68 / 110
第五章 兄弟編
47、竜と魔法陣(中編)
しおりを挟む兄上達に何度か急かされ、たどり着いた魔法陣の真ん中では、すでに『悪魔の溜息』が鎮座していた。
そして今はその横に『女神の涙』が入った瓶を持つルーディアが立っていた。
「これから『女神の涙』を『悪魔の溜息』に流しかけます。そして浄化エネルギーが行き渡ると魔法陣は徐々に光り始めるはずです。その光が行き届いたら次はこの『祝福の鈴』を鳴らします。この鈴は鳴らすことで魔力をブーストさせる事ができるそうです。そしてさらに光が増したとき、『刻の調律』を起動せよ。と、文献には書いてありました」
「それだけなのか?『刻の調律』が魔法陣の起動に関わっているのはわかるが、誰かの魔力を流したりはしないのか?」
最後まで聞き終えた俺は、不思議に思ったことをルーディアに確認する。
普通、魔法陣は魔力を流すことで完成するはずなのに、この魔法陣は浄化エネルギーとやらだけで使える、という事なのだろうか?
「ええ、不思議な事にその点について、いっさい記述はありませんでした。なのでとりあえず今回は、何も無い状態で試してみます」
「書いてないのなら仕方がないな。実際にやってみるか……」
「では、私が『女神の涙』をかけます。そして魔法陣全体が光り始めたら、ギルランド殿下とシルリオン殿下は『祝福の鈴』をお二人とも鳴らしてください」
鈴を手に持っている二人の兄上は、ルーディアを見て頷く。
「最後にイルは、鈴の効果で魔法陣がさらに光り輝いた瞬間に『刻の調律』を起動させて下さい。これで何が起こるかわかりませんが、やってみるしかありません」
ルーディアの言葉に俺たちは頷きあう。
そして、ルーディアは『女神の涙』をさっそく『悪魔の溜息』に流しかけたのだった。
「これで石化が解け、浄化エネルギーが生まれるはずです……」
少しずつ、石化が解けていくのがわかる。
そして流れ落ちるそれは、魔法陣の上にこぼれていく。
俺はゴクリと息を飲み、その様子を見守るしかできない。
「本当に光るのか?」
「まだ始まったばかりです、静かに見守りましょう」
ギル兄上の疑問に、シル兄上が答える。
でもそれはここにいる全員が思っている事だろう。
いまだにルーディアはゆっくりと、それをかけている。
その姿を見て、どうか光ってくれと俺は祈った。
「……っ!」
その瞬間、『悪魔の溜息』の真下にある魔法陣が薄ぼんやりと光り始めたのがわかった。
それにルーディアが喜びの声を上げる。
「や、やった!光始めました!でも、こんな弱い光で魔法陣全部に行き届くのでしょうか……?」
「それでも光ったのは事実、最後まで気を抜かずにやり遂げましょう」
シル兄上はルーディアの肩に手を置き、二人は少しずつ光が広がっていくのを見守っていた。
俺もハラハラしてその様子を見ながら、これが成功したら本当に呪いから解放されるのだろうか?なんてぼんやり考えていた。
少しずつ大きくなる光に包まれて、ふわふわして実感がわかない。
だから気がついたときには、魔法陣全体が光り輝いていた。
「端まで光が行き渡りました!お二方は鈴を鳴らして下さい」
「任せろ!」
「わかりました」
頷いた二人は、鈴を掲げて軽く振る。
すると鈴はシャラシャラと優しく音をたて始めたと思ったら、ゆっくりとその手から離れて浮かび上がり、勝手に音を響き始めたのだった。
「魔術アイテムとは不思議なものだな」
ギル兄上は手から離れたそれを、不思議そうに眺める。それを俺たちも一緒に眺めていた。
シャランシャラン───。
音は次第に大きくなり、それに呼応するように魔法陣の光も強く輝き始める。
余りの眩しさに目を閉じそうになったが、ルーディアに腕を取られてハッとする。
「イル、今です!!」
『刻の調律』を起動したのと同時に、ルーディアの声は聞こえなくなる。
そして、先程までの眩しかった景色はなくなり、前と同じ真っ青な世界が俺の前に現れたのだった。
でも、少しおかしい。
本来ならば時が止まるだけなので、ルーディア達がそのままいないといけないはずなのに、今は俺一人が真っ青な謎の空間にいる。
そしてここでは、いつもいるはずのマニの存在も感じる事ができなかった。
「まさか、これが魔法陣の効果?」
そうだというのなら、俺は封印されたブルーパールドラゴンの元にでも来てしまったと言うのだろうか?
『その通りである』
突然現れた気配に俺は後ろを振り向く、しかしその存在はどこにも見当たらない。
それに、その声は俺の心の声に返事をしたようにも思えるのだ。
それは、つまり……。
「お前は、ブルーパールドラゴンなのか?」
しかしその声に答えは返ってこない。
だから俺は違うのかと思い謝ろうとしたが、それもすぐに遮られてしまった。
「違ったのなら……」
『いや、あっているのである。……ああ、なんという事だ。こんなことが、また余に会いに来てくれた人間が現れたなんて信じられない!』
ドラゴンなのに、その声は震えていた。
もしかすると感情が昂って声が出なかったのかもしれない。
そう思っていたら、目の前にブルーパールドラゴンが姿を現した。
その青く光るウロコは、この青い世界でもパールのように艶々と輝いて見える。
「よく来てくれた、儚き人間よ。余は、人よりブルーパールドラゴンと呼ばれてきた竜である」
「えっと、初めまして。俺はこの国の第5王子イルレインだ」
「言わなくとも知っておる。余はお前が産まれたその瞬間から、ずっと見ておったのだから……」
ドラゴンなのに、その瞳はとても優しい。
何故俺をずっと見続けていたのか、それには心当たりがある。
「それはブルーパールドラゴンを、封印から解くことができる存在だからか?」
「その通りである。そして儚き人間よ、何故お前のような存在が作り出されたのか、理解できるか?」
「……いえ、全くわかりません」
「ならば教えてやろう。余と人間達の醜い争いの末路を……」
そう言うと、ブルーパールドラゴンは過去の話をし始めたのだった。
23
あなたにおすすめの小説
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる