天地天命【本編完結・外伝作成中】

アマリリス

文字の大きさ
153 / 164
完結編 福寿草

枕投げ

しおりを挟む
 後日、志瑞也は自室で朱翔から身体の事を全て聞かされる。
「じゃあっ、俺が蒼万を好きなのは俺の気持ちじゃないのか?」
「もしそうなら、私は〝そうだ〟と言っているさ、だがそれは違う。思い返してみろ、お前は初めから蒼万に想いを寄せていたのか?」
 そう言って、朱翔は片眉を上げる。その顔はまるで「あんな奴に一目惚れ? まさかだろ?」そう言いたげだ。
「ぷっアハハハ 俺本当は可愛い女の子が好きなんだ、男を好きになったことなんて一度もないよ」
「そうだと思ったハハハ」
「それに俺さ、初めて蒼万に会った時に『お前気持ち悪い』って言ったら、めちゃくちゃ怒ったんだアハハハ」
「ぷっそれ本当か?ハハ…」
 それは自分でも怒りそうだと朱翔は思った。
「そうだな……最初は友達になれたらと思っていたけど、蒼万はとっても優しいんだ…」
 朱翔は本気で「何処がだ?」と思った。
「そうか…」
「こっちが泣きたくなるぐらい…優しくて、温かいんだ。全部独りで抱えて、独りで責任を取ろうとするんだ… 俺さ、朱翔に言われて考えたんだ。蒼万は何で俺にこんなに尽くすのかって… 蒼万はきっと、俺の過去を奪ったって思っているんだ…ぐすっ… だ…だからいつも『すまない』って謝るんだ… 俺のためにお父さんにお願いして…蒼亞を、お…弟を作ってほしいって、ひっく…自分は後継ぎは作れないから、宗主の地位も全ていらないって言ったんだ…うううっ… 俺は蒼万に何もあげれないのに… 蒼万は何も言わない…ううっ… 後から…葵ちゃんが、教えてくれたんだ…」
「そうか…話してくれてありがとうな、身体じゃなくて心が求めているって、分かっただろ? ふっ、惚気か?ハハハ それで身体も相性がいいなら最高じゃないかハハハ」
 志瑞也は涙を拭う。
「ふっ何だよそれアハハハ ぐすっ…でもお陰で色々謎が解けたよ… 初めての時さっ」
「待て! それは言うな」
 志瑞也は怪しげに微笑む。
「だってびっくりしたんだ! 朱翔聞いてくれよっ、めちゃくちゃ痛かったのがさーっ」
「あぁあぁあぁあぁあぁー聞こえないいーっ」
 朱翔は耳を塞ぎなら喚く。
「アハハハハハハハ」
「ぷっハハハハハハ」
 志瑞也の笑い声を朱翔は久々に聞いた。
「話戻すけど、蒼万も最初は身体の事は知らなかったはずだ。お前あいつに何かされた覚えないか?」
 志瑞也は首を左に傾げて思い返す。
「あっ、そうだ! この間葵ちゃんと話して思ったんだ、蒼万はいつ〝キス〟て言葉知ったんだろう?って。確か教えた覚えないんだよなって思ったら、俺ここに来た日に多分心臓一度止まっていたのかなって…」
 言いながら、志瑞也は首を右に傾げる。
 …へ?
「お前、それって一度死んだって事か⁉︎」
「そうだな、俺も気にしてなかったからなぁ」
 腕を組んで考えるこの雰囲気は黄虎そっくりだ。
「お前なぁ…」
「そう、だからその時起きたら服…えっとなんて言うのかな、衣がこうバッてっ」
 志瑞也はあろうことか、自ら上衣を朱翔に向かって開けた。
「しっ志瑞也っ、分かったからやめろ!」
「何だよ男同士なんだし、今は何処にも跡付いてないよアハハハ」
「……」
 朱翔はだんだん黄虎に見えてきた。志瑞也も気にしない性分だ、上衣を正すことなく話しだす。
「その時皮膚が火傷みたいにひりひりして少し赤かったんだ。溺れて助けられたんだって思ったけど、ファ…あ、最初のキスは好きな人とって思っていたから、思わず『キスしたのかっ』って聞いたら…」
「聞いたら?」
 朱翔は「それだ!」と思い食い付く。
「ん?ってこんな顔して首を傾げたんだ」
 志瑞也は眉間に皺を寄せ蒼万の真似をするも、朱翔は「どっちなんだ!」と内心少し苛つく。
「だから俺、キスはされてないと思ったけど、その時の蒼万はまだ意味は分かっていなかったはずなんだ。だからいつ知ったんだろう?って…」
 志瑞也は上半身半裸の状態で考え込む。
 曖昧な記憶を辿るより、自覚がある事から辿ろうと朱翔は尋ねる。
「志瑞也、お前昔から匂いに敏感か?」
「どちらかといえばそうだったかも。まぁ最初から二つも揃ってたって分かったからいいや、アハハハ」
 志瑞也はすっきりした顔をしている。誰だって、自分の分からない事があれば気になるものだ。
「俺てっきりさ、黄怜が『玄武家でも分からない面白い事が私達には起こっている』って言っていたから、辰瑞の事とか神獣達と話せる事だと思っていたんだ。でもお母さんが後から観玄かんげん様に聞いたら、他心通にそんな力はないし聞いた事もないって言われてさ。黄怜もこうなるって分からなかったんだなアハハハ」
 だとすると、玄葉くろはも何かしら知っている可能性がある。やはり玄武家は口が堅い、朱翔はぴくりと片眉を動かす。
「…黄怜といつ話したんだ?」
「あっ…」
 志瑞也は黄怜と玄武家の神力を漏らし、まずいと目を泳がす。
「…まぁ玄武家が知らないなら仕方ないよなハハハ」
「そうだよなアハハハ」
 志瑞也はほっとして笑う。
「蒼万の匂いを感じたのはいつ頃からなんだ?」
「うーん、好きな人の匂いだから特別なんだと思っていたけど… そうだなぁ、あの時妖魔退治で南宮に行っている時には、今ほど強くはないけど感じ取っていたかも」
 言いながら当時の蒼万を思い出し、志瑞也は懐かしくなり微笑む。
「そっか、お前にとって蒼万はどんな匂いなんだ?」
「懐かしくて、甘いんだ」
「甘い?」
「そう、不思議だろ? 全部・・が甘いんだ」
 志瑞也はにんまりと笑う。
「お前、わざとだろ」
「本当だってっ、本当に甘い匂いがするし、何処を舐めても・・・・・・・甘いんだ」
 再び志瑞也はにんまり笑う。
「黙れ!」
 朱翔は苛つき「この淫魔め!」と思いながら枕を投げ突ける。
「痛ッ 何するんだよ朱翔!」
 志瑞也は寝床に仰向けで倒れ込み、ばっと起き上がる。
「ん? 今っ枕が当たって思い出した!」
 本当にそんな事があるのだろうかと、朱翔は疑いの目で見る。

「あの時も甘かった…」
 志瑞也は真顔で唇を触る。
 ……。
「お前ふざけるなよ!」
 朱翔が再び枕を投げ突けようと構え、志瑞也はそれを手で防ぎながら言う。
「違う本当なんだ! 青ちゃんに連れ込まれた元の所・・・の池は吐きそうなぐらい汚れていたんだ! あの時もこうやって寝てばって起きて、ここは何処だって……胸触って口の中甘いなって……水臭くないって、そうだっやっぱり甘かったよ! なら蒼万は人工呼吸で俺にキスしたのかな?」
 朱翔は「それしかない」と拳を握る。
「それは今度、お前から直接蒼万に聞いてみるんだな」
「そうだな、わかった」
 朱翔は志瑞也と微笑んで頷き合い、軽い口調で尋ねる。
「志瑞也、今なら聞けそうか?」
「まだ怖いけど、自分の口からは言えない…」
「無理するなよ」
「わかった」
「いいか?」
 志瑞也は深呼吸をして頷く。

「お前は」
「……」

「蒼万が…」
 志瑞也の瞳はまだ変わらない。

「死んだら…」
「うっ…」
 瞳は淡い光を滲ませるも、志瑞也は必死に耐える。

「どうするんだ?」
「いっ、今はまだ…分からないっ、ううっ…嫌だ!」
「志瑞也っ大丈夫だ!」
 朱翔は志瑞也を抱き寄せ背中を摩る。
「朱翔っ…ううっ… 怖いんだっ… もう…目の前で見たくないんだっ… ううっ…」
「大丈夫だ、頑張ったな…」
 本来これは蒼万の役目だ。朱翔は怒りを抑えながら、優しく志瑞也の頭をなでる。

 バンッ!
「朱翔っ、雷が鳴っていた……が…」
 ……。
「柊虎!」
「待て志瑞也っ衣!」
 志瑞也は柊虎に抱きつく。
 柊虎は一瞬固まるも、優しく抱き返す。その微笑みに、こいつも侮れないと朱翔は見つめる。

「志瑞也さんっ、きゃっ」
 部屋の外で様子が気になっていた葵は、すかさず顔を手で覆う。

「葵ちゃん!」
 志瑞也は自室を出て石段を駆け下り、葵に抱きつこうと向かうも、側に立つ玄弥の苦笑いに気付く。
「あっ、流石に人妻はまずいかアハハハ」
 朱翔が慌てて部屋を飛び出す。
「違うだろ志瑞也っ、衣だ! 黄虎っ玄弥っ、磨虎を押さえろ!」
「はい朱翔さん!」
「わかったっ、磨…」
「自分の事ぐらい分かっている」
 二人は急ぎ押さえに向かおうとしたが、既に磨虎自ら両手を広げ、押さえられに来ていた。
 志瑞也は上衣を正す。
「あ、そっか…ごめんアハハ 皆ありがとう」

 柊虎が朱翔に耳打ちする。
「何をしていたのだ? 誰が見ても誤解するぞ」
「お前こそ諦めたんじゃないのか? 絶対叶わないぞ」
「ふっ、私はこの位置が良いのだ」
 蒼万が柊虎に警戒するのは正解だと朱翔は思った。
「柊虎、明日話がある」
「わかった」
 二人は微笑んで、葵達と話をしている志瑞也を眺めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【完結】禁断の忠誠

海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。 蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。 病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。 そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。 幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。 ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。 その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。 宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。 互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。 己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。 宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

白銀の城の俺と僕

片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...