白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美

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ロイさんとの出会いを思い出しました②

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 ダンジョンの入り口まで来ると、エルさんは入場の決まり事やダンジョン内で起こった想定外のハプニングをおもしろおかしく語ってくれた。
 その話に熱心に耳を傾けて笑っていたわたしは、ロイパーティーのビジター扱いで入場したことはおろか、地下40階まで一気に転移したことにすら気づいていなかった。

「じゃあ、あそこで鍵を受け取って来て」

 エルさんにそう言われた時も、まだここが1階の受付の延長だと信じていたほどだ。
 BAN姉さんの風貌を「なんか、いかにもレジャーランドの受付嬢って感じ」とまで思っていたのだから。

「こんにちは。鍵をいただけますか?」
 冒険者カードを見せながらそう告げると、BAN姉さんが薄っすら笑ったように見えて、気づくといつのまにか手に真鍮の鍵を握っていた。

 消えてゆくBAN姉さんに向かってありがとうございますとお礼を言って3人の元へと戻ると、ロイさんにいきなり抱きしめられた。

「すげえ! おまえ、すげえな!」
 男性にこんなにも情熱的に抱きしめられるのはこれが初めてだったわたしは、どうしていいかわからずに棒立ちのままロイさんを見上げた。
 彼が少年のような顔で笑っている。

 しかしロイさんの機嫌がよかったのはここまでだった。
 彼は、ボスクリア者専属になってしまうというペットの所有権をどうにかして自分のものにしたいと目論んでいたのだ。
 ロイさんは、わたしから鍵を受け取って宝箱を開け、タマゴを取り出した。

 そこまではよかったのだが、そのタマゴから生まれた、中にどうやって収まっていたんだろうという大きさの緑毛のクマは、ロイさんの顔を見るなり明らかに怒った様子でいきなり強烈な左フックをかまし、ロイさんのことを吹っ飛ばしたのだった。

 何が起きているのかさっぱりわからないわたしは、ダンジョン1階の「山分けスペース」でようやくエルさんから説明してもらって大まかな事情を把握した。

 こういう時は正直に言わないとダメだとかなんとか、さっき言っていたのは誰だっけ?
 わたしの了承も得ずに横取りするつもりだったのなら殴られて当然だわ。

 くまーと名付けたわたしのペットをもふもふ撫でながらロイさんを一瞥すると、彼はばつの悪そうな顔で横を向く。

 確かに宝の持ち腐れではある。
 ダンジョンでお役立ちのペットをド素人が持っていても、便利機能を活かしきることはできないだろう。

「わたしも譲れるものなら譲りたいぐらいですけど、無理みたいなので仕方ないですね」
 地下40階をクリアして次に進めるようになっただけでも、ありがたいと思っていただきたい。

「ではわたしはこれで失礼します。貴重な体験をさせてもらって楽しかったです。ありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げて帰ろうとしたところで、一緒にくまーをもふもふしていたエルさんに腕を掴まれた。

 細くて華奢な腕に見えるけど意外と力が強い。
「待って! イカ焼きを奢る約束だったよね」

「結構です。そんなこと言って、イカ焼きが500万メルとか後から請求する気でしょ? ぼったくられるのは御免です。あなたがたは嘘つきで信用できません」

 ロイさんが横取りしようとしたのはペットだけではない。金貨もだ。
 俺らがいなかったら地下40階になんて行けなかったんだから、報酬を全てパーティーに寄付しろと言ってきたのだ。
 報酬の金貨は、メルに換金すると手数料を差し引いても500万メルは下らないという量だ。今はくまーのお腹の中に収まっているわけだが、もしもペットの所有権を奪うことができたら金貨ごとネコババするつもりだったのだろうと思うと、なんてセコい人たちなんだろうかと呆れてしまう。

 それを止めようとしないエルさんと終始無言のトールさんだって共犯だ。
 この時、ロイパーティーの資金が尽きかけているという懐事情などもちろん知らなかったわたしは、とにかく不愉快だった。

 地下40階に連れて行ってほしいとお願いしたつもりなどないし、報酬を全て渡す約束もしていない。
 むしろボスをクリアしてあげた報酬をこっちから請求したいぐらいだと言ってエルさんの手を振りほどくと、彼はしょんぼりした顔で「ごめんね」と言った。

 ずっとそっぽを向いたままだったロイさんが立ちあがった。
「いいよもう、こんなケチなヤツ放っておこうぜ。早速41階行かね?」
「え、ああ……うん」

 エルさんはわたしのことを名残惜しそうな目で見て「ヴィーちゃん、今日はありがとう! また会おうね」と言いながらロイさんに引き摺られていき、トールさんも無言でぺこりとわたしに向かって頭を下げてからふたりを追いかけて行った。

 ケチな男にケチなヤツって言われたわ。サイテー!

 そう思うほどに、ロイさんとの出会いは最悪だった。
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