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ファーストステップ 4(完)
「炭木先輩」
わずかに開いた瞼に気付いてか、穏やかな声が鼓膜を擽った。ベッドは互いを触れ合わせるようにゆったりと沈んでいる。心地良い体温を求めて顔を押しつければ、せんぱい、と小さく笑われた。
「もう少し寝ます?」
「んー……、いや、おきる……」
喉が掠れ、声を発すると少し痛んだ。関節も重たく、下腹部の内側は何かが足りないような違和感がある。全身が辛いのに、昨日のすべてが夢ではないと教えてくれる倦怠感が嬉しかった。
「無理、させちゃいましたね。すみません、もっと優しくするつもりだったのに……。先輩が可愛いから止まれなくて……」
慰めるために、顔を上げてミルクブラウンに手を伸ばした。優しく撫でれば、ハレサクは目元を緩めて、気持ち良さそうにそれを受け入れてくれる。
「俺も、その、……いいって言ったから」
流石に恥ずかしくなってきて目を逸らし、手を止める。引っ込めようとすると同時に、昨日俺を甘やかした指が手首に巻き付いてきた。
ハレサクは、その美貌の前へと運んでいき、手首にキスを落とす。
「実は、誕生日プレゼントをもう一個用意していたんです」
手を離して起きあがったせいで、少しだけ身体が浮上した。ベッドサイドに手を伸ばし、黒い長方形の箱を白い指が掴む。窓から入る日の光を受けて、しっとりと輝いていた。
「先輩と同じ時間を歩んでいきたくて選んだんですが、そんな我が儘許されるのかなと思うとどうしても渡せなくて……」
俺の眼前で、それが開かれた。ペアウォッチだった。一つは文字盤が黒で針や数字が白く、もう一つは反対に文字盤が白で針や数字が黒い。それが収まるシルバーのケースと、落ち着いた深い青革のベルトはどちらも同じだった。
ハレサクは文字盤が白いものを取ってから、恭しく俺の手を掬い上げる。皮膚にシルバーが降りてきて、その冷たさに一瞬驚いたが、すぐに体温と馴染んでいった。昨日はあんなに手際が良かったのに、雄弁な指はいつも通り落ち着かず、ベルトを通すのに苦戦している。胸にこみ上げてくる愛おしさで、眠気が飛んでいく。
ハレサクによって、腕時計が付けられた。
「ずっと付けるものだし、先輩に気に入ってもらえるものがいいなって思って、このデザインにしました。えへへ、どうして先輩の文字盤が白なのか分かりますか?」
「どうしてだ?」
「先輩の黒髪とお揃いになるからです!」
親指がベルトを忙しなく撫でているのが、可愛かった。それを崩さないように、俺も起き上がる。
「ハレサク、好きな方の腕を出せ」
ぴた、と撫でる動きが止まる。俺ともう一方の腕時計を交互に見て、瞳をきらきらと輝かせた。
「い、いいんですか……!?」
「いいもなにも、お前のものだろ。……付けるの、下手かもしれないけど」
「嬉しいです!」
ハレサクは名残惜しそうに手を離し、悩んだ末俺とは反対の腕を差し出した。箱から丁寧に腕時計を取り出して、手首に乗せる。バックルにベルトを通し、窮屈にならないように気を付けながら、調整した。
「先輩とお揃い……!」
自分で用意したのに、おかしなことを言っている。思わず笑ってしまっても、ハレサクは特に文句を言ってこなかった。
未だ伸ばしている腕の横に、俺の手首を添える。二つで一つの腕時計が、鎖もなく、確かに繋がっている。部屋の外の時間を止めるものはもうどこにもなく、どこへでも二人で時間を進めていくためのものが存在している。
「ずっと俺たちは一緒なんだろ、ハレサク」
「そうです、炭木先輩。どこまでもどこまでも僕たちは一緒に進んでいくんです!」
窓の外から入る光が、俺とハレサクを暖かく包んでいた。幸福を導こうとするような、優しい朝日だった。
わずかに開いた瞼に気付いてか、穏やかな声が鼓膜を擽った。ベッドは互いを触れ合わせるようにゆったりと沈んでいる。心地良い体温を求めて顔を押しつければ、せんぱい、と小さく笑われた。
「もう少し寝ます?」
「んー……、いや、おきる……」
喉が掠れ、声を発すると少し痛んだ。関節も重たく、下腹部の内側は何かが足りないような違和感がある。全身が辛いのに、昨日のすべてが夢ではないと教えてくれる倦怠感が嬉しかった。
「無理、させちゃいましたね。すみません、もっと優しくするつもりだったのに……。先輩が可愛いから止まれなくて……」
慰めるために、顔を上げてミルクブラウンに手を伸ばした。優しく撫でれば、ハレサクは目元を緩めて、気持ち良さそうにそれを受け入れてくれる。
「俺も、その、……いいって言ったから」
流石に恥ずかしくなってきて目を逸らし、手を止める。引っ込めようとすると同時に、昨日俺を甘やかした指が手首に巻き付いてきた。
ハレサクは、その美貌の前へと運んでいき、手首にキスを落とす。
「実は、誕生日プレゼントをもう一個用意していたんです」
手を離して起きあがったせいで、少しだけ身体が浮上した。ベッドサイドに手を伸ばし、黒い長方形の箱を白い指が掴む。窓から入る日の光を受けて、しっとりと輝いていた。
「先輩と同じ時間を歩んでいきたくて選んだんですが、そんな我が儘許されるのかなと思うとどうしても渡せなくて……」
俺の眼前で、それが開かれた。ペアウォッチだった。一つは文字盤が黒で針や数字が白く、もう一つは反対に文字盤が白で針や数字が黒い。それが収まるシルバーのケースと、落ち着いた深い青革のベルトはどちらも同じだった。
ハレサクは文字盤が白いものを取ってから、恭しく俺の手を掬い上げる。皮膚にシルバーが降りてきて、その冷たさに一瞬驚いたが、すぐに体温と馴染んでいった。昨日はあんなに手際が良かったのに、雄弁な指はいつも通り落ち着かず、ベルトを通すのに苦戦している。胸にこみ上げてくる愛おしさで、眠気が飛んでいく。
ハレサクによって、腕時計が付けられた。
「ずっと付けるものだし、先輩に気に入ってもらえるものがいいなって思って、このデザインにしました。えへへ、どうして先輩の文字盤が白なのか分かりますか?」
「どうしてだ?」
「先輩の黒髪とお揃いになるからです!」
親指がベルトを忙しなく撫でているのが、可愛かった。それを崩さないように、俺も起き上がる。
「ハレサク、好きな方の腕を出せ」
ぴた、と撫でる動きが止まる。俺ともう一方の腕時計を交互に見て、瞳をきらきらと輝かせた。
「い、いいんですか……!?」
「いいもなにも、お前のものだろ。……付けるの、下手かもしれないけど」
「嬉しいです!」
ハレサクは名残惜しそうに手を離し、悩んだ末俺とは反対の腕を差し出した。箱から丁寧に腕時計を取り出して、手首に乗せる。バックルにベルトを通し、窮屈にならないように気を付けながら、調整した。
「先輩とお揃い……!」
自分で用意したのに、おかしなことを言っている。思わず笑ってしまっても、ハレサクは特に文句を言ってこなかった。
未だ伸ばしている腕の横に、俺の手首を添える。二つで一つの腕時計が、鎖もなく、確かに繋がっている。部屋の外の時間を止めるものはもうどこにもなく、どこへでも二人で時間を進めていくためのものが存在している。
「ずっと俺たちは一緒なんだろ、ハレサク」
「そうです、炭木先輩。どこまでもどこまでも僕たちは一緒に進んでいくんです!」
窓の外から入る光が、俺とハレサクを暖かく包んでいた。幸福を導こうとするような、優しい朝日だった。
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