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空襲の蓄音器
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1945年3月10日の朝
まだ爆裂音と薬莢の金属音が頭の中で響いている。夜が明けたそこは私が生まれ育った東京では無くなっていた。
チリと灰が巻き上がった空は暗く、人間の焼けた臭いが充満した終わりの世界だった。
人々の嗚咽、瓦礫を踏む音、焼死体を引きずる音。悲しみの音達が心に吸い込まれては悲鳴を上げる。そんな音に私は耳を塞いだ。まだ熱い地面の上に庭に埋めた蓄音器が逆さまになって転がっている。『お国のために戦争が終わるまで』そう思い2年前の秋、夫との思い出の円盤と共に埋めたものだった。
「もういいんじゃないか?」そう声がして背後を向くと夫がそこに立っていた。武骨な手は私の手を握る。握り締めた手を離すことなく、二人で蓄音器のゼンマイを回す。
悲しみの音の世界の中に、細々とした蓄音器のメロディーが響く。
悲しみの住人達は蓄音器の周りに集まっていった。
「憲兵が来たらどうするんだ」1人が私に聞いてきた。
「憲兵なんてもういないさ」そう答えると彼女は
「そうだね」と悲しい瞬きをして頷いた。
1人また1人と蓄音器に集まる。
遠くから大きなトラックがやってきて、私達の死体の前で止まった。
まだ爆裂音と薬莢の金属音が頭の中で響いている。夜が明けたそこは私が生まれ育った東京では無くなっていた。
チリと灰が巻き上がった空は暗く、人間の焼けた臭いが充満した終わりの世界だった。
人々の嗚咽、瓦礫を踏む音、焼死体を引きずる音。悲しみの音達が心に吸い込まれては悲鳴を上げる。そんな音に私は耳を塞いだ。まだ熱い地面の上に庭に埋めた蓄音器が逆さまになって転がっている。『お国のために戦争が終わるまで』そう思い2年前の秋、夫との思い出の円盤と共に埋めたものだった。
「もういいんじゃないか?」そう声がして背後を向くと夫がそこに立っていた。武骨な手は私の手を握る。握り締めた手を離すことなく、二人で蓄音器のゼンマイを回す。
悲しみの音の世界の中に、細々とした蓄音器のメロディーが響く。
悲しみの住人達は蓄音器の周りに集まっていった。
「憲兵が来たらどうするんだ」1人が私に聞いてきた。
「憲兵なんてもういないさ」そう答えると彼女は
「そうだね」と悲しい瞬きをして頷いた。
1人また1人と蓄音器に集まる。
遠くから大きなトラックがやってきて、私達の死体の前で止まった。
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