9 / 59
マユちゃんを動かそう。
しおりを挟む
今日は薄曇りの松原。
土曜日でも鈴木家は朝から大騒ぎだ。
「マユちゃんが猫にいじめられてる!!」
麻由が顔も洗わず寝巻きのままで庭の方に駆け込む。
宏明は猫の方を心配した。カエルの怪異が肉食で子猫を丸呑みするとかだったらどうしよう。
それがご近所さんの飼い猫で、ウチが責任取らないといけないとなったらどうしよう……
不安な気持ちで、窓の外を見る。
……
猫の全長は2mはあった。が、いわゆる虎やピューマとの違いは、手足はむしろ猫より短いが、顔が人のそれよりやや大きい。
白と灰色の胴体のみ、成人男性ほどの「長さ」がある。
おおよそ猫と判別できるのは柄のみで、フォルムだけ見れば生物と言うよりホテルに置いてありそうな、細長で大きめのソファクッションだ。
長い胴体を持ち上げ、カエルをぺしぺし、叩いていた。
「……あれが猫だって」
宏明は、次々と現れる怪異と、この生活に順応していく娘に頭を抱えた。
「そんなこと言ったって、あれが猫じゃないなら一体何です?あなたもいい加減現実を受け入れてみたら?」
靖子は冷たかった。
猫には、爪と言うものがないらしく、正面から肉球でもってカエルの頭を連打していた。
カエルの方はそれに対して無反応ではあるが、心なしか鬱陶しいといった表情を浮かべていた。
「やめなさい!!」
麻由が友人の元に駆け寄ると、猫は麻由に反応し、
「しゃあ!!!」と鳴いた。
猫が威嚇するときの鳴き声を「シーッ!!!!」と表現するなら、
怪異のそれは、甲高い声で平仮名の三文字がはっきり浮かんできそうな声だった。
猫は手を休めず、カエルの頭をペシペシ叩いていた。
猫は困っている顔をしていた。
「やめて!!」
麻由が猫の近くで懇願すると、初めて猫は手を休めて、
ゼー、ゼーと息を切らした。猫にとってこのスパーリングは、麻由の想像以上のカロリーを消費するようだ。
猫は麻由に何かを訴える顔で、
「しゃッツが!!」とカエルを指(?)刺した。
明らかに興奮している。
「しゃんちしゃってしゃん……ジャン!!」
「何て言ってるかわからないよ!」
猫は前傾に屈んで、フーと一息。そして呼吸を整えて再び麻由に訴えた。
「あしゃもと!!!」
猫は「どうにかしてほしい」と言う表情を浮かべて麻由に訴えてきた。
「あしゃもと?」
「どかすジャン!!」
「え?」
麻由はカエルの足元をみた。
後ろ足と、腹の皮下脂肪に、小さい猫のぬいぐるみが下敷きになっている。
「……君のお友達?」
「しゃあ……」
猫は涙声になった。
「プリンちゃんジャン……」
猫の涙腺が崩壊し、両目から滝のような‥…いやスプリンクラーのような泪が飛び出し、顔の周りに虹ができていた。
「わあ……綺麗……」
麻由が猫の作った虹に見とれていると、
「どかしてほしいジャン!!」
と怒られた。
カエルは、一度居着いたらテコでも動かないと言うスタンスを貫いている。
麻由は怪異を相手に説得することを強いられた。
「マユちゃん、ちょっとどいてあげて!」
カエルは動かない。麻由の声は届いていて、明らかに無視を決め込んでいる。
「うーん……」
麻由は熟考の末、プリンちゃんを引っ張り出すことに決めた。
しかし、プリンちゃんは、カエルの「軸」にピッタリ圧をかけられており、なかなか取り出せない。
「うーん!」
麻由は引っ張る力を強めると、後から猫の肉球で頭を叩かれた。
「いて」
「しゃんしゃいヤイヤイシャーンしゃっ……ジャン!!」
どうやらこの猫は興奮すると日本語の発声に支障が出るようだ。
……もっとも日本語を喋れる猫がいればの話だが……。
「そんなこと言ったって、マユちゃん動かないよ」
「しゃあ!!」
猫は麻由の頭をポコポコ連打した。この猫の構造上、腕に体重が乗りにくいらしく、猫パンチも悲しいほど威力はなかった。
「いてて……やめてよ! しょうがないなー」
麻由は作戦を変えて、全体重でカエルをどかそうと試みた。
両腕でカエルを抱えて、無理やり動かそうとするが、麻由の腕も頭もカエルの皮下脂肪に吸い込まれるばかりで、カエルは一ミリも動かない。
「あ……ひんやりしてて気持ちいい……」
スライム状の氷枕を抱えているとまたもや猫のお仕置きの一撃を食らった。
「いて」
「しゃまえ!! しゃくしゃんしゃってヤンヤンしゃい……ジャン!!」
「待って待って、落ち着いて!! ……マユちゃんどうしてもどいてくれないの?」
「グア」
「パパー!」
家の中で宏明はヒッ!! ……と背筋を立てた。恐れていたことが起きた……自分は関わるまいとしていたのに……
「宏明さん、呼ばれてますよ」
「……はあ」
「パパー! マユちゃん動かして!!」
「無理ですー!!」
はっきり、告げた。
「無理ってあなた」
「僕はね……そもそもカエルが苦手なんですよ……」
「でも麻由が困ってますよ」
「パパー!!」
「シャー!!」
「ほら。宏明さん」
宏明は頭を抱えた。
「ああ……もう!!」
かくして、宏明の男の試練が始まった。
土曜日でも鈴木家は朝から大騒ぎだ。
「マユちゃんが猫にいじめられてる!!」
麻由が顔も洗わず寝巻きのままで庭の方に駆け込む。
宏明は猫の方を心配した。カエルの怪異が肉食で子猫を丸呑みするとかだったらどうしよう。
それがご近所さんの飼い猫で、ウチが責任取らないといけないとなったらどうしよう……
不安な気持ちで、窓の外を見る。
……
猫の全長は2mはあった。が、いわゆる虎やピューマとの違いは、手足はむしろ猫より短いが、顔が人のそれよりやや大きい。
白と灰色の胴体のみ、成人男性ほどの「長さ」がある。
おおよそ猫と判別できるのは柄のみで、フォルムだけ見れば生物と言うよりホテルに置いてありそうな、細長で大きめのソファクッションだ。
長い胴体を持ち上げ、カエルをぺしぺし、叩いていた。
「……あれが猫だって」
宏明は、次々と現れる怪異と、この生活に順応していく娘に頭を抱えた。
「そんなこと言ったって、あれが猫じゃないなら一体何です?あなたもいい加減現実を受け入れてみたら?」
靖子は冷たかった。
猫には、爪と言うものがないらしく、正面から肉球でもってカエルの頭を連打していた。
カエルの方はそれに対して無反応ではあるが、心なしか鬱陶しいといった表情を浮かべていた。
「やめなさい!!」
麻由が友人の元に駆け寄ると、猫は麻由に反応し、
「しゃあ!!!」と鳴いた。
猫が威嚇するときの鳴き声を「シーッ!!!!」と表現するなら、
怪異のそれは、甲高い声で平仮名の三文字がはっきり浮かんできそうな声だった。
猫は手を休めず、カエルの頭をペシペシ叩いていた。
猫は困っている顔をしていた。
「やめて!!」
麻由が猫の近くで懇願すると、初めて猫は手を休めて、
ゼー、ゼーと息を切らした。猫にとってこのスパーリングは、麻由の想像以上のカロリーを消費するようだ。
猫は麻由に何かを訴える顔で、
「しゃッツが!!」とカエルを指(?)刺した。
明らかに興奮している。
「しゃんちしゃってしゃん……ジャン!!」
「何て言ってるかわからないよ!」
猫は前傾に屈んで、フーと一息。そして呼吸を整えて再び麻由に訴えた。
「あしゃもと!!!」
猫は「どうにかしてほしい」と言う表情を浮かべて麻由に訴えてきた。
「あしゃもと?」
「どかすジャン!!」
「え?」
麻由はカエルの足元をみた。
後ろ足と、腹の皮下脂肪に、小さい猫のぬいぐるみが下敷きになっている。
「……君のお友達?」
「しゃあ……」
猫は涙声になった。
「プリンちゃんジャン……」
猫の涙腺が崩壊し、両目から滝のような‥…いやスプリンクラーのような泪が飛び出し、顔の周りに虹ができていた。
「わあ……綺麗……」
麻由が猫の作った虹に見とれていると、
「どかしてほしいジャン!!」
と怒られた。
カエルは、一度居着いたらテコでも動かないと言うスタンスを貫いている。
麻由は怪異を相手に説得することを強いられた。
「マユちゃん、ちょっとどいてあげて!」
カエルは動かない。麻由の声は届いていて、明らかに無視を決め込んでいる。
「うーん……」
麻由は熟考の末、プリンちゃんを引っ張り出すことに決めた。
しかし、プリンちゃんは、カエルの「軸」にピッタリ圧をかけられており、なかなか取り出せない。
「うーん!」
麻由は引っ張る力を強めると、後から猫の肉球で頭を叩かれた。
「いて」
「しゃんしゃいヤイヤイシャーンしゃっ……ジャン!!」
どうやらこの猫は興奮すると日本語の発声に支障が出るようだ。
……もっとも日本語を喋れる猫がいればの話だが……。
「そんなこと言ったって、マユちゃん動かないよ」
「しゃあ!!」
猫は麻由の頭をポコポコ連打した。この猫の構造上、腕に体重が乗りにくいらしく、猫パンチも悲しいほど威力はなかった。
「いてて……やめてよ! しょうがないなー」
麻由は作戦を変えて、全体重でカエルをどかそうと試みた。
両腕でカエルを抱えて、無理やり動かそうとするが、麻由の腕も頭もカエルの皮下脂肪に吸い込まれるばかりで、カエルは一ミリも動かない。
「あ……ひんやりしてて気持ちいい……」
スライム状の氷枕を抱えているとまたもや猫のお仕置きの一撃を食らった。
「いて」
「しゃまえ!! しゃくしゃんしゃってヤンヤンしゃい……ジャン!!」
「待って待って、落ち着いて!! ……マユちゃんどうしてもどいてくれないの?」
「グア」
「パパー!」
家の中で宏明はヒッ!! ……と背筋を立てた。恐れていたことが起きた……自分は関わるまいとしていたのに……
「宏明さん、呼ばれてますよ」
「……はあ」
「パパー! マユちゃん動かして!!」
「無理ですー!!」
はっきり、告げた。
「無理ってあなた」
「僕はね……そもそもカエルが苦手なんですよ……」
「でも麻由が困ってますよ」
「パパー!!」
「シャー!!」
「ほら。宏明さん」
宏明は頭を抱えた。
「ああ……もう!!」
かくして、宏明の男の試練が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる