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1章:最悪の旅立ち
夜猫の二拍子舞踏 20
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武器屋の裏手は親子の住居になっていたらしく、リビングらしき部屋で食事を取ることになった。ガジを含めた全員で席に着くと、雑談をしながら料理ができるのを待つ。その間、モラはずっと何かを考え込んでいる様子で、心ここにあらずといった様子であった。
そういえば、食事をする時にモラは外套を脱ぐのだろうか。アイルは気になって、チラと彼女の方を見る。
すると、その視線に気付いたらしいモラは少しだけ恥ずかしそうに身を縮めた。
「……あまり見つめられると、照れる」
「あ、ごめん……!」
「……別に謝らなくていい」
「こらそこ! イチャイチャしない!!」
などとメリスが騒いでいるうちに、昼食の準備ができたらしく、香ばしい匂いとともに湯気立つ料理がテーブルの上に並べられていく。
「ふふ、腕によりをかけて作りました」
メニューは野菜たっぷりのスープにパン、そして焼きたての肉厚なステーキであった。どれもがとても美味しそうだ。特に大きなステーキなど、見ているだけで口の中に唾液が溢れてくる。
メリスに至ってはすでに待ちきれない様子で、早く食べたいとばかりに身を乗り出していた。アイルも思わずゴクリと喉を鳴らす。
すると、そこでようやくモラが外套に手をかけた。現れたのは、長い黒髪の少女。肌の色は聖王国ではあまり見ない異国風な褐色で、服飾店でもわずかに見えた琥珀色の猫目が特徴的に映る。
「さぁ皆さん遠慮せずにどうぞ召し上がってください」
「いっただきまーす!」
スイの言葉を皮切りに、メリスが真っ先に手を伸ばす。その勢いのまま、大きな肉塊をフォークで突き刺すと、一気に口に放り込んだ。
「ん~、おいし!」
幸せそうな顔でモグモグと咀嚼するメリスを眺めながら、アイルも食事を始めた。
(あ、おいしい)
一噛みすると、ジュワッとあふれ出る肉汁。それに負けじと、一緒に添えられた野菜の甘みが舌の上で踊る。
「いつもこんなに豪勢なんですか?」
「いえ、普段はもっと質素ですよ。今日は特別です」
「……私が来る日はいつもこうだから」
控えめに食べ
「ええ。モラちゃんが来る日は特別です」
「…………」
「えっと……どういうこと?」
モラに答える気がないようなのでアイルが訊ねると、スイはそんなモラの様子に苦笑いを浮かべながら答えてくれた。
「実はですね、モラちゃんはうちの父の恩人なんですよ」
「恩人?」
「はい。実は父は武器屋を始める前に軍士として働いていましてね。その頃にモラちゃんに……」
「言わなくて、いい」
ばっさりと横からスイの言葉を遮るモラ。どうやらあまり触れられたくない事のようで、そう言われたスイは「ごめんなさい。私ったらつい……」と謝っていた。
しかし、アイルにはそれが不思議だった。なぜ隠そうとするのだろうか。別に悪いことをしたわけではないのに……。すると、アイルのそんな疑問にそれに気付いたのか、ガジが「知らなくていい」と忠告してくる。
「すみません。とにかく、モラちゃんのおかげで、今の父があるようなものなんですよ。それからもいろいろとお世話になってまして、今でもこうして仲良くさせてもらっているというわけです」
「なるほど……」
ふと疑問に思ったが、モラは一体何歳なのだろう。背丈や外見からアイルよりも年下に見えるが、ひとりで服飾店をやっている事といい、もしかすると見た目以上にお姉さんの可能性がある。
そういえば、食事をする時にモラは外套を脱ぐのだろうか。アイルは気になって、チラと彼女の方を見る。
すると、その視線に気付いたらしいモラは少しだけ恥ずかしそうに身を縮めた。
「……あまり見つめられると、照れる」
「あ、ごめん……!」
「……別に謝らなくていい」
「こらそこ! イチャイチャしない!!」
などとメリスが騒いでいるうちに、昼食の準備ができたらしく、香ばしい匂いとともに湯気立つ料理がテーブルの上に並べられていく。
「ふふ、腕によりをかけて作りました」
メニューは野菜たっぷりのスープにパン、そして焼きたての肉厚なステーキであった。どれもがとても美味しそうだ。特に大きなステーキなど、見ているだけで口の中に唾液が溢れてくる。
メリスに至ってはすでに待ちきれない様子で、早く食べたいとばかりに身を乗り出していた。アイルも思わずゴクリと喉を鳴らす。
すると、そこでようやくモラが外套に手をかけた。現れたのは、長い黒髪の少女。肌の色は聖王国ではあまり見ない異国風な褐色で、服飾店でもわずかに見えた琥珀色の猫目が特徴的に映る。
「さぁ皆さん遠慮せずにどうぞ召し上がってください」
「いっただきまーす!」
スイの言葉を皮切りに、メリスが真っ先に手を伸ばす。その勢いのまま、大きな肉塊をフォークで突き刺すと、一気に口に放り込んだ。
「ん~、おいし!」
幸せそうな顔でモグモグと咀嚼するメリスを眺めながら、アイルも食事を始めた。
(あ、おいしい)
一噛みすると、ジュワッとあふれ出る肉汁。それに負けじと、一緒に添えられた野菜の甘みが舌の上で踊る。
「いつもこんなに豪勢なんですか?」
「いえ、普段はもっと質素ですよ。今日は特別です」
「……私が来る日はいつもこうだから」
控えめに食べ
「ええ。モラちゃんが来る日は特別です」
「…………」
「えっと……どういうこと?」
モラに答える気がないようなのでアイルが訊ねると、スイはそんなモラの様子に苦笑いを浮かべながら答えてくれた。
「実はですね、モラちゃんはうちの父の恩人なんですよ」
「恩人?」
「はい。実は父は武器屋を始める前に軍士として働いていましてね。その頃にモラちゃんに……」
「言わなくて、いい」
ばっさりと横からスイの言葉を遮るモラ。どうやらあまり触れられたくない事のようで、そう言われたスイは「ごめんなさい。私ったらつい……」と謝っていた。
しかし、アイルにはそれが不思議だった。なぜ隠そうとするのだろうか。別に悪いことをしたわけではないのに……。すると、アイルのそんな疑問にそれに気付いたのか、ガジが「知らなくていい」と忠告してくる。
「すみません。とにかく、モラちゃんのおかげで、今の父があるようなものなんですよ。それからもいろいろとお世話になってまして、今でもこうして仲良くさせてもらっているというわけです」
「なるほど……」
ふと疑問に思ったが、モラは一体何歳なのだろう。背丈や外見からアイルよりも年下に見えるが、ひとりで服飾店をやっている事といい、もしかすると見た目以上にお姉さんの可能性がある。
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