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2章

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 半妖とは、人と妖怪の間に生まれた子のことである。多くは人の中でも妖怪の中でも生きていくには少し足りない、群れのはみ出し者であった。
 守羅もその例に漏れず、村人との仲は悪くはなかったが、明らかに浮いていた。それも仕方あるまい。守羅は成長が遅かった。守羅の背丈がほんの少し伸びる間に、他の子供は所帯を持っていたのだ。
 守羅には常に噂が付き纏った。最もよく聞いたのが、祖母は本当は母親だという話だ。それについては、否定する材料を持たない。ありうる話だと思った。しかし、祖母は守羅は守羅の母が連れてきた子だと言ったし、守羅も自らの出生については尋かなかった。彼女の教えは処世術でもあり、生き甲斐でもあった。
 丈夫だが力に優れた所がなかった守羅は、ある程度自分の力を扱えるようになると、自警団に入った。そして直ぐに用心棒の仕事も任されるようになった。
 こうして、月日が流れた。
 守羅は異質な存在として、やはり、仲間の中でもどこか孤立していた。
 そんな日々に変化をもたらしたのは、風太だった。
 村の慣習として武術の稽古に通うようになった風太は、指導役だった守羅によく懐いた。守羅も、風太の実力を見て、将来は用心棒にすべきだと考え、熱心に指導した。
 風太は人懐こく、すぐに用心棒達に馴染んだ。しかし、師であり、同時に友人としても付き合いのあった守羅のことも忘れなかった。祖母を亡くした守羅が、それでも村で居場所を失わずにやっていけたのは、風太のおかげだ。

「おい、風太」
「なんだよぉ……」
「なにも、ミヨに追い出される度に俺の所に来なくてもいいだろ」
「ええー、いいだろぉ、守羅はいっつも暇してるんだし。今日も泊めてくれよ」
「お前は俺の親切心に少しは感謝した方がいい」
「わかってるって。いっつもありがとよ」
 風太は酒に顔を達磨のように赤くしたまま例を述べた。いつからだろうか?しょっちゅう家に泊まりに来ている風太が、酒を呑むようになったのは。
「……とりあえず、程々にしておくんだ。明日一番にミヨに謝りに行け。当分、会えなくなるんだろ」
 風太は日華国への長旅が決まっていた。山ほどいる子供達の為とはいえ、酷な事だと思った。
「おう。……守羅、俺がいない間、あいつらを頼む」
「わかった」
 風太は発って行った。
 風太の言葉通り、守羅は度々ミヨを訪ねることにした。男手の必要な仕事を手伝い、子供に耳や尾を触らせてあやした。
 後でわかった事だが、これらは守羅を考えてのことでもあった。おかげで、守羅は風太がおらずとも、用心棒の仲間やミヨに融通をきかせてもらった。
 風太のおかげで、守羅は人と暮らすということを本当の意味で理解したのだ。
 村の外で金髪の子供を拾った時もそうだ。彼女も守羅に多くを教えたが、風太との日々がなければそもそもそれを吸収することが出来なかっただろう。

「……夢か」
 不規則に揺れる荷車の中、守羅は目を覚ます。隣では、莉凛香が何やら術の勉強をしている。
 はやく莉凛香を家族のもとに送り届けてやらねば。ミヨと子供達が父を恋しがっていたように、莉凛香も、莉凛香の家族も再会を待ち望んでいるに違いないのだから。
 そして、仕事が終わったら村に帰ろう。
 きっとあの村では、守羅達がそうしていたように、仲間たちが待っているはずだから。
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