カエルのマユちゃん。

SB亭孟谷

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Haymyonn

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「ねえ猫ちゃんはさ、趣味とかないの?」


 夕飯を食べ終わった麻由が、顔でか胴長短足口臭怪異猫に話しかけた。

 猫は一瞬考え、

「あいみょん!」

 と答えた。

 宏明と麻由の頭の中で、ノスタルジックな曲を歌う有名女性シンガーが出てきた。

「猫ちゃん音楽が好きなの!?」

「シャー」

 猫は、短い右前足を天に突き上げ、左右に振って見せ、

「行きたいジャン」

 などという。

「あいみょんのライブに行きたいの?」

「シャー」

「パパ連れてってあげ……」

「ハックショーい!! あー!!」

 宏明はわざと大きなくしゃみをして、聞かなかった事にした。

「えー」

 怪異猫は未だ手を左右に振って、世界に入り込んでいる。

 その姿が可愛らしく見えたのか、真由はあいみょんの人気曲を口ずさんだ。

 すると怪異猫は……

「ボンテェキ! ボボン! ボン! ドドドド! シャーイェイ! ボボボン!」

 濁声で麻由の歌に被せたのである。

 江戸時代の悪口に、まだ青き、素人(しろうと)義太夫、玄(くろ)がって、赤ら顔して奇(き)な声を出す。


 というものがある。この時猫が発していたのはそのような声だった。

 思わず、歌を止める麻由、しかし、猫の方はスイッチが入ってしまったのか……

「ヴォーーーーイ!!!ヴォォォォイ!!F✖︎✖︎K ユー!!」

 と、エスカレートし始め、下げられていない箸を両手に一本ずつ持ってテーブルを叩き出した。

 お箸のビートに、パンクヴォイスで何か喋っている。音楽というには独創的すぎる、机叩きパフォーマンスだ。

 猫の頭に、靖子のゲンコツが降ってきて、ようやく我に返った猫。

 戸惑う麻由と宏明。

「猫ちゃん、今の、何?」

「あいみょん!!」

 麻由と宏明の頭に「?」マークの渋滞が起きていた。
 なんというか、『知ってるのと違うな』状態である。


「えー、あいみょんの、もっと可愛い曲歌おうよ猫ちゃん」

「シャー」

 すると猫はテーブルに飛び乗り、大きな頭を成人男性ほどの全長のある胴体でもって上下に降り始め、

「オーマイガ!!オーマイガ!!デミーーー!!」と濁声で叫び出した。

 これは……ヘッドバンキングをしているのかな?

 すると猫は、恍惚の表情を浮かべながら、短い前足と口三味線でエアギターを演奏している。
 其の姿は既に、完成されて……否、『仕上がって』いた。

 そしてエスカレートの沸点がきたのか、手にしていたエアギターをテーブルに振り下ろした。
 一昔前のロックバンドマンがライブを盛り上げるために行う、ギタークラッシュパフォーマンスだ。

 空想の中でギターを真っ二つにすると次に猫は、

「ドーーーン!」

 と叫んだ。おそらく、舞台上に演出で仕込んだ火薬が動作した音だろう。

 一通りパフォーマンスを終えて満足げな猫に、

 後ろから靖子が、フライパンで尻を叩き、ようやく我に返った猫。


 麻由は訝しげな表情を浮かべ、

「猫ちゃん、それ 本当に『あいみょん』?」

「シャー」

「違うよ!あいみょんじゃないよ!」

「あいみょんジャン!!」

『あいみょん』の話になると、猫はスイッチが入るのか、再びテーブルに飛び乗ろうとしたが、靖子からの視線を感じしそんじた。

「あいみょんジャン」

 そんなわけがないな。宏明は『あいみょん』にそこまで明るくはなかったが、流石にヒット曲の2、3曲は知っている。
 どこか懐かしいメロディーに、女性の素直な気持ちが滲んだ歌詞を、特徴のある歌声で歌い上げる人気シンガーだ。

 もっというと、宏明は生まれてこの方、ミュージシャンのライブに行ったことがないが、
こういうシンガーは、舞台上でギターを壊して『デミーー!!』などとは言わない筈であるとは理解していた。

「あいみょん、カッコイイジャン……」

 確かに、シンガーあいみょんのことを『格好いい』と評する人間がいるのは、明るくないなりにも全然合点がいく。
 しかしどうにも、同名の『あいみょん』が二人いる予感が否めなかった。

 猫は、徐に洗濯籠を頭にすっぽりかぶった。こういうステージ衣装なのだろうか。

「シャーーーー!! ゴートゥーH✖︎✖︎L! ゴートゥーH✖︎✖︎L!! ヴォーーーイ!」

 猫は、自分の頭を長い胴体から『獅子舞』のように振り回した。

「モッシュ!! モッシュ!!」

 世界に入り込んだ猫は、こちらを煽っているように感じる!!

「ダイブ! ダイブするジャン!!」

 猫は、麻由を、宏明の膝の上に乗るよう促した。

 これで完全にわかった。間違えている。

 間違えかはわからないが、少なくとも我々の世界線の『あいみょん』と、猫の言う『あいみょん』とは差異がありそうだ。

 猫は一通り満足すると、自分の使用している(数日前まで麻由と共有させていたはずだ)落書き帳を取り出した。

 猫がめくったページには、無駄にうまく描けているヨーロッパ大陸の地図があった。
 猫が肉球で指を刺した場所は、ドイツの『Myunhen(ミュンヘン)』の、北西に位置した。
 そこにはニュルンベルグと言う地名が、横線で潰されており、自分で書いたのだろうか。『Haymyonn』と書かれている。

 ……まさかと思うが、これで『あいみょん』と読ませる気なのではないだろうか?

「あいみょん、ドイツ出身のバンドジャン」

 誇らしげに、猫は落書き帳を掲げている。

「……パパ、ドイツにあいみょん って場所があるの?」

「ないよ」

「『あいみょん』ってドイツ語なの?」

「違うよ」

「そうジャン! バカ!」

 猫と宏明の間に険悪な空気が漂うと、

「猫ちゃーん。ちょっといらっしゃい」

 キッチンの方から靖子の声がした。

「シャ……」

 どうやら騒ぎすぎた猫を説教部屋に呼び出したようだ。

 猫は、シュンとしてしまい、プリンちゃんを小脇に抱えて説教部屋に向かっていった。


「……私も『あいみょん』聴いてみようかな」

「……現実世界の『あいみょん』にしときなさい。怪異界の『あいみょん』は教育上よろしくなさそうだ。」
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