僕は口元のお札を剥がした。

「……現代でやったら大問題だね……」

「ありえないことでも、全くないとは言い切れない。人間はこの『わずか数%の恐怖』にゾワゾワとする生き物なのです。
 このラジオ版、『宇宙戦争騒動』は半ば都市伝説的なパニックになりました。
 人々が、『新たな形の恐怖』を体験するきっかけになったのです。
 そしてそれは、千九百年後半から実体を持ち始めます。
 一九七二年、映画『ザ・レジェンド・オブ・ボギークリーク』では、架空の怪物事件を地元住民によるインタビューによって構成。低予算ながら再現VTRホラーの先駆けとなります。
 一九八〇年、ルッジェロ・デオダート監督『食人族』
 行方不明の取材班のフィルムが発見されたという設定で、リアルすぎて監督が殺人容疑で逮捕されるほどでした。
 そして……千九百年の終わりに、それが上演されたのです……」

 するとリードは、今度はどこから用意したのかビデオカメラを持ち出し、僕に近寄って撮影を始める。

「何! 何!」

 突然カメラを向けられ、僕は居心地が悪くなる。

「薄暗い森の中……忘れ去られた魔女の伝説。
 三人の恐れ知らずの学生たちは、魔女の記録を撮ろうと深い森に入っていくのです……。しかし三人はついに帰らず、残されたのはフィルムだけ!
 キャー!!……一九九九年、ブレアウィッチプロジェクト。
 ネット掲示板やチラシで「行方不明事件の実話」と宣伝し、観客が完全に信じ込み、社会現象を引き起こしました!」

 リードはカメラを雑に遠くに投げる……。
 続いてはノートPCを取り出して、僕の目の前でタイプを始める。

「ブレアウィッチプロジェクトのホラーの斬新さは、後のホラー映画に多大な影響を与えます。
 二〇〇五年日本、白石晃士監督によって上演されたホラー『ノロイ』
 二〇〇七年、『パラノーマル・アクティビティ』上演。
 同年、スペインでは『REC』が上演。
 時を同じくして、日本ではインターネットによるSNSが普及します。
 それまで『個人のもの』『土地のもの』だった怖い話。
 それらは『にちゃんねる』を中心に日本中に拡散されることになったのです!
『都市伝説』『集落の奇妙な風習』『忌地』!!
 開かれた扉は、モキュメンタリーホラーの土壌となるのでした!ご清聴ありがとうございます」

 リードが深々とお辞儀をすると、スポットライトが消えて、代わりに薄暗い夜の闇が広がる。

「うーんわからないな。どうしてモキュメンタリーホラーは流行したんだろう?」

「いいところにお気づきですねライトさん。
 私はついさっき、ホラーとは文明に寄り添い、進化してくると言ったと思いますが……まさにモキュメンタリーが流行るのも時代だと思うのです。というのは……」

「というのは?」

「『タイパ』『コスパ』化です」

「……ん?」

「怖い話は、江戸時代以前から娯楽として人々のそばにありました。それこそ昔は『百物語』と言って、怖い話を百個、話たり聞いたりする文化があったそうです」

「うーん……足が痛くなって肩がこりそうだな」

「そう!!」

 リードは突然、ビシっと僕を指差す。

「まさにその感覚が現代的なんです!
『百物語』『怪談噺』は『ホラー映画』になり、
『ホラー映画』は『ショッキング映像』と化し、『ホラー動画』になりました。お気づきですか……? 尺がどんどん短くなっていってるんです!
 これはつまり……人間とは長時間、物事をインプットするのには向いてない生き物であるという証明なのかもしれません。
 テレビ・ラジオがオールドメディアになってから、YouTubeやTikTokなどのショート動画が主流になる。最近では、動画を倍速で閲覧するのがスタンダードな形になりつつあるようです。SNS時代の読者は長いナラティブよりも『断片』を好むのかもしれませんね。その、モザイクのような断片の芸術こそが、『モキュメンタリー』なのです」

「なるほどー。で……」

 僕はようやく、問題を思い出した。

「僕はその、モキュメンタリーホラーを作らなければならなくなったわけだけれども……」

「そうですね!」

 リードが俄然、楽しそうになった。

「どうすればいいんだ……文章なんか思い浮かばないぞ」

「『文章』である必要なんてないんですよライトさん。
 モキュメンタリーにおいて必要なのは『興味を引く断片』ですから。まず、タイトルから決めません?」

 僕たちは街灯の下にあるベンチにノートPCを広げている。
 
「タイトルかあ……」

「タイトルは重要ですよ! その作品の顔ですから!
 タイトルで、その作品の出来は七割決まります!」

「そんなに!?」

「特にモキュメンタリー・ホラーであるなら、
 それが流行りの『モキュメンタリー・ホラー』であるということが一発でわかるようなタイトルが好ましいですね!
 内容は全部は語る必要ありません。『想像させるのがホラー』ですから」

「ううんそれは随分、個人の主観が入ってるようだが……」

「いいですから! ほら! 何かないですか!?」

 リードはいつの間にかメガネまで用意している。
 ……どこから出したんだろう?

「……楽しそうだよね?」

「楽しいですよ!? このままずっとこうしててもいいです!
 そうだ! やっぱりここで暮らしましょうよ!
 ライトさんはここで、ホラー作家になるんです! 私手伝いますから」

「ならない! そんなセカンドキャリアはヤだよ!」

「まあまあ、とりあえず、ホラーモキュメンタリーを書かないと、出られませんよ?」

 そんなことを言われても、今までやったことのない作業だ。
 それが例えタイトルでも、文章なんか僕には思い浮かばない。

「だめだ。わからないよ。『興味を引く断片』なんて」

「そうですねえ……」

 するとリードは、いつの間にか幾分か真剣な表情になっている。

「『興味を引く』手段として、強い引力を持つ言葉を用いるといいかもしれませんよね」

「どういうこと?」

「例えば……固有名詞ですよ。
 人名とか地名です。モキュメンタリーホラーにおいて、よく用いられる手段ですよ」

 すると、リードはモニターに文字を出力した。
『イトナガ・ミズキ』と出てきた。

「……誰?」

「いいんです。さあ、これに続く言葉を考えてください」

「これに続く言葉?」

「そうです。『イトナガ・ミズキを◯◯してください』とか『しないでください』とか、そういう文言が加わればモキュメンタリー・ホラーの入り口としては合格ラインじゃないですか? 祠の神様だって読んでくれるかもですよ」

「うーん……」

 僕は足りない頭を振り絞って、言葉を紡いだ。

「……『イトナガ・ミズキに餌を与えないでください』」

 隣でリードが大爆笑だ。何がそんなに面白いのか全くわからない。

「面白いですけど、ホラーじゃないといけませんから」

 などという。
 やっぱり僕には才能がないようだ。

 そして……

「こんなのどうですか?」

 と、リードが勝手に文字を入力した。

『イトナガ・ミズキを探さないでください』
 
 なんだかよくわからないが、確かに『何があったんだろう?』とは感じるタイトルだ。
 そして、その『何が』の部分に惹かれる、興味を持つ感覚も理解できるような気がした。

「なるほど。興味を持たせるんだな」

「そうです。この情報化の世界、人々に届けるには創意工夫が必要なんです」



 * * * * * 



 結局、リードがほとんど短い文章を書き上げ、僕はただ見ているだけだった。
このようにして、僕とリードの最初で最後の作品『イトナガ・ミズキを探さないでください』は完成した。

「……で、これをどうすれば祠の神様に読んでもらえるんだ?」

 するとリードは、USBチップをPCから取り出した。

「まあこれをお供えすればいいんですかね」

「……どこに?」

 自然に考えるなら神様のいる祠だが、肝心の祠を僕は壊してしまった。

「さっきの神様は、どこから現れたんですかね……」
 
 と、リードが言う。

 そうか。神様が現れる……何か、異界からの入り口みたいな所に、USBをお供えすればいいんだ。

 ……しかしそれは何処だ。わかるわけがないじゃないか。

「ねえやっぱりライトさん、この世界から出るの諦めませんか?
 ここで小説家デビュー……」

「しない!!」

 強めに否定したら、リードがしゅんとしてしまった。

「だって……ここが最後の世界ですよ?」

 と小声で言ったが、正直僕はそれどころじゃなかった。
 ここで地縛霊になるのだけは、どうしてもどうしても御免被りたかった。

 思わず胸をみる。黒い痣は広がってきており、もう首に差し掛かろうとしていた。

「何処だ……何処にいけばいいんだ……。異界への入り口……それは何処だ……」

 僕は頭を抱えてしまった。

 * * * * *

 あまりに僕が見ていられない状態だったのか、リードはこんな事を言った。

「ヒントは十四話と十六話。
『画家がもらったアドバイス』と『ある二人組の会話の、あるセリフ』にあります。
 ……見つけられますか?」
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