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第四章 七変化
十七の病
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「蒼万っ、柊虎っ」
三人は振り返る。
金の衣と赤の衣を着た、長髪の男子二人が駆け寄って来た。
「黄虎に朱翔ではないか」
黄虎が柊虎に笑顔で言う。
「昨日はあまり話せなくてお前達の客室に行ったらいなかったからさ、侍女から磨虎が帰ったって聞いて一緒かと思ったが、柊虎はまだ居たのだな」
「昨日の報告がまだだったから、蒼万と先程紅雀殿に行って来たのだ」
「そうだったのか」
(この人が黄虎…)
朱翔が親指でくいっと差して尋ねる。
「柊虎、こいつ誰だ?」
「志瑞也だ」
蒼万が答えた。
「お前の従者か?」
「そうだ」
「志瑞也です、宜しくお願いします」
朱翔は珍しい物でも観察するように、志瑞也をまじまじと見る。志瑞也はその視線よりも、黄虎が気になっていた。黄怜が庇った従弟、蒼万に視線を向けると、志瑞也にしか分からない程わずかに顔を横に振る。話しかけたい気持ちを抑え、黄虎に視線を向けた。真面目そうな雰囲気に、柊虎とも仲が良さそうに話をしている。
「お前従者のわりに体細いな、ちょっと腕見せてみろよハハハ」
「あっ、ちょっ…」
朱翔が志瑞也の右腕を取り、さっと袖を肩まで捲り上げた。
「おっ、お前何だこれ?」
腕全体を覆う真新しい抉られた傷痕に、朱翔と黄虎は驚愕する。
「こっこれはその…」
「見るな」
蒼万が朱翔の手を払い、志瑞也の右腕を掴み袖を元に戻す。
「戻るぞ」
「あっ蒼万っ、ちょっと待ってっ」
志瑞也の手首を掴み、二人は去って行った。
「今のは…何だったんだ?」
朱翔は目で追いながら首を傾げる。
「あっあれは妖魔だっ、しっしかもごく最近っ、あの者はっ、よっ妖魔に襲われたのだっ」
朱翔が腰に手を当て呆れたように言う。
「黄虎知っているだろ? 妖魔は災厄で人を殺すんだ、直接は襲わない、そんな当たり前の事何言ってるんだ?」
「そっ、そうだよなっ…」
「それよりもあんな蒼万、見たことないよ… まっいいや、二人共まだ居るんだろ? 後から私の殿に来いよ、今日は三人で呑もう!」
「あっあぁ、わかった…」
朱翔が自殿へ戻って行った後、柊虎はゆっくり黄虎に尋ねる。
「黄虎、何故あの傷痕が、妖魔だとわかる?」
「あっ…そっ、それは…」
目を泳がせ顔をぎこちなく左右に動かし、足先にも落ち着きがない。黄虎は明らかに動揺している。柊虎は事実を聞けるかもしれないと思い尋ねる。
「黄虎正直に答えてくれ、お前は…黄怜が妖魔に襲われたのを、知っているのか?」
「あ…ああ…あ…ああ…」
突然、黄虎が胸ぐらを掴み、膝から崩れるようにしゃがみ込んだ。
「黄虎? おいっ黄虎っ」
「あ…ああ…あ…」
その様子に柊虎は異常だと察知し体を支える。
「誰かおらぬかっ! 黄虎っ!」
黄虎の自室で医師が言う。
「お身体は何処も悪くないですよ、疲れが溜まり過ぎているので、今日は睡眠をしっかり取らせてあげて下さい」
「承知した」
柊虎は医師を見送り戸を閉め、寝床に座っている黄虎に話しかける。
「朱翔には私から断りを入れておく」
「すまない…」
黄虎の顔色はまだ悪いままだ。
「少しは落ち着いたか?」
「あぁ…」
柊虎は黄虎の横に座り尋ねる。
「…いつからだ?」
「十七だ…」
「…黄虎話してくれないか? お前のそれは何かを吐き出せず、内に秘めているから起こるのだ」
「……」
「私でなくともよい、黄理様や美虎様、九虎様もいる、玄華様にでも話すのだ、今日は医師の言う通りゆっくり休め」
柊虎は無理矢理話させるのは良くないと思い、黄虎の肩を軽く二回叩き、部屋を出ようと立ち戸へ歩く。
「かっ家族にはっ、いっ言えないのだ…」
柊虎は振り返る。
「だっ誰にもっ、言っ…あ…ああ…」
「落ち着けっ、落ち着くのだ黄虎っ!」
直ぐに駆け寄り、黄虎の背中を摩り呼吸を整えさせた。落ち着きを取り戻すも、声を震わせながら言う。
「お前は…何故黄怜がっ、妖魔に襲われたことを…知っているっ…」
「無理して話すな」
黄虎は柊虎の胸ぐらに縋りつく。
「おっ…教えてくれっ」
「……わかった、私の憶測だ、私は黄怜を慕っていた」
黄虎は眉をひそめる。
「…は? 黄怜は男だぞっ?」
「そうだ、それでも惹かれていた…嘘ではない」
黄虎はばっと柊虎の胸ぐらを離す。
「お前達っまっまさかっ、成人前に男同士でっ、ちっ契りをっ…」
「ふっ、あの頃の私にそんな度胸はないさ… 気持ちを打ち明ける勇気さえなかったよ…」
「そっ、そうか…」
余程の事実に驚いた後だからか、黄虎の呼吸は安定していた。
「男は黄怜だけだ、誰でもいいわけではないさ、それに忘れたか? 私は今葵と婚約しているだろハハハ」
「おっ驚かせるなよ…」
そう言いながら、黄虎は少し柊虎から離れる。
「でも少し落ち着いただろ?」
「まぁな…ハハッ」
「私はあの日、出立前黄怜の顔色が悪いのに気付いていたのだ、持病が悪化して吐血し間に合わなかったと聞いて、自分を責めて後悔し続けたよ… 何故無理にでも一緒に行かなかったのかってな… 今思えば黄怜が死んだのは病死ではなく、誰かに狙われていたと思いたかったのかもしれない、もしやと思い色々憶測を立てたまでだ、お前を追い詰めたかった訳ではないのだ、すまない…」
「先程の質問は、私を嵌めたのか?」
「すまない、まさかこうなるとは…」
黄虎は顔を横に振りながら言う。
「…いいや、もう限界だったのだ、お前のお陰でそれがよく分かったよ」
「…話してくれるのか?」
黄虎は頷く。
黄虎の話は耳を疑う内容だった。時折震え出し、独りでずっと抱え込んでいたことがわかる。
「わっ私には…どうすることもできなかった」
「ではその後、黄怜は蒼万が?」
「あぁ…お前も知っているだろ? あの日蒼万は一人で隣の危宿を行動していた。黄怜を襲った妖魔を退治したのも…私ではない、蒼万だ… その時はまだ、黄怜は生きていたのだ、でも…でもっ意識がなくて… 蒼万が急いで青龍湖に黄怜を連れて行ったけど、手遅れだったのだっ… 私の衣は黄怜の血だらけで… 急いで宮へ戻ったら… そっ、祖母上がっ、衣を全部燃やしたのだ…」
「衣を? 何故?」
「わっわからないっ… 証拠を消す為だと言っていたが、あまりの出来事でっ… ううっ…よく覚えていないのだっ…」
黄虎は頭を抱え蹲る。
「その後私は高熱を出し…ううっ… 起きた時には…」
その後の事は柊虎も知っている。話終えた後も黄虎は泣き続けていた。柊虎は何も言わず、黄虎の背中に手を添える。だから蒼万は〝死んだ時〟と言ったのだ。柊虎は自分が選ばれなかったのではなく、全ては初めから決まっていたのだと知る。
暫くして落ち着いた黄虎が言う。
「お前の言う通りだな、話して良かったよ、ありがとう」
「お前も一人で抱え込むな」
「お前はやはり磨虎とは全く違うな、双子なのになハハ…」
柊虎は微笑んで言う。
「お前が元気になれば、虎春も喜ぶさ」
「あぁ…」
「たまには虎春に会いに西宮に遊びに来いよ、もうすぐ婚約するのだろ?」
「まぁな…」
黄虎は照れながら耳を赤くする。
「私は自室に戻るが、何かあったら呼んでくれ」
「わかった」
柊虎は黄虎の自室を後にし、侍女に朱翔へ断りの託けを頼み、その足で蒼万の自室に向かった。
黄虎は自室で一人呟く。
「しかし黄怜を慕っていたとは、驚いたなハハ… あの二人よく一緒にいたもんな… ごめんよ黄怜…ごめん…」
柊虎に全て話したせいか、気持ちがだいぶ楽になっていた。黄虎は初めてこれからのことを考える。柊虎は事を追及するかもしれない。その時に自分はどうするのか、どうしたいか。黄虎の真っ暗な足下に、一筋の〝選択〟という道が見えだした。
三人は振り返る。
金の衣と赤の衣を着た、長髪の男子二人が駆け寄って来た。
「黄虎に朱翔ではないか」
黄虎が柊虎に笑顔で言う。
「昨日はあまり話せなくてお前達の客室に行ったらいなかったからさ、侍女から磨虎が帰ったって聞いて一緒かと思ったが、柊虎はまだ居たのだな」
「昨日の報告がまだだったから、蒼万と先程紅雀殿に行って来たのだ」
「そうだったのか」
(この人が黄虎…)
朱翔が親指でくいっと差して尋ねる。
「柊虎、こいつ誰だ?」
「志瑞也だ」
蒼万が答えた。
「お前の従者か?」
「そうだ」
「志瑞也です、宜しくお願いします」
朱翔は珍しい物でも観察するように、志瑞也をまじまじと見る。志瑞也はその視線よりも、黄虎が気になっていた。黄怜が庇った従弟、蒼万に視線を向けると、志瑞也にしか分からない程わずかに顔を横に振る。話しかけたい気持ちを抑え、黄虎に視線を向けた。真面目そうな雰囲気に、柊虎とも仲が良さそうに話をしている。
「お前従者のわりに体細いな、ちょっと腕見せてみろよハハハ」
「あっ、ちょっ…」
朱翔が志瑞也の右腕を取り、さっと袖を肩まで捲り上げた。
「おっ、お前何だこれ?」
腕全体を覆う真新しい抉られた傷痕に、朱翔と黄虎は驚愕する。
「こっこれはその…」
「見るな」
蒼万が朱翔の手を払い、志瑞也の右腕を掴み袖を元に戻す。
「戻るぞ」
「あっ蒼万っ、ちょっと待ってっ」
志瑞也の手首を掴み、二人は去って行った。
「今のは…何だったんだ?」
朱翔は目で追いながら首を傾げる。
「あっあれは妖魔だっ、しっしかもごく最近っ、あの者はっ、よっ妖魔に襲われたのだっ」
朱翔が腰に手を当て呆れたように言う。
「黄虎知っているだろ? 妖魔は災厄で人を殺すんだ、直接は襲わない、そんな当たり前の事何言ってるんだ?」
「そっ、そうだよなっ…」
「それよりもあんな蒼万、見たことないよ… まっいいや、二人共まだ居るんだろ? 後から私の殿に来いよ、今日は三人で呑もう!」
「あっあぁ、わかった…」
朱翔が自殿へ戻って行った後、柊虎はゆっくり黄虎に尋ねる。
「黄虎、何故あの傷痕が、妖魔だとわかる?」
「あっ…そっ、それは…」
目を泳がせ顔をぎこちなく左右に動かし、足先にも落ち着きがない。黄虎は明らかに動揺している。柊虎は事実を聞けるかもしれないと思い尋ねる。
「黄虎正直に答えてくれ、お前は…黄怜が妖魔に襲われたのを、知っているのか?」
「あ…ああ…あ…ああ…」
突然、黄虎が胸ぐらを掴み、膝から崩れるようにしゃがみ込んだ。
「黄虎? おいっ黄虎っ」
「あ…ああ…あ…」
その様子に柊虎は異常だと察知し体を支える。
「誰かおらぬかっ! 黄虎っ!」
黄虎の自室で医師が言う。
「お身体は何処も悪くないですよ、疲れが溜まり過ぎているので、今日は睡眠をしっかり取らせてあげて下さい」
「承知した」
柊虎は医師を見送り戸を閉め、寝床に座っている黄虎に話しかける。
「朱翔には私から断りを入れておく」
「すまない…」
黄虎の顔色はまだ悪いままだ。
「少しは落ち着いたか?」
「あぁ…」
柊虎は黄虎の横に座り尋ねる。
「…いつからだ?」
「十七だ…」
「…黄虎話してくれないか? お前のそれは何かを吐き出せず、内に秘めているから起こるのだ」
「……」
「私でなくともよい、黄理様や美虎様、九虎様もいる、玄華様にでも話すのだ、今日は医師の言う通りゆっくり休め」
柊虎は無理矢理話させるのは良くないと思い、黄虎の肩を軽く二回叩き、部屋を出ようと立ち戸へ歩く。
「かっ家族にはっ、いっ言えないのだ…」
柊虎は振り返る。
「だっ誰にもっ、言っ…あ…ああ…」
「落ち着けっ、落ち着くのだ黄虎っ!」
直ぐに駆け寄り、黄虎の背中を摩り呼吸を整えさせた。落ち着きを取り戻すも、声を震わせながら言う。
「お前は…何故黄怜がっ、妖魔に襲われたことを…知っているっ…」
「無理して話すな」
黄虎は柊虎の胸ぐらに縋りつく。
「おっ…教えてくれっ」
「……わかった、私の憶測だ、私は黄怜を慕っていた」
黄虎は眉をひそめる。
「…は? 黄怜は男だぞっ?」
「そうだ、それでも惹かれていた…嘘ではない」
黄虎はばっと柊虎の胸ぐらを離す。
「お前達っまっまさかっ、成人前に男同士でっ、ちっ契りをっ…」
「ふっ、あの頃の私にそんな度胸はないさ… 気持ちを打ち明ける勇気さえなかったよ…」
「そっ、そうか…」
余程の事実に驚いた後だからか、黄虎の呼吸は安定していた。
「男は黄怜だけだ、誰でもいいわけではないさ、それに忘れたか? 私は今葵と婚約しているだろハハハ」
「おっ驚かせるなよ…」
そう言いながら、黄虎は少し柊虎から離れる。
「でも少し落ち着いただろ?」
「まぁな…ハハッ」
「私はあの日、出立前黄怜の顔色が悪いのに気付いていたのだ、持病が悪化して吐血し間に合わなかったと聞いて、自分を責めて後悔し続けたよ… 何故無理にでも一緒に行かなかったのかってな… 今思えば黄怜が死んだのは病死ではなく、誰かに狙われていたと思いたかったのかもしれない、もしやと思い色々憶測を立てたまでだ、お前を追い詰めたかった訳ではないのだ、すまない…」
「先程の質問は、私を嵌めたのか?」
「すまない、まさかこうなるとは…」
黄虎は顔を横に振りながら言う。
「…いいや、もう限界だったのだ、お前のお陰でそれがよく分かったよ」
「…話してくれるのか?」
黄虎は頷く。
黄虎の話は耳を疑う内容だった。時折震え出し、独りでずっと抱え込んでいたことがわかる。
「わっ私には…どうすることもできなかった」
「ではその後、黄怜は蒼万が?」
「あぁ…お前も知っているだろ? あの日蒼万は一人で隣の危宿を行動していた。黄怜を襲った妖魔を退治したのも…私ではない、蒼万だ… その時はまだ、黄怜は生きていたのだ、でも…でもっ意識がなくて… 蒼万が急いで青龍湖に黄怜を連れて行ったけど、手遅れだったのだっ… 私の衣は黄怜の血だらけで… 急いで宮へ戻ったら… そっ、祖母上がっ、衣を全部燃やしたのだ…」
「衣を? 何故?」
「わっわからないっ… 証拠を消す為だと言っていたが、あまりの出来事でっ… ううっ…よく覚えていないのだっ…」
黄虎は頭を抱え蹲る。
「その後私は高熱を出し…ううっ… 起きた時には…」
その後の事は柊虎も知っている。話終えた後も黄虎は泣き続けていた。柊虎は何も言わず、黄虎の背中に手を添える。だから蒼万は〝死んだ時〟と言ったのだ。柊虎は自分が選ばれなかったのではなく、全ては初めから決まっていたのだと知る。
暫くして落ち着いた黄虎が言う。
「お前の言う通りだな、話して良かったよ、ありがとう」
「お前も一人で抱え込むな」
「お前はやはり磨虎とは全く違うな、双子なのになハハ…」
柊虎は微笑んで言う。
「お前が元気になれば、虎春も喜ぶさ」
「あぁ…」
「たまには虎春に会いに西宮に遊びに来いよ、もうすぐ婚約するのだろ?」
「まぁな…」
黄虎は照れながら耳を赤くする。
「私は自室に戻るが、何かあったら呼んでくれ」
「わかった」
柊虎は黄虎の自室を後にし、侍女に朱翔へ断りの託けを頼み、その足で蒼万の自室に向かった。
黄虎は自室で一人呟く。
「しかし黄怜を慕っていたとは、驚いたなハハ… あの二人よく一緒にいたもんな… ごめんよ黄怜…ごめん…」
柊虎に全て話したせいか、気持ちがだいぶ楽になっていた。黄虎は初めてこれからのことを考える。柊虎は事を追及するかもしれない。その時に自分はどうするのか、どうしたいか。黄虎の真っ暗な足下に、一筋の〝選択〟という道が見えだした。
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