156 / 164
完結編 福寿草
亡き友を思う
しおりを挟む
志瑞也は黄水室に運ばれる間、蒼万の懐に手を忍ばせ怪しげに笑っていた。ここまで酔った姿は蒼万も初めて見るが、可笑し過ぎて見ていて楽しかった。「蒼万ぁ何で勝手に脱ぐんだよぉ、俺の楽しみ取るなよぉ、可愛いなぁよしよし」蒼万の物をなでる。「俺に会いたかったか? そうかそうか、はむっ、んっんっちゅぱっ…はぁ、俺を好きか? 苛めたい? 意地悪な奴め、ちゅ……はむっ、んっんっ…」と蒼万の物に話しかけていた。
「蒼万、挿れて…」
志瑞也は自ら足を開げてお尻を掴み、入口をひくひくと動かす。
「久々だ、直ぐはお前が辛い」
しかし、蒼万の物も既にはち切れそうだ。
「嫌だっ、大丈夫だから、もうほしいんだ…」
蒼万は腰に絡んできた足に押され、呑み込む動きに合わせながら挿し込む。
「はあっ…熱いっ、ああ…っ、いいっ…きっ気持ちいいっ、ああ…っ、蒼万っ、いっぱい入ってる…っ、んっ……」
蒼万は苦しくないよう腰を動かすも、吸いつく刺激に堪らず激しくなる。志瑞也の入口は既に液が溢れ、待ち侘びていた蒼万の物を咥え込み、もう離さない離れたくないと、悦びに卑猥な音で鳴きだす。
「あっ…んっ、気持ちいいっ、蒼万っ、おっ俺大変だったんだっ…うっ、そこいいっ、もっと擦ってっ…」
「何が大変だったのだ…っ」
「蒼亞にっ、あ…っ、キスされてっ…」
…何と?
「あんっ、蒼万どうしたんだ? 動いて…」
「蒼亞が何をしたのだ?」
志瑞也は蒼万の頬に触れ訴える。
「舌入れられて、身体が熱くなって、でも…蒼万いないから、俺自分で弄っても……いっいけなくて、苦しかった… ううっ…苦しかったんだっ、ひっく……」
朱翔に言われた事を思い返し、同じ血に反応してしまったのだと、蒼万は眉間に皺を寄せる。実際、蒼亞がそこまでするとは思わなかった。
「すまない…」
「そうだっ、今回は蒼万が悪いっ……蒼万が居なくて、俺怖かったんだ…ううっ…」
蒼万は志瑞也の涙を拭い、抱え起こして強く抱きしめた。
「ああうっ…いいっ、気持ちいいっ、あ…っ、はっ、蒼万っ、会いたかった、もっと奥擦って…あうっ、いいっ…」
「志瑞也、愛してる」
耳元で低く囁かれ、身体に触れる唇に志瑞也は目が眩む。
「あん…っ、蒼万っ、俺も愛してる…あっ、何処も行かないで、俺の側にいて…っ、ちゅっ…」
蒼万が志瑞也の物を握ると、反応を返し裏筋を張らせた。先から根本まで擦りながら、腰を奥に突き上げる。
「お前は私のものだ…っ、離さぬ…っ」
「はんっ、いく、蒼万っ、いっいちゃう…あっ、はっ、あ…っ、ああーっ………」
「志瑞也、大丈夫か?」
「足りない…もっと… 蒼万…」
真夜中、蒼万は志瑞也を抱え客室に入る。志瑞也だけでなく、蒼万も夜中に何度も目が覚めていた。久々に胸に抱き共に眠る幸せを、生ある限り失わないよう尽くすと蒼万は誓う。志瑞也の頭をなで最初の頃を思い出し「ふっ」と笑う。何故こうなったかは明日聞こうと、額に口づけして瞼を閉じた。
翌日、志瑞也は蒼万の匂いで目覚める。包まれる温もりや感触に、夢ではなかったのだと腰に手を回す。すると、ぎゅっと抱き返してくる。何て幸せなのだろう。蒼万の寝衣の中に手を忍ばせ、吸いつく皮膚の感触に思わず笑みが溢れる。指全体で味わうように、逞しい身体を滑らせていく。開けた胸に口づけを繰り返し、匂いを嗅ぐと甘い香が舌を踊らせた。志瑞也は堪らず胸に貪り付き、蒼万に足を絡め身体を擦り付ける。
「志瑞也、ここでは駄目だ」
「ちゅっ…何で? 俺、勃っちゃった…」
「…酔っているのか?」
蒼万は志瑞也を黄水室に連れて行き、口づけで声を塞ぎなが落ち着けさせる。だが、溜め過ぎたのか、その日の内で志瑞也の興奮は収まらなかった。少しでも蒼万を見失うと、獣の様に匂いを辿り、見つけてはずっと体にくっ付きべたべたと触る。食事中も「蒼万、口にご飯の粒が付いているよ、俺が取ってあげる」と襲いかかる。礼儀正しい蒼万に限ってそれはない。全員が、一日中志瑞也の行動に振り回された。酒がまだ残っているのか、久々に会えたことで狂ってしまっているのか。皆で志瑞也を掴まえ朱翔が瞳孔を覗き「志瑞也、私は誰だ?」と問うも「蒼万!」朱翔の背後に立っている蒼万しか見ていない。周りが見えていないと分かり、一時的なものだろうと思うも、このまま子供達の前でうろうろされては困る。朱翔は志瑞也をもう一日休ませ、誰も居ない日中の間だけ部屋で許可した。
今日は基本編の試験日、朱翔は振り回され疲れ切っていた。子供達を見ながら頬杖を突いて座る。一歩間違えば、今日の日を迎えられなかった。そう考えると、とても眩い光景に見えてくる。志瑞也の存在が必然なら、数百年振りに武神として生まれたあの男の存在も、必然ということになる。だが、特異な力は実に危うい。両者共に極端過ぎて苦しんでいる姿を見ると、並の上……いや、自分の様な上の中ほどが、平穏に暮らせるのだと朱翔は思った。
「朱翔、隣りいいか?」
「聞かなくても座れよ。来るの見えていたよ、ふっ」
柊虎は微笑んで座る。
「昨日は散々だったなハハハ」
「休みなのに休んだ気がしないよ、はぁー…」
「蒼万も見たことないって驚いていたなハハハ」
二人は呆れ笑う。
朱翔は頬杖を突いたまま片眉を上げて言う。
「それで? 優秀な私の右腕様、一昨日の夜、あいつをどうやってあの状態で連れて来たんだ?」
通常の蒼万なら、不意打ちでも確実に躱される。周りが見えないぐらい動揺させないと、朱翔では殴れなかった。
柊虎は足を肩幅に広げ、両膝に手を置き頭を下げて言う。
「これはこれは策士様『倒れて意識が戻らない』と言って連れて参りました」
「ふっ、私が手を出しているって吹っかけなかったのか?」
柊虎は笑いながら姿勢を元に戻した。
「〝志瑞也の自室に入ったら、朱翔が衣を脱がして抱きしめていたのだ〟って最初は言おうと思ったが、あいつがお前に志瑞也を託したってことは、お前が絶対手を出さないって分かっているからだ。これは裏があると直ぐ気付かれるさ、お前は志瑞也を抱けないが私は抱ける。それをあいつは分かっているのだ」
「おま……そこまで想っているのか? はぁー、お前と蒼万の関係もよく分からんなハハハ」
溜息混じりにそう言って、朱翔は顔を横に振る。
「普通に友だ、あいつも私の気持ちは知っているよ。それに志瑞也の心が私に向かないのも知っているさ、手を出してしまって私が傷つかないよう、いつも見張っているのだ。だから私は安心してあの位置にいれるのだ、何かあれば蒼万が止めに来るからなハハハ」
「お前とんだ食わせ者だな…ふっハハハ」
相手の行動を利用して、自分の利を叶えようとするこの思考は、蒼万と似ていると朱翔は呆れ笑う。
「それに、あいつは志瑞也の意識が戻らない事に異常に焦るのだ… 一度死んだ姿を見ているなら尚更頭を過ぎるさ、あんな思いは二度としたくないってな… あいつも失うことに怯えているのだよ…」
言いながら、柊虎は眉をひそめた。
「ってことは、お前も言いたくない事を言ったんだな。悪かったな…」
「いいや、今回は皆苦しんださ。志瑞也と蒼万とお前は特にな、これぐらい覚悟の上だ。見守る側も皆苦しんだはずだ… お前こそ、わざと私と比べさせて蒼万に聞かせたのだろ?」
「…それは違う、お前のためだ。お前が諦める切っ掛けになればと思っただけだよ… あいつの笑顔は眩しいから、はっきり言われないと難しいと思ってさ…」
「そうか…」
朱翔の思惑とは別に〝柊虎の代わりは蒼万でも無理だ〟と言われた事の方が、柊虎は嬉しかったのだ。
朱翔が肘で柊虎を小突く。
「お前良い男なのに何で婚姻できないんだ? 私が女だったら直ぐに婚約申込んでいるぞハハハ」
柊虎は顔を引き攣らせて首を傾げた。
「お前みたいな直ぐ手の出る女は…ちょっと無理かなハハハハ」
「ふっ、お前変な性癖ありそうだな」
「そうかもなハハハ」
柊虎は満更でもない顔をする。
「私な、黄怜にも似たようなことを言ったんだ… 成人の儀の時に『お前が女だったら、私は今日婚約を申込んでいるな』ってな… あいつどんな気持ちだったのかな…」
伏し目がちにうつむく朱翔に柊虎は言う。
「私は『また明日ここで会おう』と言って、黄怜は『また明日』…これが最後だ」
「そうか…」
「あぁ…」
二人は庭園の子供達を見つめた。
「柊虎さーんっ、朱翔さーんっ、成績発表しますよーっ」
朱翔は玄弥に「わかった」と手で合図を送る。
「柊虎、行くか」
「そうだな」
二人は立ち上がり歩きだす。
朱翔は柊虎の肩を組んで言う。
「お前、磨虎殴っといたか?」
「あれが冗談なら殴れるが、兄上は真剣に言ったのだ。あの後落ち込んでもいたし殴れないよハハハハ」
「磨虎らしいなハハハハ」
二人は笑いながら子供達の元へ向かった。
基本試験では、蒼亞が一位、壱黄は八位だった。残り十四日間となり、気を抜かないよう皆は引き締め直した。
「義兄上」
「蒼亞、私の講習は今日で終わりでも、講習会の間は師匠って呼ぶのだよ。どうした?」
玄弥は微笑んで蒼亞の頭をなでる。
「はい。玄弥師匠、志ぃ兄ちゃんは今日は来ないのですか?」
「あ、えっと…」
玄弥は目を泳がせ、側にいた朱翔が言う。
「蒼亞、私に聞けばいいじゃないか、志瑞也の居場所を知りたいのか?」
「……」
口づけ事件以来、蒼亞は朱翔に対して敵意を剥き出しにしている。
「お前、兄上の友を睨んでいいのか?」
「…志ぃ兄ちゃんは何処ですか?」
不満げに言う蒼亞に、朱翔は事実を告げる。
「お前が志瑞也にあんな事するから、蒼万が迎えに来た」
朱翔はにんまり微笑む。
「朱翔さんっ、大人気ないですよ!」
「だって本当の事だろ? 今だってきっとっ」
「朱翔さん!」
玄弥は朱翔の口を塞ごうとするも躱され、目で「やめて下さい!」と訴える。
「あ…兄上がっいらしてるんですか?」
おやおや?
蒼亞の顔が露骨に曇る。
「どうした蒼亞?」
「あっ兄上はっ、私が志ぃ兄ちゃんにした事…」
「知っているよ」
朱翔は両眉をあげて「当然」と顔をする。
「……」
蒼亞は何も言わず、とぼとぼと去って行く。
「何だあいつ?」
「どうしたんですかね?」
朱翔と玄弥は首を傾げた。
「蒼万、挿れて…」
志瑞也は自ら足を開げてお尻を掴み、入口をひくひくと動かす。
「久々だ、直ぐはお前が辛い」
しかし、蒼万の物も既にはち切れそうだ。
「嫌だっ、大丈夫だから、もうほしいんだ…」
蒼万は腰に絡んできた足に押され、呑み込む動きに合わせながら挿し込む。
「はあっ…熱いっ、ああ…っ、いいっ…きっ気持ちいいっ、ああ…っ、蒼万っ、いっぱい入ってる…っ、んっ……」
蒼万は苦しくないよう腰を動かすも、吸いつく刺激に堪らず激しくなる。志瑞也の入口は既に液が溢れ、待ち侘びていた蒼万の物を咥え込み、もう離さない離れたくないと、悦びに卑猥な音で鳴きだす。
「あっ…んっ、気持ちいいっ、蒼万っ、おっ俺大変だったんだっ…うっ、そこいいっ、もっと擦ってっ…」
「何が大変だったのだ…っ」
「蒼亞にっ、あ…っ、キスされてっ…」
…何と?
「あんっ、蒼万どうしたんだ? 動いて…」
「蒼亞が何をしたのだ?」
志瑞也は蒼万の頬に触れ訴える。
「舌入れられて、身体が熱くなって、でも…蒼万いないから、俺自分で弄っても……いっいけなくて、苦しかった… ううっ…苦しかったんだっ、ひっく……」
朱翔に言われた事を思い返し、同じ血に反応してしまったのだと、蒼万は眉間に皺を寄せる。実際、蒼亞がそこまでするとは思わなかった。
「すまない…」
「そうだっ、今回は蒼万が悪いっ……蒼万が居なくて、俺怖かったんだ…ううっ…」
蒼万は志瑞也の涙を拭い、抱え起こして強く抱きしめた。
「ああうっ…いいっ、気持ちいいっ、あ…っ、はっ、蒼万っ、会いたかった、もっと奥擦って…あうっ、いいっ…」
「志瑞也、愛してる」
耳元で低く囁かれ、身体に触れる唇に志瑞也は目が眩む。
「あん…っ、蒼万っ、俺も愛してる…あっ、何処も行かないで、俺の側にいて…っ、ちゅっ…」
蒼万が志瑞也の物を握ると、反応を返し裏筋を張らせた。先から根本まで擦りながら、腰を奥に突き上げる。
「お前は私のものだ…っ、離さぬ…っ」
「はんっ、いく、蒼万っ、いっいちゃう…あっ、はっ、あ…っ、ああーっ………」
「志瑞也、大丈夫か?」
「足りない…もっと… 蒼万…」
真夜中、蒼万は志瑞也を抱え客室に入る。志瑞也だけでなく、蒼万も夜中に何度も目が覚めていた。久々に胸に抱き共に眠る幸せを、生ある限り失わないよう尽くすと蒼万は誓う。志瑞也の頭をなで最初の頃を思い出し「ふっ」と笑う。何故こうなったかは明日聞こうと、額に口づけして瞼を閉じた。
翌日、志瑞也は蒼万の匂いで目覚める。包まれる温もりや感触に、夢ではなかったのだと腰に手を回す。すると、ぎゅっと抱き返してくる。何て幸せなのだろう。蒼万の寝衣の中に手を忍ばせ、吸いつく皮膚の感触に思わず笑みが溢れる。指全体で味わうように、逞しい身体を滑らせていく。開けた胸に口づけを繰り返し、匂いを嗅ぐと甘い香が舌を踊らせた。志瑞也は堪らず胸に貪り付き、蒼万に足を絡め身体を擦り付ける。
「志瑞也、ここでは駄目だ」
「ちゅっ…何で? 俺、勃っちゃった…」
「…酔っているのか?」
蒼万は志瑞也を黄水室に連れて行き、口づけで声を塞ぎなが落ち着けさせる。だが、溜め過ぎたのか、その日の内で志瑞也の興奮は収まらなかった。少しでも蒼万を見失うと、獣の様に匂いを辿り、見つけてはずっと体にくっ付きべたべたと触る。食事中も「蒼万、口にご飯の粒が付いているよ、俺が取ってあげる」と襲いかかる。礼儀正しい蒼万に限ってそれはない。全員が、一日中志瑞也の行動に振り回された。酒がまだ残っているのか、久々に会えたことで狂ってしまっているのか。皆で志瑞也を掴まえ朱翔が瞳孔を覗き「志瑞也、私は誰だ?」と問うも「蒼万!」朱翔の背後に立っている蒼万しか見ていない。周りが見えていないと分かり、一時的なものだろうと思うも、このまま子供達の前でうろうろされては困る。朱翔は志瑞也をもう一日休ませ、誰も居ない日中の間だけ部屋で許可した。
今日は基本編の試験日、朱翔は振り回され疲れ切っていた。子供達を見ながら頬杖を突いて座る。一歩間違えば、今日の日を迎えられなかった。そう考えると、とても眩い光景に見えてくる。志瑞也の存在が必然なら、数百年振りに武神として生まれたあの男の存在も、必然ということになる。だが、特異な力は実に危うい。両者共に極端過ぎて苦しんでいる姿を見ると、並の上……いや、自分の様な上の中ほどが、平穏に暮らせるのだと朱翔は思った。
「朱翔、隣りいいか?」
「聞かなくても座れよ。来るの見えていたよ、ふっ」
柊虎は微笑んで座る。
「昨日は散々だったなハハハ」
「休みなのに休んだ気がしないよ、はぁー…」
「蒼万も見たことないって驚いていたなハハハ」
二人は呆れ笑う。
朱翔は頬杖を突いたまま片眉を上げて言う。
「それで? 優秀な私の右腕様、一昨日の夜、あいつをどうやってあの状態で連れて来たんだ?」
通常の蒼万なら、不意打ちでも確実に躱される。周りが見えないぐらい動揺させないと、朱翔では殴れなかった。
柊虎は足を肩幅に広げ、両膝に手を置き頭を下げて言う。
「これはこれは策士様『倒れて意識が戻らない』と言って連れて参りました」
「ふっ、私が手を出しているって吹っかけなかったのか?」
柊虎は笑いながら姿勢を元に戻した。
「〝志瑞也の自室に入ったら、朱翔が衣を脱がして抱きしめていたのだ〟って最初は言おうと思ったが、あいつがお前に志瑞也を託したってことは、お前が絶対手を出さないって分かっているからだ。これは裏があると直ぐ気付かれるさ、お前は志瑞也を抱けないが私は抱ける。それをあいつは分かっているのだ」
「おま……そこまで想っているのか? はぁー、お前と蒼万の関係もよく分からんなハハハ」
溜息混じりにそう言って、朱翔は顔を横に振る。
「普通に友だ、あいつも私の気持ちは知っているよ。それに志瑞也の心が私に向かないのも知っているさ、手を出してしまって私が傷つかないよう、いつも見張っているのだ。だから私は安心してあの位置にいれるのだ、何かあれば蒼万が止めに来るからなハハハ」
「お前とんだ食わせ者だな…ふっハハハ」
相手の行動を利用して、自分の利を叶えようとするこの思考は、蒼万と似ていると朱翔は呆れ笑う。
「それに、あいつは志瑞也の意識が戻らない事に異常に焦るのだ… 一度死んだ姿を見ているなら尚更頭を過ぎるさ、あんな思いは二度としたくないってな… あいつも失うことに怯えているのだよ…」
言いながら、柊虎は眉をひそめた。
「ってことは、お前も言いたくない事を言ったんだな。悪かったな…」
「いいや、今回は皆苦しんださ。志瑞也と蒼万とお前は特にな、これぐらい覚悟の上だ。見守る側も皆苦しんだはずだ… お前こそ、わざと私と比べさせて蒼万に聞かせたのだろ?」
「…それは違う、お前のためだ。お前が諦める切っ掛けになればと思っただけだよ… あいつの笑顔は眩しいから、はっきり言われないと難しいと思ってさ…」
「そうか…」
朱翔の思惑とは別に〝柊虎の代わりは蒼万でも無理だ〟と言われた事の方が、柊虎は嬉しかったのだ。
朱翔が肘で柊虎を小突く。
「お前良い男なのに何で婚姻できないんだ? 私が女だったら直ぐに婚約申込んでいるぞハハハ」
柊虎は顔を引き攣らせて首を傾げた。
「お前みたいな直ぐ手の出る女は…ちょっと無理かなハハハハ」
「ふっ、お前変な性癖ありそうだな」
「そうかもなハハハ」
柊虎は満更でもない顔をする。
「私な、黄怜にも似たようなことを言ったんだ… 成人の儀の時に『お前が女だったら、私は今日婚約を申込んでいるな』ってな… あいつどんな気持ちだったのかな…」
伏し目がちにうつむく朱翔に柊虎は言う。
「私は『また明日ここで会おう』と言って、黄怜は『また明日』…これが最後だ」
「そうか…」
「あぁ…」
二人は庭園の子供達を見つめた。
「柊虎さーんっ、朱翔さーんっ、成績発表しますよーっ」
朱翔は玄弥に「わかった」と手で合図を送る。
「柊虎、行くか」
「そうだな」
二人は立ち上がり歩きだす。
朱翔は柊虎の肩を組んで言う。
「お前、磨虎殴っといたか?」
「あれが冗談なら殴れるが、兄上は真剣に言ったのだ。あの後落ち込んでもいたし殴れないよハハハハ」
「磨虎らしいなハハハハ」
二人は笑いながら子供達の元へ向かった。
基本試験では、蒼亞が一位、壱黄は八位だった。残り十四日間となり、気を抜かないよう皆は引き締め直した。
「義兄上」
「蒼亞、私の講習は今日で終わりでも、講習会の間は師匠って呼ぶのだよ。どうした?」
玄弥は微笑んで蒼亞の頭をなでる。
「はい。玄弥師匠、志ぃ兄ちゃんは今日は来ないのですか?」
「あ、えっと…」
玄弥は目を泳がせ、側にいた朱翔が言う。
「蒼亞、私に聞けばいいじゃないか、志瑞也の居場所を知りたいのか?」
「……」
口づけ事件以来、蒼亞は朱翔に対して敵意を剥き出しにしている。
「お前、兄上の友を睨んでいいのか?」
「…志ぃ兄ちゃんは何処ですか?」
不満げに言う蒼亞に、朱翔は事実を告げる。
「お前が志瑞也にあんな事するから、蒼万が迎えに来た」
朱翔はにんまり微笑む。
「朱翔さんっ、大人気ないですよ!」
「だって本当の事だろ? 今だってきっとっ」
「朱翔さん!」
玄弥は朱翔の口を塞ごうとするも躱され、目で「やめて下さい!」と訴える。
「あ…兄上がっいらしてるんですか?」
おやおや?
蒼亞の顔が露骨に曇る。
「どうした蒼亞?」
「あっ兄上はっ、私が志ぃ兄ちゃんにした事…」
「知っているよ」
朱翔は両眉をあげて「当然」と顔をする。
「……」
蒼亞は何も言わず、とぼとぼと去って行く。
「何だあいつ?」
「どうしたんですかね?」
朱翔と玄弥は首を傾げた。
2
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
白銀の城の俺と僕
片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる