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エピローグ
ダランティリア視点③
しおりを挟むそしてセイが15歳になった頃、その男が現れた。
ウルと名乗ったその男は、セイに一目惚れをしたと鬱陶しい程セイに付き纏っていた。
それなのに、俺がセイから目を離した隙にそいつはセイを襲っていたのだ。
その日、用事がありギルドに遅刻した俺は、ウルがセイを宿屋に連れ出したから急いだ方がいいと、教えられた。
そして辿り着いた宿屋の部屋では、今まさにセイの服を脱がそうとしている最中のウルがいた。
「てめぇ、セイに何しやがる!!」
そう叫び殴り込んだ俺はの手は、簡単にウルに掴まれてしまった。
「あらあら、保護者君が迎えに来ちゃったか~。なら僕は一旦引くよ、このままだと歯止めがきかなくなりそうだしね」
「何言ってやがる!!」
「あは、そう言う態度取られると楽しくなっちゃうからやめてよね~」
そう言って俺から距離をとると、すぐさまウルは部屋からいなくなってしまった。
完全に気配がない事を確認すると、俺は急いでセイのもとへ駆け寄る。
「セイ、大丈夫か?」
「…………だ、ダン?」
「ああ、俺だ。あいつに変なことされなかったか?」
「えっと……押し倒されたと思ったら驚き過ぎて、その後のことはあんまり覚えてない……」
そう言いながらショックを受けているだろうセイの体を、一通り確認する。
セイのつけているローブは前をボタンで止めているタイプだ。
そのボタンが数個外れており、さらにその中の服もボタンが外されて、そのせいでセイの白い肌がチラチラと見えていた。
でもそれ以外は特に乱れたところは見当たらない。
「少し服が乱されただけみたいだな。なおしてやるよ」
そう言いながら、俺はセイのボタンをとめて行く。
俺の手を拒絶しないことから、精神的にそこまで傷ついたわけじゃねぇのか?と少し安心する。
ただ、セイがウルの事を許したとしても、俺は許すことは出来なさそうだと思ってしまったのだ。
その頃から、俺はセイに対して保護対象以外の感情が芽生えていることに気づいてしまった。
側にいたい。守りたい。抱きしめたい。抱っこしたい。キスをして、体に触れたい。
そう思ったときには、これが愛情から来ているものだとすぐに理解した。
でも俺はじっくりとセイを落とすために、その感情を悟られないよう、保護者的な立ち位置で居続ける事を選んだのだった。
それから、俺はセイと距離を変えずに接していた。
しかし最近、セイの周りにはセイのことを好きになっている、男が増えてきている。
それが気がかりだった。
しかしそれよりも、俺は少しずつ焦り出していた。
何故かセイと居られる時間があと少ししかない気がしたからだ。
そのために、俺はセイにピアスを送った。
俺がいなくなっても、その想いは残るようにと……。
そして、その日はついに来た。
部屋で寛いでいた俺は、突然青い世界へと移動していたのだ。
『時は来た。ダランティリアよ、その体返してもらうぞ……』
その声とその言葉に、俺は記憶を無くす前のことを全て思いだしていた。
だから今まで俺に時々声をかけてきていたのが、ブルーパールドラゴンだということもわかってしまった。
そして同時に、俺は叫んだ。
「ブルーパールドラゴン!もう少しだけ時間をくれ!あいつが、全ての素材を集めるまで……いや、別れを言う時間をくれ」
『……よかろう。ただし、次はないのだぞ』
「わかっている」
そう言い終わるころには、俺は部屋へと戻ってきていた。
俺はダランティリアだ。
そうだとはわかっているのに、今の俺はそれを認めたくない。
俺が俺でいられる間に、セイに全てを伝えられるだろうか……。
そう思っているだけで時間は過ぎていった。
そして今日は先程、錬金術師のルーディアとセイの3人でクエストをこなしてきたところだった。
ルーディアはライム程ではないが、嫉妬した後の行動がヤバいやつだと言う事はわかった。
しかし、今の俺が何を思ってももう関係ない。
しかしそんな状態で、その後すぐにウルと出会ってしまった俺は、物凄く機嫌が悪かった。
だからだろうか、ウルに変な質問をされてついムキになってしまった。
「ねえ、お前も俺と同じでセイを狙っているんだろ?」
「そうじゃねぇって何回言えばわかる」
もう何度目かわからない質問に、俺はセイの姿を思い出す。
小さくて可愛い、誰にも渡したくない。
俺のために生まれてきた存在。
そのどす黒い感情は、まるで俺ではない何かから言葉を発した気分だった。
「お前にセイは絶対にやらねぇよ……あれは、俺のだ」
「それは狙ってるのと何がちがうのさ?」
「てめぇは一生知らなくていい事だ」
そう言うと俺は、戻って来ないセイを探しにその場を離れようとして、思いとどまる。
そういえば、今のウルは変だったな。
まるで誰かを待っているような……ってまさかセイか!?
急いで先程の場所に戻ると、ウルは既に動き出していた。
俺はバレないように後ろをついて行く。
そして、とある場所で立ち止まったウルは思った通りセイの前に立っていた。
俺はすぐに出て行こうと思ったのだが、さっきの話をセイに聞かれていた事に体が固まってしまったのだ。
あれをセイに聞かれただと?
あんなドス黒い感情は俺のものじゃねぇ!それなのに、あんな姿セイに見せたくなかった……。
そう思っている間に、セイは壁に追い詰められていた。
そして目の前でウルがセイに顔を近づけていくのが見えた。
「さあ、俺と契約しようじゃないか……」
その言葉に、このままではセイが誓約で縛られちまう!!と、俺の頭は一瞬で理解してしまいその場に咄嗟に飛び出していた。
「ウル、そうはさせないぜ!」
とても焦っていた俺は、自分でも信じられない程の力でウルをそのまま床に押さえつけてしまったのだ。
今までの俺なら、ウルをこんな簡単に這いつくばらせる事はできなかっただろう。
そのことに驚いた俺は咄嗟にセイを見てしまった。
セイが信じられなさそうに俺をみていることに、少し寂しく思ってしまう。
こんな力があったんじゃ、やっぱもう一緒にはいられねぇよな……。
俺はそう諦めると、下で喚くウルにしっかりと言い聞かせるために、セイには先に帰って貰うことにしたのだ。
「セイもいなくなったんだし、いい加減離してもらえる?」
俺達2人だけになった廊下で、ウルが嫌そうに言う。
だけど、今の俺にそんな余裕はなかった。
それよりも、俺がいなくなった後アイツを守れる存在が必要だと思っていた。
だからこんなクソな奴に頼むのは嫌だったけど、話しておくことにする。
「俺と約束してくれたらいいぜ?」
「セイに近づくなって?」
「いや、セイが困ってたら助けてやってくれ。ただし、セイに手を出したらお前の首は簡単に飛ぶと覚えておけ」
「わ、わかってるさ!今回のは少し俺の気持ちがすこーし抑えられなかっただけだから!それにしても、ダンはそんなに強いなら早く言ってよね~」
「一線交えてみない?」なんて軽口を叩くこの男を無視して、俺はとっととギルドを出たのだった。
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