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第六章 寒芍薬
血を受け継ぐ者
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二刻後、朱翔の元に雲雀が文を持って戻ってきた。玄枝は文を読みながら、目を見開き険しい顔付きをする。
黄虎が尋ねる。
「玄枝様、文には何と?」
玄枝は文をたたみ懐に入れ、少し間を置いてから口を開く。
「…二人共お疲れの所申し訳ないですが、もう一仕事お願いします。説明はその時に…」
子の刻〔深夜十二時〕を過ぎ宮内の灯りが消え、三人は暗闇の中黄怜殿を抜け出した。玄枝の後を付いて辿り着いた場所に、黄虎は朱翔と見合って頷いた後言う。
「玄枝様、ここはもしや…?」
「睦黄の墓です」
「何故ここに?」
「この墓を掘り返して下さい」
…は?
黄虎は耳を疑う。
「玄枝様っ、今何とっ?」
玄枝はもう一度はっきり言う。
「睦黄の墓を、掘り返して下さい」
「そっ、そのようなことはっできませぬっ!」
「そうですっ墓を掘り返すなどっ しかも睦黄様は生き埋めですっ、へっ下手をすれば怨念や邪気をっ、目覚めさせる事になりかねませんっ!」
黄虎と朱翔は、思いもよらない玄枝の言葉に動揺する。
「既に…目覚めているかもしれないのです」
「既に? もしやっ、怨霊っ…」
朱翔の言葉に黄虎が驚愕して言う。
「まっまさかっ、怨霊の正体は睦黄様だとおっしゃるのですか?」
「掘り返してみないと分かりません」
二人は言われるがまま、土の塊にしゃがみ込んで墓を掘り返し始める。当然のことながら、二人は今まで墓を掘り返した経験など一度もない。玄枝の指示とはいえ、土を掴む手を震わせた。亡骸があれば恐ろしいことをしていて、もし無ければ誰かが掘り返したことになる。二人共同じ人物を想像し額に汗を滲ませた。土の硬さや冷たさが徐々に増し、指の力を強める度に悍ましく身の毛がよ立つ。だが、男子二人ががりで掘り返せば、そろそろ出てきてもおかしくはない。朱翔はそのことに気付くが、玄枝は有ることを望んでいるのか何も言わず、黄虎も必死に掘り続けている。いつの間にか三人は、新鮮な土の香りよりも、腐敗臭を求めてしまっていた。
「もう…十分です」
掘り続ける黄虎の手を朱翔は掴む。
「黄虎っやめろっ… これ以上掘っても、無駄だ……」
「くっ…玄枝様っ、場所は確かなのですか?」
黄虎は声を震わせて言うが、玄枝は黙って掘り返された場所を見ていた。その眼差しは「我が子の場所を忘れるはずがない」そう語っていた。
「くっ…祖母上っ、何故っ、何故っこのような恐ろしいことをっ、くっ……」
黄虎はその場で土を握りしめる。
朱翔は立ち上がって言う。
「玄枝様、説明していただけますか?」
「もし睦黄が怨霊になり黄怜だけを狙っているのであれば、私が創った勾玉が効かないのも腑に落ちます…」
「何故ですか?」
玄枝は声をわずかに震わせる。
「恐らく睦黄は自分の亡骸を妖魔化に使い、自分と同じ血を持つ者を狙わせたのでしょう…」
「同じ血?」
朱翔は思考を純速に巡らせる。
「睦黄様、黄星様、黄一様、黄怜… 黄星様の血であれば、黄理様や黄虎も狙われるはずだ…… 勾玉が効かない? まさかっ、しっ玄枝様の血ですか?」
玄枝は頷く。
「ではっ何故黄怜だけを? それならっ黄一様も……もしやっ同じ女子だからですか?」
「自分は生き埋めにされ、黄怜だけ生きてるのが許せなかったのでしょう。はっ…ふっ文には玄華達が発った日からっ、北宮領域で妖魔が出没しているとありましたっ、きっ黄怜が危ないっ!」
玄枝が朱翔の腕をがしっと掴み慌てだす。
「玄枝様っ落ち着かれて下さいっ! 黄怜には蒼万がついておりますっ! それに玄武家の結界なら、どの神家よりも強いのはっご存じではないですかっ!」
朱翔は玄枝を落ち着かせようと必死になる。
「きっ黄怜? なっ、そっ蒼っ」
「いいえっ! 玄武家の結界がいかに強くてもっ、勾玉同様玄武家の血を持つ者にはっ効きませんっ、ましてやっ私の血であれば尚更ですっ! 場所によっては他神家の神獣は出せないのですっ、朱翔っ今直ぐ玄一に文を出してこの事を伝えなさいっ、早くっ!」
「はっはいっ」
玄枝は混乱する黄虎の言葉を遮り、物凄い剣幕でまくしたてた。今までにない玄枝の様子に、二人は急ぎ黄怜殿に戻り、朱翔は文を書き雲雀に託す。
庭園で飛び立つ雲雀を見送りながら、黄虎は尋ねる。
「羽根が無くても行けるのか?」
朱翔は黄虎に振り向き笑顔で言う。
「一度通わせた相手は匂いで覚えてるんだ、だから大丈夫さハハハ」
黄虎も朱翔に振り向き言う。
「そうか、黄怜が危なくて蒼万がついているって、何だ朱翔?」
……。
黄虎の顔は激しく怒っていた。
玄枝は玄一からの文の内容を一部伏せていた。転生はこの世に肉体を持ったことを意味する。九虎がいつ頃睦黄の怨霊と契約をしたのか、九虎の願いは一体何なのか。そして黄一、黄星、黄羊、三人の死を呪いと疑ったこともあるが、その後何も起きず普通の病死だと思っていた。もし呪いなら、既に三人を殺したことにより、力は十分付いている。いつになく冷静な玄枝の額に、汗が流れた…。
明け方、玄一の元へ雲雀が文を持ってきた。ただならぬ文の内容を急ぎ三人伝え、玄一は神足通を使い先に蒼万達と合流するため出立した。
怨霊の正体がわかり玄華も玄枝同様、玄枝の血を引く者の死に気付いた。思い返すと黄怜も御守りを着けるまでは、良く体調を崩していた。既に怨霊が蜘霊になっているのであれば、もう勾玉を外すだけで、怨霊に見つかってしまうかもしれない。それなら何故、怨霊は未だに妖魔を使うのか、直接狙いに来ないのか、玄華も玄枝と同じことを考えていた。
三人はその日の夕方、虚宿で不安な一夜を過ごした。場所は違えども、ここは黄怜が襲われた領域。蒼万はそれを配慮し、落ち合い場所を中央宮から近いここではなく女宿にしたのだろう。だが、玄華は不安が重なり、寝付くことができなかった。
翌朝、急ぎ女宿へと向かう。申の刻に到着し領主に尋ねると、今朝蒼万達は玄武洞へ出立していた。少し前に玄一も向かったが、場所を知っている玄華でも一刻はかかる。既に玄一は合流している頃だが、不安は拭えず三人は先を急いだのだった。
黄虎が尋ねる。
「玄枝様、文には何と?」
玄枝は文をたたみ懐に入れ、少し間を置いてから口を開く。
「…二人共お疲れの所申し訳ないですが、もう一仕事お願いします。説明はその時に…」
子の刻〔深夜十二時〕を過ぎ宮内の灯りが消え、三人は暗闇の中黄怜殿を抜け出した。玄枝の後を付いて辿り着いた場所に、黄虎は朱翔と見合って頷いた後言う。
「玄枝様、ここはもしや…?」
「睦黄の墓です」
「何故ここに?」
「この墓を掘り返して下さい」
…は?
黄虎は耳を疑う。
「玄枝様っ、今何とっ?」
玄枝はもう一度はっきり言う。
「睦黄の墓を、掘り返して下さい」
「そっ、そのようなことはっできませぬっ!」
「そうですっ墓を掘り返すなどっ しかも睦黄様は生き埋めですっ、へっ下手をすれば怨念や邪気をっ、目覚めさせる事になりかねませんっ!」
黄虎と朱翔は、思いもよらない玄枝の言葉に動揺する。
「既に…目覚めているかもしれないのです」
「既に? もしやっ、怨霊っ…」
朱翔の言葉に黄虎が驚愕して言う。
「まっまさかっ、怨霊の正体は睦黄様だとおっしゃるのですか?」
「掘り返してみないと分かりません」
二人は言われるがまま、土の塊にしゃがみ込んで墓を掘り返し始める。当然のことながら、二人は今まで墓を掘り返した経験など一度もない。玄枝の指示とはいえ、土を掴む手を震わせた。亡骸があれば恐ろしいことをしていて、もし無ければ誰かが掘り返したことになる。二人共同じ人物を想像し額に汗を滲ませた。土の硬さや冷たさが徐々に増し、指の力を強める度に悍ましく身の毛がよ立つ。だが、男子二人ががりで掘り返せば、そろそろ出てきてもおかしくはない。朱翔はそのことに気付くが、玄枝は有ることを望んでいるのか何も言わず、黄虎も必死に掘り続けている。いつの間にか三人は、新鮮な土の香りよりも、腐敗臭を求めてしまっていた。
「もう…十分です」
掘り続ける黄虎の手を朱翔は掴む。
「黄虎っやめろっ… これ以上掘っても、無駄だ……」
「くっ…玄枝様っ、場所は確かなのですか?」
黄虎は声を震わせて言うが、玄枝は黙って掘り返された場所を見ていた。その眼差しは「我が子の場所を忘れるはずがない」そう語っていた。
「くっ…祖母上っ、何故っ、何故っこのような恐ろしいことをっ、くっ……」
黄虎はその場で土を握りしめる。
朱翔は立ち上がって言う。
「玄枝様、説明していただけますか?」
「もし睦黄が怨霊になり黄怜だけを狙っているのであれば、私が創った勾玉が効かないのも腑に落ちます…」
「何故ですか?」
玄枝は声をわずかに震わせる。
「恐らく睦黄は自分の亡骸を妖魔化に使い、自分と同じ血を持つ者を狙わせたのでしょう…」
「同じ血?」
朱翔は思考を純速に巡らせる。
「睦黄様、黄星様、黄一様、黄怜… 黄星様の血であれば、黄理様や黄虎も狙われるはずだ…… 勾玉が効かない? まさかっ、しっ玄枝様の血ですか?」
玄枝は頷く。
「ではっ何故黄怜だけを? それならっ黄一様も……もしやっ同じ女子だからですか?」
「自分は生き埋めにされ、黄怜だけ生きてるのが許せなかったのでしょう。はっ…ふっ文には玄華達が発った日からっ、北宮領域で妖魔が出没しているとありましたっ、きっ黄怜が危ないっ!」
玄枝が朱翔の腕をがしっと掴み慌てだす。
「玄枝様っ落ち着かれて下さいっ! 黄怜には蒼万がついておりますっ! それに玄武家の結界なら、どの神家よりも強いのはっご存じではないですかっ!」
朱翔は玄枝を落ち着かせようと必死になる。
「きっ黄怜? なっ、そっ蒼っ」
「いいえっ! 玄武家の結界がいかに強くてもっ、勾玉同様玄武家の血を持つ者にはっ効きませんっ、ましてやっ私の血であれば尚更ですっ! 場所によっては他神家の神獣は出せないのですっ、朱翔っ今直ぐ玄一に文を出してこの事を伝えなさいっ、早くっ!」
「はっはいっ」
玄枝は混乱する黄虎の言葉を遮り、物凄い剣幕でまくしたてた。今までにない玄枝の様子に、二人は急ぎ黄怜殿に戻り、朱翔は文を書き雲雀に託す。
庭園で飛び立つ雲雀を見送りながら、黄虎は尋ねる。
「羽根が無くても行けるのか?」
朱翔は黄虎に振り向き笑顔で言う。
「一度通わせた相手は匂いで覚えてるんだ、だから大丈夫さハハハ」
黄虎も朱翔に振り向き言う。
「そうか、黄怜が危なくて蒼万がついているって、何だ朱翔?」
……。
黄虎の顔は激しく怒っていた。
玄枝は玄一からの文の内容を一部伏せていた。転生はこの世に肉体を持ったことを意味する。九虎がいつ頃睦黄の怨霊と契約をしたのか、九虎の願いは一体何なのか。そして黄一、黄星、黄羊、三人の死を呪いと疑ったこともあるが、その後何も起きず普通の病死だと思っていた。もし呪いなら、既に三人を殺したことにより、力は十分付いている。いつになく冷静な玄枝の額に、汗が流れた…。
明け方、玄一の元へ雲雀が文を持ってきた。ただならぬ文の内容を急ぎ三人伝え、玄一は神足通を使い先に蒼万達と合流するため出立した。
怨霊の正体がわかり玄華も玄枝同様、玄枝の血を引く者の死に気付いた。思い返すと黄怜も御守りを着けるまでは、良く体調を崩していた。既に怨霊が蜘霊になっているのであれば、もう勾玉を外すだけで、怨霊に見つかってしまうかもしれない。それなら何故、怨霊は未だに妖魔を使うのか、直接狙いに来ないのか、玄華も玄枝と同じことを考えていた。
三人はその日の夕方、虚宿で不安な一夜を過ごした。場所は違えども、ここは黄怜が襲われた領域。蒼万はそれを配慮し、落ち合い場所を中央宮から近いここではなく女宿にしたのだろう。だが、玄華は不安が重なり、寝付くことができなかった。
翌朝、急ぎ女宿へと向かう。申の刻に到着し領主に尋ねると、今朝蒼万達は玄武洞へ出立していた。少し前に玄一も向かったが、場所を知っている玄華でも一刻はかかる。既に玄一は合流している頃だが、不安は拭えず三人は先を急いだのだった。
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