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プロローグ

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 私の嫌いなヤツがいた。
 そいつが1人、バイオリンを弾いていた。

 パッヘルベルのカノン。

 私はその優しくて壮大な調べに惹かれるようにして、彼の立つ丘へと上った。
 その途中で、私は彼と目があった。音が消えた。

 彼は何かを言いかけようとした。
 私はどうしていいのかさっぱりわからなくなって、結局そのまま駆け足で引き返してしまった。

 後になって思えば、まさにこの瞬間だったんだと思う。

 私の「嫌いなヤツ」が「気になるヤツ」に変わったのは。
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