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第一章 稲禾
お天道様は見ていた
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ペチペチッ! ペチペチペチッ!
(なっ… 何だっ… 誰だ?)
「……くん、天…くん、天堂君! しっかりしろ天堂君っ!」
(…うえっ)
志瑞也は頭に響く声で気がつく。だが、朝食ごと吐き出しそうな生臭さが押し寄せた。
「大丈夫かい? 天堂君っ」
「ゴホッ…ゴホッ、おっ…大城…さん? ゴホッ」
眩しい日差しを遮ったのは知人の顔だった。
「良かったあ、君が落ちるなんて驚いたよ、私が近くに居なかったら大変な事になっていたよ、どうしたんだい? 枯れ葉にでも足を滑らせたのかい?」
(水面から聞こえたあの声は、大城さんの声だったのか………そうだ! 子供!)
「大城さんっ、おっ男の子は助かりましたか? ゴホッ、四、五才ぐらいの男の子です…」
「男の子? 落ちた時天堂君一人だったよ?…大丈夫かい? 何処も打ってないよね?」
大城は、心配そうに志瑞也の頭部を覗き込む。
(見てない? まさかあの子は幽霊だったのか? いや、人間と霊の区別ぐらいできる……何だ? 何が起きてるんだ…)
志瑞也は青褪めた顔で黙り込む。
その様子を見ていた大城は、志瑞也の手に触れて言う。
「今日は午後病休にしておくから、全身ずぶ濡れだし風邪引く前に帰って休みなさい。もし体調が悪くなったら明日も休んでいいから、我慢しないでその時は病院にも行くんだよ。一枝さんに心配かけちゃ駄目だよ」
志瑞也は無意識に、大城の腕を強く握り締めていた。
「あっ、すっすみません… 俺っ気が動転してるみたいでお礼も言わず、助けていただいてありがとうございました。大城さんが近くに居てくれて本当に良かったです…」
志瑞也はゆっくり立ち上がり、大城に深々と頭を下げた。大城は、微笑んで志瑞也の肩を軽くポンポンと叩く。大城は、今年で六十五になる優秀な清掃員の先輩。志瑞也が仕事に対して勤勉なのも、家庭事情も知っている。大城が持ち場に戻るのを見送り、志瑞也は辺りを見渡す。
「はぁ…」
一体何が起こったのか、額に手を当て長い溜息を吐く。そこへ茂みから、モモ爺達がひょこひょこと現れた。
志瑞也は一応二匹に聞いてみる。
「お前達さっき、俺といた男の子見たよな?」
「わしら見たぞ、のう?」
こいつがモモ爺一号だ。
「わしはあの小僧と目が合ったぞ、あやつ何者じゃ?」
(二号は目まで合っていたのか… 本当か?)
今の志瑞也は、モモ爺二号の嘘を確認する気力すらない。両方の顳顬を指で押さえながら、自分の身に起きた事を思い返す。ふと気が付くと、モモ爺達がじっと志瑞也を見ていた。
「お前達どうしたんだ? 俺を心配しているのか?アハハ 意外と可愛いとこあるな」
志瑞也は不可解な体験で気が緩んだのか、二匹相手に嬉しくなり微笑んでしまう。だが、それは間違いだった。
「キャラメルをくれっ」
…は?
二匹は同時に両手を広げ要求する。
「……何で?」
「小僧を見た事教えたじゃろ!」
「目が合った事教えたじゃろ!」
〝可愛さ余って憎さ百倍〟とはよく云ったものだ。二匹なりの友情だと思い、仕方なくポケットに手を突っ込む。だが、いくら探しても一つも無い。
「ごめんよ… さっき池に落ちた時に全部落としたみたいだ、ほらっ、この通り一つも無いんだ」
何故自分が謝らないといけないのか、両側のポケットの中を表に引っ張り出して見せる。
「なっ何じゃと、無いだと?」
「それじゃあわしらは無駄足ではないか!」
二匹は口をあんぐり開けて、ポケットを引っ張り隈なく探す。
「キャラメルくれると思って、わざわざ小僧のこと教えに来たのになんじゃい!」
「明日二つくれるんじゃぞ、お主忘れるなよ!」
二匹は、台風よりもこっちの方が重要らしい。可愛げのない地団駄を踏み、捨て台詞を飛ばし茂みに戻って行く。散々喚き散らし挙句の果て借金取りような態度、もはやこれは友情ではない。志瑞也は呆れて顔を横に振り、取立て屋の後ろ姿を見ながら呟く。
「俺はあいつらにとって、キャラメルよりも存在が下なのかよ…」
一気に疲れが押し寄せ、大城のいう通り早めに帰ることにした。
(ばぁちゃん、驚くかな…)
志瑞也は空を見上げ、さすがに太陽には聞けないと大きな溜息を吐いた。
(なっ… 何だっ… 誰だ?)
「……くん、天…くん、天堂君! しっかりしろ天堂君っ!」
(…うえっ)
志瑞也は頭に響く声で気がつく。だが、朝食ごと吐き出しそうな生臭さが押し寄せた。
「大丈夫かい? 天堂君っ」
「ゴホッ…ゴホッ、おっ…大城…さん? ゴホッ」
眩しい日差しを遮ったのは知人の顔だった。
「良かったあ、君が落ちるなんて驚いたよ、私が近くに居なかったら大変な事になっていたよ、どうしたんだい? 枯れ葉にでも足を滑らせたのかい?」
(水面から聞こえたあの声は、大城さんの声だったのか………そうだ! 子供!)
「大城さんっ、おっ男の子は助かりましたか? ゴホッ、四、五才ぐらいの男の子です…」
「男の子? 落ちた時天堂君一人だったよ?…大丈夫かい? 何処も打ってないよね?」
大城は、心配そうに志瑞也の頭部を覗き込む。
(見てない? まさかあの子は幽霊だったのか? いや、人間と霊の区別ぐらいできる……何だ? 何が起きてるんだ…)
志瑞也は青褪めた顔で黙り込む。
その様子を見ていた大城は、志瑞也の手に触れて言う。
「今日は午後病休にしておくから、全身ずぶ濡れだし風邪引く前に帰って休みなさい。もし体調が悪くなったら明日も休んでいいから、我慢しないでその時は病院にも行くんだよ。一枝さんに心配かけちゃ駄目だよ」
志瑞也は無意識に、大城の腕を強く握り締めていた。
「あっ、すっすみません… 俺っ気が動転してるみたいでお礼も言わず、助けていただいてありがとうございました。大城さんが近くに居てくれて本当に良かったです…」
志瑞也はゆっくり立ち上がり、大城に深々と頭を下げた。大城は、微笑んで志瑞也の肩を軽くポンポンと叩く。大城は、今年で六十五になる優秀な清掃員の先輩。志瑞也が仕事に対して勤勉なのも、家庭事情も知っている。大城が持ち場に戻るのを見送り、志瑞也は辺りを見渡す。
「はぁ…」
一体何が起こったのか、額に手を当て長い溜息を吐く。そこへ茂みから、モモ爺達がひょこひょこと現れた。
志瑞也は一応二匹に聞いてみる。
「お前達さっき、俺といた男の子見たよな?」
「わしら見たぞ、のう?」
こいつがモモ爺一号だ。
「わしはあの小僧と目が合ったぞ、あやつ何者じゃ?」
(二号は目まで合っていたのか… 本当か?)
今の志瑞也は、モモ爺二号の嘘を確認する気力すらない。両方の顳顬を指で押さえながら、自分の身に起きた事を思い返す。ふと気が付くと、モモ爺達がじっと志瑞也を見ていた。
「お前達どうしたんだ? 俺を心配しているのか?アハハ 意外と可愛いとこあるな」
志瑞也は不可解な体験で気が緩んだのか、二匹相手に嬉しくなり微笑んでしまう。だが、それは間違いだった。
「キャラメルをくれっ」
…は?
二匹は同時に両手を広げ要求する。
「……何で?」
「小僧を見た事教えたじゃろ!」
「目が合った事教えたじゃろ!」
〝可愛さ余って憎さ百倍〟とはよく云ったものだ。二匹なりの友情だと思い、仕方なくポケットに手を突っ込む。だが、いくら探しても一つも無い。
「ごめんよ… さっき池に落ちた時に全部落としたみたいだ、ほらっ、この通り一つも無いんだ」
何故自分が謝らないといけないのか、両側のポケットの中を表に引っ張り出して見せる。
「なっ何じゃと、無いだと?」
「それじゃあわしらは無駄足ではないか!」
二匹は口をあんぐり開けて、ポケットを引っ張り隈なく探す。
「キャラメルくれると思って、わざわざ小僧のこと教えに来たのになんじゃい!」
「明日二つくれるんじゃぞ、お主忘れるなよ!」
二匹は、台風よりもこっちの方が重要らしい。可愛げのない地団駄を踏み、捨て台詞を飛ばし茂みに戻って行く。散々喚き散らし挙句の果て借金取りような態度、もはやこれは友情ではない。志瑞也は呆れて顔を横に振り、取立て屋の後ろ姿を見ながら呟く。
「俺はあいつらにとって、キャラメルよりも存在が下なのかよ…」
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