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完結編 福寿草
笛吹き仲間
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二ヶ月間の座学が今日で終了し、明日は一日休みで明後日からは実技講習。夜黄怜殿の庭園で、志瑞也は朱翔と話をしていた。
「朱翔は明日帰るのか?」
「いや、今回は最後までいるよ」
「そっか、良かった、へへ 明日皆来るんだよな、楽しみだなあ…」
何度か朱翔の笛は聴かせてもらっていたが、とても心地良く穏やかな気持ちになる。帰るなら仕方がないとしても、やはり一人でも欠けるのは淋しいものだ。久々に皆が集まることに、志瑞也は嬉しくなった。柊虎と磨虎とは半年前の決闘日、葵と玄弥に至っては二人の婚儀以来会っていない。血の謎に向かっている時は、気持ちが一致団結し、皆の存在が近くに感じられていた。何故皆と早く会いたいのか、何故こんなにも心細いのか「ふっ」志瑞也は鼻で笑う。答えは単純明快、一番側にいてほしい男がいないからだ。
「志瑞也、ちょっと聞いていいか?」
「ん、何だ?」
「お前、何でそんなに独りになるの怯えているんだ?」
「えっ…」
やはり図星だ、志瑞也は露骨に顔を歪めた。朱翔は本当は帰る予定だったが、毎晩笛に込める霊力が増す事で、志瑞也の精神状態が不安定だと気付いた。朱翔は笛の話を提案して以来、色々調べていた。初めは解明できる可能性に面白半分だったが、伴わない推測を排除し、残った事柄を一つ一つ繋ぎ合わせていくにつれ、次第に笑えなくなった。何故麒麟付きが一人だけなのか、何故麒麟付きが突然誕生したのか、神は意味のないことはしない。
朱翔は口調を少し変え、抑揚をつけず話しだす。
「お前そこら辺の事、蒼万にしっかり話していないだろ? あいつはお前に関して、そういうのは自分の存在で穴埋めしようとしている… 言っている意味、分かるか?」
「…そっそれじゃ駄目なのか?」
顔をしかめる志瑞也に、朱翔は優しく問う。
「駄目ではない…だがそれは、諸刃の剣だ… お前は頭は悪くない、もう気付いているんだろ? それは黄怜の感情ではない、お前のだ。お前のその穴はあいつの望通り〝蒼万〟で埋め尽くされている。たった一つだ…意味分かるか?」
「あっ朱翔っ…」
志瑞也の目が明らかに怯え、瞳がわずかに光りだす。
「志瑞也、良く聞くんだ」
「いっ嫌だっ、聞きたくない!」
前回よりも速い段階で天が蠢き、朱翔はすかさず笛に手を添える。だが、玄枝に言われた言葉が頭を過った。〝焦りは禁物〟だと。朱翔は笛から手を離して志瑞也を抱きしめる。
「分かった言わない、ごめんな…」
「ううぅ…」
「ごめん…」
志瑞也は落ち着きを取り戻すも、耳を塞いで震えたままだった。朱翔は予想以上の深刻な状態に、いつになく額に冷や汗を滲ませた。
志瑞也は自室で鼻息をつき、奥の部屋の棚から飾箱を取り出し、寝床に座って蓋を開けた。写真二枚を手に取り見つめ、亡き家族の顔を一人ずつ優しくなでる。〝独りではない〟それはいずれ、独りになる可能性があるということ。黄怜の感情からは先に逝った者の悲しみ、残してきた者への罪悪感が強く残っている。だが、志瑞也は残されてきた者だ。神族の寿命が長いとはいえ、その日が来るのが怖くて堪らない。特に〝蒼万〟。今回志瑞也が試験に取り組んだのも、他に何か見つけたかったからだ。大切な者、愛する者が増えれば幸せも増すが、その分別れの恐怖も増える。写真を胸に抱きしめ、志瑞也は静かに涙を流した。
朱翔は自室に入り険しい顔で立ち尽くす。志瑞也の鼓動は、既に鳳仙花の実のように熟し、触れると種が弾け飛びそうだ。一緒に居る間にどうにかできればと考えていたが、正直子供達相手にそれどころではなかった。耳に入るわずかな泣き声に、笛を手に取り思いを込める。大丈夫だ、愛する者に怯えるな、心に響くよう優しい旋律を奏で続けた。
翌日、予想通り志瑞也は部屋から出てこなかった。朱翔は中央宮の門前で柊虎達を待ち伏せし、合流して銀白龍殿へ向かう。侍女に玄弥達が着いたら連れて来るよう託けし、黄虎を含め六人で話し合いをすることにした。暫くして全員が揃い、朱翔を中心に右から黄虎、柊虎、磨虎、葵、玄弥と円卓を囲って座り、朱翔は事情を話した。
「…これが今のあいつの状態だ。仮に蒼万に何かあれば宮一つどころの騒ぎでは収まらない、下手をすれば消滅だ。私の仮説が外れいることを願ったが… 昨日のあいつの様子から見て、恐らく間違いはない…」
静まり返った空気に葵が尋ねる。
「今志瑞也さんは?」
「自室で眠っているよ。昨夜はあいつなりに考えていたはずだ、夜遅くまで起きていたよ…」
葵は心配そうに、隣に座る玄弥と見合わせて頷く。
朱翔が尋ねる。
「柊虎、お前あの二人がどうくっ付いたか知っているだろ?」
柊虎は静かに頷く。
「どっちからだ?」
「蒼万からだ。黄怜の記憶が全て戻り覚醒すれば、志瑞也は自分が消えると思っていた。だから自分からは気持ちは言えないと…」
「そうか、お前は志瑞也の過去を何か知っているか?」
柊虎は腕を組み全員を見る。
「知ってはいるが…」
「誰も漏らさない」
全員が頷き、柊虎は腕を解いて話しだす。
「恐らく志瑞也の事を慕っていた者だと思うが、志瑞也にとってその者はたった一人の友だったそうだ。何があったのかは分からないが、二度と会わないようにしたと。だがここに来た事でその者の記憶から自分が消えるなら、その方がその者にとっても幸せだと言っていた」
「やはりな…」
朱翔は納得する。
「何がだ?」
「柊虎、あいつには過去があってないんだ。自分の頭にしかない、場所も相手も全て失ったんだ。皆この意味が分かるか?」
……。
黄虎が口を開く。
「朱翔、説明してくれ」
「例えば、私達が黄龍殿に行けば昔を思い出すだろ? そこで出会った者や情景、話したことのない相手でも、ああこんな奴いたなって思い出したりするだろ?」
黄虎が首を傾げる。
「でも講習会前日に、私と黄怜殿の庭園で子供達が遊ぶのを見て『懐かしい』って言ったのだが…」
「黄虎良く考えてみろよ、それはあいつのじゃなく黄怜の記憶だ。志瑞也の二十三年間の過去の場所はここには一つもない、両親の墓さえもな… それどころか、向こうの世界の者ですらあいつの存在を思い出すことはない。だからあいつはたった数年のここに縋り付いてるんじゃないか、もうここしか居場所がないからだ」
言いながら、朱翔は机を「トントン」と差し、円を描き中央に指を置いた。
「そしてその二十三年間の穴を蒼万だけで埋めているんだ。蒼万一人で足りてるんだから聞こえはいいさ、それに蒼万がそうなるよう尽くしてきたんだから当たり前だ。だが悪く言えば、蒼万以外では埋まらないんだ…」
「そういえば、今回の志瑞也の件は蒼万から通知を受け取ったのだ。責務は何でも良いから志瑞也を参加させてくれって」
朱翔は眉間に皺を寄せる。
「黄虎、それはいつだ?」
「試験日の翌日だ」
成績通知は試験日の三日後、朱翔は「やられた」と少し苛つき、足を組み椅子の背に凭れながら言う。
「はっ、なるほどな、あいつは相当頭が切れる。あいつは事前に私が試験を受ける事も知っていたし、あいつが志瑞也に勉学を教えていたのなら、私がいては講師に選ばれないと分かっていたはずだ。あいつのことだ、恐らく磨虎との一件以来、志瑞也の様子がおかしいのは気付いていたはずだ。前に力の制御の事で三人で話をした事があるんだ、それで今回、志瑞也を私に託したのさ。じゃないと、ふっ、三ヶ月もあいつが志瑞也を手離す訳がない」
「確かに、志瑞也は蒼万からの通知の事は知らなかった…」
「ほらな? あいつは志瑞也のためならなんでもする。だが志瑞也はあいつに過去をちゃんと話していない、あいつはそれを知らなくても、全てを自分で埋め尽くそうとしているがそれは違う。志瑞也が安心して先に進めるには、志瑞也の過去をあいつが一番知るべきだと私は思うんだ」
五人は納得して頷く。
「朱翔さんって、こんな真面目な方だったのですね、ふふふ」
朱翔は澄まし顔で言う。
「葵、私も父親になるんだ。我が子の顔を見る前にこの世を吹っ飛ばしたくないんだよハハハ」
え?
「あっ朱翔が父親になるのか⁉︎」
「なんだよ黄虎、悪いのか?」
「義兄上っ、おめでとうございます!」
「玄弥、その呼び方やめろって言っているだろハハハ」
「おめでとう!」
「やったな!」
「ありがとう柊虎、磨虎」
朱翔は照れを隠しながらもにこやかに笑う。
「朱翔さん、おめでとうございます。兄上に関しては私も同感です。ここに来る前に東宮へ寄ったのですが、出立までの十四日間、志瑞也さんを昼夜問わず離さなかったそうです。私が嫁に行く前もそうですが、志瑞也さんが何か話そうとしても、兄上にとって不都合な時は無理やっ」
「葵っやめてくれっ、私達はあいつのそのやり方十分知っている」
朱翔が手掌を突き出して言葉を遮ぎり、葵は首を傾げ瞬きをする。
「あら、そうですの?」
数年前、興味本意から痛い思いをした黄虎以外の四人は、苦笑いで頷く。
「朱翔何のことだ?」
「黄虎、お前には後から説明する」
何も知らない黄虎は首を傾げる。
「志瑞也に関して玄一のことは玄華様達には話しているみたいだが、両親の事は亡くなったって事以外分からないんだ」
それならと黄虎が言う。
「確か五つの時だったはずだ、伯母上がそう言っていたよ。玄一の形見で文と紙のような物に両親が描かれていたらしい」
「五つか… 今のちび達ぐらいだな。良ければ今回、皆黄怜殿に泊まらないか?」
「わかった」柊虎と磨虎は頷く。
「玄弥達はどうする?」
「わっ」
「一緒に泊まります!」
玄弥が返事をする前に葵が即答し、朱翔はこの瞬間、この夫婦の関係性を見破った。
「玄弥、雲雀を出すから、お前から義祖父上に文を書いてもらえないか?」
「わかりました」
玄弥が頷き、朱翔は袖から小物を取り出し、五人の前に一つずつ置いていく。
「これは鳥用の笛だが私の耳には聞こえる。志瑞也の瞳が琥珀色になったり、怯えて泣き出したら直ぐに私を呼ぶんだ」
五人は笛を手に取り、全員で頷く。
六人は黄怜殿に到着し朱翔が声をかける。
「おーい志瑞也っ、皆来たぞーっ」
気配がなく玄弥が部屋を覗く。
「朱翔さん、いないみたいですよ」
「ったくあいつ、ちび蒼万の所だな」
はて?
五人が首を傾げる。
「もしや、蒼亞のことですか?」
「流石葵、ってか姉なら分かるよなハハハハ」
「四年程会ってないのですが、そんなに兄上に似ているのですか?」
朱翔は腰に手をあて呆れた様に言う。
「そっくり過ぎるよ。あいつ志瑞也にしか懐いてないからお前達気をつけろよ。ったく黄花は口づけするわ、蒼亞と壱黄は嘘泣きっ」
「あっ朱翔っ、黄花と口づけってどういう事だ⁉︎」
黄虎が朱翔の胸ぐらを掴んで睨みつける。
「何するんだ黄虎っ、おっ落ち着けよっ、私じゃない志瑞也にだ!」
朱翔が黄虎の手を振り払う。
「そ、そうか…ハハハ は? 志瑞也に?」
朱翔は衿元を正しながら苦難を吐き出す。
「黄花からしたんだ! ったく皆志瑞也を取り合って大変だったんだ!」
「ぷっハハハハハハ」
朱翔が振り回されているのかと、五人は可笑しくて大笑いする。朱翔は「笑っていられるのも今の内だ、こいつらは必ずあいつらから〝洗礼〟を受ける」と思いながら、片方の口角を上げ怪しげに笑った。
黄虎は子供達に会えないため自殿に戻り、朱翔は残りの四人を連れて黄龍殿へ向かう。休日でもあり、庭園は子供達で賑わっていた。五人はその中に志瑞也を見つけるどころか、蒼亞と双子もいないことに気付き、急ぎ手分けして探す。
早速「ピーピー」と朱翔の耳にしか聞こえない音が鳴る。
「柊虎、いたか?」
「あぁ寝ている…」
柊虎は声を静め目で「こっちだ」と促す。だが、その目線は下ではなく上だった。大きな木の枝に志瑞也は仰向けで寝て、その上に蒼亞と両足に双子が乗っていた。
「朱翔、志瑞也は苦しくないのか?」
「分からない。恐らく部屋ではあまり寝れなかったのかもしれないな、ここで寝ていたら三人が見つけてよじ登ったんだろうよ。見ろよ、あいつがちび蒼万だ。しっかり胸の所で寝ているだろ?」
蒼亞は志瑞也の上半身に跨り、胸元ですやすやと瞼を閉じていた。
「ほ、本当だ…でも寝顔だとよく分からないな」
「ふっ、起きたらお前覚悟しとけよ。クククッ」
三人も後から駆けつけ、木の実の様な光景に笑いを堪える。とにかく志瑞也が起きてしまっては大変だと、朱翔が木に登り先に壱黄を掴み玄弥に渡し、次に黄花を葵に渡す。さあ一番の難関、手汗を衣で拭き、角度を変えるため朱翔は隣の枝に移った。「んっ…」重みが無くなったからか、志瑞也が少し足を動かし全員がひゃっとする。朱翔は横から蒼亞の背中に置かれた志瑞也の手をゆっくり退かし、蒼亞の脇腹を掴みそっと持ち上げ、一先ず全員がほっとする。蒼亞を磨虎に渡した瞬間「蒼…万…」志瑞也が手を伸ばし寝返りを打つ。
朱翔は大声を上げる。
「柊虎ーっ‼︎」
ドサッ!
「ん…」
志瑞也は眩しい日差しに目を萎ませながら、顔を覗き込む者を見た。
「あ、あれっ… 柊虎?」
「志瑞也久し振りだな、昼寝にしては場所が悪くないか?ハハハ」
その眩しい微笑みに、志瑞也は思わず抱きつく。
「…柊虎っ、会いたかった!」
朱翔は木の上から額の汗を拭い、ほっとするも束の間、下の光景に目を見開く。
まずい。
「志ぃ兄ちゃん… その者は誰? 何故…抱っこされているの? ううっ…うあぁん… 下ろしてっ、嫌だあーっ」
「伯父上は…柊虎伯父上と、こ…婚姻するのですか? ううっ…うあぁん…」
「ううっ…おっ、伯父上っ…うううっ…」
磨虎は暴れる蒼亞に叩かれ、葵は泣きじゃくる黄花に髪を引っ張られ、鼻水を垂らして仰反る壱黄を、玄弥は落としそうになる。朱翔は木の上から吹き出す笑いを堪え、全員のあたふたする姿を見ていた。
「柊虎ありがとうっ、下ろして」
「あぁ、志瑞也髪っ…」
「蒼亞おいで、大丈夫だよ。木から落ちたのを助けてもらっただけだよ」
志瑞也は蒼亞を抱きしめ頭をなでる。志瑞也の背後で磨虎は蒼亞にきっと睨まれ、その顔付きに思わず苛ついてしまう。
「蒼亞もう泣いちゃ駄目だぞ、ちゅっ」
「志ぃ兄ちゃん大好き、へへ」
「俺も蒼亞大好きだよ、アハハ」
蒼亞は横目で柊虎を睨み、その顔付きに柊虎は顔を引き攣らせる。柊虎と磨虎は木を見上げ、朱翔が顔で「ほらな?」と両眉を上げて笑う。二人は同時にこくんと、真顔で頷いた。
「伯父上!」
「伯父上!」
「わぷっ、お前達は三人でも俺は一人なんだよ!」
双子が飛びかかり志瑞也は倒れそうになる。
「蒼亞っ、いい加減にしなさい!」
「あっ姉上⁉︎」
「志瑞也さんが困っているわ!」
その目付きは蒼万に似ている。
「志ぃ兄ちゃんっ、姉上が怖いよ…」
「大丈夫だよ蒼亞、葵ちゃん久し振りだね。玄弥も磨虎も… 皆……あ…会いたかったよ…」
志瑞也は声を震わせ目を潤ませた。
四人ははっとして同時に「ふーっ」と笛を吹く。
「ゔるさい! 今のは違うし私はここにいるんだーっ‼︎」
朱翔が木の上から怒鳴り、志瑞也は何のことだと首を傾げた。
「朱翔は明日帰るのか?」
「いや、今回は最後までいるよ」
「そっか、良かった、へへ 明日皆来るんだよな、楽しみだなあ…」
何度か朱翔の笛は聴かせてもらっていたが、とても心地良く穏やかな気持ちになる。帰るなら仕方がないとしても、やはり一人でも欠けるのは淋しいものだ。久々に皆が集まることに、志瑞也は嬉しくなった。柊虎と磨虎とは半年前の決闘日、葵と玄弥に至っては二人の婚儀以来会っていない。血の謎に向かっている時は、気持ちが一致団結し、皆の存在が近くに感じられていた。何故皆と早く会いたいのか、何故こんなにも心細いのか「ふっ」志瑞也は鼻で笑う。答えは単純明快、一番側にいてほしい男がいないからだ。
「志瑞也、ちょっと聞いていいか?」
「ん、何だ?」
「お前、何でそんなに独りになるの怯えているんだ?」
「えっ…」
やはり図星だ、志瑞也は露骨に顔を歪めた。朱翔は本当は帰る予定だったが、毎晩笛に込める霊力が増す事で、志瑞也の精神状態が不安定だと気付いた。朱翔は笛の話を提案して以来、色々調べていた。初めは解明できる可能性に面白半分だったが、伴わない推測を排除し、残った事柄を一つ一つ繋ぎ合わせていくにつれ、次第に笑えなくなった。何故麒麟付きが一人だけなのか、何故麒麟付きが突然誕生したのか、神は意味のないことはしない。
朱翔は口調を少し変え、抑揚をつけず話しだす。
「お前そこら辺の事、蒼万にしっかり話していないだろ? あいつはお前に関して、そういうのは自分の存在で穴埋めしようとしている… 言っている意味、分かるか?」
「…そっそれじゃ駄目なのか?」
顔をしかめる志瑞也に、朱翔は優しく問う。
「駄目ではない…だがそれは、諸刃の剣だ… お前は頭は悪くない、もう気付いているんだろ? それは黄怜の感情ではない、お前のだ。お前のその穴はあいつの望通り〝蒼万〟で埋め尽くされている。たった一つだ…意味分かるか?」
「あっ朱翔っ…」
志瑞也の目が明らかに怯え、瞳がわずかに光りだす。
「志瑞也、良く聞くんだ」
「いっ嫌だっ、聞きたくない!」
前回よりも速い段階で天が蠢き、朱翔はすかさず笛に手を添える。だが、玄枝に言われた言葉が頭を過った。〝焦りは禁物〟だと。朱翔は笛から手を離して志瑞也を抱きしめる。
「分かった言わない、ごめんな…」
「ううぅ…」
「ごめん…」
志瑞也は落ち着きを取り戻すも、耳を塞いで震えたままだった。朱翔は予想以上の深刻な状態に、いつになく額に冷や汗を滲ませた。
志瑞也は自室で鼻息をつき、奥の部屋の棚から飾箱を取り出し、寝床に座って蓋を開けた。写真二枚を手に取り見つめ、亡き家族の顔を一人ずつ優しくなでる。〝独りではない〟それはいずれ、独りになる可能性があるということ。黄怜の感情からは先に逝った者の悲しみ、残してきた者への罪悪感が強く残っている。だが、志瑞也は残されてきた者だ。神族の寿命が長いとはいえ、その日が来るのが怖くて堪らない。特に〝蒼万〟。今回志瑞也が試験に取り組んだのも、他に何か見つけたかったからだ。大切な者、愛する者が増えれば幸せも増すが、その分別れの恐怖も増える。写真を胸に抱きしめ、志瑞也は静かに涙を流した。
朱翔は自室に入り険しい顔で立ち尽くす。志瑞也の鼓動は、既に鳳仙花の実のように熟し、触れると種が弾け飛びそうだ。一緒に居る間にどうにかできればと考えていたが、正直子供達相手にそれどころではなかった。耳に入るわずかな泣き声に、笛を手に取り思いを込める。大丈夫だ、愛する者に怯えるな、心に響くよう優しい旋律を奏で続けた。
翌日、予想通り志瑞也は部屋から出てこなかった。朱翔は中央宮の門前で柊虎達を待ち伏せし、合流して銀白龍殿へ向かう。侍女に玄弥達が着いたら連れて来るよう託けし、黄虎を含め六人で話し合いをすることにした。暫くして全員が揃い、朱翔を中心に右から黄虎、柊虎、磨虎、葵、玄弥と円卓を囲って座り、朱翔は事情を話した。
「…これが今のあいつの状態だ。仮に蒼万に何かあれば宮一つどころの騒ぎでは収まらない、下手をすれば消滅だ。私の仮説が外れいることを願ったが… 昨日のあいつの様子から見て、恐らく間違いはない…」
静まり返った空気に葵が尋ねる。
「今志瑞也さんは?」
「自室で眠っているよ。昨夜はあいつなりに考えていたはずだ、夜遅くまで起きていたよ…」
葵は心配そうに、隣に座る玄弥と見合わせて頷く。
朱翔が尋ねる。
「柊虎、お前あの二人がどうくっ付いたか知っているだろ?」
柊虎は静かに頷く。
「どっちからだ?」
「蒼万からだ。黄怜の記憶が全て戻り覚醒すれば、志瑞也は自分が消えると思っていた。だから自分からは気持ちは言えないと…」
「そうか、お前は志瑞也の過去を何か知っているか?」
柊虎は腕を組み全員を見る。
「知ってはいるが…」
「誰も漏らさない」
全員が頷き、柊虎は腕を解いて話しだす。
「恐らく志瑞也の事を慕っていた者だと思うが、志瑞也にとってその者はたった一人の友だったそうだ。何があったのかは分からないが、二度と会わないようにしたと。だがここに来た事でその者の記憶から自分が消えるなら、その方がその者にとっても幸せだと言っていた」
「やはりな…」
朱翔は納得する。
「何がだ?」
「柊虎、あいつには過去があってないんだ。自分の頭にしかない、場所も相手も全て失ったんだ。皆この意味が分かるか?」
……。
黄虎が口を開く。
「朱翔、説明してくれ」
「例えば、私達が黄龍殿に行けば昔を思い出すだろ? そこで出会った者や情景、話したことのない相手でも、ああこんな奴いたなって思い出したりするだろ?」
黄虎が首を傾げる。
「でも講習会前日に、私と黄怜殿の庭園で子供達が遊ぶのを見て『懐かしい』って言ったのだが…」
「黄虎良く考えてみろよ、それはあいつのじゃなく黄怜の記憶だ。志瑞也の二十三年間の過去の場所はここには一つもない、両親の墓さえもな… それどころか、向こうの世界の者ですらあいつの存在を思い出すことはない。だからあいつはたった数年のここに縋り付いてるんじゃないか、もうここしか居場所がないからだ」
言いながら、朱翔は机を「トントン」と差し、円を描き中央に指を置いた。
「そしてその二十三年間の穴を蒼万だけで埋めているんだ。蒼万一人で足りてるんだから聞こえはいいさ、それに蒼万がそうなるよう尽くしてきたんだから当たり前だ。だが悪く言えば、蒼万以外では埋まらないんだ…」
「そういえば、今回の志瑞也の件は蒼万から通知を受け取ったのだ。責務は何でも良いから志瑞也を参加させてくれって」
朱翔は眉間に皺を寄せる。
「黄虎、それはいつだ?」
「試験日の翌日だ」
成績通知は試験日の三日後、朱翔は「やられた」と少し苛つき、足を組み椅子の背に凭れながら言う。
「はっ、なるほどな、あいつは相当頭が切れる。あいつは事前に私が試験を受ける事も知っていたし、あいつが志瑞也に勉学を教えていたのなら、私がいては講師に選ばれないと分かっていたはずだ。あいつのことだ、恐らく磨虎との一件以来、志瑞也の様子がおかしいのは気付いていたはずだ。前に力の制御の事で三人で話をした事があるんだ、それで今回、志瑞也を私に託したのさ。じゃないと、ふっ、三ヶ月もあいつが志瑞也を手離す訳がない」
「確かに、志瑞也は蒼万からの通知の事は知らなかった…」
「ほらな? あいつは志瑞也のためならなんでもする。だが志瑞也はあいつに過去をちゃんと話していない、あいつはそれを知らなくても、全てを自分で埋め尽くそうとしているがそれは違う。志瑞也が安心して先に進めるには、志瑞也の過去をあいつが一番知るべきだと私は思うんだ」
五人は納得して頷く。
「朱翔さんって、こんな真面目な方だったのですね、ふふふ」
朱翔は澄まし顔で言う。
「葵、私も父親になるんだ。我が子の顔を見る前にこの世を吹っ飛ばしたくないんだよハハハ」
え?
「あっ朱翔が父親になるのか⁉︎」
「なんだよ黄虎、悪いのか?」
「義兄上っ、おめでとうございます!」
「玄弥、その呼び方やめろって言っているだろハハハ」
「おめでとう!」
「やったな!」
「ありがとう柊虎、磨虎」
朱翔は照れを隠しながらもにこやかに笑う。
「朱翔さん、おめでとうございます。兄上に関しては私も同感です。ここに来る前に東宮へ寄ったのですが、出立までの十四日間、志瑞也さんを昼夜問わず離さなかったそうです。私が嫁に行く前もそうですが、志瑞也さんが何か話そうとしても、兄上にとって不都合な時は無理やっ」
「葵っやめてくれっ、私達はあいつのそのやり方十分知っている」
朱翔が手掌を突き出して言葉を遮ぎり、葵は首を傾げ瞬きをする。
「あら、そうですの?」
数年前、興味本意から痛い思いをした黄虎以外の四人は、苦笑いで頷く。
「朱翔何のことだ?」
「黄虎、お前には後から説明する」
何も知らない黄虎は首を傾げる。
「志瑞也に関して玄一のことは玄華様達には話しているみたいだが、両親の事は亡くなったって事以外分からないんだ」
それならと黄虎が言う。
「確か五つの時だったはずだ、伯母上がそう言っていたよ。玄一の形見で文と紙のような物に両親が描かれていたらしい」
「五つか… 今のちび達ぐらいだな。良ければ今回、皆黄怜殿に泊まらないか?」
「わかった」柊虎と磨虎は頷く。
「玄弥達はどうする?」
「わっ」
「一緒に泊まります!」
玄弥が返事をする前に葵が即答し、朱翔はこの瞬間、この夫婦の関係性を見破った。
「玄弥、雲雀を出すから、お前から義祖父上に文を書いてもらえないか?」
「わかりました」
玄弥が頷き、朱翔は袖から小物を取り出し、五人の前に一つずつ置いていく。
「これは鳥用の笛だが私の耳には聞こえる。志瑞也の瞳が琥珀色になったり、怯えて泣き出したら直ぐに私を呼ぶんだ」
五人は笛を手に取り、全員で頷く。
六人は黄怜殿に到着し朱翔が声をかける。
「おーい志瑞也っ、皆来たぞーっ」
気配がなく玄弥が部屋を覗く。
「朱翔さん、いないみたいですよ」
「ったくあいつ、ちび蒼万の所だな」
はて?
五人が首を傾げる。
「もしや、蒼亞のことですか?」
「流石葵、ってか姉なら分かるよなハハハハ」
「四年程会ってないのですが、そんなに兄上に似ているのですか?」
朱翔は腰に手をあて呆れた様に言う。
「そっくり過ぎるよ。あいつ志瑞也にしか懐いてないからお前達気をつけろよ。ったく黄花は口づけするわ、蒼亞と壱黄は嘘泣きっ」
「あっ朱翔っ、黄花と口づけってどういう事だ⁉︎」
黄虎が朱翔の胸ぐらを掴んで睨みつける。
「何するんだ黄虎っ、おっ落ち着けよっ、私じゃない志瑞也にだ!」
朱翔が黄虎の手を振り払う。
「そ、そうか…ハハハ は? 志瑞也に?」
朱翔は衿元を正しながら苦難を吐き出す。
「黄花からしたんだ! ったく皆志瑞也を取り合って大変だったんだ!」
「ぷっハハハハハハ」
朱翔が振り回されているのかと、五人は可笑しくて大笑いする。朱翔は「笑っていられるのも今の内だ、こいつらは必ずあいつらから〝洗礼〟を受ける」と思いながら、片方の口角を上げ怪しげに笑った。
黄虎は子供達に会えないため自殿に戻り、朱翔は残りの四人を連れて黄龍殿へ向かう。休日でもあり、庭園は子供達で賑わっていた。五人はその中に志瑞也を見つけるどころか、蒼亞と双子もいないことに気付き、急ぎ手分けして探す。
早速「ピーピー」と朱翔の耳にしか聞こえない音が鳴る。
「柊虎、いたか?」
「あぁ寝ている…」
柊虎は声を静め目で「こっちだ」と促す。だが、その目線は下ではなく上だった。大きな木の枝に志瑞也は仰向けで寝て、その上に蒼亞と両足に双子が乗っていた。
「朱翔、志瑞也は苦しくないのか?」
「分からない。恐らく部屋ではあまり寝れなかったのかもしれないな、ここで寝ていたら三人が見つけてよじ登ったんだろうよ。見ろよ、あいつがちび蒼万だ。しっかり胸の所で寝ているだろ?」
蒼亞は志瑞也の上半身に跨り、胸元ですやすやと瞼を閉じていた。
「ほ、本当だ…でも寝顔だとよく分からないな」
「ふっ、起きたらお前覚悟しとけよ。クククッ」
三人も後から駆けつけ、木の実の様な光景に笑いを堪える。とにかく志瑞也が起きてしまっては大変だと、朱翔が木に登り先に壱黄を掴み玄弥に渡し、次に黄花を葵に渡す。さあ一番の難関、手汗を衣で拭き、角度を変えるため朱翔は隣の枝に移った。「んっ…」重みが無くなったからか、志瑞也が少し足を動かし全員がひゃっとする。朱翔は横から蒼亞の背中に置かれた志瑞也の手をゆっくり退かし、蒼亞の脇腹を掴みそっと持ち上げ、一先ず全員がほっとする。蒼亞を磨虎に渡した瞬間「蒼…万…」志瑞也が手を伸ばし寝返りを打つ。
朱翔は大声を上げる。
「柊虎ーっ‼︎」
ドサッ!
「ん…」
志瑞也は眩しい日差しに目を萎ませながら、顔を覗き込む者を見た。
「あ、あれっ… 柊虎?」
「志瑞也久し振りだな、昼寝にしては場所が悪くないか?ハハハ」
その眩しい微笑みに、志瑞也は思わず抱きつく。
「…柊虎っ、会いたかった!」
朱翔は木の上から額の汗を拭い、ほっとするも束の間、下の光景に目を見開く。
まずい。
「志ぃ兄ちゃん… その者は誰? 何故…抱っこされているの? ううっ…うあぁん… 下ろしてっ、嫌だあーっ」
「伯父上は…柊虎伯父上と、こ…婚姻するのですか? ううっ…うあぁん…」
「ううっ…おっ、伯父上っ…うううっ…」
磨虎は暴れる蒼亞に叩かれ、葵は泣きじゃくる黄花に髪を引っ張られ、鼻水を垂らして仰反る壱黄を、玄弥は落としそうになる。朱翔は木の上から吹き出す笑いを堪え、全員のあたふたする姿を見ていた。
「柊虎ありがとうっ、下ろして」
「あぁ、志瑞也髪っ…」
「蒼亞おいで、大丈夫だよ。木から落ちたのを助けてもらっただけだよ」
志瑞也は蒼亞を抱きしめ頭をなでる。志瑞也の背後で磨虎は蒼亞にきっと睨まれ、その顔付きに思わず苛ついてしまう。
「蒼亞もう泣いちゃ駄目だぞ、ちゅっ」
「志ぃ兄ちゃん大好き、へへ」
「俺も蒼亞大好きだよ、アハハ」
蒼亞は横目で柊虎を睨み、その顔付きに柊虎は顔を引き攣らせる。柊虎と磨虎は木を見上げ、朱翔が顔で「ほらな?」と両眉を上げて笑う。二人は同時にこくんと、真顔で頷いた。
「伯父上!」
「伯父上!」
「わぷっ、お前達は三人でも俺は一人なんだよ!」
双子が飛びかかり志瑞也は倒れそうになる。
「蒼亞っ、いい加減にしなさい!」
「あっ姉上⁉︎」
「志瑞也さんが困っているわ!」
その目付きは蒼万に似ている。
「志ぃ兄ちゃんっ、姉上が怖いよ…」
「大丈夫だよ蒼亞、葵ちゃん久し振りだね。玄弥も磨虎も… 皆……あ…会いたかったよ…」
志瑞也は声を震わせ目を潤ませた。
四人ははっとして同時に「ふーっ」と笛を吹く。
「ゔるさい! 今のは違うし私はここにいるんだーっ‼︎」
朱翔が木の上から怒鳴り、志瑞也は何のことだと首を傾げた。
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