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シーズン2
松原8丁目の秘密
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「どうして、学校に行かなきゃいけないの?」
麻由は隣に どしんと佇むカエルに話しかけた。
ここのところ、天気は回復傾向にあったのだが、太陽が二日だけ働くとまた低気圧が覆いはじめ、「これじゃあロンドンだね!」などという冗談が囁かれ始めた。
雨の夕方、神社の境内に座り、麻由は口を尖らせていた。
小二にして、授業についていけない。
表立った いじめ を受けているわけではないが、他の小学生はすでにグループを形成しており麻由はそのどれにも入れそびれた。
20分の休み時間が苦痛に感じ始めていた。
長野に帰れば、一緒に野山を駆け巡る友達が沢山いる。それこそ声を掛け合って……
りょうちゃん、ケータ君、キアラちゃん、ユメちゃん、サカモトちゃん、一人一人の顔と名前を思い出すたびに麻由は泣きそうになり、それを堪えていた。……カエルの前ですら。
そんな麻由のことは見向きもせず、カエルはただ、雨の下で雨など気にも留めずぼーっと空を見上げていた。
「マユちゃん。カエルって、楽しい?」
「グア」
カエルは面倒臭そうに答えた。
「私……」
麻由は境内の木製の「ささくれ」になった部分をいじりながら、切実な思いを口にした。
「私、学校行くのやめようかな。学校に行ったふりして、ここにくるの。そうしたら毎日マユちゃんと遊べるでしょ?」
すると……
「ギョロア、グアンワギャン、ブルルルルル」
とカエルは相変わらず空を見上げながら、今まで聞いたことない鳴き方をした。
「え? どういう返事?」
カエルは、数秒黙り、やがてのっし、のっし、と神社の裏の方に向かって歩き出した。
「え、どこ行くの? マユちゃん」
麻由から見たカエルの横顔は、どこか「ついておいで」と言ってるように見えたため、麻由は雨に濡れながらカエルを追いかけた。
神社の裏側は、外の道路からは高い垣根で見えなかった。なので麻由がここの景色を見るのは初めてである。
……神社の裏に、金網の扉が存在し「危険、立ち入り禁止」と黒字で書いてある看板がかかってあった。
おおよそ神社の中の景色とは思えない景色だ。
ただ、鍵はかかってないのか、カエルが気にせず、頭から「どん」と体当たりをすると、それはあっけなく開いた。
麻由は後を続いて、金網の扉をくぐる。
金網の先には、鉄の扉があった。鉄の扉が、床に設置されていた。
カエルが扉の前で立ち止まり、扉を見ながら、
「グア、ギョロワワンギャ」
と鳴いた。
「え?……開ければいいの?」
あくかなあ……と正直思った麻由だったが、それはあっけなく開いた。鉄のように頑丈なのは間違いないが、重さはアルミのようであり、
小学2年生の少女でも問題なく持ち上げられた。
扉の下は、地下に続く階段が、挨拶もなしにデデン と現れた。人一人が通れる幅の階段だ。
降りた先には赤いランプが灯り、地下室へと通ずる扉が見える。
「グア。マーーーユーーー。グア」
「……あの部屋に行けばいいの?怖いよ」
「グア」
「うん。……怖くないの?」
「グアン」
「わかった。行ってみる」
麻由は、階段を降りた。12段もないちょっとした階段で、手すりまでついていた。
問題なく階段を降り切った麻由は、地下室の扉を開けた……
……
……そこには、麻由が知らない世界があった。
角角したテレビ画面の明かりがそこらかしこに灯り、訳のわからないコードが金網の地面を張っていた。
暗いと思っていた地下室は、LEDの真っ白な電球によって眩しいくらいだった。
あたりには、ピーピーガリガリ……さまざまな音が響いているが、どれも麻由が聞いたことない音だった。
見た事もない機械群が、聞いたこともない音を出して起動している。
部屋の奥で、大きな機械の前に、おじいさんが座っている。
誰かはわからないが、どう考えても神社関係の人ではないことは真由にもわかった。
おじいさんは機械に向かって怒鳴っていた。
「だから!! 小児性リアリティにおける集団バイアスとはなんの話だと言っとるんだ!! ……常識!? そんなものは知らん!!
……貴様今『老害』と言ったか!? ……あ、『障害』ね。『障害』はいはい。
…… ……だから! それだと元も子もないだろと! さっきからそう言っとるんだろうが!! ……待て。ん?」
おじいさんは、回転椅子ごと麻由の方を振り向いた。
サングラスで顔はよく見えないが、頭は禿げ上がっている。
麻由と目があう。
麻由は、目と口を大きく開いて硬直していた。
おじいさんは、小声で「あちゃ!」と言い、頭をかいた。そして、カバーがしてある赤くて大きいボタンを押した。
けたたましい機械音と共に、地下室にガスが吹き込まれていく。
おじいさんは、こう言った気がした。
「ここのことは、だあれにも言うな?麻由」
目が覚めると、夜になっており、麻由はカエルの巨体にもたれかかっていた。
「……あれ?」
「グア」
外から懐中電灯を持った宏明が麻由に駆け込んできた。
「麻由!! どこ行ってたんだよもう!! お父さん警察に行きかけたぞ!!」
それだけではない。アメリカザリガニや、ワンちゃんや、猫ちゃんが、松原8丁目中を走り回って探してくれたという。
麻由は、宏明の顔を呆然と眺めていると、
「ジャーーーーーン!!」
宏明の肩越しから巨大猫が、大泣きして麻由に走り込んできた。
「猫ちゃん、ごめんね」
猫は短い手を精一杯広げて、麻由に抱きついた。
「うむ。姫君が無事で何よりであった。お靖殿に合わせる顔がなくなる故」
「ワン!」
「ごめんなさい」
それにしても、先ほど地下で見た光景はなんだったのだろう?
麻由は、どこか上の空になった。
麻由は隣に どしんと佇むカエルに話しかけた。
ここのところ、天気は回復傾向にあったのだが、太陽が二日だけ働くとまた低気圧が覆いはじめ、「これじゃあロンドンだね!」などという冗談が囁かれ始めた。
雨の夕方、神社の境内に座り、麻由は口を尖らせていた。
小二にして、授業についていけない。
表立った いじめ を受けているわけではないが、他の小学生はすでにグループを形成しており麻由はそのどれにも入れそびれた。
20分の休み時間が苦痛に感じ始めていた。
長野に帰れば、一緒に野山を駆け巡る友達が沢山いる。それこそ声を掛け合って……
りょうちゃん、ケータ君、キアラちゃん、ユメちゃん、サカモトちゃん、一人一人の顔と名前を思い出すたびに麻由は泣きそうになり、それを堪えていた。……カエルの前ですら。
そんな麻由のことは見向きもせず、カエルはただ、雨の下で雨など気にも留めずぼーっと空を見上げていた。
「マユちゃん。カエルって、楽しい?」
「グア」
カエルは面倒臭そうに答えた。
「私……」
麻由は境内の木製の「ささくれ」になった部分をいじりながら、切実な思いを口にした。
「私、学校行くのやめようかな。学校に行ったふりして、ここにくるの。そうしたら毎日マユちゃんと遊べるでしょ?」
すると……
「ギョロア、グアンワギャン、ブルルルルル」
とカエルは相変わらず空を見上げながら、今まで聞いたことない鳴き方をした。
「え? どういう返事?」
カエルは、数秒黙り、やがてのっし、のっし、と神社の裏の方に向かって歩き出した。
「え、どこ行くの? マユちゃん」
麻由から見たカエルの横顔は、どこか「ついておいで」と言ってるように見えたため、麻由は雨に濡れながらカエルを追いかけた。
神社の裏側は、外の道路からは高い垣根で見えなかった。なので麻由がここの景色を見るのは初めてである。
……神社の裏に、金網の扉が存在し「危険、立ち入り禁止」と黒字で書いてある看板がかかってあった。
おおよそ神社の中の景色とは思えない景色だ。
ただ、鍵はかかってないのか、カエルが気にせず、頭から「どん」と体当たりをすると、それはあっけなく開いた。
麻由は後を続いて、金網の扉をくぐる。
金網の先には、鉄の扉があった。鉄の扉が、床に設置されていた。
カエルが扉の前で立ち止まり、扉を見ながら、
「グア、ギョロワワンギャ」
と鳴いた。
「え?……開ければいいの?」
あくかなあ……と正直思った麻由だったが、それはあっけなく開いた。鉄のように頑丈なのは間違いないが、重さはアルミのようであり、
小学2年生の少女でも問題なく持ち上げられた。
扉の下は、地下に続く階段が、挨拶もなしにデデン と現れた。人一人が通れる幅の階段だ。
降りた先には赤いランプが灯り、地下室へと通ずる扉が見える。
「グア。マーーーユーーー。グア」
「……あの部屋に行けばいいの?怖いよ」
「グア」
「うん。……怖くないの?」
「グアン」
「わかった。行ってみる」
麻由は、階段を降りた。12段もないちょっとした階段で、手すりまでついていた。
問題なく階段を降り切った麻由は、地下室の扉を開けた……
……
……そこには、麻由が知らない世界があった。
角角したテレビ画面の明かりがそこらかしこに灯り、訳のわからないコードが金網の地面を張っていた。
暗いと思っていた地下室は、LEDの真っ白な電球によって眩しいくらいだった。
あたりには、ピーピーガリガリ……さまざまな音が響いているが、どれも麻由が聞いたことない音だった。
見た事もない機械群が、聞いたこともない音を出して起動している。
部屋の奥で、大きな機械の前に、おじいさんが座っている。
誰かはわからないが、どう考えても神社関係の人ではないことは真由にもわかった。
おじいさんは機械に向かって怒鳴っていた。
「だから!! 小児性リアリティにおける集団バイアスとはなんの話だと言っとるんだ!! ……常識!? そんなものは知らん!!
……貴様今『老害』と言ったか!? ……あ、『障害』ね。『障害』はいはい。
…… ……だから! それだと元も子もないだろと! さっきからそう言っとるんだろうが!! ……待て。ん?」
おじいさんは、回転椅子ごと麻由の方を振り向いた。
サングラスで顔はよく見えないが、頭は禿げ上がっている。
麻由と目があう。
麻由は、目と口を大きく開いて硬直していた。
おじいさんは、小声で「あちゃ!」と言い、頭をかいた。そして、カバーがしてある赤くて大きいボタンを押した。
けたたましい機械音と共に、地下室にガスが吹き込まれていく。
おじいさんは、こう言った気がした。
「ここのことは、だあれにも言うな?麻由」
目が覚めると、夜になっており、麻由はカエルの巨体にもたれかかっていた。
「……あれ?」
「グア」
外から懐中電灯を持った宏明が麻由に駆け込んできた。
「麻由!! どこ行ってたんだよもう!! お父さん警察に行きかけたぞ!!」
それだけではない。アメリカザリガニや、ワンちゃんや、猫ちゃんが、松原8丁目中を走り回って探してくれたという。
麻由は、宏明の顔を呆然と眺めていると、
「ジャーーーーーン!!」
宏明の肩越しから巨大猫が、大泣きして麻由に走り込んできた。
「猫ちゃん、ごめんね」
猫は短い手を精一杯広げて、麻由に抱きついた。
「うむ。姫君が無事で何よりであった。お靖殿に合わせる顔がなくなる故」
「ワン!」
「ごめんなさい」
それにしても、先ほど地下で見た光景はなんだったのだろう?
麻由は、どこか上の空になった。
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