ギガシス スリー

ミロrice

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──いたぞ!
 煌は上空から、海上に怪獣が立てる波紋を発見した。
 すでに房総半島を回って、東京までは海を進んで一直線の地点だ。
〝またタンカーじゃないだろうね?〟
 二度ばかりタンカーが引く白波を見間違えた煌だったが、これは視力ではなく思い込みの問題だ。
──今度は間違いない!
 しっかり怪獣の影が見えるし、ヘリコプターが数機飛んでいる。自衛隊とマスコミのものだ。しかし──。
──ううむ、巨大化すると巻き込んでしまうぞ。急降下してドロップキックしたかったのに。
〝多少の犠牲はやむを得なくはないんだろうな〟
──あまり前だ。よし。
 煌は怪獣から距離を取り、高度を下げた。
──巨大化だ!
〝うむ〟
 身長五十メートルほどになると、海面から十メートルほどの高さを、怪獣に向かって飛んだ。怪獣の後方から近づく形になる。
──背後から急襲とは不本意だが仕方がない。
 ぐんぐんと怪獣が近づいてくる。
 煌はくるりと宙返りすると、足を先にして飛行する体勢になった。
──サムライ・ギガス・ドロップキッーック!
 怪獣は気配を感じたのか、素早く海中に潜った。
──なっ!?
 煌が海面に突っ込み、巨大な水柱が立った。

  ☆ ☆ ☆

『うわあっ! なんでしょう!? 海面が爆発したんでしょうか!? なにも見えません!』
 テレビ画面は一面真っ白だった。ヘリコプターから外を映す映像だ。
 水滴が画面に着いたようになって、映像が歪む。
「な、なんだ? なにがあった?」
 首相が言ったが、答える者はなかった。
『中継の高木たかぎさん、ちょっと待ってください。こちらで映像を確認してみましょう」
 画面はテレビ番組のMCに移った。すぐに海面を進む怪獣を上から映すVTRに変わる。怪獣は画面の右上へと進んでいる。
 怪獣の姿が海中へ消えた。
『あ、潜りましたね』
 次の瞬間、画面は真っ白になった。
『ここです! スローにできますか!?』
 映像が巻き戻り、怪獣が現れた。怪獣が水面下に消えたところからスローになる。なにか黒い影が左下から飛び込んできたように見えるが、速度が早すぎてモーションブラーがかかっている。
『なんでしょうか?』
「なんだ、あれは?」
 MCと首相が同時に言った。
 映像はコマ送りになり、水柱が上がる直前で静止画像になった。斜めに延びるなにかは、画面下で見切れているようだ。
「あ」
 と声を上げたのは、JAXAの額田じゃない方の技官だ。
「ん? わかったのかね?」
「人の脚じゃないですか? 逆さまになっている人の」
「んん?」
「ああ!」
「なるほど、そう見えますな」
 何人かから声が上がるが、首相にはわからなかった。
「……わかるかね?」
 首相は小さな声で隣の副首相に聞いた。
「ええ、ほら、こんな形で」
 副首相は左手の指を二本立てると、右上に向かってつんつんして見せた。
「んー?」
 首相ははてな顔だ。
「しかし、人にしては大きすぎないか?」
「それに、黒い全身タイツを着てるみたいに真っ黒」
「つまり──」
「サムライ・キガスだ!」
 やっとわかった首相が叫んだ。
「そうか、ちっこいのをどうとかじゃなく、でかいのを倒せばいいんだな」
「正確に言うと、倒してもらうですけどね」
「うるさい。──頼むぞ、サムライ・ギガス」
 画面は水煙の消えたライブ画像に戻り、白く泡立つ海面を映していた。

  ☆ ☆ ☆

──くっそ! うまくけやがったな!
 煌は海中にいた。視界はあまり利かず、怪獣の姿も見えない。
〝うーん、偶然とは思えないな、それほど感覚が鋭いとは思っていなかったが……〟
──やつはどこだ!?
〝近いぞ!〟
 ブラックの意識が怪獣の方向を捉えた瞬間、煌の右脇腹へと衝撃が走った。怪獣が突進してきたのだ。
──ぐわっ!
 怪獣の牙は煌の皮膚には突き通らないが、痛みと衝撃に煌は叫んだ。怪獣はそのまま押してくる。かなりの速度で、水の抵抗もあり、煌は怪獣の鼻面から逃れられない。
──こ、こいつっ。
 煌はチョップを怪獣の頭に放つが、水中では威力が出なかった。
 怪獣は斜め上に向かい、煌と怪獣は海面から飛び出した。
「どわー!」
「デアッ」
 煌は海に落ちて、上も下もわからなくなった。目の前は泡だらけだ。
〝また来る!〟
──くそっ! ぐわあ!
 怪獣の鰐のような尻尾が、煌の背中を強く打った。怪獣はすぐに煌から離れた。
──やつは素早いぞ!
〝ああ、海中では不利かもしれないな〟
──陸上か浅瀬で闘うしかないか?
〝そうだな〟
 怪獣は煌を警戒するように周りを泳いでいたが、すぐに遠くへ向かいはじめた。東京に向かうのだ。
〝シャークたちの方が小型怪獣を捕まえることに期待しよう〟
──そうだな。よし、小さくなろう。
 煌は人間サイズになって、怪獣を追った。

  ☆ ☆ ☆

 宗介と紗和は、だいぶ怪獣との闘いに慣れてきていた。
──うおおおおおっ!
 紗和は怪獣の脇腹に、左右のパンチを連打していた。
──よいしょお!
 宗介は捕まえたままの怪獣の頭部に、膝蹴りや肘打ちを喰らわせていた。
 ついに怪獣の脚がくずおれ、怪獣は横倒しに倒れた。
──やったあ!
 紗和が両手を挙げて飛び跳ねると、大きな胸がゆさりと揺れた。
──可哀想だけど、こいつも多くの犠牲者を出したからね。
 宗介は静かに怪獣を見下ろした。
 怪獣はダウンをしたものの、眼は開いて宗介を見上げているし、胸は大きく上下して荒い呼吸を続けている。
──よし、運ぶとしよう。どこへ運べばいいのかな?
〝海岸沿いの、広い場所がいいな〟
──んー、そんなとこ、あるかな? まあとにかく、行ってみよう。僕が運ぶよ。
──はい、お願いします。
 宗介は怪獣の脚を掴むと、空中に浮かび上がった。
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