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第七章 百日草
幸福
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─ 三十六年前 ─
黄怜は東宮領域の心宿で療養中だったが、今年五つになり、三ヶ月間の神家合同講習会に参加するため、中央宮に母玄華と侍女千玄と戻ってきた。黄怜は三年振りに会う父黄一との再会に胸を踊らせていた。毎月届く黄一からの文が何よりも楽しみで、黄怜は返事を書きたくて急いで字を覚えた。初めて自分で書いた文を送った後、黄一から筆管に金龍が掘られた筆が送られてきた。そんな黄一の優しさが、黄怜はとても嬉しかったのだ。
戸が開き黄一が部屋に入ってきた。
「父上!」
「おお黄怜、大きくなったな」
黄一は飛びつく黄怜を笑顔で抱き上げる。
「父上お久し振りですっ、とてもお会いしたかったです」
我が子の素直な言葉に黄一は胸が熱くなる。
「父もお前達に会いたかったぞ、母を困らせてはいないか?」
「それは…」
黄怜は玄華を見て言葉を詰まらせた。
ここぞとばかりに玄華が困った顔で言う。
「この子は本当に言うことを聞かないで、一人で歩き廻るのですよ、私も千玄も、追いかけるのが大変です」
「そうか、黄怜はそれほど元気が良いのかアハハハハ」
「はい父上!アハハハ」
「もうあなたまでっ」
そう言いながら、玄華も久々の親子水入らずに微笑む。
「黄怜の身体の具合はどうだ?」
「道中一度熱がありましたが、今は大丈夫です」
「そうか…心宿へは、本当に病気療養になってしまったな…」
黄一は眉をひそめ黄怜の頭をなでた。
「あなた金龍殿にはいつ参りますか?」
「この後だが、先に白龍殿に参ってからだ」
「わかりました…」
「案ずるな。祖父上は気付いておらんが、殿を建てたお礼を言いに黄怜を会わせねばならぬ」
本来は十二の時に祝いで自殿を建てるが、宗主黄羊が神力の高い子が生まれたと喜び、早々に黄怜殿を建てさせたのだ。
「黄怜、父の言うことが守れるなら、お前の一つ下の従弟と遊ばせてやるぞ、どうだ?」
「従弟?」
「お前の弟のような者だ、会いたいか?」
「はい父上!」
黄一が急に険しい顔をする。
「ではお前が女子だとは、断じて他の者に知られてはならぬ。知られてしまったら、皆と二度と会えなくなるぞ、それでもよいか?」
「あなたっ、そんな言い方っ…」
玄華は目を潤ませた。
黄一の眼差しに黄怜の目にも涙が溢れる。
「そっ…それは嫌です… 私を一人にしないで下さい…うううっ…」
「ならば父と約束できるか?」
「はい…約束します…」
「いい子だ、お前を守るためだ」
「ち…父上っ、うわぁんわぁん…」
黄怜は黄一の首にしがみつく。
黄一は黄怜を強く抱きしめ頭をなでた後、頬に口づけして微笑む。
「これは泣きやむ〝おまじない〟だ」
「おまじ…ない…?」
「そうだ、ほらっ、涙が止まったであろう」
「はい!」
黄怜は微笑んで頷く。
黄一は玄華の頬に口づけして、指で涙を優しく拭う。
「ほら母も涙が止まったであろう」
「はい!」
三人は微笑み合った。
黄一は黄怜を下ろし懐から小物を取り出す。
「あなた、それはもしや」
「あぁ間に合って良かったよ」
黄一がそれを黄怜の首に着けた。
「これは勾玉の御守りだよ。お前の祖母上から五つの祝いの贈り物だ、今日から決して外すでないぞ」
「勾玉の御守り?」
「そうだ、お前を妖魔から守ってくれるぞ」
黄怜は目を輝かせる。
「本当ですか?」
「だが怪我はするでないぞ」
「はいっ、ありがとうございます父上!」
「後で祖母上に、お前からお礼を言いなさい」
「はい!」
黄怜は嬉しそうに光沢のある勾玉を見つめる。
玄華が小声で言う。
「あなたこれの効力は…」
「まだわからない… 母上の霊力を込めたが、血に引きつけられる理由がわからなければなんとも… 妖魔もまだ多い、お前には苦労をかけるな…」
黄一は玄華の肩を抱き寄せる。
「私は平気です、ただ…」
「どうした?」
「明日からの三ヶ月は私は側にいれません、不安で…」
「それも案ずるな、祖父上に千玄を黄怜につけさせる許可をいただいた」
「本当ですか?」
玄華はその話を聞いて顔色が明るくなる。
黄一は頷きながら言う。
「侍女なら良いと。療養中を考慮して、部屋も他の子供達とは別にしてもらった」
「そんな特別扱いまでして、他神家の子達と仲良くなれるのでしょうか?」
「今は仕方がない…」
二人は勾玉を手に、無邪気にはしゃぐ黄怜を見つめた。
「父上」
「どうした黄怜?」
「これは食べれますか?」
「……」
黄一が目を点にして玄華を見ると、玄華は苦笑いする。困惑した黄一を無視して、黄怜は勾玉を口に入れしゃぶりだす。
「父上、これは甘くありませんね」
「玄華…どういうことだ?」
「黄怜は甘いのに目がなくて…」
玄華は微笑む。
黄一が笑いながら黄怜を抱き上げた。
「アハハハハ 黄怜、父が後から飴をやろう」
「本当ですか?」
「あぁ黄虎と遊ぶ時に用意しよう、お前の弟だから仲良くするのだぞ」
「はい父上! 私も早く黄虎と遊びたいです」
「では皆に挨拶に参ってからだ」
「はい!」
黄怜は温かくて優しい父の顔に頬擦りをした。
黄怜は東宮領域の心宿で療養中だったが、今年五つになり、三ヶ月間の神家合同講習会に参加するため、中央宮に母玄華と侍女千玄と戻ってきた。黄怜は三年振りに会う父黄一との再会に胸を踊らせていた。毎月届く黄一からの文が何よりも楽しみで、黄怜は返事を書きたくて急いで字を覚えた。初めて自分で書いた文を送った後、黄一から筆管に金龍が掘られた筆が送られてきた。そんな黄一の優しさが、黄怜はとても嬉しかったのだ。
戸が開き黄一が部屋に入ってきた。
「父上!」
「おお黄怜、大きくなったな」
黄一は飛びつく黄怜を笑顔で抱き上げる。
「父上お久し振りですっ、とてもお会いしたかったです」
我が子の素直な言葉に黄一は胸が熱くなる。
「父もお前達に会いたかったぞ、母を困らせてはいないか?」
「それは…」
黄怜は玄華を見て言葉を詰まらせた。
ここぞとばかりに玄華が困った顔で言う。
「この子は本当に言うことを聞かないで、一人で歩き廻るのですよ、私も千玄も、追いかけるのが大変です」
「そうか、黄怜はそれほど元気が良いのかアハハハハ」
「はい父上!アハハハ」
「もうあなたまでっ」
そう言いながら、玄華も久々の親子水入らずに微笑む。
「黄怜の身体の具合はどうだ?」
「道中一度熱がありましたが、今は大丈夫です」
「そうか…心宿へは、本当に病気療養になってしまったな…」
黄一は眉をひそめ黄怜の頭をなでた。
「あなた金龍殿にはいつ参りますか?」
「この後だが、先に白龍殿に参ってからだ」
「わかりました…」
「案ずるな。祖父上は気付いておらんが、殿を建てたお礼を言いに黄怜を会わせねばならぬ」
本来は十二の時に祝いで自殿を建てるが、宗主黄羊が神力の高い子が生まれたと喜び、早々に黄怜殿を建てさせたのだ。
「黄怜、父の言うことが守れるなら、お前の一つ下の従弟と遊ばせてやるぞ、どうだ?」
「従弟?」
「お前の弟のような者だ、会いたいか?」
「はい父上!」
黄一が急に険しい顔をする。
「ではお前が女子だとは、断じて他の者に知られてはならぬ。知られてしまったら、皆と二度と会えなくなるぞ、それでもよいか?」
「あなたっ、そんな言い方っ…」
玄華は目を潤ませた。
黄一の眼差しに黄怜の目にも涙が溢れる。
「そっ…それは嫌です… 私を一人にしないで下さい…うううっ…」
「ならば父と約束できるか?」
「はい…約束します…」
「いい子だ、お前を守るためだ」
「ち…父上っ、うわぁんわぁん…」
黄怜は黄一の首にしがみつく。
黄一は黄怜を強く抱きしめ頭をなでた後、頬に口づけして微笑む。
「これは泣きやむ〝おまじない〟だ」
「おまじ…ない…?」
「そうだ、ほらっ、涙が止まったであろう」
「はい!」
黄怜は微笑んで頷く。
黄一は玄華の頬に口づけして、指で涙を優しく拭う。
「ほら母も涙が止まったであろう」
「はい!」
三人は微笑み合った。
黄一は黄怜を下ろし懐から小物を取り出す。
「あなた、それはもしや」
「あぁ間に合って良かったよ」
黄一がそれを黄怜の首に着けた。
「これは勾玉の御守りだよ。お前の祖母上から五つの祝いの贈り物だ、今日から決して外すでないぞ」
「勾玉の御守り?」
「そうだ、お前を妖魔から守ってくれるぞ」
黄怜は目を輝かせる。
「本当ですか?」
「だが怪我はするでないぞ」
「はいっ、ありがとうございます父上!」
「後で祖母上に、お前からお礼を言いなさい」
「はい!」
黄怜は嬉しそうに光沢のある勾玉を見つめる。
玄華が小声で言う。
「あなたこれの効力は…」
「まだわからない… 母上の霊力を込めたが、血に引きつけられる理由がわからなければなんとも… 妖魔もまだ多い、お前には苦労をかけるな…」
黄一は玄華の肩を抱き寄せる。
「私は平気です、ただ…」
「どうした?」
「明日からの三ヶ月は私は側にいれません、不安で…」
「それも案ずるな、祖父上に千玄を黄怜につけさせる許可をいただいた」
「本当ですか?」
玄華はその話を聞いて顔色が明るくなる。
黄一は頷きながら言う。
「侍女なら良いと。療養中を考慮して、部屋も他の子供達とは別にしてもらった」
「そんな特別扱いまでして、他神家の子達と仲良くなれるのでしょうか?」
「今は仕方がない…」
二人は勾玉を手に、無邪気にはしゃぐ黄怜を見つめた。
「父上」
「どうした黄怜?」
「これは食べれますか?」
「……」
黄一が目を点にして玄華を見ると、玄華は苦笑いする。困惑した黄一を無視して、黄怜は勾玉を口に入れしゃぶりだす。
「父上、これは甘くありませんね」
「玄華…どういうことだ?」
「黄怜は甘いのに目がなくて…」
玄華は微笑む。
黄一が笑いながら黄怜を抱き上げた。
「アハハハハ 黄怜、父が後から飴をやろう」
「本当ですか?」
「あぁ黄虎と遊ぶ時に用意しよう、お前の弟だから仲良くするのだぞ」
「はい父上! 私も早く黄虎と遊びたいです」
「では皆に挨拶に参ってからだ」
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