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将棋
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回天、それは魚雷というより小さな潜水艦のようだった。意識だけなのに自分の心臓の鼓動が聞こえてくるようだ。少し前にレプリカを見て来たばかりなのに、やはり本物は違う。これには本当に大量の火薬が積まれているのだ。
『現実なんだね。これが……』
「相良少尉、どうかされましたか?」
奥から若い兵士が駆けて来た。胸に縫い付けられた名前は高野とある。
「いや、何でもない。出撃も近いし、じっくりと感傷にでも浸ろうかと思ってな」
「そうでしたか」
「高野、貴様こそこんな時間に何をしているんだ。皆くつろいでいる時間だろう」
「いえ、新しい防水ゴムが手に入ったので、検品していたところです」
そう言って高野は黒いゴムの塊を相良にかざして見せた。近くでみると、あどけない顔だ。まだ中学生だと言ってもおかしくない。こんな少年が軍で働いているのだ。新一は驚くと同時に自分の不甲斐なさを再認識させられた。
この時代、こんなに若い人達が日本を守る為に親元を離れ、命を懸けて戦っていたのだ。新一はなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。もし万が一、元の世界に戻れる事があったら、精一杯働こう。そう心に誓わずにはいられなかった。
その時、もう一人若い兵士がドアを開けて入ってきた。
「あ、少尉、ここにいらしたのですね。辻本から相良少尉が自分を探しておられたと聞きましたので」
「柳原、俺を探していたのか。悪かったな。だがどうして俺がここにいると分かった?」
「いえ、ここにいらっしゃるのではないかと、そう考えただけであります」
『えっ、爺ちゃん? 爺ちゃんなの?』
その兵士の胸ポケットには柳原と名前が縫い付けられていた。
『そうだ、貴様の話が真実ならば、この男は貴様の祖父だ』相良は新一にそう語りかけた。
『爺ちゃん。本当に爺ちゃんなんだね』
勿論その声が祖父に届くはずはなかったが、新一は嬉しくて泣いた。いや、意識のみで実体がないため、実際に涙がでたわけではないが、泣いたのだ。一人、この世界に意識が飛ばされ、不安と絶望の中、家族に出会ったのだ。張りつめていた緊張の糸が切れた。そんな感じであった。
柳原一飛層は現代の祖父とは似ても似つかない若者であったが、あの写真。そう、出撃の日に撮ったという写真の中にいた、若かりし時の爺ちゃんに間違いない。
「高野君もいたの?」
声も若いが、確かに爺ちゃんだ。
「自分は部品の検品をしていました」
高野は相良少尉にしたように、黒いゴムをかざして柳原一飛層に見せた。
「貴様ら、仲がいいのか?」
「はい、柳原一飛層にはいろいろ教えて頂きました。自分には学がないので、漢字や計算などを。それが楽しくて」
高野は帽子をとって柳原一飛層に頭を下げた。
「嫌だなあ、高野君そんな事、少尉の前で恥ずかしいよ。それに君は俺より将棋が強いじゃないか」
「いえ、将棋の腕は同等です」
高野は少し照れたように頭を掻いた。
「そうだ高野君、後でいいから潤滑油出しておいてくれるかな?」
「はい。でも整備なら自分が」
「いや、俺の的、少し弁が重くてね。油差そうと思っただけだから出しておいてくれたらいいよ」
「わかりました。出しておきます。では失礼します」
そう言って高野は二人に敬礼すると再び走って奥の方に駆けて行った。
『新一、貴様、将棋はできるか?』
『できるよ。爺ちゃんに習ったから』
『そうか』
「柳原一飛層、少しいいか?」
「はい、何でしょうか?」
さっきまでの表情と打って変わって爺ちゃんの表情が緊張したのがわかる。
「戦局は?」
「えっ?」
爺ちゃんはポカンとしている。
「将棋だよ。高野整備兵との勝敗だ」
「あっ、十三勝十四敗で自分が負けています」
「そうか、では私と一局打たないか?」
「えっ? あっはい。私なんかでよろしければ是非よろしくお願いします」
上官を前に緊張している爺ちゃんがなんだか可愛く見えた。
相良は柳原一飛層を従えて無言で士官兵舎に向かった。
「どちらへ?」
「俺達の部屋の隣が今は空き室でな、あそこならゆっくり勝負ができるだろう。談話室などで打って野次馬が出来たらかなわん」
「少尉が将棋好きとは知りませんでした」
「いや、特に将棋好きというわけではないが、次回の出撃隊の同じ仲間として、一度くらい勝負しても構わんだろ?」
「ありがとうございます。光栄です」
そう言った爺ちゃんはとても嬉しそうだった。
『新一、すまない』
『えっ? 何が?』
『柳原一飛層に貴様の事を伝える事が出来ない。上田や岡野中尉の時以上に強い抑止力が働くようだ。貴様の事を伝えようとしただけで、口を開くこともできなる。いや、思考も全て停止する様な感覚に陥る。すまない……』
『そうか……そうだよね。爺ちゃんは僕の直系だ。SF映画とかで見た事があるよ。過去に行った主人公が、どんなに頑張っても自分の両親や祖父母に会う事は出来ない。それは、自分そのものの歴史が変わってしまうから。そんな理由だったと思う』
なんて題名の映画だったか記憶にない。多分B級映画だったのだろう『でも、自分が今こうして経験している以上SFの物語ってあながちSFではなくて、誰かの体験に基づいたものも、あるのかも知れないな。相良君が謝る事じゃないよ。ありがとね』
正直、期待はしていなかった。でも、この時代の爺ちゃんに会えただけでもそれは凄い事だ。
『だが、そのSFの話が仮にでも事実に基づくものならば、過去を旅した主人公は再び元の世界に帰れたという事になる。貴様もまだ諦めるのは早い。諦めたらそこで終わりだ』
『うん、ありがとう』
部屋は綺麗に整頓されていた。相良は隣の自室から上田の将棋盤をとってくると粗末なテーブルの上にそれを置き、二人は対局に腰を下ろした。
「柳原一飛層。以前にも聞いたが、貴様は自分の死に本当に疑問はないか? この戦争、勝てると思うか? 俺に遠慮はいらん。どうせ我々はもうすぐ出撃だ。もう一度、正直なところを聞かせてもらえないか」
相良君……相良君は多分、僕の為に爺ちゃんに問いかけている。
「質問でお返しして申し訳ございませんが、少尉は疑問を持たれておいででしょうか?」
「少なくとも迷いは無い」
相良の答えは柳原一飛層の質問の答えにはなっていなかったが、賢一は話し始めた。
「先日お話させていただいた通り、自分の出撃は家族の弔い合戦と思っております。ですので、迷いも疑問もございません。この戦の勝敗につきましては……自分のような末端の一兵士が意見を述べる立場にありません。ですが、勝利を信じております」
爺ちゃんは言葉を選んでいるが、日本は負けるかもしれない。そう思っているようにも聞こえた。
「そうか……貴様は物事を冷静に判断する能力に長けている。家族を失ったとはいえ、貴様の弟は難を逃れたと聞いた。一人残された弟はどうやって生きていく? 心配ではないのか?」
整然と並べられた将棋の駒を眺めながら相良は言った。
「心配でないと言ったら嘘になります。ですが弟は今、木更津で漁師を営んでいる叔父の家にいます。弟の夢は小さい頃から漁師になる事でした。叔父もそんな弟を昔から我が子のようにかわいがってくれているので、自分は安心しています」
「そうか、立ち入った事を聞いて悪かったな」
相良は腕を組み、頷いた。
「いえ、お心遣いありがとうございます」
爺ちゃん、まだ一九歳だというのにメチャメチャしっかりしている。空襲で両親や兄弟を失ったというのに、毅然としている。そしてこれから回天隊の隊員として出撃するのだ。
新一はそんな爺ちゃんが誇らしくなると同時に、何故もっと沢山、爺ちゃんと話をしておかなかったのだろうと後悔した。もう二度と爺ちゃんと話す事は出来ないだろう。後悔とはこういうものだ。新一は想像の中で、何度も何度も自分を殴った。爺ちゃん、ごめんね……
「では柳原一飛層、貴様からだ」
相良は将棋盤を指さして言った。
『新一、俺は将棋が出来ない。上田に教えてもらった事はあるが、正直に言うと配置すらままならない』
『えっ? 嘘でしょ? マジ? でも、ちゃんと並べられているよ』
『それだってうろ覚えだ。柳原一飛層の真似をしただけだ』
『そうなの? ならどうして爺ちゃんに将棋を挑んだりしたんだよ』
『新一! 貴様が打て! 貴様、祖父に将棋を習ったと言っただろう。俺は貴様の命によって駒を動かす。これは貴様と柳原一飛層の勝負だ』
『相良君……』
『俺は大口叩いたくせに柳原一飛層に貴様の事を伝える事が出来なかった。俺にはこのくらいの事しかしてやれないが、迷惑だったか?』
『ありがとう。メチャメチャ嬉しいよ』
新一は小学生の時、爺ちゃんに将棋を教えて貰った。しばらくは夢中になり、中学生の時の部活も将棋部であった。だが、世の中はテレビゲームや携帯ゲームの時代である。高校生になってからは将棋盤に向かい合う事はほとんどなくなった。だが、今でもたまに爺ちゃんと勝負する事はあった。
『ところで貴様、将棋は強いのか?』
『僕の将棋の師匠は爺ちゃんだよ。自分で言うのも何だけど、いい勝負は出来ると思うよ』
相良君の気遣いが嬉しい。
その晩、相良はなかなか寝付く事が出来なかった。
新一から聞く未来の話は想像を絶していた。夢中になって聞き、気が付くと空が白み始めていた。新一には悪いが、人生の最後にこんな体験が出来るとは夢にも思わなかった。だが、それは自分が特攻で命を落とすからに他ならない。この命と引き換えに日本の未来を知る事が出来た。それも明るい未来だ。まんざらでもない。だが、新一は、何としても元の世界に帰してやりたい。そう思いながらいつしか相良は眠りに落ちていった。
爺ちゃん、いい勝負だったね。現世において爺ちゃんとの将棋の勝敗は五分五分だが、今日は勝った。これから特攻に行く爺ちゃんに花を持たせるという選択肢もあったが、それでは爺ちゃんに失礼だと思った。正直、ギリギリの勝ちだった。爺ちゃん、相良君、ありがとう。
相良の寝落ちと同時に新一の意識も薄れていった。
『現実なんだね。これが……』
「相良少尉、どうかされましたか?」
奥から若い兵士が駆けて来た。胸に縫い付けられた名前は高野とある。
「いや、何でもない。出撃も近いし、じっくりと感傷にでも浸ろうかと思ってな」
「そうでしたか」
「高野、貴様こそこんな時間に何をしているんだ。皆くつろいでいる時間だろう」
「いえ、新しい防水ゴムが手に入ったので、検品していたところです」
そう言って高野は黒いゴムの塊を相良にかざして見せた。近くでみると、あどけない顔だ。まだ中学生だと言ってもおかしくない。こんな少年が軍で働いているのだ。新一は驚くと同時に自分の不甲斐なさを再認識させられた。
この時代、こんなに若い人達が日本を守る為に親元を離れ、命を懸けて戦っていたのだ。新一はなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。もし万が一、元の世界に戻れる事があったら、精一杯働こう。そう心に誓わずにはいられなかった。
その時、もう一人若い兵士がドアを開けて入ってきた。
「あ、少尉、ここにいらしたのですね。辻本から相良少尉が自分を探しておられたと聞きましたので」
「柳原、俺を探していたのか。悪かったな。だがどうして俺がここにいると分かった?」
「いえ、ここにいらっしゃるのではないかと、そう考えただけであります」
『えっ、爺ちゃん? 爺ちゃんなの?』
その兵士の胸ポケットには柳原と名前が縫い付けられていた。
『そうだ、貴様の話が真実ならば、この男は貴様の祖父だ』相良は新一にそう語りかけた。
『爺ちゃん。本当に爺ちゃんなんだね』
勿論その声が祖父に届くはずはなかったが、新一は嬉しくて泣いた。いや、意識のみで実体がないため、実際に涙がでたわけではないが、泣いたのだ。一人、この世界に意識が飛ばされ、不安と絶望の中、家族に出会ったのだ。張りつめていた緊張の糸が切れた。そんな感じであった。
柳原一飛層は現代の祖父とは似ても似つかない若者であったが、あの写真。そう、出撃の日に撮ったという写真の中にいた、若かりし時の爺ちゃんに間違いない。
「高野君もいたの?」
声も若いが、確かに爺ちゃんだ。
「自分は部品の検品をしていました」
高野は相良少尉にしたように、黒いゴムをかざして柳原一飛層に見せた。
「貴様ら、仲がいいのか?」
「はい、柳原一飛層にはいろいろ教えて頂きました。自分には学がないので、漢字や計算などを。それが楽しくて」
高野は帽子をとって柳原一飛層に頭を下げた。
「嫌だなあ、高野君そんな事、少尉の前で恥ずかしいよ。それに君は俺より将棋が強いじゃないか」
「いえ、将棋の腕は同等です」
高野は少し照れたように頭を掻いた。
「そうだ高野君、後でいいから潤滑油出しておいてくれるかな?」
「はい。でも整備なら自分が」
「いや、俺の的、少し弁が重くてね。油差そうと思っただけだから出しておいてくれたらいいよ」
「わかりました。出しておきます。では失礼します」
そう言って高野は二人に敬礼すると再び走って奥の方に駆けて行った。
『新一、貴様、将棋はできるか?』
『できるよ。爺ちゃんに習ったから』
『そうか』
「柳原一飛層、少しいいか?」
「はい、何でしょうか?」
さっきまでの表情と打って変わって爺ちゃんの表情が緊張したのがわかる。
「戦局は?」
「えっ?」
爺ちゃんはポカンとしている。
「将棋だよ。高野整備兵との勝敗だ」
「あっ、十三勝十四敗で自分が負けています」
「そうか、では私と一局打たないか?」
「えっ? あっはい。私なんかでよろしければ是非よろしくお願いします」
上官を前に緊張している爺ちゃんがなんだか可愛く見えた。
相良は柳原一飛層を従えて無言で士官兵舎に向かった。
「どちらへ?」
「俺達の部屋の隣が今は空き室でな、あそこならゆっくり勝負ができるだろう。談話室などで打って野次馬が出来たらかなわん」
「少尉が将棋好きとは知りませんでした」
「いや、特に将棋好きというわけではないが、次回の出撃隊の同じ仲間として、一度くらい勝負しても構わんだろ?」
「ありがとうございます。光栄です」
そう言った爺ちゃんはとても嬉しそうだった。
『新一、すまない』
『えっ? 何が?』
『柳原一飛層に貴様の事を伝える事が出来ない。上田や岡野中尉の時以上に強い抑止力が働くようだ。貴様の事を伝えようとしただけで、口を開くこともできなる。いや、思考も全て停止する様な感覚に陥る。すまない……』
『そうか……そうだよね。爺ちゃんは僕の直系だ。SF映画とかで見た事があるよ。過去に行った主人公が、どんなに頑張っても自分の両親や祖父母に会う事は出来ない。それは、自分そのものの歴史が変わってしまうから。そんな理由だったと思う』
なんて題名の映画だったか記憶にない。多分B級映画だったのだろう『でも、自分が今こうして経験している以上SFの物語ってあながちSFではなくて、誰かの体験に基づいたものも、あるのかも知れないな。相良君が謝る事じゃないよ。ありがとね』
正直、期待はしていなかった。でも、この時代の爺ちゃんに会えただけでもそれは凄い事だ。
『だが、そのSFの話が仮にでも事実に基づくものならば、過去を旅した主人公は再び元の世界に帰れたという事になる。貴様もまだ諦めるのは早い。諦めたらそこで終わりだ』
『うん、ありがとう』
部屋は綺麗に整頓されていた。相良は隣の自室から上田の将棋盤をとってくると粗末なテーブルの上にそれを置き、二人は対局に腰を下ろした。
「柳原一飛層。以前にも聞いたが、貴様は自分の死に本当に疑問はないか? この戦争、勝てると思うか? 俺に遠慮はいらん。どうせ我々はもうすぐ出撃だ。もう一度、正直なところを聞かせてもらえないか」
相良君……相良君は多分、僕の為に爺ちゃんに問いかけている。
「質問でお返しして申し訳ございませんが、少尉は疑問を持たれておいででしょうか?」
「少なくとも迷いは無い」
相良の答えは柳原一飛層の質問の答えにはなっていなかったが、賢一は話し始めた。
「先日お話させていただいた通り、自分の出撃は家族の弔い合戦と思っております。ですので、迷いも疑問もございません。この戦の勝敗につきましては……自分のような末端の一兵士が意見を述べる立場にありません。ですが、勝利を信じております」
爺ちゃんは言葉を選んでいるが、日本は負けるかもしれない。そう思っているようにも聞こえた。
「そうか……貴様は物事を冷静に判断する能力に長けている。家族を失ったとはいえ、貴様の弟は難を逃れたと聞いた。一人残された弟はどうやって生きていく? 心配ではないのか?」
整然と並べられた将棋の駒を眺めながら相良は言った。
「心配でないと言ったら嘘になります。ですが弟は今、木更津で漁師を営んでいる叔父の家にいます。弟の夢は小さい頃から漁師になる事でした。叔父もそんな弟を昔から我が子のようにかわいがってくれているので、自分は安心しています」
「そうか、立ち入った事を聞いて悪かったな」
相良は腕を組み、頷いた。
「いえ、お心遣いありがとうございます」
爺ちゃん、まだ一九歳だというのにメチャメチャしっかりしている。空襲で両親や兄弟を失ったというのに、毅然としている。そしてこれから回天隊の隊員として出撃するのだ。
新一はそんな爺ちゃんが誇らしくなると同時に、何故もっと沢山、爺ちゃんと話をしておかなかったのだろうと後悔した。もう二度と爺ちゃんと話す事は出来ないだろう。後悔とはこういうものだ。新一は想像の中で、何度も何度も自分を殴った。爺ちゃん、ごめんね……
「では柳原一飛層、貴様からだ」
相良は将棋盤を指さして言った。
『新一、俺は将棋が出来ない。上田に教えてもらった事はあるが、正直に言うと配置すらままならない』
『えっ? 嘘でしょ? マジ? でも、ちゃんと並べられているよ』
『それだってうろ覚えだ。柳原一飛層の真似をしただけだ』
『そうなの? ならどうして爺ちゃんに将棋を挑んだりしたんだよ』
『新一! 貴様が打て! 貴様、祖父に将棋を習ったと言っただろう。俺は貴様の命によって駒を動かす。これは貴様と柳原一飛層の勝負だ』
『相良君……』
『俺は大口叩いたくせに柳原一飛層に貴様の事を伝える事が出来なかった。俺にはこのくらいの事しかしてやれないが、迷惑だったか?』
『ありがとう。メチャメチャ嬉しいよ』
新一は小学生の時、爺ちゃんに将棋を教えて貰った。しばらくは夢中になり、中学生の時の部活も将棋部であった。だが、世の中はテレビゲームや携帯ゲームの時代である。高校生になってからは将棋盤に向かい合う事はほとんどなくなった。だが、今でもたまに爺ちゃんと勝負する事はあった。
『ところで貴様、将棋は強いのか?』
『僕の将棋の師匠は爺ちゃんだよ。自分で言うのも何だけど、いい勝負は出来ると思うよ』
相良君の気遣いが嬉しい。
その晩、相良はなかなか寝付く事が出来なかった。
新一から聞く未来の話は想像を絶していた。夢中になって聞き、気が付くと空が白み始めていた。新一には悪いが、人生の最後にこんな体験が出来るとは夢にも思わなかった。だが、それは自分が特攻で命を落とすからに他ならない。この命と引き換えに日本の未来を知る事が出来た。それも明るい未来だ。まんざらでもない。だが、新一は、何としても元の世界に帰してやりたい。そう思いながらいつしか相良は眠りに落ちていった。
爺ちゃん、いい勝負だったね。現世において爺ちゃんとの将棋の勝敗は五分五分だが、今日は勝った。これから特攻に行く爺ちゃんに花を持たせるという選択肢もあったが、それでは爺ちゃんに失礼だと思った。正直、ギリギリの勝ちだった。爺ちゃん、相良君、ありがとう。
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