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第五章 兄弟編

ルーディア視点(後編)

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「あなたが、主につきまとう錬金術師ですね」
「す、スライムが喋った……まさかあなたはインテリスライムなのですか?」
「昔はそうでしたが、今は違います。元は人の姿をしていたのですが、新しい進化を試していたらスライムから戻れなくなってしまった結果ですので、この姿で失礼します。私はイルレイン様の執事をしているスライムで、ライムと申します」

イルレイン殿下の執事がスライム?
このスライムが何を言っているのか僕にはよくわからない。
でも、わざわざ僕の前に現れたのだ。
きっと何か用があるのだろう。

「直球に言わせて貰います。これ以上主を傷つけるのでしたらこの場からすぐに立ち去りなさい」
「え?」
「貴方は主のためにとても尽くして下さっているようなので、まあ少しぐらいなら主に触れても許して差し上げようと思っていました。ですが、そんな簡単に諦められるのでしたら、もっとスパッと諦めて下さい」

初めてあった筈のこのスライムは、何故か僕の事を全て知っているような口ぶりで、僕は驚いてしまう。

「諦めろと言われましても……」
「主に嫌われればいいのです」
「そんな事できません!」
「ならばそんなことで諦めない事ですね。ふん、あなたがどう結論を出したとしても私には関係ありません。最後に主と幸せになるのは、この私ですから……」

言いたい事だけ言うと、そのスライムは僕の元から去っていった。
そのせいで僕の心は荒れていた。

どう頑張っても僕ではセイと釣り合わない。
ならば、僕にはもう嫌われるしか道は残されていないということになる……。


そう思い挑んだ僕は、すでに後悔していた。
目の前には涙を堪えるセイが辛そうに座っていたのだ。
それだけで僕の心は激しく揺さぶられてしまう。

正直、僕が嫌われるだけであれば、セイにどれだけ心を傷つけられてもいいと思っていた。
それなのに、どう見ても傷ついているのはセイの方だ。

そして、セイは勢いよく頭を下げた。
でも僕はそんな姿を見たかった訳じゃない。
だから言葉を返せない僕は、心の中でセイに訴えかけてしまった。

「ルーディア、すまなかった!俺が身分を偽ってたことでルーディアを傷つけてしまった」

謝らないで下さい、僕はそんなことで傷ついてなどいません……。

「それにルーディアは貴族が嫌いだから、もちろん俺のことだって……やっぱ嫌いになったよな?」

あなたのおかげで僕はもう貴族を嫌ってなどいないのです。
こんなことなら、もっと早く言っておくのだったと後悔してももう遅い。

「だから俺の呪いが解けたら、もう二度とルーディアには会わないようにする」

そんなこと言わないで下さい。
嫌われたいのに、声を返したくなってしまいます。

「これでもう、最後にするから……」

もう、やめて下さい!

「やめて下さい」

耐えられない僕の気持ちは、ポロリと口からとび出てしまった。
そのことに気がついた僕は、それまで見ないようにしていたセイの顔を見てしまう。
その顔は僕のせいで涙で濡れていた。
そんな姿を見てしまったら僕の感情は、抑えられる訳がなかった。

「そうやって、涙を流して僕の感情を揺さぶるのはやめて下さい!」

その姿に立ち上がった僕は、すぐにセイを抱きしめてしまった。
やはり僕はセイに嫌われるなんて無理だったのだ。
この想いは、僕にも止められないのだから。
そう思った僕は、セイを傷つけたことを素直に謝っていた。

「……こんなことをしてすみませんでした。本当はどんな理由があろうとも、セイを簡単に嫌いになんてなれなかったのです。でも……気づいてしまったから、僕なんかが好きになってはいけない存在だって……だからあなたに嫌われたかったのです。でもそんな風に泣かれたら、僕には我慢できませんでした」
「……ルーディア」

僕の名前を呼ぶその瞳に、嫌悪感は見られない。
だから僕は縋るようにセイを見つめて確認してしまう。

「一つだけ教えて下さい。僕はあなたのことを、まだ好きでいてもいいのですか?」

返事はなかったけれども、揺れる瞳に僕は吸い込まれるように顔を近づけてしまう。
そして頬に手を添えて、そっと柔らかい唇にキスを落とす。
拒むこともしないセイに僕の心臓はさらに高鳴っていた。

今すぐに、セイを本当の名前で呼びたい。

「セイ、いえイルと呼ばせて頂いても?」
「……あ、ああ」

それだけの事なのにとても嬉しくなった僕は、もう一度本当の名前であるイルに向けて、告白しなおすことにした。

「では改めて……イル、僕はあなたが好きです。例えあなたがどんな人間だとしても、その気持ちは変わりそうにありません」
「でも、俺は……」

言葉が続かずに困ってるイルを見て、僕は思った。
今まで気がつかなかったけれど既にイルは、他の誰かから告白を受けている可能性がある。

でも、悩んでいる今はまだそれでもいい。
イルが誰かを決めるその日までは、僕はもう諦めないと決めたのだから。


だから必ずイルの病気を治して、僕がイルの一番になってみせる。
そう思った僕は、その第一歩として魔法陣を試すため、イルとその会場に向かうことにした。

でもせっかくだからと僕はイルを横抱きにする。
恥ずかしそうに少し嫌がるイルが可愛く見えてしまい、幸せを感じてしまう。
そして気がついた───。

イルと一緒にいるだけで僕はもう、孤独を感じなくなっていたのだと。

このままではいつかこの気持ちが溢れすぎて、イルを襲ってしまいそうだと、僕はイルを抱えながらほくそ笑んでしまったのだった。


















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これでルーディア視点は終了です。
どうしてもこの回の、とあるシーンが必要で書きました。
無くても大丈夫なのですが、読んで頂いた方ありがとうございます。
次からはイル視点に戻りますのでよろしくお願いします。
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