垢BAN転生【最強に飽きたので次は最弱で世界を謳歌します!】

青衣

文字の大きさ
2 / 22
第二章・チュートリアル

実家感覚でリスポーンしました

しおりを挟む
   ――涼しい風が吹き付ける……。

  このゲームにおいてのスタート地点である【リスト村】の広場の中央でたたずんだまま、プレイヤーは意識を取り戻した。
   断片的にだが、記憶はすべて消されてないまま引き継がれていたのが幸いをなしたようなのだが、プレイヤーは即座に逃げようとしたのだが設定されたストーリーからは逃れることはできない。

 「おお、目覚めたかね? ずっと広場でボーッと突っ立っておったものじゃから、心配していたのだ。」

   一人の老人が心配そうにプレイヤーを見つめるも、何も心配は要らないと伝えると安堵した表情で胸を撫で下ろす。
   プレイヤーもこの老人が面倒なことを事前に知っているために適当に話を切り上げては、長々と続くチュートリアルを聞かずに済んだのか胸を撫で下ろし、その場をさっそうと離れようときびすを変えそうとするもお決まりの事を聴かれる。

 「そういえばお主はこの村では見かけないな? ……さて、その身なりからすると冒険者じゃな?」

   軽いインナーの軽装に初期ジョブの剣士の為の木の剣が腰に沿えてあるのを見て、老人は眼を丸くしている。
   当たり前のように神剣カルヴァドスは無くて、あの鋼独特の重みが恋しい。

 「そうだな、冒険者だな。」

   話を流そうと圧倒的な棒読みで受け答えはするものの、少しだけ違和感が生じたプレイヤー。
   通常のプレイとは何か違ってエヌ・ピー・シーの言葉に心がこもっているのが感じられ、台詞も何かしら違うのだから、本来のルートを少し外れてプレイしているのだ。

   つまりは、チュートリアルの長ったらしい話を聞かなくて済むように会話をある程度ならねじ曲げる事が可能だということだ。

 「ほぉ、珍しい。」

   老人は頷くもプレイヤーはどうでも良いどころかツッコみたいが、それではメタすぎると、何でやねんの右手を押さえ付ける。

   ――このゲームの冒険者、五千万人も居るから珍しくもなんとも無いんだよな。

 「そ、そうなんだ……へぇ、珍しいねぇ。」

 「まぁ、こんな辺境の村じゃからな。 冒険者など都市部まで出払ってしまうから、珍しいんじゃよ。」

   確かに思えばそうである、こんな村など序盤のクエストさえ終わればあとは用済みなので金輪際来たくもないだろう。
   村には若者はほぼ居らず、お爺さんお婆さんばかりの寂れた高齢化社会の具現なものに何を期待して滞在しろと言うのだから。

 「さてと、長話になってしまったな。 ワシは【ボム】じゃよ。 この近くで爆弾屋を営んでおる。 まぁ、気軽にボム爺さんと呼んでおくれ。」

 「よろしくな、ボム爺。」

   ネットの界隈ではこのお爺さんは敬意を払って【ボム爺】と呼んでいる。
   
 「さて、お主は?」

   このイベントはねじ曲げることはできなかったようだが、プレイヤーネームを決める大切な儀式だと思えば当たり前だと納得する。
   この儀式だけでも数十分は考え込む人も少なくはないのではないだろうか。

 「俺は……あー……あ、【アルマ】だよ。」

   プレイヤーは魔王と同じ名前を付けたようで、ボム爺もたいそう驚いている様子である。

 「なっ、アルマとな!? 魔王と同じ名前など……縁起が悪いのう。 お主の親の顔が見てみたいわい。」

   もちろんながらこのエヌ・ピー・シー達はこの世界を当たり前のように現実として区別しているため、アルマが操作されたキャラとは誰も思いもしないし、親なんてこの世界には存在しない。

 「そ、その頃は魔王は居なかったから。」

   適当にごまかすも、なぜだか解らないがストーリーのねじ曲げが発生し、本来誰にも語られることの無い運営の公式歴史が繰り広げられる。
   
 「冗談を言いなさんな、魔王は千五百年前にこの地に降り立ったのだぞ? お主のような若造が産まれているわけがない……ハッハッハ。」

   非常にウザいのである。
   アルマは一応現実でもこのゲームのファンとしてゲームの公式ガイドブックを全冊持っているつもりだが、そんな設定など書かれているはずもなかった。

   しかしよくよく考えると大変なことを思い出す。

 「ってことは魔王は千五百歳の年増のババァじゃねぇかっ!?」

   愛する人の知りたくもない実年齢を生々しく聞かされたアルマはたまったものではない。
   
 「な、なんじゃ急に大声をあげよって……。」

 「あー……、すんません。」

   ――そんな、アルマさんは年増のババァだったなんて……、運営許すまじ。

   黒いオーラが出る勢いでアルマが赤い瞳をゆらゆらと揺らめかせるも、そろそろ本当のルートだと十分と立ち話してれば起こるイベントがあるのだからキョロキョロと辺りを見渡す。

 「ん? どうしたんじゃ?」



 【カンカンカーンッ!!】



   大きな鐘の音が村の広場に甲高く鳴り響くこの合図は、魔物の襲撃の合図であり、戦闘のチュートリアルが本来は始まるところ。

 「ま、魔物じゃあっ!?」

   広場の柵が破壊されて出てきたのはチュートリアルでお馴染みのスライム……ではなく、かなりこの世界では強く、中盤の中ボスの【タイラントグリズリー】が筋肉モリモリの右腕を振るっては次々と民家や柵を破壊して行く。

 「なっ、本来のストーリーと違う!?」

   タイラントグリズリーは攻撃力が高くソロではかなり苦戦するために、中盤でもある程度レア度の高い装備や武器が無くては厳しく、マルチ前提で行かなくては普通にストーリーを進めただけのレベルなら、ギリギリにまで勝てなくなっているように設定されているモンスター。

   レベル一のアルマにはどうすることも出来ないが、このままでは村が全滅するどころかゲーム事態が壊れてしまう可能性も考えられるとなると、覚悟を決めてやるしかないのだ。

 「くそっ!!」

 【バシッ! 1DAMAGE】

   バシッとタイラントグリズリーの右腕を攻撃するも、攻略チャートでは百万弱の体力を誇る強敵に理論上耐久できるステータスでもないアルマは足腰が震える。

   ――くっ……。

 「アルマよ……、逃げよう。 勝ち目はないし、命はひとつしかない。 それに村は破滅しても復興すれば良いだけじゃ。 今は都市から救助が来るのを待とう……。」

 「それはダメなんだぜ……、この村は俺が守らなきゃいけないっ! 崩壊なんてバッドエンドなんて……くそ食らえだぁああああぁぁぁぁっ!!」

   木製の剣言えども本気で凪ぎ払うだけなら相当なダメージを負わせることだって過言ではないが、それはあくまでも小型の生き物に限り、ましてやゲームのようにあからさまな体力設定があるような者には通用しないとわかっていても、やるしかなかった。

 【ズバッ! 21DAMAGE】

   攻撃力が五のアルマにとっての会心の一撃は本来のレベル一のキャラでは出し得ないような火力を叩き出す。
   それでも百万弱の体力を誇る強敵からしてみれば、二十一ダメージなど蚊に刺された程度のものだろう。

   しかし……。

 「グ、グォオオッ!?」

   タイラントグリズリーが切り傷ができた右腕を押さえながら走って逃げて行くではないか。
   本来であれば攻撃を一回でも加えたなら、怒りで自身に攻撃のバフを付与するパターンなのだが、それもストーリーをねじ曲げる今のアルマに出来ることが功をなしたのか、ホッと一安心しては座り込むアルマ。

 「や、やったのか……?」

 「そのようじゃな、む……村の損害は最小限に留まったが、復興には二ヶ月はかかるであろうな。」

   倒壊した民家や柵が無惨にも木片と化している中で、疲弊してならないアルマはせめて本来にあるはずのない出来事でストーリーをねじ曲げてしまったお詫びとして片付けを率先して手伝うことに。

   ただしストーリーをねじ曲げたと言うことを口に出さずにして、ただただ、タイラントグリズリーを退けた英雄として称賛される事に心を痛めながらも夜を迎えようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...