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4.膏雨

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朝になれば、雨は止んでいた。窓についた水滴は朝日を浴びて光の玉と化す。
豊高は学生服のまま眠ってしまっていた。
眼鏡のフレームが歪み、触らなくても分かるほど寝癖がついていた。
夕食は結局食べなかったので空腹感を通り越して胃が重い。
豊高はのそりと起き上がり、寒さに身震いする。まだまだ残暑が残っているとはいえ、秋の朝は肌寒い。
折りたたみ式の黒い携帯電話をポケットから取り出し、時間を確認すると朝の6時半だった。
いつもより遥かに早い起床であったため豊高は二度寝しようと試みたが、湿っぽいシャツが気持ち悪く眠れなかった。
仕方なくシャワーを浴び着替えを済ませる頃、登校するには丁度いい時間になっていた。
学生鞄を手に廊下を突っ切り、ふとキッチンに目をやる。
昨日豊高が手をつけなかった夕食がラップを掛けられてテーブルに置いてあった。母の姿はない。
そもそも立花家の人間は基本的に朝食を摂らない。
どうせ生ゴミになるんだから捨てればいいのに。
豊高は独り言を飲み込んで、無言で家を出た。

無音。
豊高の高校生活はこの一言に尽きる。学校では専ら雑音の中に身を置き、自ら音を発することをしなかった。
故に教室では浮いている。存在すら忘れられがちな、俗に言う根暗、オタクというカテゴリに属している。
しかし豊高に限っては、忌むべき意味で有名だったと言えよう。
やっとの思いで入った高校は地元にあり、当然中学校の同級生が何人か通っていた。
入学したばかりの頃は恰好の陰口の的となっていたが、半年近くも経てば相手にされなくなり、豊高は独りになった。
机の上に右腕を置き左手で頬杖をつく。約30分で右腕が左腕に、左手が右手に交代するが、必ず顔の傾きは80度。
足は机の下で十字に組まれ、眼鏡の奥は気怠そうな半開き。
豊高はほとんどこの格好で半年を過ごしてきた。
豊高は今日もその格好で授業をノイズに変換し、一日を空費する。
自分がここからいなくなるその日まで。

昼休みを告げるチャイムが鳴った。
豊高はゆっくり立ち上がり購買へ向う。
渡り廊下の入り口にある購買はさして品揃えがよくない。30分もしない内に完売してしまうため、小さな窓口は生徒でごった返している。
豊高の買うものはその時手に取ったものと缶コーヒー。
今日はたまたま一番人気のフレンチトーストを手にした。だが缶コーヒーは売り切れており、仕方なくパック入りのミルクティーを買った。
豊高はいつも人のいない教室で昼食を摂る。例え誰か訪れても、昼休みが終わるまでその教室で時間を潰すのだが。
そして午後からまた退屈な授業を聞き流す。はずだった。

「立花!」

廊下で適当な場所を探しぼうっと歩いていると、久しく名前を呼ばれた。豊高は半開きの目をぱっちり開き、こちらへ走ってくる人物に注目した。
背が高く、ラグビーの選手を思わせるがっしりした体つき。黒髪をさっぱりと短く切って軽く後ろに流している、少々目尻が垂れた男子生徒。
大型犬のような人懐っこさを彷彿とさせる。学生服の襟についたバッチからすると三年生のようだ。

「何スか?」

先輩だと確認すると豊高は気だるそうに、だがそれなりに対応する。身長差がありすぎて、見下されているような感覚だった。
不愉快だと感じた豊高は用件があるなら早く済ませて欲しいと願った。

「あのさ、お前さ、フレンチトースト買ったじゃん。俺のと代えてくんねえかな」

男子生徒はまるで子どものように笑いながらビニール袋を突き出す。
豊高は呆れて男子生徒を見つめる。
すると男子生徒の数メートル後方からビニール袋を持った何人かの生徒が

「行くぞツワブキィ」
「一日くらいフレンチトースト食わなくても死なねぇって」

と声だけ飛ばす。

「悪い、先行っててくれ!」

ツワブキと呼ばれた男子生徒が振り向いた為か、豊高の姿がツワブキの連れの目に留まった。

「おいおい、今からデートかよ!」
「縁切るぞー俺ら」

けらけら笑う男子生徒達に豊高は眉を寄せる。

「なんだよお前らそんな奴らだったのかよ!いいよ、俺こいつとメシ食うから」

豊高は思わずツワブキを見る。
しかしツワブキの顔は笑っていた。
ふざけ半分の言動だったと知り頭に血が昇る。

「よしっ、行こうぜ立花」

ツワブキは豊高の肩を組む。豊高の怒りは吹き飛び、突然の出来事にぎょっとした。
後ろからは驚嘆やからかいの言葉が飛んできた。だが男子生徒は盾になるように豊高の後ろに立ったため、豊高の耳にはほとんど届かなかった。

誰もいない自習室に石蕗と訪れる。面識のない先輩と2人きりになるのは落ち着かなかった。

「よっし、メシだっ」

ツワブキはうきうきした様子でどっかりと椅子に腰を下ろす。しかし、引き戸の前に立ったままの豊高を見て 

「座りゃいいじゃん」

と手招きする。豊高は顎を廊下の方にしゃくる。

「いいんスか?」
「ああ、あいつらか?いいっていいって気にすんな。あいつらが言った事もさ」

なだめるような穏やかな声。豊高は少し目を見開いた後、目線を下に落としていった。そしてとぼとぼと歩きツワブキの隣に座る。

「どした?」

ツワブキは真っ直ぐな眼差しを豊高に送る。

「・・・・・・別に」

豊高は庇ってもらえたことが嬉しかった。
しかし、自分が同性愛者であることを認めてしまう気がして、素直に喜べなかった。
豊高はむすっとしたまま、買ったものを机の上に出していく。
紙パックのミルクティー、フレンチトースト。そしてシャケのおにぎり。
これも偶然手に取ったものだったが、

「ぶっ、はははははははは!!」

爆発するようにツワブキが笑い出した。豊高は唖然とする。

「フレンチトーストとおにぎりって・・・
しかもシャケって・・・・・はははははは!」

ツワブキは腹を抱えて笑い転げる。

「なんでだよ、合わねえだろ」

ツワブキはまだ肩を震わせている。ここで豊高はツワブキをジロリと睨んだ。

「適当ッスよ」
「適当かぁ、そっかそっか、お前意外といいキャラしてんなぁ」

豊高は背中をバシバシ叩かれその度にがくがく揺れていた。
どのような顔をしてよいかわからず、表情は宙ぶらりんなままだった。

「あーやべぇ。お前面白いわ」

ツワブキはようやく笑いが収まり、出てきた涙を拭う。

「あ、そうだ。フレンチトーストっ」

ツワブキはニコニコしながら足を軽く開き、その間に両手を乗せた。本当に犬がお座りをしているようで、背後にぱたぱた揺れる尻尾まで見えてきそうだった。

「俺、いいって言ってないッスけど」

豊高は冷やかな視線を送る。

「マジかよっ!?」

ツワブキは自身の頭を鷲掴みにし椅子から立ち上がった。
豊高は一つため息をつき、黙って袋に入ったフレンチトーストを差し出した。ツワブキは頭に手を当てたまま、フレンチトーストと豊高を交互に見た。
そして「おおぉお・・・・・・」と何か神々しいものを見る目つきでフレンチトーストを両手で受け取った。

「サンキュー立花!」

ツワブキはにかっと歯を見せて笑うと椅子に座り、上機嫌で封を破きかぶりついた。
ご褒美を貰えた犬のようだった。

「先輩って・・・・・・・・」

豊高がミルクティーにストローを刺しながら切り出す。

「俺のこと、気色悪いとか思わないんスか?」

豊高はミルクティーを啜ったが、ツワブキはフレンチトーストをかじるのを止めた。
口に残ったフレンチトーストを噛み砕き飲み込む。
そして言った。

「お前ってさ、ホントに男が好きなのか?」

豊高の表情が固まる。ストローを咥えたまま黙りこんだ。

「あっほら、好きなの食っていいから」

ツワブキが買った物の入ったビニール袋を目の前に置かれても、豊高はじっとミルクティーのパックを見つめている。
ツワブキは引き続きフレンチトーストをかじり豊高の返答を待つ。
ツワブキが最後の一口を飲み込むころになって豊高は

「・・・・・・・分かんね」

と呟いた。

「ふぅん」

ツワブキはどこか遠くを見るような目で、ペットボトルのカフェオレを口に含む。
缶コーヒーを買いそびれた豊高は、それを買えばよかったと今更ながら後悔した。

「お前がそれでいいならいいじゃん」
「は?」

豊高は眉間に皺をよせツワブキを見る。
ツワブキはもう一口カフェオレを飲み

「だぁかぁら、お前が好きならいいってことだよ」

豊高は眉間に皺をよせたまま、何か言いたそうに、唇を小さく開いたり閉じたりしている。
ツワブキはじれったくなったのか、豊高の頭を乱暴に撫でながらカフェオレの混じった唾を飛ばし熱弁をふるう。

「あー!くそっ!だからさ、お前は男でも女でも好きになっていいんだよ!お前を気持ち悪いとか思うわけねえだろっ!」

「・・・ふぅん」

ミルクティーを一口。脱脂粉乳の風味が人口的で、不必要なほど砂糖が入っていて甘ったるい。
やはりこれはハズレだったと認識した。

「あれ、興味ナシ?」

ツワブキは豊高の顔を覗き込む。すると豊高はストローから口を離す。

「・・・気ぃ使わなくてもいいっスよ」
「お前・・・かわいくねぇ」

ツワブキは拗ねたように口を突き出す。

「いいッスよ。俺男ですから」
「うわっホントかわいくねぇ。カノジョそっくり」
「いるんスかカノジョ」

豊高はぱっちりと目を開く。かなり驚いたようだ。ツワブキの顔が緩む。

「カノジョねぇ・・・」
「羨ましいだろ」

ツワブキは二カッと歯を見せて笑う。

「羨ましいッス」

ツワブキは驚いて身を乗り出し、椅子がカタンと音を立てた。

「なんで?お前男好きなんじゃねえの?」
「いや・・・・・・」

豊高は目を伏せる。
睫毛が長い。大きな瞳にその陰がくっきり映る。やがて形の良い唇が言葉を落とす。

「・・・・・・普通で、いたいから」 

豊高はストローを噛みしめる。
なぜこうなってしまったのだろう。
このことを考える度、胸が苦しくなる。

「男が好きだったら普通じゃねえのか?」

ツワブキの目が突然鋭くなる。啜ったミルクティーは口まで届かなかった。

豊高はツワブキの変化に気づかない振りをして続ける。

「いや、普通じゃないでしょ」

続きの言葉を言えば、傷つくと分かっていた。
本当に言ってしまってもよいのか、という気持ちが湧き上がる。まるで傷口から滲み出す血のように。
足が貧乏ゆすりを始めた。体が言うなと警告している。
豊高はそれをねじ伏せ、自虐的な言葉で自分を切り裂く。

「・・・普通、気色悪いって」
「お前、自分のことそう思ってんのか?」

獣の唸るような低い声に豊高の体が小さく震える。
本音が見透かされるのでは、という焦燥に駆られていた。

「ふざけんな、お前」

怒気を感じさせる重低音。
豊高の背に戦慄が走った。

「先輩には関係ないッスよ」

不覚にも声が震えた。
しかし精一杯の強がりだった。
沈黙ができたので豊高にはミルクティーを飲み干す猶予が与えられた。
だが味なんてわからなかった。
気持ち悪い甘ったるさが口に残る。

ああ、やっぱり失敗した。

ツワブキの、拳で机を叩く音が沈黙を砕いた。
豊高は体を縮こませる。

「よし、この話は終わり!終わり終わり!」

ツワブキがパンパンと手を叩いた。

「俺のカノジョの話をしよう!」

豊高は、は?と口を開く。

「この前ヨウコがさ、あ、名前は吉野ヨウコ!あ、踊る子で踊子!俺とはタメで見た目大和撫子でツンデレで毎日が萌えぇぇ!」

猛烈な勢いで話し出すツワブキに、豊高は空になったパックを持ったまま目が点になる。
そんな豊高を尻目にツワブキの行動はエスカレートしていく。
いきなり窓から顔を出し、上の階に向かって彼女の名前を叫び出す。豊高はあんぐりと口を開けて見ていることしかできなかった。
やがてツワブキは叫ぶのを止めると、手を大きく振りながら

「ヨウコォ!愛して、ぶっ!」

上から馬鹿!という声とともに、厚めの教科書が降ってきた。
見事にツワブキの頭にヒットする。
漫画のようなその光景に、豊高は思わず吹き出した。
ツワブキは締まりのない顔で頭をさすり豊高の元へ。
豊高は口を手で覆いつつ、肩を上下させて笑いを堪えていた。

「なんだよ、笑えばいいじゃん」

ツワブキは照れたように笑う。

その時チャイムが鳴った。
ツワブキは壁に掛けられた時計を一瞥しヤベッと呟く。ビニール服を手に持ったが、中身を見て目を丸くする。

「あれ、お前何も食ってねえじゃん」
「いいッス」

豊高は気づいているだろうか。
自分の表情が、いくらか柔らかくなっていることを。

「いいからいいから」

ツワブキは机の上にクリームパンを置き

「じゃあな、たまには部活来いよ」

あの人懐っこい笑顔を見せ教室を出た。

「・・・・・・部活?」

豊高はひとりごちた。
五限目が始まっているにも関わらず、廊下をゆっくり歩きながら思考を巡らせる。
部活、ツワブキ。
この二つのキーワードが引っかかる。

ツワブキタクゴ
石蕗卓伍

「あ」
一人の名前が頭に浮かんだ。

「部長じゃん・・・・・・」

教室の壁に、部活動の顧問と部長の名簿が貼ってあったことを思い出す。
確かツワブキという名前も載っていた。珍しい苗字だったので何と無く覚えていた。
ちなみに豊高が所属する部活はコンピュータ部である。

「あわねえー・・・」

そう呟きながら教室に入る。
すると教師からの叱咤と「・・・独り言?キモッ」とクスクス笑う声が耳に入った。
しかし豊高は腹を立てることなく
ーーああ、俺今喋っていたのか
と意識しただけだった。

再度言うが、豊高は教室で言葉を発したり、誰かと話したりすることはない。
まして笑ったことなど皆無だ。
ごく稀に話しかけられても、喋り方を忘れたかのように最初の一言が出てこないなどしょっちゅうである。
久々に誰かと会話したからだろうか、と頬杖をつく。
机の横に掛けたビニール袋の中にはクリームパンが収まっている。
それを見ながら豊高は部活動に行ってみようかとぼんやり思った。
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