40 / 110
第三章 調合編
30、その結果(前編)
しおりを挟むすでに調合を始めてから三十分ぐらいが経過していた。
今作っている刻の調律は、完成品だけを見ると腕時計にしか見えないものだ。
そして普通の腕時計との違いは、本当に刻を一瞬だけ止める事が出来る魔術アイテムだという事。
その効果を得るためには、鈍色の魔石を溶かした液体に銀色の歯車を漬け込み、魔術付与された鈍色の歯車にしなくてはならない。そして鈍色の歯車は、魔法陣を描きながら組み立てる事により、刻の調律となるのである。
前半は分量や魔術道具、かき混ぜ方で良し悪しが変わるもの。後半は完全に技量が全てのものだ。
でも俺はルーディアの技量を全く疑ってない。
だから目の前で真剣に大釜をかき混ぜるルーディアを祈るように見つめる。
この付与が成功したなら、きっと全てが上手くいくはずなのだ。
チラリと砂時計を確認すると、その砂は丁度下に落ち切ったところだった。
それを見たルーディアはすぐに火を止め、歯車を大釜から取り出し始めた。
「さて、ここまでは順序通りいっています。あとはこの歯車にしっかり付与がされていればいいのですが……」
「いつもはここで失敗するのか?」
「ええ、まず銀色から鈍色に変わりすらしませんから」
そういいながら引き上げた歯車を冷ますために、トレーに並べていく。
その時点ではまだ歯車は銀色に見えた。
そもそも銀色の歯車自体が既に付与をされたものであり、一般的に使用されることが多いため、市販で大量に売っているものなのである。
だから、それに付与をすること自体が難しいはずなのだ。
「資料にはゆっくり冷やす事で、銀色から鈍色に変わると書いてあったのですが、今までは何度やっても全く色が変わりませんでした。でも、もしかすると冷やし方にも問題があるのかと思い色々試してみましたが、そちらも効果は得られませんでした」
「確かに何が問題かわからないのは困るな。だからこそ今回は成功してほしい……」
俺は祈るような気持ちでその歯車を見つめ続けた。
しかしまだ湯気が出ているそれに変化はない。
「冷えるまで少し時間がかかりますから、少し休憩しましょう。それに歯車がないと次の作業も出来ませんからね」
「む……そ、そうだな」
そういうとルーディアは俺の横に腰掛けた。
よく見るとその顔には、汗のせいで髪が張り付いてしまっている。大釜の前に二十分ぐらい立っていたのだから仕方がないだろう。
だから俺は持っていたハンカチで、ルーディアの額を拭ってやろうと手を伸ばす。
「あ、すみません」
「俺のために頑張ってくれてるんだからな、労ってやらないと……」
「ふふ……」
俺の言葉がおかしかったのか、ルーディアに何故か笑われてしまった。でも労る気持ちは大事だと思うからそれは仕方がない。
せっせと汗を拭き終えると、嬉しそうなルーディアはハンカチを持つ俺の手に、その手を重ねた。
「そのハンカチはこちらで洗ってお返ししますね」
「そんな気にしなくても……」
「いえいえ、僕の汗が染み込んだままの物を渡すわけにはいきませんから」
そんな言われ方をしたら俺も頷くしかない。
ハンカチを受け取ったルーディアは嬉しそうにそれをポケットにしまう。
今のまましまったら汚いのに……自分の汗だから気にしないということだろうか?
そんなことを思ってるなんて気づかずに、ルーディアは改まってこちらを見た。
「それよりもまだ時間がありますので、少しお話をさせて頂いてもいいですか?」
「……何か良い話でもあったのか?」
「ええ、そうなんです。とは言いましても少し後の話なんですけど、セイに最初に伝えておきたくて……」
「わかった、ルーディアの話を聞かせてくれ」
正直、今の俺は緊張していて話を聞いてる気分では無いのだけど、ルーディアが嬉しそうにしているのを見ると、とてもいい話があったことがわかる。
だから俺は少し気になってしまったのだ。
「僕、ようやくSランクの昇級試験を受けられる事になったんです」
「それは凄いじゃないか」
「でもこれもセイのおかげなんです」
「俺は関係ないって、ルーディアの実力だよ」
「そんなことはありません。以前、母を助けるための薬を調合することが出来たと、話をしましたよね?」
確か、ルーディアの母親役をしたときに、言っていた気がする。
正直、あのときのことを思い出そうとすると、俺自身のことまで思い出してしまい、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうになるのだ。
「ああ、聞いた気がする」
「あの薬はSランク推奨の調合薬なんです。ですからそれを調合できたことが認められて、Sランクの昇級試験を受けられることになったんです。そのきっかけを下さったのは、あなたですから……」
「いやいや、でもそれが成功したのは、ルーディアの努力あってのものだ。だからこれは素直にルーディアの力で手に入れたものだし、俺から言えるのは一言だけだ……おめでとう、ルーディア!」
俺は素直に拍手した。だって俺も嬉しかったから。
これでルーディアの夢が、さらに一歩近づいたことになるわけだ。
「……ありがとうございます。僕はセイにとても感謝しているのです。だからあなたに喜んでもらえたなら、それだけで僕は満足なんですよ。ただ……昇級試験を受けるにあたって、一つ困った事がありまして……」
「こんな喜ばしいことなのに、一体何に困っているんだ?」
「実は、今度お城で開かれるパーティーにお呼ばれしてしまったんです」
「パーティー?」
その言葉に何か嫌な予感がした。
以前、兄上が冒険者を集めるパーティーを行うとか言っていたのを思い出す。
いやまさか、でもルーディアは錬金術師だしきっと関係ないはずだ……。
そういう事にして考えるのをやめた俺は、ルーディアが話す内容の続きを聞く事にした。
37
あなたにおすすめの小説
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる