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3皿目 マンドラゴラのポトフ
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出来上がったマンドラゴラのポトフを全員に配り終える頃には、テオの畑作業も終了した。
「お疲れ様」
リリアナが笑顔で差し出したポトフを、テオは無言で受け取る。
寡黙であまり感情を表に出さないハリスに、初心者たちの命を危険にさらした件で強く叱責されたことを反省しているのなら、ずいぶん成長したわねとリリアナは内心喜んだ。
しかしテオが呟いた言葉でそれがあっさり砕かれる。
「ひとりで倒せると思ったのに……俺もまだまだだな」
「ちょっと! 反省すべき点が違うでしょう?」
己の浅慮を反省しても、他人に迷惑をかけたことはどうでもいいと思っているテオの様子に呆れてしまう。
「テオにおかわりなんてあげないからね!」
「待てい! 俺の方が先におかわりしてやる!」
テオはマンドラゴラの顔にかぶりついた。
たまたま顔の部分が当たってしまった他の初心者たちはおっかなびっくりの様子で恐る恐る口へ運んでいるが、テオはお構いなしだ。
リリアナも苦笑しながらポトフを食べ始める。
煮込まれて半透明になったマンドラゴラはとろけるように柔らかくなっており、スープがしっかりしみ込んでいる。
奥歯で潰すように噛むと、マンドラゴラの甘みとスープの旨味がジュワっと口の中にあふれる。全ての具材の甘みと旨味が最大限に引き出され、それが凝縮した味わい深いスープだ。
カリュドールのパンチェッタもちょうどいい塩加減で、主張しすぎずにほかの具材との調和を保っている。
優しい味わいにホッとして肩の力が抜けていく。
おかわりをしたのはリリアナとテオだけではなかった。
ガーデン料理を始めて食べる初心者も多かったが、こんなに美味しいものだとは思っていなかったと言いながらこぞっておかわりをしていたのだった。
みんなが笑顔でポトフを食べている様子を一通り見てから、ハリスはようやくポトフを口にしていた。
あり得ないハプニングを起こしてしまったことに関して、表情には出さなかったものの彼はひどく動揺していたのかもしれない。
どうしてマンドラゴラがあんなに急成長していたのかという疑問と、テオの暴走を咄嗟に止められなかった反省、もしも初心者たちが巻き込まれていたらと想像して押し寄せて来る恐怖。
責任感の強いハリスのことだから、リリアナ以上にそれを強く感じているだろう。
ポトフを食べてホッと表情を緩めるハリスの様子を見て、マンドラゴラにはもしかすると気持ちを落ち着かせる効果もあるのかもしれないと思うリリアナだった。
「みなさん、お疲れさまでした。では精算所で素材の清算を済ませて退場してくださいねー。売りたくない素材はマジックポーチから出して手に持って退場してください。持てないほど大きな物や重い物は有料の配送サービスもあるのでぜひご利用ください」
エミリーが商売っ気たっぷりに締めくくって初心者講習会はおひらきとなった。
カリュドールとマンドラゴラで活力を得たテオが、どこでどう暴れようかとソワソワしている。
そんなテオにエミリーが近づいた。
「さあ、テオさん。あなたにやってもらわないといけないことがあります」
エミリーの笑顔を見て嫌な予感がしたのか、テオは後ずさりしようとする。しかし、いつの間にかその背後にハリスが立っていた。
「もちろん協力します」
ハリスは逃がさないぞと言うようにテオの両肩に大きな手を置いてにっこり笑った。
テオの嫌な予感は当たった。
なぜマンドラゴラが急成長したのかあらゆる可能性を検証するために、この後1カ月間、毎日土を耕し続けるテオの姿があった。
(3皿目・完食)
「お疲れ様」
リリアナが笑顔で差し出したポトフを、テオは無言で受け取る。
寡黙であまり感情を表に出さないハリスに、初心者たちの命を危険にさらした件で強く叱責されたことを反省しているのなら、ずいぶん成長したわねとリリアナは内心喜んだ。
しかしテオが呟いた言葉でそれがあっさり砕かれる。
「ひとりで倒せると思ったのに……俺もまだまだだな」
「ちょっと! 反省すべき点が違うでしょう?」
己の浅慮を反省しても、他人に迷惑をかけたことはどうでもいいと思っているテオの様子に呆れてしまう。
「テオにおかわりなんてあげないからね!」
「待てい! 俺の方が先におかわりしてやる!」
テオはマンドラゴラの顔にかぶりついた。
たまたま顔の部分が当たってしまった他の初心者たちはおっかなびっくりの様子で恐る恐る口へ運んでいるが、テオはお構いなしだ。
リリアナも苦笑しながらポトフを食べ始める。
煮込まれて半透明になったマンドラゴラはとろけるように柔らかくなっており、スープがしっかりしみ込んでいる。
奥歯で潰すように噛むと、マンドラゴラの甘みとスープの旨味がジュワっと口の中にあふれる。全ての具材の甘みと旨味が最大限に引き出され、それが凝縮した味わい深いスープだ。
カリュドールのパンチェッタもちょうどいい塩加減で、主張しすぎずにほかの具材との調和を保っている。
優しい味わいにホッとして肩の力が抜けていく。
おかわりをしたのはリリアナとテオだけではなかった。
ガーデン料理を始めて食べる初心者も多かったが、こんなに美味しいものだとは思っていなかったと言いながらこぞっておかわりをしていたのだった。
みんなが笑顔でポトフを食べている様子を一通り見てから、ハリスはようやくポトフを口にしていた。
あり得ないハプニングを起こしてしまったことに関して、表情には出さなかったものの彼はひどく動揺していたのかもしれない。
どうしてマンドラゴラがあんなに急成長していたのかという疑問と、テオの暴走を咄嗟に止められなかった反省、もしも初心者たちが巻き込まれていたらと想像して押し寄せて来る恐怖。
責任感の強いハリスのことだから、リリアナ以上にそれを強く感じているだろう。
ポトフを食べてホッと表情を緩めるハリスの様子を見て、マンドラゴラにはもしかすると気持ちを落ち着かせる効果もあるのかもしれないと思うリリアナだった。
「みなさん、お疲れさまでした。では精算所で素材の清算を済ませて退場してくださいねー。売りたくない素材はマジックポーチから出して手に持って退場してください。持てないほど大きな物や重い物は有料の配送サービスもあるのでぜひご利用ください」
エミリーが商売っ気たっぷりに締めくくって初心者講習会はおひらきとなった。
カリュドールとマンドラゴラで活力を得たテオが、どこでどう暴れようかとソワソワしている。
そんなテオにエミリーが近づいた。
「さあ、テオさん。あなたにやってもらわないといけないことがあります」
エミリーの笑顔を見て嫌な予感がしたのか、テオは後ずさりしようとする。しかし、いつの間にかその背後にハリスが立っていた。
「もちろん協力します」
ハリスは逃がさないぞと言うようにテオの両肩に大きな手を置いてにっこり笑った。
テオの嫌な予感は当たった。
なぜマンドラゴラが急成長したのかあらゆる可能性を検証するために、この後1カ月間、毎日土を耕し続けるテオの姿があった。
(3皿目・完食)
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