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二章
139、怪しいお店(ウル視点)
しおりを挟む俺達はイルの誕生日プレゼントを買いに、南商店街まで来ていた。
どうやら俺が思っているよりもデオの怒りは鎮火し始めているので、このままならスムーズに仲直りできる筈だった。
そのお店に着くまでは───。
「えっと、俺が探してたお店は多分ここだ」
そう言ってデオが指差した建物は、大通りにあるにしては地味で少し変わったお店だった。
俺がそう見えたのは、5階建なのにとても細長く異様に窓が小さかったせいだ。
多分だけど、この店の商品にはあまり外から見られたくない物があるという事なのだろう。
そしてデオがそのお店の扉を開けた瞬間、俺はここが普通の店ではないとすぐにわかってしまったのだ。
まず最初に気がついたのは、甘ったるい謎の匂い。
そして売っている商品の名前が異様に長い事や付与されている効果など、とにかく全てが怪しかった。
「ねえ、デオ……本当にこのお店で買うの?」
「ああ、そうだ。王都だとここでしかお願い出来ないみたいだから」
そう言うデオは、たぶん何も気が付いていない。
もしかして普段から怪しいお店に行っている俺だから、すぐに気がついただけかもしれない。
これはちゃんとデオを見張ってないと……。
そう思って俺は、デオの後ろに張り付くようにして階段を登り始めたのだ。
そして店内を見回すと、どうやらこの店は縦に細長いため階段にそって商品が陳列されているようだった。
しかもそれを登り切らないと、カウンターに辿り着けないようになっていたのだ。
カウンターで3階ぐらいだけど、この上は何があるんだろう……?
俺がそう思っている間に、デオはカウンターにいる店員と話し始めたのだ。
「すみません、このブレスレットに付与をお願いしたいのですが……」
どうやらデオは俺の知らない間に商品を手に持っていたようだ。
そしてよく見ると、それは細めのシルバーブレスレットでとてもシンプルなデザインだった。
確かにそれならイルにとても似合いそうだね……。
そう思いながら俺は、店員と話すデオから絶対に目を離さないようにしようと、その後ろで会話を聞くつもりだった。
それなのに、そんな俺の肩を誰かが叩いたのだ。
「お客様、失礼しますがこちらを落とされませんでしたか……?」
そう話しかけられた俺は何か落としただろうかと気になり、つい振り向いてしまったのだ。
そこには柔かに微笑む女性店員がいた。
本当ならすぐにでもデオの方へ向き直りたかったのに、彼女の手には確かに俺の物があったのだ。
「コチラがお客様の真下に落ちておりましたが、違いましたでしょうか?」
彼女が持っていたのは、俺がいつもしている十字架形のピアスだった。
すぐに耳に触れて確かめると、確かに俺の左耳からそれは無くなっていた。
「間違いなくこれは俺のだけど……おかしいな、そんな簡単に落ちる物じゃない筈なんだけどね?」
このピアスはとても大切な物だ。
だから簡単に外れないように、俺の魔力で固定してある。
それなのにそれが緩んだと言う事は、この建物には魔力干渉するような物が置いてあると言う事だ。
確かにこういうお店だと暴れて魔法を使う人も多いだろうし、ただの防犯の一種かもしれない。
それなら、魔力干渉の原因はこの匂いかな……?
俺はそう結論付けながらピアスを受け取った。
しかし何故かその女性は、俺に近づくと上目遣いで話しかけてきたのだ。
「もしかするとピアスキャッチが緩くなってるのかもしれませんので、よろしければ新しいピアスに変えてはいかがですか?」
その女性は手を口元にあてながら、チラチラとこちらを見ていた。その姿に俺は若干引いてしまう。
だってその店員は、どう見ても凄いぶりっ子だったのだから……。
確かに見た目だけなら可愛い方だと思うけど、何もかも計算してる感じが無理。
やっぱりデオみたいに素直で可愛い子がいいよね。
そう思った俺は、すぐに断ろうとした。
「いや、俺には連れがいるんだよね。だから……」
そう振り返って俺は驚愕した。
先程まで店員と話していたデオがいない……!?
俺は血の気が引くのを感じながら、女性店員にワントーン声を落として言ったのだ。
「ねえ、ここにいた客と店員は?」
「申し訳ありません。そちらにいたお客様の話は聞いておりませんでしたので……」
「それは全くわからないって事かな?」
「いえ、もしかすると別の場所へと移られた可能性も考えられます。アクセサリーへの特殊な付与になりますとここでは出来ない為、別室で技術士と詳しく話し合いをする事がございますので……」
少し焦っている姿を見る限り、多分この店員さんはわざと俺を引き止めたわけじゃない。本当にたまたまピアスを拾っただけなのだろう。
だけど、こんな怪しいお店の個室にデオを連れ込まれたのはまずい。
だって俺はここが噂のお店である可能性が高いと、そう思っているのだ。
因みに俺が聞いた噂では、被害にあっているのは皆個室に連れ込まれた人だった。
そして個室に連れ込まれた客は、気がつけば記憶が無くなっており放心状態で帰ってくるらしい。
何をされたのかは誰も覚えていない。だけど大体の人は性器に痛みが残っている事が多いらしく、性的な事をされているのではないかと噂されているのだ。
もしそれが事実なら、デオの体が危ない……!
そう思った俺は内心とても焦っていた。
だから怪しまれないように、笑顔で店員さんに確認したのだ。
「ねえ、俺もその部屋に連れてって貰えないのかな?」
「申し訳ございません。話し合いの途中での入室は不可となっておりまして……技術士の集中力を切らす事のないようにと店長からはキツく言われております。ですので、私のようなスタッフは立ち入る事が許されていないのです」
立ち入り禁止なんて、ますます怪しい話に俺は頭が痛くなっていた。
だけど今はデオの為にも冷静に対処するしかない。
「……そっかぁ、それならしょうがないね」
「あの、それでしたら待ち時間で新しいピアスを探してみてはいかがでしょうか?」
さらに一歩近づいてきた店員は少し顔を赤めながら上目遣いでそう言った。
この人、凄いぐいぐいくるけど……もしかして俺の事でも狙ってるのかな?
最初話しかけられた時から、何度も胸の谷間をわざとらしくチラリと見せてくるから、少し鬱陶しいと思っていたのだ。
だけど俺はその女性店員を見ながら考えた。
俺なら今すぐ建物を破壊してデオを助ける事は出来るだろう。
まあ、このお店には魔法干渉があるようだけど、俺にはゴミみたいな効果だから関係ないしね。
だけど問題は、その方法だと何処にいるかわからないデオまで怪我をしてしまう可能性があると言う事だ。
それならいっその事、目の前にいるお姉さんをさっさと口説き落として、デオのいる場所だけ教えてもらった方が早いよね……?
そう思った俺は、その女性への態度を180度変えて話しかけたのだ。
「そうだね、せっかくだからピアス選びをお姉さんにも手伝ってもらおうかな?」
「は、はい。喜んで!」
正直、この女性の相手をするのは凄く時間の無駄だけど、そのついでにデオと仲直りする為のピアスを選べば一石二鳥だからね。
そう思った俺は焦る気持ちを誤魔化しながら、目の前にいる女を即座に陥落させた。
そして俺は、デオの居場所を上手く聞きだす事に成功したのだった。
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